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8、賞金稼ぎのお仕事。

 



 アステルとのラブラブ期間中、賞金稼ぎ協会で一悶着あったものの概ね平和……だと思う。


「じゃ、俺はゴーゼル様んとこ行ってくるよ」

「バイバーイ」


 ――――さて、他にどんな依頼があるのかな?


「旧市街の害獣駆除だってー、ネズミ的な? ん? 白金貨一枚?」

「あ、カナタ様、ソレは熊です」

「熊!?」


 さっきまでご機嫌ナナメだったお兄さんが教えてくれた。ライラさんというらしい。厳ついわりに可愛い名前だ。

 呼び捨てにして欲しいと謎の懇願をされたが、ウチの魔王様のご機嫌が悪くなるので遠慮したい。『くん』で妥協してもらった。


「で、ライラくん、熊ってマジで?」

「はい。若いオスらしいっす。どうやら冬眠明けで山側から迷い込んだんじゃねぇかって話です。人的被害が出る前に駆除した方がいいんですがねぇ」

「ライラくんは? これ受けないの?」

「いや、熊ですよ!? 剣や斧でどうにかなる相手でも無いですし、俺のランクじゃ銃の許可が出ません」

「ライラ、がんばれー」

「いやいや、お嬢様、無茶振りですって!」

「これって殺処分になるんだよね……」

 

 この世界には銃が普及していない。あるのはあるらしいが規制され、厳重に管理されている。バウンティでさえ二度ほど使った事がある、その程度らしい。

 そして、その銃の出番がこういった大型害獣の駆除に使われるそうだ。


「銃の許可は紫石からだもんねぇ……アステル、ご褒美期間中だけど、パパ呼んでもいい?」

「いーよー!」


 ホーネストさんにお願いしてバウンティを呼び出す。


「ママー!」

「あら、イオも来ちゃったかぁ」

「ん、見たいって」

「わたしもみたいー!」


 ――――いや、流石にダメでしょうよ。動物撃ち殺すとかトラウマ一直線だよ。


「痛め付けて山に帰す、で良いだろう。本来、熊は臆病だ。人間がいれば近付かないが、冬眠明けで食料が不足しているのか、寝ぼけて下山して迷子になっているのかだろうな。人間をまだ食ってないなら山に帰れば、ほぼ戻っては来ない」

「そーゆーもん?」

「あぁ、何年かに一回位しか起こって無いしな。外壁の上から見学すれば良いさ」


 ――――なるほど。


 ちょっと前に知ったのだが、賞金稼ぎは市外壁の上の見張り台に上がれるらしい。用事も無いので『へぇー』と感心しただけだったが、見学用に使うとは。

 ちょっと私も見たいのでルンルンと外壁へ移動する。なぜかライラくんや周りにいたライラくんの知り合いの賞金稼ぎも数人ついて来るらしい。


「目撃は西側だ。ライラ、外壁の上は案内出来るか?」

「はい! 出来やす!」

「ん、じゃあ、カナタ達を案内してくれ」

「はいっ!」


 ライラくんがなかなか従順な下僕と化している。いいんだろうか。


「パパがんばってねー」

「パパ、かつー?」

「ん、大丈夫だ。いい子にしてろよ?」

「「うん!」」


 何だかバウンティがやる気満々だ。子供達に張り切って良い所を見せたいんだろう。頑張れ。




 ライラくんに案内され市外壁の上に登った。関門とは別の入り口があり、そこでプレートを警備兵の人に見せて階段を上って行くだけだった。

 外壁の上は市内側、市外側も狭間胸壁(はざまきょうへき)になっていた。壁が凹凸になっているのだが、その凹んだ所から旧市街の様子を伺う。

 子供達は身長が届かないのでどうしようかと思っていたら、ライラくんと、ライラくんの知り合いのデレクさんが肩車してくれた。


「ここら辺が目撃情報のあった所です! あ、あそこにバウンティ様がいらっしゃいますよ!」


 少し遠くの開けた道に仁王立ちのバウンティがいた。手にはカンフー映画でよく見る棒……棍? だったかな。身長くらいある棍を持っていた。もしや、それで追い払う気なのだろうか?


「え? バウンティ様、あの棒で熊と対峙する気っすか?」

「だろうねぇ。力入れすぎて折らないと良いけどねぇ」


 ライラくんの顔が青冷めていた。バウンティを自分に置き換えたら怖くなったのだろうか。


「あー! パパはしってるー。ライラ、あっちー!」

「はい!」


 初めは旧市街の建物の陰を覗いたり、家の中の人に話を聞いたりしている様子だった。何軒か中に入っては出るを繰り返した後、横方向に急に走り出した。

 子供達がライラくんやデレクさんの頭を叩いて、見える所に移動して欲しいと強めに頼んでいた。


 ――――あぁ、バシバシと叩いて。ほんとごめんよー。


 どこからかグァゥグァゥグァゥと微かに鳴き声が聞こえてきた。

 するりと建物の間に入ったバウンティがゆっくりと後退りして出てきた。数秒後、建物の間から丸々とした焦げ茶色の頭がヌッと出てきた。のっそりと歩いてバウンティとの距離を少しずつ詰めている。


「いたー! クマ……おおきいよ? パパだいじょうぶかなぁ?」


 現れた熊は、体高がバウンティの腰よりも上だった。立ち上がったらバウンティより大きいんじゃないだろうか。肩がモリッとゴリラのように盛り上がっている。


「ふぇっ……クマこわい……」

「坊っちゃん、大丈夫っすよ! バウンティ様、超強いんですよ! ほら、棒振り回して楽しそうっすよ!」


 イオが熊にちょっと怯えたが、ライラくんが頑張ってフォローしてくれた。思いの外優しい。

 そして、バウンティは本当に楽しそうに棍をバトンのように回転させている。


「何か、思ってた熊と違う。すんごいゴツいんだけど?」

「そうですか? そんなに何度も見たこと無いっすけど、アイツちょっと小さめですよ」


 待って欲しい。バウンティよりでっかいのに小さめとはどういう事だ。最大級のは車くらいあるんじゃなかろうか。

 棍でどうにか出来るものなのかな? 深く考えずバウンティを呼び出してしまったが、段々と怖くなってきた。本当に大丈夫なのだろうか。

 バウンティは、私達の不安や心配を余所にビュンビュンと棍を振り回している。どう見ても楽しそうにしか見えない。

 熊の全身が露になってからは、子供達さえも静かになり、誰も話さず見守っていた。

 

 ――――大丈夫だよね?


 数分ほど対峙していたが、熊がグワァァァと地響きするような声で吼えた直後、バウンティが熊の頭目掛けて棍を振り下ろした。

 ボクリと鈍い音が外壁の上にいる私達にまで聞こえた。

 熊がギャウンと一啼きした後、バウンティ目掛けて突進したが、バウンティはヒラリと横飛びして軽やかに(かわ)し、熊にまた一撃入れていた。


「ふぉう……おわっ…………ふあっ!」

「ママうるさい!」

「……すんません」


 アステルに怒られつつバウンティを見守る。

 何度目かのボクリという打撃音の後、急に熊がバウンティに背を向け走り出した。

 バウンティが少し方向を修正しつつ追い立てて行く。

 十数分の出来事だったのだが、とても長く感じた。手汗がベッチョリだ。


「パパみえなくなった……」

「熊を追い立てて、山に向かわせてるんっすよ。直ぐ戻ってきますよ!」

「ほんと? ライラものしりー!」

「ライラものしり!」

「へへっ。そっすか!?」


 幼児に誉められて本気で喜んでいるが、それで良いのかライラくん……。




 アステルやイオがバウンティの格好良さを、言葉足らずの擬音で必死に話すのを軽く聞き流していると、バウンティが小走りで戻って来るのが見えた。


「あ、パパ戻って来たよー」


 アステルとイオは、ブンブンと千切れるんじゃないかと思う程に手を振っていた。初めは五人だった見学者が、いつの間にか二十人程に増えていた。そして、誰からともなく拍手をしていた。

 

 ――――ザッザッザッ。


「「パパー」」


 市外壁の上に登って来たバウンティを、拍手と子供達が迎える。

 バウンティは、子供達を軽く撫でると私の前に走って来た。


 ――――チュッ。


「心配掛けたか?」

「ん。……キスは余計だけどね」

「ふはは。不安そうな顔してても悪態は吐くんだな」


 なぜかとても楽しそうだ。

 バウンティを追いかけて走って来たアステルとイオを抱き上げて二人の頬にキスをしていた。


「……ん? 何か人が多いな」

「見学者さん達だよ」

「あー…………解散!」

「「はいっ!」」


 全員、ハキッと返事して解散し出した。軍隊みたいだ。


「ライラ、助かった」

「いえ、光栄っした。失礼します!」


 ライラくんがバウンティに勢い良く頭を下げた後、市外壁を下りていった。


「バウンティ、お疲れ様」


 もう一度バウンティを労って、私達も市外壁を下りた。

 役場に戻り依頼達成証を書いて提出する。


「はい、確かに達成証をお預かりいたします」

「あ、今すぐ賞金が出る訳じゃ無いんですね」


 数日、熊が戻って来ないかなどの調査期間を経て、賞金が払われるそうだ。

 調査するのも危険が伴いそうで大変だろうなと呟いたら、ゼペットさんのような賞金稼ぎを引退した職員が調査するので、慣れているから安心して欲しいと言われた。

 ゼペットさんに挨拶して役場を後にした。




 バウンティとイオとも別れ、またアステルとのラブラブ期間に戻る。


「さぁてアステルさん、お昼ご飯はどうしようか? 家で食べる? どこかに食べに行く?」


 アステルが少し迷った後「ママのね、ごはんがたべたい」とモジモジしながら言ったので、心の中で盛大に鼻血を吹き出しながら、抱き上げて了承した。


「畏まりました、お嬢様」


 ――――ムッチュー。


「キャハハハ」


 アステルのプニプニほっぺに力いっぱいキスしたら思いの外喜んでくれた。

 ラブラブ期間をちょっと横道に反らしてしまったのでお昼はアステルの食べたい物を作ろう。




「はい、お昼はアステルの好きなもの尽くしです!」


 お子様のド定番オムライス、唐揚げ、そして謎の青椒肉絲。

 子供の口から『ちんじゃおろぉすぅ』と予想外の単語が出て来ると、何かの技名か? と一瞬思う。

 アステルはピーマンが好きだ。ピーマンって子供の敵じゃなかったんだろうか。


「いただきます!」

「いただきまーすっ」


 アステルのほっぺがモニュモニュと動いている。どんなに可愛くても突っ突いてはいけない。プニッとか人差し指を刺してはいけない。物凄く怒られる。

 以前、ついついやってしまったら、口の中の物が飛び出た。バウンティにさえも怒られた。

 ニヤニヤと眺めて我慢しないといけないのだ……我慢っ。


「ねぇ、ママ……またツンツンしようとしてない?」

「ひえっ、ちっとも思ってませんよっ! アステルさんは何を言っているのかなっ」

「あやしい!」


 ジットリと疑り深く睨まれてしまった。


 ――――くそぅ。めざといなぁ。


 やはりツンツンと突っ突く隙は無いようだ。諦めて真面目にご飯を食べる。

 少し遅めのお昼になったので、食べて直ぐにアステルはお昼寝してしまった。少し抗っていたのだが、まぁ勝てるはずもなく数分でコテリと寝てしまった。

 アステルをベッドに寝かせ、キッチンでおやつを用意する。


 ――――起きたら喜んでくれるかな?




 二時間後、アステルが目を擦りながらリビングに現れた。ソファで本を読んでいた私の膝に跨がり抱き着いて来たので頭を撫でる。

 アステルに何か歌ってと急に言われて、何となしに歌った。


「――――ヘェイ!」


 何となしに歌って、なぜこの選曲なのか。寝起きの子供に対してロックってテンション高すぎだなと、歌い終わってからちょっと反省していた。


「……わたし、このうた、きいたことある」

「あー、スマホで見たやつだった?」


 バウンティ秘蔵の隠し撮り動画かな? と思ったが、どうやら違うらしい。

 アステルが話し始める前はノリの良いロックの曲をほぼ毎日歌いながら家事をしていた。どうやらそれを何となく覚えているようだ。


「あらー、良く覚えてたねぇ。ママは嬉しいよ」


 アステルのおでこにキスをして、追加で二曲歌った。


「アステル、おやつは?」

「たべるー! おやつはなに?」

「今日はクッキーとイチゴムースです!」


 パァァァっと効果音が出そうなくらいにアステルが満面の笑みになった。アステルはイチゴムースが大のお気に入りだ。

 喜んでくれて良かった。

 おやつの後はリビングで一緒にお絵描き。


「おぉっ。これはさっきの熊か!」

「うん! パパがばしーんってしたところ!」

「格好良かったもんねぇ」


 その後は絵本の読み聞かせ、お人形さん遊びなどをして夕食の時間。

 お昼は重かったので夕食はうどんと豚しゃぶとレタスのサラダ。ゴマだれが良く合う。


「むっはー。おうどんが美味しい! 今日のは、なかなか良いお出汁!」

「うどんおいしー!」


 子供達もうどんが好きなので、バウンティが頻繁に作り置きしてくれている。中々良い旦那さんだ。

 

「ママ、うどんはチュルチュルしていいの?」

「うどんは良いの!」

「でもね、チュルチュルするとスープが、ピョンってね、とぶんだよ?」

「ちっちゃい事を気にするでなーい! 洗えば良いんだから!」

「……うーん? うん」


 微妙に納得してなさそうだ。うどんはチュルチュルしたいから気にしない!


「さ、洗い物したらラセット亭に行きますかぁ」

「あーあ、もうおしまい? たのしかったのにぃ」

「何をおっしゃいますか、アステルさん。これから、明日も明後日も、毎日ウザいほどに一緒にいるんだからね?」


 アステルの頬にムッギューとキスしたらキャッキャと笑ってもう一回と言われたので素直に従う。


 ――――ムッチュー。


「キャハハハ! ママうざーい!」

「なんだとぉ、ゴォルァァァ」

「キャー!」


 アステルの脇腹をくすぐってクタクタにした。




 思ってた熊と違ってハワハワしていたカナタさん。

「パパすごいっ」と言ってもらえそうでウキウキのバウンティ。

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