97、夜ご飯。
夕食を作り終わらせ、ダイニングに準備した。
リビングに顔を出すと、子供達は皆とブロックで遊んでいた。
「これねー、アステルのおうち! ひゃっかいだてなの!」
凄い塔が出来ていた。百階建てらしい。一階から何の部屋があるのか聞いてみたい。が、話が長くなりそうなのでご飯に誘う。
「お嬢さん方、お腹は減ってますかな?」
「うん! ぺこぺこだよー! ケーキいっぱいたべたのに。ねー?」
「うん、ぺこぺこ。いーにおいするね?」
「むふふふ。では、お嬢さん、お手を。エスコートさせていただけますか?」
アステルに右腕を差し出すと、そっと左手を添えてきた。
「よろしくってよ!」
「ぷふふふっ」
謎の高飛車お嬢様風に言われて笑ってしまった。超可愛い。
ダイニングに移動し、アステルを主役席に座らせる。
「ふわわわっ……ごちそういっぱい!」
「うん。今日はアステルの日だもんね!」
チーズカレーのライスボール、チキンライスのライスボール、おかずを巻くタイプの手巻きクレープ、クラムチャウダースープ、アステルの大好きな青椒肉絲。
「いただきます!」
勢い良くチーズカレーのライスボールにかぶり付いていた。ミョーンとチーズを伸ばして楽しそうだ。
「ゴーゼル様、これどうやるんですか?」
「この生地にのー、レタスを一枚、そぼろ肉を三さじ、マヨをタップリ――――」
「ふんふん」
ゴーゼルさんが器用にクレープを春巻きのようにたたんでかぶり付いていた。春巻き、いいな。今度、皮を買ってきて作ろう。
「……うんま! これ、超うまいんすけど!」
「あら、私はツナを入れる方が好きよ」
カリメアさんは野菜とツナとコーンたっぷりで巻き巻きしていた。クラリッサさんもカリメアさんの真似をしていた。ってか、クラリッサさんもやっぱり食べるのか。席の準備はイーナさんに任せていたから気付かなかった。
そもそもなぜバウンティの隣にいるんだろうか。バウンティの左手側にはいつものように私が座ってるけど。右側に…………何だろうか。黒いドロドロしたものが渦巻きそうになった。気にしない事にしてアステルを見る。
「ママ、ウインナーとって!」
「はい、ひとつでいい?」
「ふたつー!」
スライスしたゆで卵、チーズ、トマトソース、バジルソースも入れて豪華に巻くらしい。
私はのんびりクラムチャウダーを食べる。こっそりエビと鯛も入れておいた。こっそりと言うほどこっそりしてないが、そんな気分。
「あ、青椒肉絲を巻くの?」
「うん! レタスとマヨでたべるの!」
まぁ、美味しそうではあるか。子供達って何の恐怖心も違和感も無く色んな組み合わせをする。時々えげつないほど不味い物も作るけど、天才的な組み合わせも見つけ出してくれる。
「ん、その組み合わせは美味しそうだな?」
私も何か作ろう。鮭フレークとチーズ、マヨ、ブラックペッパーちょっと振りかけて。
――――ハムッ。
普通。まあまあ美味しいからいい。
「カナタ、ポテトサラダとって」
バウンティはポテサラとウインナーを包むらしい。
「ぼくもそれしたい!」
「ん」
バウンティがイオにポテサラを差し出すが手がちょっとだけ届かないようでプルプルしていた。
「カナタ! 中継ぎして?」
立てばいいのに……って、立てないのか。さっきもフラフラしてたし。バウンティからポテサラを取り上げイオに渡す。イオが楽しそうにポテサラを山盛りにしていた。
「ふはは。そんなに入れたら零れるぞ?」
「いっぱいたべるの!」
「小さいのを二個作れ。二個ならいっぱい食べれるだろ?」
「……うん!」
ハムハムと小動物のように食べるイオが可愛かった。
「デザートでございます」
デザートはメロンを三分の二の位置で切って器と蓋にした。中身をくり貫いて、他にはパイン、キウイみたいなの、イチゴ、ブルーベリー、ぶどうを一口サイズにして器に入れたらシロップとサイダーを振りかける。フルーツポンチの出来上がりだ。
「キラキラ、ほうせきばこみたぁい!」
お皿に盛ってそれぞれに配る。希望者にはバニラアイスを添える。
私のお皿に妙にパインが多かったのでバウンティのお皿を引っ張ってパインを放り込んだ。
「あら、カナタはパインが嫌いなの?」
「……いえ、バウンティが好きだから」
「あら、そうだったの? じゃあ、私のもあげますわね」
「ん!」
バウンティは幸せそうだな。クラリッサさんがバウンティにパインを分け終えると、私は何の果物が好きかと聞かれた。
「お代わりあるんでそっち食べます。クラリッサさんは気にせず食べて下さい」
「あ、そうよね。ごめんなさいね」
「いえ……」
モスモスと義務的に口を動かして食べた。アステルが横からこっそりイチゴを分けてくれた。
「ママ、すきでしょ?」
「うん」
「すきなのたべるとね、ニコニコになるんだよ?」
「っ…………うん。美味しいね!」
「いひひっ。うん、おいしいねぇ」
涙が出るかと思った。お誕生日なのに気を使わせてごめんねって謝りたい。ありがとうって抱き締めたい。
ぐっと我慢して食事を終わらせた。
アステルが久し振りに私達とお風呂に入りたいと言うので一緒に部屋に行く。
どうやらアダムさんとクラリッサさんもシュトラウト邸に泊まるようだ。クラリッサさんが途中で追い掛けて来て、私の顔色が悪いのを心配してくれた。
「大丈夫ですよ? おやすみなさい」
「……カナタ」
「はい?」
「いえ…………おやすみ」
「「クラリッサ、おやすみー」」
子供達には何も知らせてないので、王城で二人とも抱き着いたり、膝に乗ったりしていた。今もハイタッチでおやすみを言ってる。
部屋のお風呂で二人を湯船に浸からせる。お風呂に入ると言っても、ここのお風呂は少し狭いので私は服を着たままで二人のお風呂の補助のような感じだ。
「ママー、おうちには、いつかえるの?」
「んー、パパの体調とかしだいかなぁ」
「アステルは帰りたいのか?」
「うん!」
「ん、すぐに帰ろうな。明日また船の予約しに行こう」
「うん!」
「おおきいおふね? ちっちゃいおふね?」
「この前のクルーザーでいいだろ?」
「そだね」
アステルとイオが「ちいさーいふーねー」と歌い踊りながら喜んでいた。
お風呂から上がり、髪を乾かした。ドライヤーを初めて使ったのだが、やはりかなり興奮してしまった。
「さ、もうおやすみの時間だよ」
「はーい」
「パパ、なにかおはなしして?」
バウンティが子供達にお話をしていたので、そっと自分達の部屋に戻ってお風呂に入った。
――――ザプン。ブクブクブク。
湯船に潜って目を瞑る。子供達の事、バウンティの事、クラリッサさんの事。考えても考えは纏まらない。取り敢えず、今日の私の態度は最悪だった。それだけは間違いない。
――――ガッ! ザバァァ。
「ウゲホッ、ゲホゲホ……な、何っ? ゴホッ」
急に肩を掴まれて湯船から引っこ抜かれた。
「何してるんだ!?」
「潜って…………瞑想?」
「……寝てない? 死のうとしてない?」
「してないけど? エホッ……」
バウンティがホッとしたような顔で抱き締めてくる。訳が解らなくてバウンティの胸を押し返す。まぁ、効果は無いけど。
ギュウギュウに抱き締められて結構に痛い。
「カナタ――――」
そっと離されたかと思うと、バウンティが全身を舐めるように見てくる。
「それは無い。ホント無い」
「ずっと我慢してたぞ?」
「バウンティはっ…………お風呂で話す事じゃ無いね。先に上がってる」
「上がったら……部屋にいないとか、無いよな?」
「うん、大丈夫。ちゃんと待ってるよ」
「ん!」
バウンティが嬉しそうに返事してきた。何で嬉しそうなんだ。意味不明だ。取り敢えず、温かい飲み物でもイーナさんにもらおう。
お風呂に行ったら、潜ったカナタが全く浮き上がらなくてマジ焦りのバウンティ。
一分くらいは潜っていられるカナタさん。




