98、疲労困憊の二人
お風呂を上がり、イーナさんに温かい紅茶をもらった。
ホットワインを入れるか聞かれたが、勢い良く断った。暫くは禁酒していたい。
バウンティがお風呂から上がったので向かい合って座る。
「お前、何をそんなにいじけてるんだ?」
「バウンティだって何か怒ってたじゃん……」
バウンティが目を瞑り大きな溜め息を吐いた。
「なぜ黙っていた」
「……クラリッサさんの計画?」
「あぁ」
「バウンティはさ、クラリッサさんが言った事、信じて毒受けたんでしょ? 死ぬ気……だったでしょ?」
「……あぁ」
「私はクラリッサさんの計画とか関係無いの。でもバウンティはクラリッサさんの計画知ったら、自分は間違って無かったとか、きっと言う……クラリッサさんに賛成する……私が一番嫌な事をしたくせに、私達の為だって言うんだもん!」
「…………お前達の為だった。それに、カナタが来なければ……計画は成功してた」
――――私のせい?
「っ…………そうだね。余計なお世話だったね。愛する人を助けたい一心で、頑張ったけど、独りよがりだったね。バウンティに助けて欲しいかは聞かなかったね。…………そのまま死なせてあげれば良かったね。ごめんね!」
「そういう言い方するカナタは凄く嫌いだ。ハァ…………解ってたんだよ、お前が怒るのは。すまなかった、もう置いていくなんて選択はしない」
バウンティがそっと手を伸ばして触れようとしてくる。
「っ……触らないで…………」
「ん。なぁ、お前が怒ってるのはソレだけじゃ無いだろ? 何でクラリッサにまで怒ってるんだ?」
「だって! クラリッサさん、私からバウンティ奪おうとした! バウンティに死ねって言った! 嘘でも、助ける為でも許せないよ…………何で当たり前みたいにご飯食べてたの? 何で同じ家にいなきゃいけないの? 何で、バウンティと抱き合うの? 私のものなのに! バウンティに触っていいのは私だけなのに…………」
そう、ただのヤキモチ。初めはちょっといじけてただけだった。たぶん、時間が経ったら和解したと思う。でも、状況が一変した。
バウンティを抱き締めた。バウンティが抱き締めた。
「ヤキモチか? クラリッサとはそんな関係じゃ無いって言っただろ?」
「…………バウンティ解ってない」
バウンティがゲンナリした顔で続きを促してきた。
「バウンティが触れる人……いなかったでしょ? 触れたいのは私だけって…………他は嫌悪感さえするって…………なのに……」
「ん、触れたいのはお前だけだ。触れないわけじゃ無いんだぞ? 意味わかるか? 別に抱き締めるくらい出来る。カリメアだって抱き締めたことあったろ?」
「だって、カリメアさんはお母さんだもん」
「子供達だって、クリフだって、抱き締めてたろ?」
「……子供だもん」
「カーナーター?」
バウンティが仕方なさそうに笑いながら私の顔を覗き込んでくる。
「っ、仲直りね、したいの。バウンティきつそうだから、撫でて、抱き締めて、ゆっくり寝かせてあげたいのに……」
「ん。撫でて? 抱き締めて?」
バウンティがゆっくり立ってフラフラしながら隣に来た。慌てて抱き止める。
「大丈夫?」
「ん。カナタ、耳当てて聞いてくれよ。俺の心臓、爆発しそうだ」
「……何で?」
「お前が好きだからに決まってるだろ? 六年近くも側にいたのにな、まだドキドキするんだよ。まだ、お前に恋してるんだよ。お前に男が近付いただけで気が狂いそうなんだ」
「…………私も、だよ?」
「ん。カナタ、まだ頭が良く働かないんだ。あとな、凄くきつい。クタクタなんだ。今日はさ、抱き締めて寝させてくれよ。お願い」
お願い、されてしまった。小首を傾げてお願いしてくるバウンティに心臓が締め付けられる。
「うん。寝よ?」
バウンティを支えつつ、ベッドに移動する。
本当はもうちょっと話し合いたかった。そもそも話し合えてたかも謎だけど、言いたい事は言えた。
一度寝て、もう少し落ち着こう。私も疲れた。クタクタだ。
「バウンティ、おやすみ」
「ん、おやすみカナタ」
――――チュッ。
バウンティがおでこにキスをしてくれた。それだけで花が飛びそうなほどの幸せを感じる。キュッとバウンティを抱き締めて目を閉じた。
「ふぁぁぁ、今何時ぃ?」
「ん……十二時」
「ひょえっ…………」
慌てて起き上がろうとしたが、目眩がして起き上がれなかった。呆然としていると、バウンティが頭を撫でて来た。
「子供達は師匠とカリメアが外に連れて行ってくれてる。アダムも護衛としてついてるから心配するな。俺達はしっかり寝て体調を戻そうな?」
「私も?」
「ん。カナタ、ずっと顔色悪かった。きつかったんだろ?」
「……うん」
「疲れてるとさ、余計にイライラするだろ? いつもは喧嘩しないような事でも妙にイラ付いたりしてさ」
「……うん」
「ん。だから、今は何も考えずにもう少しだけ、抱き合って寝よう? な?」
昨日から妙に甘やかされている気がする。何でだろうか。色々考えたいのに、抱き締められているのが温かくて、嬉しくて、目を瞑りたくなってしまう。
「眠りたくない……けど、眠い……」
「ん、俺も。カナタは温かくて、スベスベで、ずっと触って感じていたい。けど、カナタとこうやってると、眠らなきゃって気分になるんだ。不思議だな?」
二人とも頭が働いてないらしい。なぜかクスクス笑いながら目を閉じ、再度眠りについた。
後遺症で頭が働かないバウンティと、看病などで疲れ果てていたカナタさん。




