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77、搬送

 



 蜘蛛の毒を誰かに刺され、意識朦朧としたバウンティを助けるべく日本に連れて来た。


「失礼します。急患の方は…………日本語は通じますか?」

「多少は大丈夫です」

「お兄さん、お名前言えますか?」

『…………バ……ウンティ』

「バウンティさんですね、どこが痛いですか? 何があったか説明出来ますか?」

『ゼンシン、イタイ…………毒……刺、ゴホッゴハッ…………ハァ、刺された』

「……えっと、通訳出来ますか?」

「あっ、ごめんなさい! 全身が痛い、毒を注射器で刺されたそうです。たぶん蜘蛛の毒だそうです」

「バウンティさん、生年月日と年齢は言えますか?」

『し……らん……ウゲェェェッ、ハァハァ、三十四歳だ』

「すみません、孤児なので解らないそうです。おおよそ三十四歳です」

「あー……解りました。バウンティさん、今から病院に運びますね、ストレッチャーに乗せるから、少し動かしますね」

『……あぁ……ウグァッ』


 救急隊員の人が三人がかりでバウンティを動かす。


「痛いよね、ごめんなさいね、もうちょっとだけ動かしますね」

「すみません、患者さんのご家族さんですよね?」

「はい」

「○○救急医センターに搬送します。同乗されますか?」

「はいっ」


 救急隊員の人に付いて走る。バウンティを救急車に乗せた後、横に乗り込んだ。


「保険証か身分証明書はお持ちですか? 先に身分照会をしておきたいと病院から連絡が入っているのですが」

「すみません、何も無いので全額負担で構いません。私の両親が保証人としてついて来てます」

「分かりました、伝えておきますね」


 救急隊員さんと話しているとバウンティがまた吐いていた。


『ハァハァ…………カナタ……』

「いるよ! 大丈夫だよ! もうすぐ病院に着くからね?」

『ん……ウグッ…………』


 手をフラフラとさ迷わせていたので握る。


「バウンティさん、どのくらい吐いたか解るかなぁ?」

『ハイタ…………イッパイ』

「すみません、どのくらい吐いていたとか解りますか?」

「見付けた時にはほとんど胃液ばっかりで、十回近くは」

「バウンティさん、夜ご飯は食べました? 何時に食べたか覚えてますか?」

『ウゲェェェ…………ハァハァ。ロクジ』

「六時ですね」


 そんな確認作業をしていると病院に着いた。


「先に降りられて待合室でお待ちください」

「あの、倒れてた近くで注射器を見付けたんですけど、お医者さんに渡したら解毒とかに役立ちますか?」

「そうですね、一応渡しておきますね」

「お願いします」


 バタバタと搬送されていく姿を見送った。

 緊急搬入口から入ると警備の人にバウンティの在留カード、ID、パスポート等何か無いかと聞かれた。


「すみません、何も無いんです。私の両親が保証人として支払い等必ずしますので……」

「あ、大丈夫ですよ。では解るところだけで構わないので患者さんの事を記入してもらえますか?」

「っ、はい」


 バインダーを渡され記入していく。名前、バウンティ。住所は今井家で。電話番号は私の。生年月日と年齢。持病、疾患歴、服薬、たぶん何も無い。身元引受人は私で良いのだろうか。緊急連絡先はかぁさんと、とーさんにお願いしよう。

 暫くして二人が到着したので連絡先の記入をお願いした。


「すみません、バウンティさんのご家族様は――――」

「はい!」


 看護師さんがバタバタと走って来た。何かあったのかと慌てて立ち上がる。


「申し訳無いんですが通訳をお願いしてもよろしいですか?」

「分かりました!」


 なぜか妙にそわそわした看護師さんについて走る。


「バウンティさん、ご家族さん来ましたよー」

『ガナダ…………ウグッ』

「何やってんの!」


 なぜか処置室の隅にパンツ一丁で丸まり、ハサミをこちらに向けて威嚇していた。

 

「意識の混濁があるようで……あっ、危ないので話しかけて――――」


 ――――ベチコン。


 お医者さんに止められかけたが気にせず近寄って、バウンティの頭を叩く。


「台の上に戻って! ハサミは返す!」

『ここ…………ハァハァ、どこ』

「病院だってば!」


 ちょっと遠ざかっていたお医者さんと看護婦さんに謝って運ぶのを手伝ってもらう。


「今から抗毒素を含む点滴をします。これは十五分程で終わりますが、血液検査をしてみて、また他の処置になるかもしれません」

「あの、何か手足がむくんでるんですけど。あと、赤いポツポツも」


 腰から広範囲に赤いポツポツが浮かび上がってきていた。お医者さんが話しながら点滴の準備をしてくれた。


「嘔吐、腹痛、むくみと発疹は数日で回復に向かうと思います。ただ、痙攣や肌を触れられると痛かったり、興奮したり脱力したりという症状が数ヵ月続く場合もあります」

「……死なないですよね?」

「ハッキリと毒素の成分が解った訳では無いので何とも言えませんが、抗毒素が効けば一先ず安心して良いと思います」

「っ、はい! ありがとうございます」


 バウンティはちょっと騒いで疲れたのか、診察台の上で横になりぐったりとしている。未だにヒューヒューと息苦しそうではあるが、それも点滴で改善されるだろうとの事だった。


「今日は一日こちらで様子を見て、抗毒素が効いたようであれば一般病棟に移します。後程看護師が説明に参りますので、待合室で暫くお待ちいただけますか? あと、英語等通じなかったのですが、どちらのお国でしょうか?」


 やっぱり英語じゃ無いのか。どちらのお国とか知らない。


「すみません、ほぼほぼ知られてない言葉なんです。翻訳サイトとかも使えません。ただ、ゆっくり簡単な言葉で話すと伝わりますんで。あと、ちょっと言い聞かせます」

「え、あ、はい……」


 右腕を目の上に置いて辛そうに息をするバウンティの頭を撫でると、右腕を退かし潤んだ瞳でこちらを見てくれた。


「泣いてるの?」

『っ……泣いて…………ない。ゲホッ』

「今日はね、入院だって。明日以降は様子を見るって。私達は手続きしたら帰るけど、寂しくても、怖くても、暴れたら駄目だからね?」

『ん』

「診察とか注射とかされるけど、ちゃんとお医者さんと看護師さんの言う事聞いてね? お薬とか渡されたらちゃんと飲むんだよ? ここは絶体安全な場所だから。ね? 出来る?」

『ん……ハァハァ、置いて…………行くなょ……』

「っ……大丈夫。もう大丈夫だから。明日……てか、もう今日だけど、あっちの処理したら、ちゃんと来るから。ね?」

『ん』


 小声で話した。どう足掻いても私は日本語なのでそれしか方法が無い。


「すみません、お待たせしました。さっきみたいな事はもう無いと思います。どうしても駄目そうだったら母の番号に電話して下さい」

「分かりました」


 お医者さんと看護師さんにお礼を言って待合室に戻る。


「奏多! どうだった!?」

「抗毒素? とかいうの打ってもらった。取り敢えず死にはしないって。入院の説明とかがあるからちょっと待っててって。……警察呼ばれるよね?」

「んー、大丈夫じゃないかな。医師には秘匿義務があるからね。コレは通報の義務には入らないだろうし。もし、蜘蛛の毒じゃなくて何かもっと危ない物とかだったら解らないけど……」


 取り敢えず、警察沙汰の可能性は低い。後は治療費と入院費の問題だ。


「お金、足りるかな?」

「手術とかはしてないからね。大丈夫だよ」


 ――――スカァァ。


「夜中に本当にごめんね。かぁさん寝ちゃったね」

「いやー、奏子さん、夜中までテレビ見てたから。そのせいだと思うよ?」

「なんだ。またバラエティ?」

「いや、映画の再放送」

「再放送って……録画すればいいのに」


 他愛もない会話をしていると看護師さんが書類を持ってやって来た。

 入院の説明、治療の同意などの書類、また意識混濁した場合の拘束許可の書類、治療データの近隣病院との共有化についての書類、病着レンタルの書類、オムツ利用の書類、入院時に使う物のリスト、そして身元保証人の問題で色んな同意書。大量に書類を渡された。

 通常の入院病棟に移れる時は個室でとお願いした。理由として他人の気配で一睡もしないと言ったらオーケーが出た。


「ぐはっ、頭パンクしそ」

「早急にいるのはこちらだけなので、他のはゆっくり読まれてサインしてもらって大丈夫ですよ」

「分かりました」


 取り敢えず急ぎの物にだけサインした。


「それから、お薬が効き出したみたいで少し眠そうにしてはありますが、会っていかれますか?」

「いえ、寝そうなら寝かせて下さい。あと、吐くから水を飲まないとかアホみたいな事言って、脱水状態になった事があったんで、無理矢理飲ませて下さい。『カナタが飲めって言った』って言えば真面目に飲むと思います。なんなら『カナタの許可がある』で全部大丈夫です」

「あははっ、ごめんなさい。信頼されてるんですね」

「むーん。微妙です」


 ちょいちょい色んな事を疑われるしなぁ。そこは微妙なのだ。

 書類をまとめて、取り敢えず家に帰る事にした。




 野生児バウンティ。調教師カナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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