95、パーティーはお開き。だけど……
アステルの誕生日会でバースデーケーキも食べ終わった。
「さ、パーティーはこれにて終了よ」
「グランマー、ありがとー! たのしかったぁ!」
「む、ワシも頑張ったぞ?」
「グランパも! みんなも、ありがとーございますっ!」
アステルがペコリとお辞儀していた。そして、すぐさまこちらに走ってくる。
「パパー、だいじょうぶ? ムリしたらね、ダメなんだよ?」
「ん、アステル……」
バウンティがイスに座ったままアステルを抱き上げ、ギュウギュウに抱き締めていた。アステルはキョトンとしているが、バウンティはちょっと涙目だ。何を考えているのやら。
「パパー、くるしーよ? どしたの?」
「ん、大きくなったなってな。これからもどんどん大きくなるんだなって」
「うん! アステルね、もっともーっとおおきくなるんだよ!?」
「ん、そうか……少し、寂しいな」
「えー? なんで?」
大きくなったらイチャイチャしてくれなくなるかららしい。そりゃ親子とは言え、おっさんと少女がイチャイチャって無理があるだろうよ。
「ずっと抱き締めていたい」
「いや、頭撫でるくらいで我慢しなよ」
「…………ぅん」
撃沈じゃないか! そして、フォード様もウォーレン様もなぜかシュンとしている。
王様にいたってはどこか遠くを見ながら黄昏ている。
「男性陣のメンタルが弱すぎる」
「そんなもんよ。特に娘に対してはね。私の父も生前はオブラートに包んでも『ウザい』って表現が一番合ったわよ」
「包まなかったら?」
「ちょっと、本気で眼球でもほじくり出して私を監視できないようにしてやろうかしら……って思うくらいかしらね?」
結構にバイオレンスだった。そして、男性陣は見事に身震いしていた。
「しかし、母親も中々な気がしますけど……。うちのだけかも知れませんが、弟達がちょこっとでも怪我をすると直ぐ医者を呼びますし、ちょっと熱が出たと言ったら夜通しで看病して……遊びに行く先は必ず聞きますし」
ダニエレくんがブチブチと愚痴り出した。実家に帰ってストレスが溜まったのだろうか。
フォード様やウォーレン様は身に覚えがあるらしく、感慨深そうに頷いていた。
「懐かしいな」
「えぇ」
母親は息子を溺愛するのかもしれない。
「ママはイオのほうがすきだよね……」
「えー。アステルもイオも変わんないくらい大好きなんだけどなぁ?」
「ふーん?」
アステルがちょっとイジケて、バウンティに抱き付いている。
「アステルこそ、バウンティの方が好きでしょ?」
「ママもすきだもん!」
「おー、じゃあ私にも抱き締めさせなさーい」
「きゃははは! くるしいってぇー」
ギュウギュウに抱き締めて、スリスリスリスリと頬擦りした。
「さ、帰るわよ?」
「「ハーイ」」
子供達はゴーゼルさんとカリメアさんと手を繋ぎつつ、皆にさよならの挨拶をしていた。私はブロックをザラザラと集めて、ひと纏めにしていた。が、バウンティが動かない。何となく気付いていた。軽食もケーキも食べていなかった。
食べないんじゃなくて、食べられなかったのだろう。
「ゴーゼルさん、カリメアさん、子供達と先に帰っててもらえますか?」
「…………ちゃんと帰って来なさいよ?」
「はい」
ゴーゼルさんに玩具を渡し、手を振って送り出す。
「さーて、バウンティ?」
「ん……」
子供達を送り出して、キーラ様、子供達も送り出してからバウンティに確認してみる。
王都のシュトラウト邸に飛ぶか、ローレンツの自宅に飛ぶか聞くと、シュトラウト邸が良いとの事だった。
「ローレンツでゆっくり休んだ方が良くない?」
「っ、側で守る!」
「…………勝手に死のうとしたくせに。えらそーに」
プンスカしながら片付けを手伝っていたら、ウォーレン様が笑いながら「まだ怒っているのか。カナタもしつこいな! そもそも死なずに済む予定だったのだから許せば良いものを」と、わざと黙っていた情報をペロッと漏らされてしまった。
「? どういう意味だ……死なずに済む、予定だった?」
「予定だっただけで、死んだかもしれない。バウンティは死のうとしてたし、関係ないでしょ!」
「どう考えても、関係あるだろ!」
「無い! 問題はバウンティが私達を裏切ったって事だけ!」
――――パァァン!
「っ、いたぁぁい……エズメリーダさん、何でぇ?」
エズメリーダさんに力一杯平手打ちされた。
「今回の貴女よ行動で……皆がどれだけ心を痛めたと思ってるのよ! あのカリメア様でさえ目を腫らしてたのよ!? 理由は腹いせですって!? 馬鹿っ! バウンティ様の事責める前に自分の行動も考えなさいよ!」
「っ…………だっ…………」
「私が色々と言えた立場じゃ無いのは解ってるわよ。でも、友達まで騙さないでよ」
「……うん。ごめん」
皆を泣かせて、驚かせて、騙して、申し訳無いと思っている。ちゃんと話を聞こう。バウンティからちょっと離れて座ってエズメリーダさんと向かい合う。
私がエズメリーダさんに怒られている間にバウンティがウォーレン様と話していた。表情がみるみる険しくなっていくのが見えた。
「ちょっと! 聞いてるの!?」
「あ、うん…………バウンティがめちゃんこ怒ってる……」
「……大丈夫?」
――――じゃないと思う。
「カナタ、ちょっとこっち来い」
「嫌」
――――ガタッ。
「っ! ふぅー……動くなよ…………」
バウンティがのったりと立ち上がってこっちに来ようとしている。
慌てて皆にさようならを言って、持って来た荷物を掴む。
――――ドサッ。
「ふにゃっ!」
「きゃぁっ!」
またもやお尻から着地だが、無事にシュトラウト邸に着いた。荷物をほっぽり出してアステルとイオに抱き着いた。
「いきなり現れないで頂戴よ……バウンティはどうしたの?」
「…………怒られそうだから、王城に置いてきた」
「あ、そう」
厭きれ顔でそれだけ言われた。
荷物をふんふんと片付けていたら、ラルフさんが現れて何か色々と怒鳴られた。
「パパ、なんでおこってるの? まだ、アステルのおたんじょうびだよ? まだ……パーティーするんだよ? おたんじょうびは、ねるまでパーティーのひでしよ?」
アステルが目をうるうるさせて詰め寄ってくる。エメラルドグリーンの瞳をうるうるさせて攻撃しないで欲しい。どうやっても勝てない。
「うぅっ、ごめんね。仲直りしてくるから! ね?」
「んっ! ケンカだめなの! パパとママ、なかよしがいいのっ!」
「うん、うん。駄目だよね。仲直りしてくるね!」
「うん! ちゃんとなかなおりするんだよー?」
「はーい!」
一瞬、親子逆転したけど、まぁいい。アステルの言う通り、仲直りしてこよう。
――――トスッ。グニュン。
「んぁっ……!」
「……ひっ!」
トイレ中のバウンティの上に着地してしまった。……詳細は伏せた方が良いレベルだ。
「――――臭っ」
「…………退け。出ろ」
「……ひゃい」
やらかした。バウンティに飛ぶんじゃなかった。ってか今じゃないだろバウンティっ! さっき別れたのになんでトイレに…………。流石に申し訳無さすぎるじゃんよ。
――――ジャァァァ。ガチャッ。
「連れていけ」
「へ? どこに?」
「子供達の元に決まってるだろが! 飛べ!」
怒鳴らなくても良いじゃないか。それに子供の前でケンカしたくない。
「怒るの止めてよ。アステルの誕生日にケンカなんて見せたくない、悲しい思い出になんてしないでよ。車で送ってもらおう? 飛ぶのは危ないと思う……」
「…………わかった。カナタ、支えて?」
バウンティの腰に腕を回し、頑張って支えて移動した。道中ウォーレン様を捕まえて、車にバウンティを運び、乗せてもらう。
エズメリーダさんに謝ってまた手紙書くからね、と約束した。
早く帰ろう。アステルとイオが待っている。
我慢し続けいたバウンティ。
寝落ちしました。明日こそはちゃんと公開……。




