87、バウンティの精神状態
日本に戻って来た。
バウンティは、かぁさんとのんびりお昼ご飯を食べていたようだ。
テーブルの上に肉多めの野菜炒めと、モヤシのナムル、山盛りのご飯、卵スープがあった。今日はちょい中華風らしい。
バウンティのお箸を取り上げモグモグ食べた。
『カナタ! 俺のご飯っ! 下りろよ!』
「あんた、膝の上に……落ちてきた?」
「ん、そんな感じで転移するようになってるの。意味不明だよね。ん、野菜炒め美味っ」
『カナタ! 下りろって!』
「煩い! 椅子は黙ってろ! 馬鹿っ、アホ、ハゲ!」
「ハハッ、小学生かっ」
かぁさんに笑われたが、私は怒っているのだ。もっといっぱい言いたい。でも、かぁさんに心配かけたくないから二人きりで話そう。
バウンティの膝の上でご飯を食べ終わらせ、ちょいと部屋で話そうと言うと、お昼ご飯を食べさせろとバウンティに怒られた。
「仕方ないなぁ。待っててあげるよ」
バウンティの膝を下り、隣に座って食べ終わるのを待ってあげた。
部屋に戻り、バウンティをベッドに座らせる。
『あっちで何してたんだ? こっちに移る準備?』
「するわけ無いじゃん。馬鹿なの? クラリッサさんと話してた。カリメアさんとゴーゼルさんは、王都に戻って来てくれた」
『……ん。クラリッサも、来てくれたのか』
来てくれたって……そうか、私が気付いてないと思ってるんだ。
「…………クラリッサさん、認めたからね」
『っ、何をだ?』
「……犯人だって事」
『暴いたのか!?』
――――何だ暴くって。
「私が悪いの? そもそも、バウンティが元凶のくせに。バウンティが選んだくせに。私達を置いて行くって決断したのバウンティだったくせに! 自分から死のうとしてたなんて!」
『それしか選択肢は無かった』
「あった! 足掻いてよ!」
『足掻いても……お前達が脅かされるだけだ! 俺が……生きてたら、いつか、きっと、後悔する。俺のせいでって、憎まれる。離婚してくれよ。そうしたら、きっと、標的は俺だけになるから。こっちで安全に幸せに生きててくれよ。頼むから…………愛しいものをこれ以上奪われたくないんだ。その為なら何だって差し出すから。俺から奪わないでよ。カナタ』
――――ムカつく。
「ついこの前、ダニエレくんにも言ったのに。命を懸けたら駄目だって! 生きてこそだって!」
『…………状況が違う』
「何? 状況って? 打破できないほどなの? 最強なんでしょ!? 最強なら何でもやってのけてよ!」
解っている。無茶振りにも程がある。バウンティが言いたい事も解ってはいる。でも、言いたい。
『…………別に最強じゃねぇよ。怪我もするし、毒で死にもする。お前達に何かあったら心が死ぬ…………。いいよな、お前は……』
「何が?」
『わーわー好き勝手に言えて。皆に守られて、助けられて、愛されて!』
「…………何が言いたいの?」
『俺、頑張った。凄く…………怖かったけど、痛かったけど、苦しかったけど、お前達の為に頑張った! …………なのに、怒られてる。ありがとうも、何も、言ってもらえてない』
バウンティが口を尖らせて俯いている。人が真剣に怒っているのに、イジケている。何なんだコイツは!
「ありがとう、死にかけてくれて! ありがとう、犠牲になってくれて! ありがとう、子供達から父親奪ってくれてっ! ありがとう、私から大好きな人奪ってぐれでっ! ありがどうございまじだぁっ……グスッ…………お陰で大嫌いになれそうだよ!」
『……俺も』
バウンティが拗ねてこちらに背中を向けてベッドに横たわった。背中が凄く小さく見える。毒で色々あって痩せたからなのは間違いないのだけど、凄く寂しそうな空気が漂っている。
頭にそっと手を伸ばし、撫でしまった。髪の毛を耳に掛け、整えながらゆっくりと撫で続けた。
暫くして撫でていた手をバウンティに掴まれて、ベッドに引き摺り込まれた。
「ちょ、危ないって…………何で泣いてるの……」
『泣いてない』
エメラルドグリーンの瞳からポロポロと透明な雫を溢しているのに、泣いてないと言うのか。なら何の汁だよと突っ込みたい。
『怒らないでくれよ。嫌わないでくれよ。頼むから側にいてくれよ。寂しい……怖い……怒ったカナタが怖い…………』
「……どうしたの? 何か……変」
『わかんねぇ……ずっと最悪な気分だし、腰痛ぇし、頭痛ぇし、イライラしたり、訳が解らない……不安? 凄く嫌な事しか考えれない……』
――――ん? 不安? 何か今、フワッと何かが。
思い出した。毒の後遺症で暫く精神が不安定になるって言っていた。それなんだろうか。
今は冷静に話せないし、きっとそうだ。今まで冷静に話し合ったのなんて手で数えれる気がするが、気のせい。きっと毒のせいで冷静になれないんだ。きっとそう。
「ごめんね、キツいのにケンカ売って。体調万全に戻ってから話し合おう?」
『それまで待てない。アステルとイオが危ない』
「大丈夫だよ。皆が側にいてくれてるから。それに、明日の朝一で帰る予定だし」
『そうなのか? 何で明日なんだ?』
――――は? 忘れてるの? 大切な日なのに。
でも、仕方が無いのかもしれない。色々ありすぎて日付とか解らなくなっているだろうし。
「明日はアステルのお誕生日だよ? 五歳になるんだよ? お祝いしてあげたいじゃん。王城でパーティーする事になったんだよ!」
『っ、もう明日だったのか。もう五歳になるんだな……大きくなったよな。産まれた時は凄く小さかった。片手で持てそうなくらい小さかった……真っ赤な顔して泣いてて……守らなきゃって思ったんだ』
「うん、大きくなったね。うん、守りたいね!」
『っ…………カナタ、アステル、イオ……失いたく無い…………愛してるんだ』
「うん。愛してるよ。生きててくれてありがとう。頑張ったね。もう大丈夫だよ。きっと大丈夫。なんとかなる。なんとかしよ?」
『……んっ』
バウンティがメソメソしながら抱き付いて離してくれないので頭を撫でながら落ち着くのを待った。
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