第参話
僕は窓の外を見てため息を吐いた。
その日、高校の教室の窓端の席に座りながら空を見上げる。
天から降る雨は地上からの色取り取りの光に照らされ幻想的だった。
だけど、幻想的に感じるのはこの教室の音ひとつしない静寂も一役買っているかもしれない。
先生が黒板に書いた回答を見て丸付けをしている真っ最中の周りの生徒を見る。
机に齧り付くようにしている同級生の姿は僕にとってはどこか馬鹿らしく見えた。
暇を持て余していると雨も憂鬱ではなく気晴らしをさせてくれる。
しかし、この雨は予報では今日の夜まで止む事はないらしい。
なんでも、春雨前線が居座っているらしい。
もしくは菜種梅雨とも言うらしいが僕には関係ない事だ。
どう違うのかがいまいち理解できなかったのだ。
それと同じように授業が再開し希美先生が呪文を詠唱し始める。
授業は難しいし、この後帰る間に雨に濡れる事は確実ときた。
なんだか悲しくなってきたよ、誰か慰めてくれないかな(笑)。
と、くだらない事を考えているうちに授業時間の終わりが近くなってきた。
だから希美先生、そんなお堅く授業時間きっちりやらなくてもいいでしょうに。
『気楽に行きましょうよ』と思っていても口には出せないような事を考えながら、希美先生の有り難い(?)呪文と書いて授業と読むものを拝聴させられている。
僕の幸せは……
キーン コーン カーン コーン
コーン カーン キーン コーン
来た‼︎‼︎‼︎‼︎
と思ったのに期待を裏切るとは、なんたることだろう
授業の終わりの鐘がなったのに、まだ授業を続ける希美先生。
精神が図太いというかなんというか。
区切りを着けたいのは解るが『ちゃんと授業時間内に終わるようにしろ‼︎』と言いたい。
「……これについては次回の授業でやります」
おっ、終わったみたいだ。
「起立 気を付け 礼」
希美先生が教室から出て行く。
やっと昼休みだよ。
あの先生、食事の時間削りやがって。
おっと、つい地が出てしまった。
危ない危ない。
「よぉ、誉瑠。相も変わらず、そんな眠そうな目でちゃんと授業を聞いているのか?」
「当たり前だろ、水屋、授業中に寝るなんて馬鹿のする事さ」
「俺はお前が寝ていたなんて一言も言ってないけど」
「なっ⁉︎
貴様、謀ったな‼︎
己、よくも騙したな。
恩を仇で返すとはなんたる奴。
貴様の親類縁者、子々孫々に至るまで呪い、祟ってくれるわ‼︎‼︎
恨むなら、自らの行いの浅はかさを呪い、死に給え」
「そんな事を言われる程は酷いこと言った覚えはないんだが……」
「ふん、自らの行いを顧みない者ほど、滑稽な者はいないな」
「誉瑠、言ってて楽しい?」
「何を当たり前のことを言うか、他人を扱き下ろすことの楽しく、甘美なことと言ったら、酒、麻薬や色欲より人を依存させ、惹き付け離さない物はなく、一度嵌ってしまったら戻ることなどできない。
戻ったとしても元の自分には戻れない。
なぜなら、戻ったとしても待つのは、色褪せた世界だからだ。
目に映るすべての物に色は無く、虚しい時がただ淡々と過ぎていくだけ。
心の中にはぽっかりと穴が開いたように感じ、何をやってもその穴を埋めることは叶わないだろう。
そしてある時、気付くんだよ、自分は家族や知り合い、果ては赤の他人に対してまで何か一つでも劣ったところがあると自分の心の平穏を保つことができないのだ、って。
だから、自分以外の誰かを表面的な心で馬鹿にしなければいけないと精神が持た無くなる。
そう、常に相手を下の立場にいると自分に言い聞かせ、見下し、心落ち着かせなければなら無くなるんだよ。
ここで言う『落ち着く』は相手が下にいて自分が上にいるという甘美で、甘い蜜を貪り食らっているような気持ちってこと。
ここで言う『表面的な心で馬鹿にする』はそうしていないと自分の薄っぺらいプライドが傷つくことの恐怖からだよ。
けど、これを逃げだって言う人もいるかもしれない。
こういう風に生きるのは虚しいっていうかもしれない。
けど、こういう風に生きないことの方こそもっと虚しく、辛く感じてしまう人がいるんだよ」
「……俺、もう昼食食べに行っていいか?」
「……あぁ、僕も一緒に行くよ」