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78、フラフラのバウンティ

 



 日本に飛んで来て、バウンティを入院させた。これで死の可能性は消えたと思う。ひと先ず安心してもいいだろう。

 一度家に帰って仮眠する事になった。いつの間にか朝の五時になっていた。


「奏多、取り敢えず少しでも寝なさい」

「うん」


 二階に上がり、自分の部屋に入る。


 ――――バタン。


「っ……ぅえっ……グスッ。うぅぅぅぅ……よがっだぁぁ」


 ボロボロと涙が零れてくる。拭っても拭っても止まらない。

 バウンティが痛いって言った。怖いって言った。

 ずっと吐いて、硬直しながら痙攣したり、呻き声を上げたり、小動物みたいに丸まったり……。

 本当に死んでしまうんじゃないかと思った。

 解毒剤が無いと言われて絶望の縁に立った。


「グスッ……うぅっ……ズビビッ」


 勢いだけで日本に飛んできたけどちゃんと戻れるんだろうか。子供達は大丈夫だろうか。バウンティは何日くらい入院するんだろう。

 何ヵ月も痺れなどが出るとお医者さんが言っていた。手足はパンパンだったし、腰周辺は爛れたように赤いポツポツが出だしていた。痛そうだし、痒そうだった。

 お医者さんがポロっと洩らしていたけど、蜘蛛が噛んだくらいじゃあんなにはならないらしい。渡した注射器は五ミリくらいの太さで長さは割れてて解らなかったけどたぶん五センチかそこら辺。

 もし、その注射器いっぱいの毒なら確実に死ぬそうだ。


「ズビビッ……つふぅぅぅ……つあぁぁぁぁぁぁぁ! 見付けてやる! 絶体に犯人見付けて償わせるっ! ふえぇぇぇん」


 枕に顔を埋めて叫んで、そのまま寝落ちした。




 ――――コンコン。


「奏多、入るよー」

「ん……あっ、ごめん! 階段大変だったよね」

「流石にもう慣れてるよ。大丈夫だって」


 かぁさんが部屋に来た。片足でぴょんぴょん飛んで上って来たらしい。


「ぶふっ。アンタ、顔酷いよ。目がパンパンじゃん」

「うーっ。泣きながら寝ちゃった……」

「朝飯作ったから、顔洗ってダイニングに来な」

「はーい」


 一階に降りて洗面所で顔を洗う。


「ふぅーっ」


 泣いて、寝て、ちょっとスッキリした。

 ダイニングでテレビを見ながら朝ご飯を食べる。


「ん、もう八時かぁ。二人とも王城に着いたのかな」

「電話、渡しといたんでしょ?」

「うん。王様にポイ投げして来ちゃった」


 ご飯を食べ終わり、かぁさんのスマホを借りて電話を掛けてみる。


 ――――プルルルル。プルルルル。プルルルル。


 やっぱりちょっと早かっただろうか。


『ママ!? あれ? かおでてない! ママー?』

「ちょっと、アステルー? 耳に当ててよ! 普通の電話だって……」

『ママー! こえちいさい!』


 頼むからスピーカーのボタンを押すか、スマホを耳に当てて欲しい。


『アステル、かして?』

『え、なんで!』

『おみみにあてたら、きこえるよ?』

『あ!』


 解決したらしい。


「アステルさーん?」

『なーにー?』

「うるさいよ。普通の声で聞こえるから」

『みんな、きこえるようにはどうするの?』

「スピーカーのボタンを押すんだよ。三角形っぽい絵のやつ」

『あ、みっけ!』


 どうやらスピーカーにしたかったらしい。私はそのまま耳に当てて話す。


「アステルとイオは何か聞いてる?」

『うん! パパがびょうきであぶないから、ママのくににいったってきいたよ!』

「うん。パパね、もう大丈夫だけどね、ちょっと入院する事になったんだ。今日ね、パパの様子を見たら一度そっちに戻るから――――」

『パパ……おはなし、できる?』

「っ……まだね、解んないの。でもね大丈夫だよ。お薬で元気になるからね。お話し出来そうだったら電話するからちゃんと持っててね?」

『うん…………グスッ』


 アステルがちょっと泣いてしまっているようだ。


『ママ、かえってこなくていいよ』

「イオ? 置いて行ったから……怒ってる?」

『ううん。パパのそば、いてあげるの。パパさみしんぼなの。ぼくたちね、だいじょうぶだよ。みんなね、やさしいから、だいじょうぶ!』

『うん! だいじょうぶだよママ! アステルとイオ、ちゃんとなかよしでまってる! ママはパパのとこ!』


 優しい。子供達が我慢して、気を使ってくれる。甘えていいんだろうか……。


「ありがとう、二人とも。少し考えてみるね?」

『むー! もどってこなくていいのっ! ぼくたちだいじょうぶ!』

「うんうん! イオ、カッコイイ。男の子だね!」

『にゅふっ! うん!』

「アステル、近くにウォーレン様いる?」

『む、側にいるぞ!?』


 ウォーレン様も煩かった。まぁ、電話初体験だろうから仕方ない。

 アステルにスピーカーをやめてもらって二人だけで話す。

 

「取り敢えず、一命はとり留めました。意識の混濁等は数日で治まるそうです。ひとつお願いがあるんですが――――」


 ちょっと無理なお願いをしてみた。


『なっ……出来なくは無いが…………』

「詳細は後で説明します」

『む……解った。二人はどうするのだ?』

「そのままで大丈夫です。何も知らされてない風に見えると思いますんで」

『あと、ゴーゼル達はどうする』

「っ……報告は無しで」

『良いのか?』

「はい。よろしくお願いします」


 裏工作は苦手だけど、ちゃんとやらないと。絶対に捕まえるんだ。自分に言い聞かせた。

 電話を切り、スマホをかぁさんに返すと心配そうに見詰められた。


「ソレ、大丈夫なの?」

「うん。ちょっと国動かして盛大にやってみる。絶対に捕まえてやるの」

「奏多、報復は何も生まないよ?」

「…………ん。解ってる……解ってるの! でもね! 悔しい! 苦しい! うあぁぁぁぁぁ、死ねばいいのに! 誰なの!? 何で!? 負の感情でしか動けないっ、犯人見付けて殺したい! 全く同じようにしてやりたい!」


 かぁさんが柔らかく抱き締めてくれた。


「落ち着けバカ娘」

「だっでぇ……ムカつくよぉ!」

「はいはい。はらわた煮えくり返ってんだよね?」

「ヴーッ」

「吠えるなって。取り敢えずバウンティくんの様子を見に行こう? もしかしたら何か覚えてるかもじゃん?」

「うん、行く。とーさん、会社は?」


 ニコニコ笑いながら撫でられた。


「今日、明日で休み取ったよ。土日は休みだから、お付き合いしますよ、お嬢さん?」

「いひひっ。うん、ありがとう!」




 とーさんに運転してもらい病院に行く。バウンティはHCUという治療室にいるらしい。中に入ると患者さん達がカーテンで仕切られた病室に寝かされていた。

 バウンティを探すと布団を頭から被ってる人がいた。上の方から栗色のチュルチュルが見えるのでバウンティだろう。近寄って布団を剥いだ。


『……スウスウ』

「あれ、寝てる」

「今井奏多さんですね、おはようございます。バウンティさん担当看護師の佐藤と申します。バウンティさんですが、人の気配で眠れないとの事なので、睡眠導入薬を使わせていただきました」

「なるほど。いつ寝たか分かりますか?」

「二時間ほど前でしたよ」


 ならば入院に必要そうなものでも売店で買い揃えようと話していた。


「本日はお時間はありますか?」

「はい」

「お昼過ぎには主治医から説明が出来ると思いますので、良かったら、十二時辺りから、こちらの病室か待合室の所で待っていてもらえますか?」

「はい、分かりました」

「それじゃあ、買い物とお昼を食べてから戻って来ようか」

「うん」




 色々としている内にお昼になった。

 バウンティの病室に向かうとバウンティが起きていた。


「バウンティ!」

『カナ……タ…………怪我は、無い……か?』

「私は何もないよ! バウンティがボロボロなだけだよ!」

『ん…………ハァハァ』

「まだキツいよね? でも、もう大丈夫だからね! ここは安全だから!」

『ん。リュウタ、ソウコ…………ハァハァ、迷惑、掛けてすまない』

「奏多、通訳してくれるかい?」

「あっ、はい」


 不便すぎる。せめて何語を喋っているのか判るようになりたい。


「迷惑とか気にしなくていいよ。今は体を休めなさい」


 と、復唱していく。端から見たらアホっぽい。


「実物は思いの外デカイね! あと、やっぱ、顔が凶悪だわ! わははは!」


 その感想は今じゃないよかぁさん。流石に通訳はしないでおいたけど、何となく伝わっていたみたいでバウンティが力無く笑っていた。


「今井さーん、先生が来ましたんで、あちらの説明室にいいですか?」

「はい」


 バウンティが起き上がってついて来ようとしていた。


「バウンティさん! 動いたらダメですよ! 寝てて下さい」

『……どこに…………行くんだよ、ゲホゲホ……っ、置いてくな』

「バウンティ! すぐ戻るから、ベッドに寝る!」

『ハイ』


 シュンとしながら素直にベッドに横たわっていた。バウンティはこれでいい。説明室でお医者さんの話しを聞こう。




 ほんのちょこっと回復。

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