89、お届け物です。
ドラッグストアでバウンティと爆買いした。歯ブラシ、歯磨き粉、芳香剤、キッチン用洗剤などもイロイロと買い込んだ。かぁさんもカリメアさん用に色々と選んでいた。
シエナちゃんに頼まれた物や、他の食材、野菜もまた持ち込もうと近くのスーパーで買い込んだ。
「ふいーっ、重いっ」
「いやぁ、アホほど買ったねぇ」
両手に買い物袋ガッサガサで歩く。車に荷物を積んでいるとかぁさんが急に大声を出した。
「あんた!」
「へ?」
「レンジ買わなくて良かったの?」
炊飯器は買ったのにレンジを忘れていた。痛恨のミス。家電量販店に向かう。
「オーブンはあるから、レンジの機能だけで良いよね」
「何でオーブンはあるのにレンジがないんだろねぇ?」
「しらなーい。何か作りが違うんじゃない?」
発明家のおじいさんに説明したが私もおじいさんもちんぷんかんぷんだったので諦めていた。
取り敢えず、普通のレンジを二台買う事にした。
先日来たばかりなのにまたもや店内を散策。掃除機のコーナーで悩む。ちょっと欲しい。土足厳禁とはいえ、ジュータンが全く汚れ無いという訳でもないので、掃除機をかけたい。ホウキとブラシ掃除じゃ心許ない。サイクロン式のが最近は人気らしいのでそれに決めた。
そのサイクロン式の物と同じブランドで羽根の無い扇風機があった。
『何で風が出てるんだ?』
「わかりましぇん……」
『お前――――』
「何でもかんでも知らないよ! 『風来る、わー涼しー!』で良いじゃん!」
『……』
「何!?」
『別に……』
なぜに呆れ顔をされないといけないのだ。そしてこれも買う。扇風機かと思ったら温風も出るらしい。最高じゃないか!
「てか、この前も思ったけど、テレビ……薄すぎない? しかも安くなったよねー」
「あー、昔のブラウン管が懐かしいよね!」
「え……流石に私そんな歳じゃないし、懐かしくは無いかな」
「……しばくぞ、ごらぁぁぁ」
「うはははは!」
かぁさんとイチャイチャしていたら、なぜかバウンティが破顔していた。毎度の事ながらバウンティの琴線がどこにあるのか解らない。
バウンティがピッタリくっ付いて来て、そっと手を繋いで来たので、握り返してじっと顔を見詰めていたら、顔がスススッと近付いて来たので顔面に掌底打ちした。
『…………おい、どういう事だ。カナタが誘って来たんじゃねぇか!』
「いやいや、顔見ただけでどうやったらそうなるの」
何か体調が悪くなったとか、精神的に不安定になったのかとか心配しただけだ。断じて発情はしていない!
バウンティはイジケながらブツブツ文句を言っていたが、手は離さないらしい。
家電量販店を出て、今度こそケーキ屋巡りだ。
スマホで調べて近くのお店から突撃。
「ふばぁ……美味しそう…………フランボワーズのムースが中に入ってるんだって……買う!」
『カナタ、カナタ! パイン!』
「パインのタルトって、リズさんが普通に作れるじゃん?」
『食べたい!』
「はいはい」
目新しそうなケーキを二個ずつと、パインタルトを一個買った。一個ずつリズさんに渡すので別々に箱詰めしてもらった。
一軒目のお店はホールケーキが普通だったのでスルーして二軒目に出発だ。
「いらっしゃいませー」
「ほあぁ!」
お店に入った瞬間、ときめくほどのホールケーキが売ってあった。
二十センチほどの大きさで全体がバラを模したクリームで埋め尽くされていた。ピンクや白、赤いクリームのバラがまばらに飾られていて、天面には透き通った飴細工のバラが一輪ドーンと乗っていた『美しい』と感嘆するほどの物だった。
「これ買う! これ下さい!」
「かしこまりました。プレゼント用ですか? 蝋燭はどういたしましょうか? こちらからお選びください」
蝋燭の写真を見せてもらった。
ハッピーバースデーとワンプレートに書かれている物や、ひらがなでおめでとうと書かれている物、キャラクターや、風船の形、ハートの形、数字、形は普通だが蝋燭の色と同じ炎の色が出る物があった。
「むーっ、迷う…………炎に色が出るやつが好きそう」
『ん、絶対に好きだろうな』
「だよね!」
蝋燭を五本お願いした。なんて素敵なサービスだろうか。
ホールケーキを梱包してもらう間に普通のカットケーキも見る。飾りやデザインがかなり個性的なお店のようで、色々と買ってみた。
ここでも各二個ずつ買い、各一個で箱詰めしてもらう。
「全部ケーキってもアレだし。和菓子もいれたら?」
「かぁさん……ナイス!」
と言う事で、和菓子屋さんに来た。
「わぁぁ、綺麗」
紫陽花を模した物や、青梅そっくりのねりきりがあった。甘夏やリンゴなどを模した物もあったのでそれも選ぶ。
「あ、チーズ饅頭だ。私のおやつにしよ」
『チーズマンジューって何だ?』
チーズとお饅頭が合体したもの。だが、白餡の説明が難しい。取り敢えず豆を砂糖で煮詰めて裏ごししてチーズと混ぜたものが生地の中に入っている。とザックリ説明した。
バウンティも食べてみたいそうなので、とーさんとかぁさんと葉子の分まで買う事にした。
「さーて、帰りますか。つか、もう五時過ぎてるよ。龍多さん帰って来てるなぁ。ご飯作るのめんどいわー……」
私が連れ回したので何も言えない。一つ提案してみる。
「ローレンツと王城に荷物運んでから、外食ってのはどうでしょうか?」
「お、カナタの支払いで?」
私のと言うか、私の為にしてもらってた貯金で支払いになるのだけども。気分の問題らしい。奢ってもらった気分になれるから良いのだそうだ。
「焼肉行こうよ! 焼肉! 龍多さんにいっつも却下されんだよー。家でした方が安上がりってさー。外で色んな肉食いたいのに! 今日ならバウンティくんいるから絶対にオーケー出るし! 葉子も一緒に連れて行くっしょ?」
「…………あ、うん。葉子には連絡よろしく」
「はいよー」
強制的に焼肉になった。バウンティは嬉しいらしいので良しとしよう。
家に着いたのでローレンツに持って行く荷物をまとめる。その間バウンティには、リズさん宛の手紙を書いてもらった。
ケーキと和菓子の説明がメイン。あと、暫くしたらちゃんと説明するから色々と内密にお願いしますってのと、細かい事はシエナちゃんに聞いて下さいってのを書いてもらった。
『ん、書いたぞ』
「ありがとー。ちょっくら行ってきます」
キャリーケースの一つに荷物を詰め込み、電化製品は重ねて紐で括り取っ手を付ける。その上にケーキの箱を乗せる。持ち上がりはしないが、手に握っていれば持って行けるはず。
キュッと目を閉じて家のリビングを思い浮かべる。
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――――ドスッ。
荷物は無事着地した。私はいつもの如く尻餅で着地。立って着地してみたい。
「シーエーナーちゃーん? いるー?」
「っ……い、いますー……けど…………あー……」
パタパタと走る音が玄関の方から聞こえて来た。
――――バァァァァン!
「カナタッ! やっぱり!」
真っ赤な顔のテッサちゃんがリビングのドアを勢い良く開けて入って来た。後ろからシエナちゃんが申し訳無さそうについて来ていた。
「カナタ様、お願いですから静かに戻って来て下さい…………」
申し訳無さそうな顔なのは、私にじゃなくてテッサちゃんに向けた顔だった! 何だかごめんなさいな気分になった。
「やっほい?」
「馬鹿!」
「へい、すんません。色々と話はあるんだけど、ちょいと急いでるの」
「えっ、大丈夫? バウンティ様は?」
「あー。大丈夫、大丈夫。そこら辺はシエナちゃんに聞いてね。丁度良かった、この箱三つなんだけどね、ケーキと和菓子なの。リズさんにお土産なんだけど、何なら開発も頑張って欲しいなと思ってね」
パカッと箱を開けて見せたら二人ともキラキラした笑顔になっていた。
「リズさんココに呼んで良いから、この手紙とケーキとか渡しといてくれる? キャリーは野菜とか入ってるから冷蔵庫にお願いね。箱のは戻ってから片付けるよ」
「畏まりました。その、バウンティ様の方は……」
「あ、うん。一応解決したからリズさん辺りになら話しても大丈夫だよ」
「はい!」
「ほんじゃ、私戻るからー」
日本に飛ぼうとした。
「ちょ、カナタ!」
「へ? 何?」
「……どこに行くの? こっち戻って来るんだよね?」
「うん! ちゃんと戻るよー。日本に帰って、明日は王城でアステルの誕生日パーティーして、ローレンツには陸路か船で戻ると思う!」
「えっ……ニホン?」
「詳しくはシエナちゃんに聞いてねー。ほんじゃ」
「カナタ様! 私もそんなに詳しく聞いて――――」
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シエナちゃんが何か言っている途中で飛んで来てしまった。まぁ、大丈夫だろう。戻ってからいっぱい謝って、いっぱい話そう。
「おけーりー」
「早かったね?」
「うん。シエナちゃんに丸投げしてきた! 葉子は?」
「あと、十五分で来るって」
じゃあテレビを見ながら待っていようと思ったら、既にバウンティがパインタルトを食べていた。
「何、ご飯前に食べてんの!」
『美味い!』
その感想は今じゃない。
『カナタが俺の昼飯盗っただろ? ちょっと腹減ってたんだよ』
「え、あの量ってバウンティ一人分だったの? 大皿だったよね?」
「バウンティくん全部食べるってルンルンしてたんだよ。途中であんたに奪われてたけどさ」
「えー言ってよ」
言う暇は無かったと二人から怒られた。どうやら私が悪者らしい。
こんこんと説教を受けながら葉子の到着を願った。
色々買って配達。「あれ? 私って精霊?」とかメルヘンな事を考えたカナタさん。
次話も明日0時に公開です。




