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96、和解と夕食の準備

 



 王城からシュトラウト邸に帰って来た。

 アステル達は待ち長くて、お昼寝に寝落ちしたらしい。


「寝てる間にちょっと話すわよ」

「はい……」


 ご機嫌ナナメなカリメアさんに座るよう促された。いつの間にご機嫌ナナメになったのか、元からナナメなのを隠していたのか……。後者かな?


「バウンティ、これからどうするつもりなの?」

「カナタと離婚する」


 ――――まだ言うか!


「…………って、初めは思ってた」

「溜めて言うな! ビックリしたじゃんよ!」

「でも、一緒に生きていける道探すって約束した」


 苦情を申し立てたが無視された。


「取り敢えず、ローレンツに戻りながら体調戻して、裏の依頼を全部潰しに行く」

「あら、そー? クラリッサはどうするつもりなの?」

「あー、俺も気になってました」


 謎の声が聞こえたので振り返ったらアダムさんがいた。


「ほへ? なんでいるの?」

「えぇっ? 酷くね? 俺、ずっと護衛してんだけど?」

「ほあぁぁ。ありがとうございます」

「ん、助かった」

「いーよー。そんで、どうするつもりだ?」


 アダムさんが座りつつ聞いてくる。皆が真剣な表情になった。

 

「クラリッサについては特に思う事は無い。むしろ、感謝している。手法はどうであれ、間違いなく助けようとしてくれていたしな。俺は友人のままだと思っている」

「ふうん、そう。ですってよ」


 カリメアさんが少し大きめの声でそう言うと、そっとドアを開けてクラリッサさんが入って来た。


「バウンティ、ごめんなさ――――へ?」


 バウンティがよたよたと立ち上がってクラリッサさんを抱き締めていた。


「ありがとな」

「……本当に、ごめんなさいね。私、慌てすぎてて……貴方達を危険に晒したわ」

「いや、お前の計画は理解出来る。もう気にするな」

「バウンティ……」


 クラリッサさんがバウンティを抱き締め返しながら泣いている。バウンティがゆるゆるとクラリッサさんの背中を撫でて落ち着かせていた。


「…………」

「カ、カナタ?」

「…………はい?」

「その、な……二人は友人なだけじゃぞ?」

「は? だから、何ですか?」

「え? いや、その……怒っとるじゃろ? 何に怒っとるんか、教えてくれんかのぉ?」

「別に何にも怒って無いですよ」

「……いや、顔!」


 顔が何だと言うのだ。


「顔はいつでも酷いですよ? 今日もバウンティに言われたし。それより、カリメアさんはクラリッサさん呼んで何したかったんですか?」

「この子がバウンティに謝りたいって言ったのよ」

「あ、そうですか」

「カナタ、私、出来る限りバウンティの手伝いするから! 貴方達を今度こそちゃんと守るから!」

「……そうですか」


 話はこれで終わりだろうか。他に特に無いのならキッチンで夜ご飯の準備がしたい。

 そっと立ち上がって抱き締め合ったままの二人を見詰める。


「…………ご飯、作って来ます」




 キッチンで玉ねぎの微塵切りをする。ガスガス言わせて切っているのに涙が出てこない。

 

 ――――ズダァァン。


「はぁ…………さ、ニンジン切ろう」


 ニンジンも微塵切り。ピーマン、マッシュルームも。もれなく微塵切りにした。

 玉ねぎとニンニク、生姜を炒めてしんなりとしたら、ニンジン、ピーマン、マッシュルーム、豚挽き肉を足して更に炒める。


「ホーネストさーん、シエナちゃんからカレー粉もらって来て?」

「はいよー」


 カレー粉を受け取り更に炒める。


「あーもうっ! お米炊き忘れたっ!」

「カナタ様、一応五合炊いてますよ?」

「フリードさん!? ……ありがと」


 隣にいて、しかもお米を炊いていてくれていたらしい。全く気付かなかった。

 フリードさんに会うのはあの夜以来だったので、叩き起こしたり、色々と騙した事を謝った。緊急事態だったとはいえ、何も報告もしないままだった。

 

「実を言いますと、何となくご無事なような気がしてたんですよ。カナタ様とバウンティ様がアステル様とイオ様を置いて行くなんて事、あるはず無いと」


 ――――アイツは置いて行こうとしてたけどね!


 しかも、自分を正当化しているし。そして、なんだあの茶番のような抱き合いは。勝手に殲滅作業でも何でもしてくればいい。

 心配なんてしてあげない。

 お米を受け取り具材と混ぜ合わせてドライカレーにする。


「伸びる系のチーズあります?」


 チーズを受け取り小さく切る。

 ラップを出してドライカレーを一口分乗せてチーズが真ん中に来るように包む。

 パン粉を付けて揚げれば子供もゴーゼルさんも大好きなライスボールだ。

 黙々と丸めていたらフリードさんが隣に来てそっと手伝ってくれた。

 軽くお喋りしながらライスボールを握っていた。ドライカレーを同時に取ろうとしてフリードさんの親指の付け根に私の爪が刺さった。そんなに伸ばしているつもりは無かったのだけど、ザクッと生々しい感触があった。


「ほわっ、ごめんなさい!」


 慌ててフリードさんの手を握り、刺さった場所を確認する。ちょっとえぐれて血が出ていた。


「ひえっ。ほんとごめんなさい……血が出ちゃってる」

「怪我とか火傷なんて、慣れてますし、気にしてませんよ? そんなに心配そうな顔しないで下さいよー」


 とは言うものの、申し訳なくて仕方ない。リビングに行き、置いていたポシェットから絆創膏を出してキッチンへ戻った。

 フリードさんの手を取り、絆創膏をそっと貼る。


「ははっ! 可愛らしい柄ですね」


 子供達用にと動物の柄が描いてあるやつをあっちで買ってポシェットに入れてたんだった。


「はぁー。集中してなくて怪我させるし、何も見ずに持って来てファンシーな柄は貼り付けるし、何か今日ダメダメな日……」

「きっと疲れてるんですよ! 今日はもうちょっとだけ頑張ってお嬢様のお祝いのご馳走を作って、明日はゆっくり休みましょう?」

「うんっ。がんばります! ありがと、フリードさん」

「んー、何でしょう……カナタ様は頭を撫でてあげたくなりますねぇ」

「お触りは有料ですよ?」

「……因みにお値段は?」

「一撫で銅貨一枚です」

「あははは! 良いお小遣い稼ぎになりますね! バウンティ様なら払ってくれますよ? ね?」

「ん」


 ――――グイッ。


 どうやら後ろにいたらしい。グイグイと腕を引っ張られ、サロンに押し込められた。


 ――――ガチャリ。


 「鍵――――」


 ――――クチュッ。


 顎をがっしり掴まれてのキス。逃げられないようになのか、えらくお腹を押して壁に押さえ付けてくる。

 何度も顔の角度を変えてねぶる様に唇を重ねてくる。


「ハァハァハァ…………幾らだ、幾ら払えば良い」

「ん……は?」

「幾ら払えば……俺に隠し事しなくなるんだ? 幾ら払えば誰も見なくなる? 幾ら払えば俺の物になる? 幾ら払えばお前に触れられる。幾ら払えば俺はお前の一生を手に入れられるんだ? 幾らでも払う。だから誰にも触れさせないで。何も隠さないで。俺だけで満足してくれよ」


 意味が解らない。何だか解らないけど、辛い。何でか解らないけど、涙が零れる。


「っ……うぁ……あっ……ううっっ」

「何で泣くんだよ! 何でいつもいつも泣くんだよ! いっつも不機嫌になって話さなくなりやがって! 何でっ! 俺の思い通りにはならないんだよ!」

「……うっ。っ、ケンカしない日なのっ! きょおは、ケンカしないでって……あずでるが……お願いじだのにっ」


 お腹を押さえ付けているバウンティの手を叩く。苦しいし、痛い。何度叩いても離してくれないし、余計に押さえ付けてくる。


「っ、痛いの! 離してよ……」

「……逃げるだろ」

「逃げるよ! 怖いもん!」

「逃げるなよ。お前がケンカしないって言ったのに、不機嫌になってずっと無視するし、フリードには金払えば触らせるとか言って……怒りでどうにかなりそうだ! フリードは分別が有ったからいいが! 他のヤツだったら……」


 待って欲しい。いつの間に私が体を売るみたいな話になっているんだ。妄想力豊かな私でさえ、そんなアホな結論には行き着かない。


「バカンティ。馬鹿! そんな話じゃなかった! ジュドさんと話すような感じのヤツだった!」

「……ノリツッコミ?」


 何か違う気がするけど、大体そんな感じだろう。


「……不機嫌なのは何でだ?」

「別に不機嫌じゃない」

「クソが!」


 バウンティがドサリと床に座り込んだ。震える左腕を押さえ付けている。


「痙攣?」

「こんな時に……くそっ」

「まだキツいのに何でこんな無理するの! 大人しく座っておくか、寝ておいてよ!」

「話をすり替えるな。何でか教えてくれよ……クラリッサと協力して頑張ろうって言ってたのに……」


 バウンティの横にしゃがみ込む。


「クラリッサさんと結婚すれば? 抱き締めれるほど平気なんでしょ? 良かったね、私以外に触れる人増えて」

「? クラリッサにそんな感情ないが?」


 この人、馬鹿だ。私と誰かが同じ状況だったら私の事許さないくせに、自分は気付きもしないのか。


「奥さんの前で堂々と女性を抱き締めて…………? 次は何するつもり? クラリッサさんと二人でアティーラ旅行? 私はそれを笑顔で送り出せばいい? お弁当も作ってあげようか? 夜中にバウンティに飛んだら、情事の最中だったりして!? あはは」

「っ……」


 バウンティが手を伸ばして来るが、叩いて避ける。

 

「! お前だってヨージを抱き締めてたろうが!」

「うん、そうだね。だから何も言わなかった。ごめんね、不機嫌な態度で。改めます。ご飯作ってくるね」


 座り込んだままのバウンティを放置しキッチンへ戻ってご飯を作り終わらせた。




 ヤキモチばっかりの二人。


次話も明日0時に公開です。

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