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1.プロローグ

人間だれしも、やり直したいと思う過去があるんじゃないかと思う。

そしてあの時の私も、そうだった。


「なんで...あんなこといっちゃったんだろうね。」

記録的な大雨の日。傷つけたあの人のことを思い出して静かに泣いていた。

鞄に入っていた折り畳み傘はあと少しで音を立てて折れそうだけれど、最寄りの駅まではまだまだ遠い。すれ違う人たちも吹き付ける雨風に打たれながら必死で前に進んでいる。ほぼ前は見えないくらい、本当にひどい雨。例えに使っていいのならば、私の心境をそのまま映しているよう。なんて考えて自嘲してしまう。

あとこの信号を渡れば駅だ。そんなとき、

「あぶない!!」

誰かの声が聞こえたような気がしたその瞬間、私の体は天高く跳ねた。

あぁ、冷たい、けど気持ちいいな。

そう思って眼を閉じた。最後にあの人の姿が見えた気がした。



「てことを、なんで今思い出しちゃったんだろうな。」

うへっとうっかり声を出してしまったことは許してほしい。

今の僕の名前はシエンテイル・フィル・コンヴァート・クロイツロッソ、クロイツロッソ帝国の第4皇子である。ちなみに今5歳。

一人で大図書館に籠って本を読んだり、夜こっそり物語の主人公にあこがれて剣を一人で振るような健気で普通の奥手男子だった僕がうっかり前世を思い出したのはたった今、大図書館から本を2,3冊借りて母の待つヴィエント宮に帰ろうとした矢先に小さな小石に躓いたその時だった。盛大に転んでしまい、膝からは血が流れ頭はそっと触った感触から大きなたんこぶができており、大変痛ましい状態である。にもかかわらず、今の僕にとっては先ほど思い出してしまった過去のことでいっぱいだ。

前世の僕は地球の日本で生まれ育った女子高生で、元から奥手ででも優しい人たちに囲まれてそれとなく生きていた普通の女の子だった。あ、ちょっと語弊があるかな。小さい頃はそれはやんちゃで口が悪くて、だから彼氏もできたことのなかったから、逆高校デビューで静かで大人しくなるべくしゃべらないそんなキャラクターを演じていた。別に人見知りもあったから苦にはならなかったし、あまり仲良くなりすぎないことで無用なケンカを避けられた。たまに寂しかったけど、それでもたまにモテるようになってちょっと嬉しかった。

でもそんな中で前世の僕は一人の男の子に恋をした。誰よりも優しくて暖かくて明るい、笑顔が素敵な男の子。身長はそんなに高くなかったし、顔も中の上くらい、いや中の中だった前世の僕にとっては恐れ多いくらいだったんだけど。

そんな彼が、いつもみんなの真ん中でひまわりのような笑顔の彼に恋をした。きっかけはいずれ語るとして、ここで問題が一つ発生した。大人しい女の子になったことで、交友関係が極端に狭くなっていた。また友達といえども恋バナを気軽に話せるような友達もおらず、彼とは別のクラスで、ライバルもいて...自分で言ってて虚しくなるが、なかなか接点が持てなかった。

そんな中で、通学中あっと、会釈したり廊下でそれとなく挨拶ができるくらいになったころ、それは起きた、いや起こしてしまった。

きっかけはクラスの女子との何気ない会話だった。好きな人はいないのか、あの子はどうかと聞かれて、「いやいやいやいや、そんなないよ」なんていってしまった。そしてそれを、たまたま彼が聞いてしまったのだ。そしてその日から、明らかに避けられるようになった。

後悔した、今までそんなに話したこともないし、話せるときは特定の人たちといたときだけ。どうするればいいかわからず、落ち込んでいる間に、あいつは魔性の女だとか性格が悪い、暗いなどのうわさ話が広まっていった。広まり切ったころにはもうどうでもよくなっていたけど。

それでも話しかけてくれる優しい子たちもいた。ありがたかった。でもなにをいったらいいかわからないくらい、今思えば混乱していた。

心の奥底から自分が嫌いになっていた。素直じゃない自分、何事もあいまいにして逃げていた自分。気づけば気づくほど、嫌になった。

そうしてぼんやりと過ごしていたあの大雨の日、車に跳ねられてそのまま死んでしまったらしい。


冷静に思い出してみるとなんかすごいダメな奴だったな前世の僕。あぁ、自業自得のことなのになんだか涙が止まらない。

というか転生したら男の子なんですね。ゲームとか、小説とかの転生後は王女様とか定番なんですが。あぁ、でも自分の顔面を思い出して思う。

今世の僕はなかなかイケメンではないかと。王家特有の赤みがかった焦げ茶色の髪を肩に掛かるくらいに伸ばし、母親似のライムグリーンの眼はちょっと釣り目意味だけどそれもいい味を出していると思う。赤みは結構強い方で焦げ茶色っていっても深紅に分類してもいいんじゃないかと思うくらい。大人し目な性格だと思うんだけど、釣り目がかっているのはやっぱり、勇者とかにあこがれてる性格がちょっとでているのかな。

なんて別のことをぼんやり考えながらぐじゅぐじゅ泣いていると、すぐ近くの植木がガザガザっと音を立てて、割れた。

その間から出てきたのはなんと、

「なんか聞こえると思ったら、お前1っこ下の弟の、えっと、あーっと」

「シエンテイルだよおおおお、ファイエリスおにいざまあああああ!!」

「あ、そうそうシエルだ!思い出した!!」

第3皇子のファイエリス・フィル・エリシェン・クロイツロッソだった。1つ上の腹違いの兄で、僕と違い活発的で城のいたるところを走りまわっているようで、彼の住むリャマ宮からそこそこ近いヴィエント宮によくお菓子をねだりにやってくるので7人いる兄弟たちの中で一番仲が良い。紅蓮を思わせる見事な紅色でふわふわな髪と、彼の母親似の金色の瞳はその性格と相まってとてもかっこいいしイケメン。物語に出てくる勇者様みたいだ。ちなみに母親たちはいつの間にか仲良くなった僕たちに最初は戸惑っていたが(メイドと僕がお菓子を渡してたから)、今ではすっかり仲良くなって国王の父には内緒でよくお茶会を開いている。亭主が留守がなんとやら状態だ。

「で、なんて泣いてるんだ?こけたからか?」

「ぢがうううううう。」

「それじゃああれか!だれかにこかされたのか!!」

「ぢがうよおおおお!ごげだどごがらはなれでえええええ!!」

うっかりこけたところは見られていたようだけど、原因は全く違うし、こけたことをそんな大声で言われるとその辺にいる憲兵とかに聞かれるのでご遠慮願いたい。

それからしばらく泣きじゃくって、泣き止んだころ、それまでずっとなんで泣いてんだと言いつつ傷の手当てをわきのポーチに入れていた簡易救急箱(よくケガするから母親から常備させられた)から道具を取り出してやってくれていたファイエリス、もといファイスがよしといって頭を撫でてくれた。

「で、本当にどうしたんだ?兄ちゃんにいってみろ。」

ファイスは自分のことを兄ちゃんというのが最近のお気に入りだ。

「えっと、あっと、あ、あの、お、お話のなかのおはなしなんだけど!」

「おぉ?」

前世の記憶が戻ったところで僕はまだ5歳だから、言葉がおかしくても、も、問題ない。

「えっと、あの、物語の、メイドがうっかり大好きだった男の子に暴言はいちゃって、それでそのまま仲が悪いまま終わっちゃって。それで女の子はどうしたらよかったのかなって。考えてたら、その。」

「うっかり転んでないちゃったのか。」

「う、うん。」

にかっと気持ちいいくらいの笑顔でいいきった兄になにもいえずこくりと頷く。ほんとはただ転んだだけだけどこっちの方が聞こえがいいかな。

「メイドはどうしたらよかったのかな?」

前世の最後の思いを今世の兄、しかも6歳になにそうだんしてんだって内心前世の僕が突っ込んだ。本当にそうだよね。

「なに、悪いことやっちゃったなら謝ればいい。」

「あ、あやまる?でもそんな仲良くなくって...。」

簡単なことだって、竹を割ったように簡単に答えたフェイスにふぇっとなりながらも僕は言った。そんな僕をみて撫でていた左手をぽんぽんと僕の頭ではねさせると彼は

「仲良くなくたって、謝ったきっかけで仲良くなれるかもだろ。それに仲良くなくてなんにも思ってないやつから何言われても俺は気にならないから、きっとその男もメイドに気があったんじゃ

ないの?」

そういってうりゃうりゃと頭をなぜ回した。それに痛いよっといいつつ、そうか、ただ誠意をもって謝ればよかっただけかとやけにすとんと納得した。ああなんだ、そんな簡単なことだったんだ。

でもきっと前世の誰かに言われたからじゃなく、この目の前にいる、この純真の塊のような兄にいわれたから腑に落ちたのだと、僕は思った。

この人の弟に生まれてよかった、と。

「お、おにいさま。」

「ん?」

「ありがとう!!すっきりした!!」

「おう!お前が泣き止んで俺もすっきりした!!」

あぁなんて素敵な人なんだろう。この人がいつまでもこのまま素敵なまま生きていて欲しい。物語のような足の引っ張り合いが、権力争いが起き続けるだろうこの世界の中で、彼の心を汚さないでほしい。

そのためには僕には何ができるだろう。

「おにいさま、僕きめたよ。」

「ん?なにを?」

そんなの決まっている。

「僕おにいさまにじまんのおとうとっていわれるようにえらくなる!!」

彼を守れるように、ただひたすらに知恵を、力をつけるしかない。それが例えただの我欲だったとしても、彼の心がせめてむやみやたらに傷つけられないように。

そんなことを考えている僕に彼はとてもまぶしい、まるで太陽のような笑顔で

「おぉまじか!がんばれよ弟!!おれも負けないよにつよくなるぞ!!」

そういって僕の右腕をとって、彼の右手の拳と僕の第2関節をこつんとしてくれた。嬉しい、そう思って僕もぐっと右手を拳にしてごつんと彼の右手に突き付けた。



こんなの人として惚れてしまうやろ!!!

僕の中の女の子がそう叫んだ。僕も同じことを思った。

人としてはとても惚れてしまう。でもきっと、この人を含めた彼以外の誰もを僕は恋愛あいすることはできないだろうと。

いつかでいい、何十、何千と転生したそのあとでもいい。いつか彼に会えたら言うんだ。ごめんなさいと、君が好きですと。

なにもしらない彼がぽやんとしてしまうとしてもきっといつか告げるんだ。

この願いが叶うように、僕はできる徳をひ1つずつ積み重ねていこうと、この日もう一つ決意した。



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