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76、大丈夫だよ。

 



 ――――バウンティ。


 バウンティに飛びたい。苦しそうな声が耳から離れない。目を瞑ってバウンティを思い浮かべる。


 ――――トスッ。


 目を開けたが、真っ暗闇で何も見えない。だけど、何かには跨がっている。


「バウンティ!? バウンティ!」


 スマホを出してライトを点ける。バウンティの顔色が何か変だ。そしてビクビクと細かく痙攣している。辺りには吐いた物が飛び散っていた。


「っ……うっ…………ウ、ゴホッ……カナタ?」

「バウンティ、迎えに来たよ?」

「カナ……タ、なん……で来た…………こど、も……」

「二人は大丈夫! ごめん、今から王城に飛ぶから。物凄く気持ち悪くなると思う。無理させてごめんね。行くよ?」

「……ん」


 バウンティをギュッと抱き締め飛ぼうとした瞬間、目の端で何かがキラリと光った。視線を向けると割れた注射器だった。慌ててポシェットからハンカチを出し注射器を包む。明らかにこれが凶器だろう。調べれば何の毒か解るかもしれない。

 もう一度バウンティを抱き締め直し、王城の先日借りた部屋を思い浮かべる。


 ――――ドサドサッ。


 飛べた。何でか知らないけど、いつの間にか飛べるようになっている。実家に戻ったのがスイッチだったとか?


「ウゲェェェ……ウグッ……ゴハッ、ハァハァハァ」

「バウンティ、ごめんね、ごめん。大丈夫じゃないよね……」

「……大丈夫…………だ。……泣く、な…………ウグッ……」


 バウンティがベッドの上で丸くなって震えている。こんなに弱ったバウンティなんて見た事ない。いつの間にか流れていた涙を拭いながら部屋から出る。

 廊下の先の方から騎士さんが走って来ているのが見えた。


「すみません、ウォーレン様に言われて――――」

「伺ってます! もうすぐ医師も来られます。何か必要なものはありますか!?」

「物凄く吐いてるので、お水とバケツか桶をお願いします。あと、タオルも!」

「畏まりました!」


 騎士さんが踵を返して廊下の奥に消えていった。

 部屋に戻りバウンティの汚れた服を脱がせた。取り敢えずその服で顔を拭いた。


「もうすぐお医者さんも来てくれるって、大丈夫だよ。きっと、大丈夫。解毒剤もすぐ見付かるからね! 大丈夫!」


 意識が朦朧としているバウンティのおでこを撫でる。熱い。あり得ないくらい熱い。一体何の毒を刺されたんだろうか。解毒剤……あるんだろうか。

 大丈夫と呟きながらバウンティを撫で続けた。


 ――――ガチャッ。


「お待たせしました!」


 二人の騎士さんが色々と持って来てくれた。


「ありがとうございます……っ、ありがとう」


 受け取りながらお礼を言ったら、ボロボロと涙が流れ出てしまった。

 嗚咽を漏らしながらもなんとか説明してバウンティを抱えてもらい、ベッドから嘔吐で汚した布団を剥ぎ取る。


「っ、ぐあっ……やめろ! 触る……なっ! ウグッ……」


 バウンティがバタバタと力無く暴れている。


「バウンティ! 落ち着いて! 騎士さんだから、大丈夫だよ、落ち着いて!」

「カナ……タ? どこ? カナタっ!」

「いるよ! 目の前にいるよ?」


 バウンティがヒューヒューと息をしながら「何も、見え……ない。真っ暗」と言って意識を手放してしまった。

 

「…………失明?」

「っ、取り敢えず寝かせてあげましょう?」

「あ、はい。お願いします」


 バウンティをベッドに寝かせ、持って来てもらったタオルを濡らして顔を拭く。騎士さんの一人が「氷を持って来ます」と走って行ってくれた。


 ――――ガチャッ。


「お待たせいたしました」


 白衣を来た男性が入って来た。症状を聞かれたので私が見た限りで解った事を話した。


「……神経毒の類い…………嘔吐、高熱、痙攣、失明……」

「取り敢えず何かせぬか!」


 いつの間にか部屋に王様とウォーレン様がいた。ご迷惑お掛けしますと謝ると王様に頭を撫でられた。


「よく頑張ったな。怖かったであろう? シュトラウトの家には騎士を送った。子供達が起きたらこちらに連れて来るように言い付けておる」

「ヴッ……ありがどぉございばず……ズビビビッ」


 危ない。ギャン泣きしそうになった。

 バウンティの両脇に氷嚢を挟み、取り敢えず高熱対策をする。


「っ……ウグッ……」

「バウンティ!? 吐く?」


 怪しい音がしたので頭の横に桶を置くとそこに吐いてくれた。


「っ、ハァハァハァ。カナタ……痛い…………助け……て……カナ……タ」

「バウンティ! どこが痛いの!?」

「いた……い。カナタ…………」

「バウンティ様、失礼いたします!」


 お医者さんがバウンティを横に向け背中を見ていた。


「腰に何か刺された痕がありますね」

「あっ、割れた注射器が落ちてました」

「……それだけでは…………」


 どうやら残存している成分とかで調べられないらしい。出来ても何日も掛かるそうだ。


「ッグウゥゥ……触、るな…………」

「……もしや、触れられるだけで痛いのですか!?」

「ハァハァハァ……あぁ」

「目はどうですか? まだ見えませんか?」

「かすれ……っはぁ……てる…………くらい……吐く」


 吐いてはヒューヒューと苦しそうな息をする。見ているのが辛い。


「カナタ…………」


 バウンティが手を伸ばしてくる。握りたいけど握れない。触られるだけで痛いって、バウンティが痛いって言うから。


「手…………カナタ……て」

「痛いんでしょ? 駄目っ」

「ん、ハァハァハァ…………怖い、んだ」

「っ……大丈夫だよ! 大丈夫!」


 そっとバウンティの手を取ると、力無く握り返してきた。


「カナタ様、バウンティ様は蜘蛛の毒を注射器で刺されたようです。以前同じ症状を見ましたので間違いないと思います。治療ですが……」

「蜘蛛の毒……治療……解毒剤?」

「その……ありません」

「えっ、無いの?」

「その……研究段階ではあるのですが……」

「以前見た人は?」

「数日苦しまれ、全身が爛れたように腫れ……亡くなられました」

「っ…………」

 

 ――――死んじゃうの?


 そんなの許さない。置いて行くなんて許さない。


「すみません…………っ、必ず戻ります! 子供達をお願いしますっ! これ、子供達が使い方解るんで!」


 ――――日本に。家に! 飛んで!


 スマホを王様に渡して、力一杯バウンティを抱き締め願った。







******

******






 ――――ドフン。


 リビングのソファの上に落ちた。


『っ、ウグッ……』


 慌ててテーブルの上にあった菓子入れのボウルをひっくり返し、バウンティの口元に差し出す。間に合った。


『っ、ハァハァハァ……ここ…………』

「日本! 病院に運ぶから!」


 バタバタと両親の部屋に入る。交通事故後、寝室を一階に移動させたので階段を上がる手間が省けた。


「とーさん、かぁさん! 起きて!」


 バシバシと二人を叩く。


「……ダリャァァ! うっせぇぇよ!」

「ぅん…………奏子さん……煩い……」

「起きてって!」

「「奏多!?」」


 リビングに向かいながら端的に説明する。治療費が全額になるけど、多分警察沙汰になるけど、病院に連れて行きたい。


『ゲホッ…………リュウ……タ?』

「……これは……救急車呼ぼう。奏多は同乗しなさい。僕らは車で追いかけるよ」

「うん……ありがと……ごめん、迷惑ばっかりかけて」

「だーかーらー、何か知らないけど、蜘蛛の毒を注射されたんだって! 死にそうなんだよ! いや、自分でじゃないって。はぁ? 車に乗せれないんだって! さっさと出動しろっ!」


 かぁさんが電話でやんや言っている。とーさんが溜め息吐きながらスマホを取り上げていた。

 

「すみません、代わりました。……はい、意識が朦朧としています。触るだけで皮膚に痛みを感じ、嘔吐を繰り返しています。……はい、よろしくお願いします」


 ――――ピッ。


「すぐ来てくれるって」

「何で! アタシには自力で来いって言ったくせに!」

「はいはい。奏子さん、着替えて荷物用意して? 僕は玄関に出て救急車待ってるから」


 かぁさんがブチブチ言いながら着替えたりしていた。


「バウンティ、今から病院に行くからね」

『カナ…………ゥググググッ』


 急に硬直してビクビクと震え出した。怖い。バウンティの中で何が起こっているのか解らない。

 

 ――――ピーポーピーポー。


 救急車が近付いて来た音がする。きっと、きっと大丈夫だ。きっと助かる。バウンティの頭を撫でながら「大丈夫だよ」としか言えなかった。




 『大丈夫』と自分に言い聞かせていたカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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