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75、明日は。

 



 皆を見送った後はお風呂だ。


「俺と子供だけで入る」

「そー? じゃ私は荷物でも纏めておくよ」

「ん」


 何か知らないが荷物を片付ける時間をゲットした。

 先ずは子供達の明日の洋服を用意して、残りはトランクに詰め込む。入り口近くに荷物を置く。明日の朝寝間着を入れて閉じれば完璧だ。

 次は私達のだ。バウンティのスーツや私の服をたたんで詰め込む。新しく買った本は取り出しやすい場所に入れる。

 思いの外早く終わったので部屋のお風呂に入った。


「あれ、戻ってたの? 二人とももう寝た?」

「ん」


 お風呂から出るとバウンティがベッドに腰掛けていた。なぜがシャツを着ていない。風邪引くよと言うが頭をプルプル振るだけで返事をしない。


「ハァ。何?」

「……」


 どうしたのか聞くが無言で手招きするだけだった。仕方無いので近づくと、腰から抱き寄せられ胸に顔を埋めてくる。

 両手でバウンティの頭を掴み引き剥がそうとするが離れない。その間にシャツの裾からこそこそと手を入れだした。


「バウンティ!」

「っ……」

「怒るよ?」

「……もう怒ってんじゃねぇか。馬鹿っ」

「アステルが離れていきそうで、寂しくて怖くて、ちょっと悲しいのは解るけど……いや、同じ気持ちではないけど! 気が早いし、私とイチャついて紛らそうとしないでよ」

「……やだ。カナタ、温めてくれよ」


 バウンティが目を潤ませ息を乱しながら見上げてくる。ちょっとエロい。ヤバい。

 スススッと後ろに下がり子供の部屋に逃げようとしたが捕まってしまった。


「俺から逃げれる訳無いだろ?」


 バウンティがムスッとしながら進めようとする。この人は頭良いくせに、記憶力も良いくせに、目の前の誘惑に釣られて大切な事を忘れ去ってる気がする。


「バウンティ!」

「っ…………何だよ! またムードか!?」

「いや、生理中なんですけど」

「――――だあっ!! クソッ!」


 バウンティが顔を手で覆い、天を仰いだ。暫くその状態で静止していたが、ノソノソと動き出しシャツを着てズボンを穿き替えていた。


 ――――ガチャッ。


「…………走ってくる」


 ――――バタン。


 部屋を出てドアを閉める瞬間にそれだけ言っていなくなってしまった。走ってどうするのかどうなるのか良く解らないが、走りたいのだろう。本でも読んで待っていよう。





 ふと時間が気になって時計を見ると夜中の二時になっていた。新しい本に熱中しすぎた。本を片付けベッドに入る。

 明日は十時に海浜公園にあるらしい港から中型クルーザーに乗って出発だ。いつも通り起きて少しゆっくりしてから出発できる。

 バウンティは……まぁ、その内帰って来るだろうし放置でいいかなと思ったが、出て行ってから既に六時間経っている。何時まで走るつもりなんだろうか。


「ホーネストさん、バウンティの様子見て来てくれる? 何処にいるかだけでいいよ」

「わかった。行ってきまーす」


 十秒程でホーネストさんが帰って来た。


「カナタ、バウンティは海の上にいたよ?」

「……海の上? はい? どこの? 何してんの?」

「ええっとね、小さい木の船に乗って寝てたよ。王都から北東に二百キロの所。もうすぐアティーラの海域に入っちゃうかな」


 二百キロって……どのくらいなのかも解らない。木の小舟で大丈夫なのかとか、何考えてるの? とか、走るんじゃ無かったのかとか、どうでも良い事ばかりが頭を巡り、今何をすべきかとか、全く思い付かない。


「寝てるだけ? 流された? 何で船に? ……アティーラの海域? 大丈夫なの?」


 ホーネストさんにもう一度飛んでもらう事にした。


「バウンティに『何してるの? 帰って来れるの?』ってお願いします。呼び掛けて起こして、三十分しても起きないようなら伝言はキャンセルで帰って来て?」

「うん、行ってくるね」


 ホーネストさんが飛んで行った。色々と話を聞くうちに、精霊さんは細かく指定すればきちんとその通りに行動してくれると解った。行動をプログラムするような感じが一番近い気がする。

 

「ただいま」


 十五分経った頃ホーネストさんが戻って来た。


「バウンティから『カ……ナタ、ごめ…………毒……刺さ、れた…………っ、ウゲェェェ…………ごはっ……ラルフ……送る…………』って言って気絶した」

「…………解った」


 取り敢えず王城に行こう。

 バタバタと着替えて、メイドさん達とフリードさんの部屋の戸を殴り叩く。


 ――――ダンダンダン!


「……はいっ。すぐ参ります」


 ヨタヨタと一人のメイドさんが起きて来てくれた。


「夜中にごめんなさい! バウンティが……っ……」


 ――――パァァン! 


 涙が出そうだった。慌てて両頬を叩いて痛みで気を保つ。


「カナタ様?」

「ん、ごめん。バウンティがランニング中に襲われたっぽくてね、毒刺されて、海の上漂流してるらしいの」

「っ、えっ……」

「今からウォーレン様に相談しに行ってくるから、子供達お願いして良いかな? 朝までは起きないと思うけど…………っ、何があるか解らないから。騎士団の人に護衛もお願いしてみるね。取り敢えず、私が出たら皆で戸締まり確認してくれる? なるべく一人にならないようにしてね?」

「畏まりました。カナタ様にはフリードを付き添わせます」

「フリードさんはこっちでお願い。私は大丈夫だから! ごめん、出るね!」

「カナタさ――――」


 スマホとウォレットポシェットを掴みシュトラウト邸を出る。

 全力で走った。一瞬でも一秒でも早く王城に付きたい。


 ――――王城に! 早くっ!


 そう思った瞬間、王城の門の前にドサッと尻餅ついていた。


「……飛んだ?」


 意味が解らない。何で飛べたんだろう。強く思ったからだろうか? 強く思えば他の所にも飛べる? 人にも飛べる?


 ――――ウォーレン様に!


 ぎゅっと目をつぶってウォーレン様に飛びたいと思った。次の瞬間には股の下が温かくなっていた。最悪だ。このシステム物凄く最悪すぎる。

 恐る恐る目を開けると、素っ裸のウォーレン様とサーシャ様。

 そして、素っ裸のウォーレン様に跨がる私。


「うわぁぁぁぁ!」

「ごめんなさい!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ごめんなさい!」


 ――――バァァン。


「どうされました!?」

「いやぁぁぁぁ!」

「っ、ごめんなさぁぁい!」


 騒然とした。


「騎士さん、取り敢えず外に出て!」

「しかし!」

「出ろっ!」


 ウォーレン様が怒鳴って騎士さんを外に出した。

 サーシャ様は慌ててシーツで体を覆っていた。

 

「カナタ、取り敢えず下りてくれ」

「ひぃぃっ、ごめんなさい!」


 慌てて素っ裸のウォーレン様から下りる。ウォーレン様は慌ててパンツを穿いていた。


「…………妻の横で……浮気でございますか!? 先程のでは物足りなかったったと!?」

「何の話だ!?」

「サーシャ様っ、違います! 違いますから!」

「何が違うんですのっ……ウォーレン様に股がって……っ」

「ちょ、良く見てくださいよ! 私ズボン穿いてますって!」


 何の説明なんだ。はたと正気に戻った。

 バウンティの現状を説明し、ウォーレン様に助けを求めたいと思ったら飛んでいたと話した。


「すみません。本当にすみません、こんな事になるとは……」

「取り敢えず、陛下に報告して捜索隊を――――」

「それより毒物に詳しいお医者さんをお願い出来ますか? たぶん、バウンティ掴んで飛んで戻って来れると思うので」

「しかし、普通の人間は転移に耐えられぬのでは無かったか?」

「毒の時間経過とか考えると、転移酔いの方がまし!」


 髭の人は泡吹くくらいだったし。死にはしない。毒は死ぬかもしれないし、後遺症が出るかもしれない。だから飛ぶ。


「サーシャ様、本当にすみません! もう行きます」

「カナタ、気を付けて!」

「カナタ! 前日寝ていた部屋は解るか? そこに戻れるのであればそこにバウンティを寝かせておけ!」

「解りました! ありがとうございます!」


 さぁ、飛ぼう。助けよう。きっと待っている。


 ――――バウンティ。




 テンパるカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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