第拾話
最終話
誰にも変えられなかったことだってことはわかる。
どんな人にも過去を変える力もなければ、未来を正確に知ることもできない。
どれだけ願ってもこれは一生変わらないだろう。
たとえ過去に行ける技術ができたとしても僕に過去に行ける可能性はないだろう。
それこそ、自分の力で過去に行く力を見つけるか、得るかしなければ。
けど、そんなことは無理だ。
そんなできるかもわからないものに時間をかけるほど僕の頭はお花畑ではない。
あれから色々考えた。
どれも正解のように思えて違うように思えた。
母は言った。
『考えるだけ無駄。
過去は変わらないんだから』
父は言った。
『過去を受け止めることは重要だ。
だが、過去に囚われるのは良くない』
芹
『貴方のせいじゃないんだ。
前を向かなきゃいけないよ』
水屋は言った。
『俺にはお前の考えはわからないけど。
自分が正しいことをすればいいと思うんだ』
桐口は言った。
『君は物事を深く考えすぎる。
力を抜くことも重要だよ』
鐘紙は言った
『私には、誉瑠君にかけることは持ってないけど。
一つだけ教えたいことがあるの。
私は君に救われたんだって』
有坪は言った。
『何をしようがその人の勝手だが。
よく周りを見ることをお勧めするよ』
僕には答えはつかなかった。
結局のところ僕は逃げることにしたんだ。
これ以上深く考えることも。
受け入れて新しい道を行くこともできず。
逃げに走ってる。
最低の人間。
この言葉は僕のためにあるように思えて仕方がない。
違うのかもしれない。
けど、僕は心のどこかでわかってるんだ。
僕はどうしようもない奴だってことが。
答えは出ない。
どこまでも続く奈落のように僕の考えは深く、深く落ちていく。
他人の言う『正しいこと』がわからなくなった。
嬉しいっていうのがわからなくなった。
悲しいっていうことがわからなくなった。
ただ身を焦がすような痛みが身体中を駆け回っている。
僕は世界から除け者にされた気分になった。
けれど、これはすべての人からの烙印だ。
もはや、人の心すらわからなくなった僕は果たして本当に僕なのだろうか。
痛みをどうにかしたい思いでいっぱいになった。
僕は僕ですらないのだから。
何をしても許される気がした。
電話をかける。
「こんな時間に何の用だ?」
「それは謝るよ。
けど今言わないと決心が鈍ると思ったから言うよ。
前言ってたやつ、参加するよ」
「どうしたんだ、急に?」
「なんでもないよ」
「ならいいんだがな。予定はメールで送るぞ」
「うん」
電話を切る。
堕ちていく気がした。
どこに?
少なくとも、戻れたとしても元の自分には戻れない場所へ。
きっとそこにはいないだろう。
僕を苦しませるものは。
きっとそこにはいないだろう。
僕に痛み(現実)を直視させるものは。
穏やかな心境だった。
どうでもいい。
だから、堕ちていく。
初めて見えた僕のイメージカラー。
それは、いろんな色を混ぜ合わせたとても汚い色だった。
足元を見ると黒に染まっている。
もう戻れない。
戻ったところで決して元の僕には戻れないだろう。
そうして、
僕は……
……黒に堕ちる。




