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7、アステルと。

 



 バウンティのご褒美期間が終り、シュトラウト邸にアステルとイオを迎えに行った。


「「ママー! パパ!」」

「お待たせー」

「あら、もう来たの?」

「ゴーゼルさん、カリメアさん、ありがとうございました」

「ええんじゃよー。楽しかったのぉ!」

「うん! グランパ、またあそぼうね!」


 ――――何したんだろう? 後で聞こう。


 シュトラウト邸を後にし、バウンティとイオはラセット亭に。私とアステルは家でラブラブする為に別れた。

 別れ際、イオがちょっとグズったが、次は自分の番だと分かるとニコニコして手を振って「マシュとあそぶ」と言い、バウンティと行ってしまった。


「あれぇ? もっとグズってくれても良くない?」

「いーから! おうち、はいろうよー」

「あ、うーん」


 家に入りアステルに何をしたいか聞くと、いつも私とバウンティがしているように、リビングのソファに座ってラブラブしたいそうだ。


「ほんじゃ、飲み物とクッキーも用意しよう!」

「おー!」


 ソファのサイドテーブルに置き、だらだらラブラブする。


「昨日と今日は何してたの?」

「あのね、きのうはグランパとこうえんで、パパとしたのとおんなじ、おにごっこしたー! グランパはね、一ぷんちょっとかかったけどね、とおくからはしってくるのがすごく……うわーって……どーんってかんじだったの!」


 うわー、どーん?


「迫力があった?」

「はくりょく! うん!」


 確かに、ゴーゼルさんの感じで全速力で走って来られたら結構圧がすごいだろうな。


「おやつはね、グランマとね、クッキーつくったの!」

「むあー! カリメアさんのクッキー美味しいよねー。サックサクだよねぇ」

「うん! おいしかったよぉ」


 楽しく過ごせていたようで良かった。アステルの頭を撫でる。ニコニコと私を見るので何かと聞くと、少し焦ったように話しだした。


「あのね、あのね、ママとねいっぱいね、おはなししたかったんだよ?」

「うん、ごめんね。私が歌ってるムービーなんて見ちゃったら辛くなるよね?」

「……うん。ごめんなさい」

「ん? どうしたの?」

「かってに、さわっちゃダメっていわれてたのに、いろんなしゃしんみたくてさわってたの」

「あら? アステルがさわってたの?」


 ――――バウンティはアステルを庇ってたのか。無駄に可愛いな。


「うん。パパがあわててとりあげようとしてたらね、ママのおうた、ながれてね……わたしね、おぼえてたんだよ! ちっちゃいころにね、いっぱいきいたの、おぼえてたの」

「うん、覚えててくれてありがと」

「イオにね……わたしはうたってもらったって、イオよりとくべつだもんって……イオいじめたの。わるいおねーちゃんなの」


 あまりにも可愛くて頬にキスして抱き締める。


「うんうん。アステルはね特別な子だよ! 私とバウンティがね、ずっとずーっと待ち望んで、産まれてきてくれた、大切な子だよ! もちろん、イオもとっても大切で特別な子なんだよ? アステルの方が少し長く私達から愛されてるよね? その分、アステルがイオを愛してくれると、ママは嬉しいな」

「うん。イオもねたいせつ。ちょっとウザいときもあるけど」


 ――――むふふ。ウザいのか。


 子供達に自我が芽生えて好き嫌いが出来て、育っていく。とても楽しい。全てが愛しい。


「アステルはいいなぁ。ママには兄弟がいないから。パパにはね妹がいたんだよ。ちっちゃい頃にお空にサヨナラしちゃったけど、とっても可愛がってたんだよ。アステルが産まれて来た時ね、パパが妹にそっくりだって、可愛いって泣いてたんだよ?」

「ほんと? パパないたの?」

「うん。パパね、実は泣き虫なんだよー! あははは。内緒だからね? バレたらママ怒られちゃう」

「うん、ないしょー! あ、でもね、きのうのあさね、パパ、わたしにママそっくりってキスしてくれたよ?」


 ――――おぉ? 昨日の朝はテンションアゲアゲだったからなぁ。


「そっかー。似てるのかな?」

「はなしかた? そっくりだってー」


 ――――ん? 幼児レベルと言われたって事なのかな? 要確認だな。


 その後もいっぱいアステルとお喋りした。




「はーい、お客さん、かゆい所はございませんかぁ?」

「ないでーす!」

「では、流しますよ。目を瞑って下さい」

「はーい」


 お風呂で髪の毛を洗ってあげる。


「アステルの髪の毛は私と一緒でふにゃふにゃだねぇ。ちょっとヘラちゃん思い出すなぁ。元気かなぁ……」

「ヘラちゃんっておひめさま?」

「そう。アティーラのお姫様」


 『元』だけど、子供にはまだ難しいだろうな。背は伸びただろうか。前にホーネストさん経由でお話しした時はヨウジくんを抜いたって笑ってたけど。


「アステルと同じエメラルドグリーンの瞳でね、髪の毛もエメラルドグリーンなんだよ?」

「そうなの!? みてみたい! きれい?」

「うん。とっても可愛い子だったよ。いつか会えるといいね?」

「うん!」


 お風呂から上がり体を拭いているとアステルが不安そうに聞いてきた。


「ママ、あのね、今日は一緒のベッドで寝てもいいの?」

「ふぐぅ……良いに決まってるではないかぁぁ!」


 ギッチリ抱き締めて頬擦りしていると、アステルに押し退けられてしまった。


「もー! またぬねた! しつこい!」


 ――――あ、これか。

 私がよくバウンティに言う感じだ。確かに似ているのかな。ちょっと嬉しい。


 ベッドに二人で入り、眠くなるまでお喋りした。

 明日はバウンティの仕事が知りたいそうなので賞金稼ぎ協会に連れて行く事になった。




 ――――チュッ。


「おはよう、アステル」


 子供には流石におでこにキスで起こす。唇を奪ったら可哀想だ。バウンティが奪ってた気がしなくもないがノーカン! 本人の知らない内はカウントしない!


「んー……おはよ……ママ」

「はい、おはよう」


 朝御飯を食べてからのんびり歩いて役場に向かう。

 階段を上りつつ話す。


「賞金稼ぎ協会は四階なんだよ」

「四? 四はゼペットのいるとこ?」

「そうだよ。ゼペットさんは色々……色々偉いの!」

「グランパより?」


 失礼ながら、ゴーゼルさんより見た感じ仕事してるんだよね。


「うん!」

「カナタ様! どんな嘘を教え込んでいるんですか!」


 急に後ろから怒鳴られた。


「おわっ、ランタークさん」

「あー! ランターク!」


 ランタークさんがゴーゼルさんの偉さをこんこんと話してくれたが、いまいち伝わってこない。


「ランターク、よくわかんないよー?」

「えぇっ? カナタ様までそんなお顔…………すみません、六階に出勤します……」


 勝手に凹んで走り去ってしまった。まぁ、放置でいいだろう。

 賞金稼ぎ協会に入るとゼペットさんがいたので挨拶する。


「おっはよーございます、ゼペットさん」

「カナタ様! っ……いつも通りですね?」

「えへへ。はい!」

「ゼペットー。ゼペットって偉いの?」


 ――――本人に聞くな。


「先程の会話ですね、聞こえてましたよ。ゴーゼル様のほうが随分と偉いお方なんですよ?」

「えー、じゃあ、パパとゼペットは?」

「そんなん、ゼペットさんだよ! 働いてるんだから!」


 ――――無職二人より偉い!


「カナタ様はもー。信じてしまいますよ!」

「あはは。あ、今日はね、バウンティのお仕事がどんなのか教えに来たんです」

「おや、そうだったのですね。でも、流石にお子様には刺激が……」

「まぁ、なんとかなるでしょう!」


 ゼペットさんが不安そうにオロオロしていたが無視! 大丈夫!


「アステル、先ずね、賞金稼ぎに登録したら、こういう指輪がもらえるの」

「ママとパパといっしょ?」

「ううん。ここの石が黒いのが最初だよ。偉くなったらどんどんと違う石になるの。一番偉いのが透明な色の石だよ」

「ママ、いちばんえらいの?」

「これはね、パパと指輪を交換してるから、パパのだよ」

「パパのはむらさきだから、ママがむらさき?」

「そうそう」


 気が付いたら、色んな収入がプレートに振り込まれていて紫石になっていた。

 私は本当に何もしていないので、プレートの中を確認するのが非常に怖い。確認してしまったら、何か色々返さないといけないんじゃと不安になりそうだ。


「それでね、ここの壁に紙があるでしょ? これに依頼が書いてあるんだよ?」

「どんなのー? よんで!」

「はい、畏まりましたぁ」


 アステルを抱き上げて、ボードの前に立つ。丁度、ボードの貼り替えの時間らしく今日は賞金稼ぎで混んでいた。


 ――――そういえば朝から来た事無かったなぁ。


「お、男爵家のお堀のお掃除だって。これをやったら金貨十枚だってよ? 凄く大変なんだろうねぇ」

「おほり?」

「うーん。溝的な?」

「ふーん。ほかはー?」

「ん、外町の商店に強盗、お金を盗みに入った人がいるんだって。止めようとした周りの人がたくさん怪我したんだって、だから捕まえて下さいって。白金貨二枚? 多いなぁ。怪我が酷かったのかな?」

「はっきんかは、きんかのうえ!」

「そーだよ。よく覚えてるね!」


 ――――チッ。


「おい、俺達はなぁ、真剣に仕事探しに来てんだよ! ガキがガキ連れて最前列でうろちょろするな! 邪魔だ!」

「あらー、ごめんなさい」


 ご機嫌ナナメなお兄さんに怒鳴られた。辺りを見たら結構な人だかりが出来ていた。

 こんなに賞金稼ぎっていたんだなぁとしみじみと思いつつ、ご機嫌ナナメなお兄さんに場所を譲ろうとした。


「アステルたちがはやくきてた! じゅんばんまもってたぁ! おじさんズルい!」

「アステルさんや、ギリギリお兄さんだと思うんですよ?」

「あぁ? そこじゃねぇだろ! 邪魔だ、退けっつってんだよ!」


 ザワザワとしていた協会内がシーンと静まりかえってしまった。


「あー、うん。ごめんなさい、私達は探しては無いので――――」

「やーだー! アステルわるくない! ママもわるくない! どかないーっ」

「おぉう。アステル、ぶっちゃけ私もね、そうは思うんですよぉ? だけどね、お兄さんは必死に、自分に出来る仕事を探してるじゃない? 譲ってあげる優しさを持とうね?」

「っ……ガキが! バカにしてんのかぁぁ!」


 完全に火に油だったようだ。ご機嫌ナナメのお兄さんが、顔を真っ赤にして叫んでいる。


「うははは! カナタちゃん、辛辣だー。つか、怖くないの?」

「ん? アダムさん? え、こっちにいたんですが? また無人島かと思ってた」

「いや、どれだけ俺を飛ばしたいの?」

「いや、ゴーゼルさんがバウンティが働かないから、アダムさんに行かせようってちょっと前に依頼書見ながら笑ってましたよ?」


 以前、何かの用で六階の執務室に行ったら、依頼をノリだけで振り分けている最中だった。


「アダムー! ひげー!」

「髭はパパのを引っ張りなさい。じゃあ、今日の呼び出しはソレかぁ。逃げたいなぁ……」

「パパのひげはサヨナラしたー!」


 ――――うん。剃られた。思い出させないでおくれ。


「あ、また剃ったんだ? 嫌なのに何で生やすんだろうアイツ」


 ――――チョロいから。


「……あの、アダム様、そちらのガキ共はお知り合いだったんすか? 依頼人とか?」


 先程のご機嫌ナナメなお兄さんがそわそわして話し掛けて来た。何だか小さくなっているような気がしなくもない。

 そして周りにギュウギュウにいたはずの賞金稼ぎの人達が妙に離れて立ってこちらを見ていた。


「ぶふっ。お前のさー、そういう強気なところ好きだよ? まぁ、カナタちゃんレアキャラだしな。知らないヤツも多いだろうな」

「私、レアキャラなんですか……」

「れあきゃら、ってなにー?」

「あーっとねぇ……珍しい生き物?」

「ぶふふふ。やっぱカナタちゃんは面白い。バウンティのせいで変な耐性付いてるし?」


 何の耐性なのかと思ったら、どうやらお兄さんは怖い顔の部類らしい。なるほど、とは思うがウチの魔王よりは可愛らしい。


「お前らー、覚えとけぇ。このちびっこいのはバウンティの嫁だ! 透明石への昇格を断った謎のおバカさんだ!」

「ちびっこいの言うな! あと、曝さないでくださいよぉ。平和に生きてるですから!」


 周りの人達が一瞬ザワ付いたが、一瞬で静まり返ってしまった。そして、更に距離を取られた。


「アダムさん! もー! 引かれちゃったじゃん!」

「カナタちゃん、名声は上手に使いな? 絡まれなくてすむよ?」

「一般に紛れてふわふわ過ごしたいんですっ!」

「ママ、ママ! ママもえらいの?」

「いえー、ママは無職ですよー。お兄さんの方が幾分か偉いと思うよ? 翡翠石だし、お仕事凄く頑張ってる人だよ」


 アダムさんは爆笑してしまっているが、無視!


「本当にすみません。あの、処罰は……」

「いやいや、何でみんなそんなに処罰を求めるの? 無い無い!」

「いえ、協会内で他の賞金稼ぎに一方的にケンカを仕掛けた。という事例に当たります。一ヵ月、賞金三割カットです」

「ゼペットさぁん、ほら、私って賞金稼ぎに見えないし!」

「だとしても、依頼人にケンカを仕掛けたら五割カットですが?」


 ――――マジか! 知らなかった。


「……お兄さん、ごめんなさい」

「いや、あの、申し訳ありませんでした!」


 物凄い大声で謝られた。鼓膜がビィーンと震えた。

 

「ま、って、感じでパパはお仕事してます!」

「いや、無理あるでしょ!」


 アダムさんに盛大に突っ込まれたが無視!

 アステルとのラブラブに戻ろう。




 無職な気分なのに収入は増えるので、怖くてプレートを確認してないカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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