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94、バースデーケーキ

 



 アステルのお誕生日会、そろそろメインのバースデーケーキの時間だろう。

 爺やさんをちらりと見たら頷いて消えていった。まだ何も言ってないのに。察しが良すぎて怖い。全く関係ない物持って来てくれた方が安心するけど……。そんなアホな事を考えていたら「皆様、お席に着かれて下さい。消灯いたします」と言う宣言の後にサロンの電気が消えた。


 ――――ジャジャン、ジャン、シャラララン。


 どこからか音楽が鳴り出した。

 爺やさんがバースデーケーキをワゴンで運んで来ているが、弦楽四重奏の人達までも入って来た。音楽家も雇っていたらしい。


「ふわわわ! ろうそくのいろ、すごい! きれい!」

「ピンク、きいろ、みどり、あお、むらさき!」

「あら、ほんと。綺麗ね」

「さ、アステルお願い事して?」

「うん!」


 アステルが目を瞑ってフンフンと何かを言っている。パチクリと目を開けてフーッとろうそくを吹き消した。多少唾が飛んでいるのはご愛嬌だろう。たぶん。

 パチパチと拍手しておめでとうと言うと電気が点いた。

 電気が点いたのに妙に静かなので何事かと思ったら全員がケーキをガン見していた。


「あ、ちゃんとカットケーキも買ってきてますんで、大丈夫ですよ?」

「違うわよ!」


 足りないな、と見ているのかと思ったらケーキに見とれていた方だったらしい。それは解る。一目見て衝動買いするほど美しいもの!


「いやー、綺麗ですよねー。上のバラはアステルのね」

「ガラス?」

「違うよ。飴で出来てるんだよ?」

「……あまいの!?」


 アステルの顔がキラッキラだ。

 メイドさんが切り分けてくれるそうなので、八等分でお願いした。そんなに大きく無いので、食べたい人が食べる感じで。

 アステルは雨細工のバラの花びらを一枚取って舐めていた。手がベタベタになりそうだ。


「あまーい!」

「いーなぁ……」

「ん!」


 イオが羨ましそうに見ていたのに気付いたのだろう。アステルが花びらを一枚取ってイオやミレーヌちゃん、フィリップくん……どんどんと分けていた。


「オルガさまも、はい!」

「…………ありがとう、ぞんじます」


 オルガ様はヨウジくんの後ろに隠れて花びらをペロリと舐めていた。きゃわわだ。見ていてニヤニヤしてしまう。


「オルガもアステルのように堂々として欲しいのだけど、どうにかならないかしら? ずっとヨージにくっ付いているのよ……」

「何となくキーラ様を思い出しますねぇ。むふふっ」

「わっ、たくし、ですか!?」


 キーラ様がビックリした顔をしていた。


「あら、覚えて無いの? 貴女も物凄く恥ずかしがり屋で手を焼いていたのよ?」

「……覚えてはいますが…………オルガの方が……」

「大差ありませんよ? カナタがリバーシーやブロック天秤をくれてからは、リバーシー対決がしたいが為に、側付き以外の騎士にも話し掛けられるようになったのよね。カナタの目論見通りでフォード様が悔しがっていましたわ。うふふふっ」

「ほほぅ。キーラ様ってば! きゃわいぃぃなぁぁ」

「カナタ、顔酷い」


 バウンティにおへそドシュッをしたいが、多分何か出てくる気がするので今回は止めておいた。

 メイドさん達が次々にカットケーキを持って来てくれた。

 何だか違和感……。


「あっ! 毒味しなくて良いんですか!?」


 全部、綺麗にそのままの状態だった。フェイト様は既にバラのバースデーケーキを食べているし。


「うむ、私が許可した。カナタは絶対に大丈夫であろう?」

「ふひひっ。王様、ありがとうございます! でも、王様は食べちゃ駄目だけどね!」

「なっ! 何故だぁ!?」


 べっくりするくらい叫ばれた。しかも立ち上がって。そんなに楽しみにしていたのか。

 結石に上白糖は厳禁だ。


「痛いの嫌でしょ?」

「ぐぬぬぬ……一個……いや、半切れでもよい。異世界のケーキなど食べる機会はそうそうに無いのだぞ!?」

「ぶふっ……ゲホゲホゲホ…………ゴホッ。異世界の……ケーキ!?」


 ダニエレくんが死にかけていた。


「きったないなぁ」

「カナタ! これもか!?」

「え? うん。それはイチゴのモンブランだね。綺麗だよねー。美味しかった?」


 苺ペーストが交ぜてあるクリームを細くクルクルと土台のケーキに巻き付けて山型に形成し、頂点に艶々の苺をドンとのせてあったものだ。


「あぁ、凄く美味しい……って、違うだろ! コレの価値、解ってるのか!?」

「ダニエレ、気にしたら終わりよ」


 カリメアさんが何か酷い。別に終わらないし。


「それの価値はね、銅貨四枚くらいだよ!」


 耳鳴りが鳴りそうなほど静かになった。隣でチュルチュルのヤツが口を押さえて震えている。何かイラッとする。おへそは自粛したが、イライラするので脇腹に指を刺してグリグリした。が、指がグキッっとなった。


「痛ぁぁ! 突き指みたくなったぁ!」


 取り敢えず、手刀に変えて再度脇腹を刺した。


 ――――ベチコン。


 デコピンを返された。物凄く痛い。


「本当に銅貨四枚くらいで売ってあったから、気にするな。何個でも食べて良い」

「……は、はい」


 カリメアさんとゴーゼルさん以外の大人は戦々恐々としながら私が持ち込んだケーキを見ていた。ってか、皆気付かなかったのだろうか。普通にこの会場に飛んで来たのに。玩具でも遊んでいたのに。

 

「てっきり、ローレンツのお抱えのケーキ屋から持って来たのかと……」


 ――――なるほど!


「まぁ、それもアリだったんですけどね」


 諸事情で顔を合わせ辛い。滅茶苦茶怒られそうで怖いのだ。


「逃げても無駄なのにねぇ。素直にさっさと怒られておきなさいよ」

「ちょ、心を読まないで下さいよ!」

「顔に全部出てるわよ。だから貴女はカードゲームが弱いのよ。激弱よね。あはははは!」


 カリメアさんが終始酷い。実はまだ怒っているのかもしれない。あと、エズメリーダさんは間違いなく怒ってる。目が合った瞬間には睨み付けて来るのに、直ぐに反らされてしまうのだ。


「取り敢えず、王様はお医者さんに許可もらって、栄養の調整をして、ちゃんと管理してくださいよ?」

「うむ!」


 王様が素早く爺やさんを見ていた。そんなに食べたかったのか。

 バウンティが気にせず食べて良いとかいうから皆好き好きに選び始めている。余計に慌ててしまうのだろう。

 カリメアさんは和菓子の方が気になるようだ。

 

「このオレンジは偽物よね? 玩具では無いのよね?」

「食べ物ですよ! お豆を砂糖で煮詰めて、裏ごしして、ってのが基本の具材で、それは甘夏……オレンジでいいか。その果汁を練り込んでいるそうですよ」

「豆なの!? 砂糖で煮詰めて……?」


 怪訝な顔をされてしまった。美味しそうなのに。あと、可愛い。

 カリメアさんがおずおずと食べていた。


「んっ! ちょっと! 美味しいじゃない! このねっとり、しっとりとした舌触りなのに、サラッと溶けて消えていく感じが面白いわ。それに、生の柑橘を食べているかのような風味が凄いわね!」

「お、じゃあワシはりんごのを食べてみようかのぉ」


 りんごも可愛い。そして、王様は終始ソワソワしていた。主治医さんからの連絡が入らないのでオアズケ状態だった。

 暫くして爺やさんが戻って来て王様に耳打ちしていた。王様がニッコニコしているので許可が出たのだろう。


「カナタよ、一番のお薦めはどれであるか?」

「えー。王様はフルーツ系とチョコ系はどっちが好きですか?」

「ふむ、どちらかと言えばチョコ系であるな」


 ならばフォレノワールがお薦めだ。

 三層に分けたココアスポンジにチェリーリキュールを染み込ませて、生クリームとチェリーのリキュール漬けを挟んでいる。そして、天面には削った甘めのチョコレートがどっさり振り掛けてあるのだ。

 白、黒、真紅のコントラストが綺麗な大人の味のケーキだ。


「ふむ、フォレノワールとやらをこちらに!」


 王様がルンルンで食べていた。


「貴女、ケーキの解説出来るの?」

「ざっくりですけど。買う時に説明書き読んだり、店員さんに聞いたので」

「食べ物に関してだけ優秀ね……」


 軽くディスられつつも、他のケーキの説明もさせられた。



 

 久々の甘いは正義の回!


次話も明日0時に公開です。

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