66、ちょっと学んだ。
ダニエレくんと地位の話で意気投合した。
ダニエレくんは地位の制度について批判的な意見を言える場が無かったそうだ。私も今まで思っていた事を言える良い機会だ。いや、しょっちゅう言ってるけど。
「大体さー、収入が多かったら偉いのもだけど、貴族が偉いの? 意味解んなくない? 私の中で偉いと思うのは農家の人だよ! あと、お医者さんも!」
「お医者様は解るけど、農家が解らないわ。説明して頂戴?」
「エズメリーダさん、農家の人が丹精込めてお米や麦やお野菜を作ってくれてるんですよ。酪農家の人が色んな動物を病気にならないように注意しながら育ててくれてるんですよ? それを食べさせてもらってるんですよ?」
「それが仕事でしょ?」
仕事だと言っても大変だ。苗を植えて収穫まで毎日毎日休み無しだ。そして、稲刈りなどは機械でしているとはいえ、野菜は手作業で収穫している。絶対に腰が痛い。あと、頭に血が上りそう。
そして、何より食べれる事が有り難い。
「エズメリーダさんは王族なんで、毒味されてましたけど……。私達って料理を出されたら、何の疑いもなく当たり前に食べて『美味しい』って思うでしょ? それって、農家の人に全幅の信頼と期待を寄せてるんですよ? ちゃんと美味しく食べれる物を作ってるって。そして、裏切られる事なんて無いでしょ?」
天災とか諸々は別として。きちんといつも食べれる。毒なんて疑わない。害があるとか一切考えない。絶対的な信頼だ。
「そうね。そう考えると、とても有り難いわね。農家の仕事を見てみたいわ! カナタはあるの?」
――――テレビとかで。
「あります。頭が上がらないくらい凄く大変な仕事だと思います」
小学校の時にお米の苗を植えて収穫するまでの体験学習もした。私達は植えて刈るだけだったけど、それでも大変さは理解出来た。
それ以来、お米が大好きだ。いや、パンも好きだけど。ご飯、全部好きだけど!
「お前はいっつも食い物に感動してるもんなぁ」
「うん。食べれるって有り難い。お残し許さない!」
「……カナタは豪華な食べ物が好きなのか?」
ダニエレくんが目付きを鋭くして聞いてきた。
「へ? 別に?」
「家でさっき食べたのはどう思う? 最近、毎食ああなんだよ」
「豪華絢爛だなぁと思ったよ。あ、すんごく美味しかったよ? 毎食なんだ……」
「王族やカナタ達は、いつもああいうの食べてるのか?」
王族は知らないけど、私達家族は違うと思う。
「俺達のはカナタが作ってるから、たぶんお前達は見た事無い料理ばかりだと思う。が、食費で言うとビックリするくらい安いと思うぞ。師匠達は簡易のコース料理が多いが、今日の昼食みたいなのはパーティーか、よほどの事じゃないと食べないと思うが?」
「では、船でご一緒した時のお食事は?」
ミラさんがキョトンとしている。
「あれは、一等客室の飯だからだろ?」
「あ! あのレベルのを毎日食べてるって思ってたんですか?」
「ええ」
「あら、私はそうですけど?」
「あ、エズメリーダさんはマイノリティなんで、お口にチャック!」
「解ってるわよ! お義父様、お義母様、私の地位はお忘れ下さいと申しましたでしょ? 私、下町の食べ物がとても好きになったんですよ? カレーのお店は父も兄もお忍びで食べに行ったそうですわ。それからホットドッグ、甘い物はかき氷が好きになりましたわ!」
「王都でもかき氷出てるんだ?」
「ええ、貴女……把握してないの?」
「真似するの簡単なんで。勝手に広まったんでしょうね」
氷削ってソースかけるだけだしね。
「えっ、カナタ様の開発なんですか?」
「と言うと微妙な感じです……」
「ハミルトン開発かな?」
「だね。私、『食べたい』しか言ってないし」
それよりも気になる。
「王様達、カンさんのお店に行ってるの?」
「えぇ、最近は貴族のお客が増えたからとかで、出前を頼んでいるらしいわ。ウォーレンお兄様がカンから『気軽に来すぎです! 出前しますから!』って怒られたって言ってたわよ」
強いなカンさん。そしてそんな話は聞いた事無かった。口も固いのか。お忍びには持ってこいのお店のようだ。
「あのカレーの店は素晴らしいですね。以前の佇まいの頃は入り辛かったのですが、改装されてからは貴族も良く出向いているようですね。腰の調子が良くなったら、また行きたいものです」
腰痛であの行列は辛いだろうね。って、あら?
「下町にあるお店に入る忌避感的なものは無いんですか?」
「先程も言いましたように、以前の見掛けでは流石に。ですが、ここも下町に近いですし、忌避感は殆どありませんよ」
「って、事は……ハブリエルさんは特殊なのかな? 下町のご飯は貧乏臭がして嫌だって言ってたけど」
「へぇ、何かイメージ違うな」
ダニエレくんが新聞の特集など読んだ限りでは、地位には拘らず使用人達と親密なイメージなんだそうな。ダミアンさんやミラさんも同じらしい。
エズメリーダさんだけは少し違った。
「まぁ、金銭に余裕があるのでしょう。イメージ戦略は大切ですわ」
「ほらな、やっぱりプロパガンダだって」
「いやいや、ご飯だけかもよ? そんなバレバレな事しないでしよ?」
「あら、バウンティ様の記事も似たようなのがあったわよ?」
「へ?」
バウンティが紫石に上がった頃『大型ルーキー』として新聞に取り上げられていたらしい。
生まれや、経歴、今まで携わった事件など。結構出鱈目な記事が多かったそうだ。
「確か『シャイなエメラルドの美青年。無邪気な笑顔は誰の手に!』と、見出しが付いていたのが忘れられませんわ」
――――無邪気な笑顔かぁ。可愛いよね。
「全く笑わないのに、なんと無茶な。とこちらが笑ってしまいましたわ」
「あー、師匠も爆笑してた」
「それから、写真の掲載もかなりされましたわね」
「ん、両親だ、母だ、父だと色々現れて面倒だったな。あと、顔バレして潜入系が難しくなった」
「もしかして、そうやって言い寄られるのに疲れてるのかもね? そんな感じの事言ってたし」
ハブリエルの好物だ何だと。
まぁ、それは置いておいて。
「もし、無理されて豪華な食事にされてるのなら、話し合ってランク落とされたらどうですか?」
「私からもお願いいたしますわ、いつものお食事や下町のお食事を教えて下さいまし」
「エズメリーダ様がそう仰られるなら……」
「お義母様、また『様』が付いてますわ」
「あぁー、もう! 慣れないわ!」
ミラさんが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていた。皆クスクスと笑っている。忌憚なく意見も述べ合っているし、家族仲良くやっているようだ。
ギスギスしているのかと一瞬思ったが、それぞれに気を使い過ぎているだけのようだった。
料理の話しなどをしているとアステルが起きて来た。
「パパ、だっこ」
「ん」
アステルがバウンティに抱き着いて微睡んでいる。バウンティは少し汗ばんだアステルのおでこを手で拭ってあげていた。
「うふふ。バウンティ様は本当に柔らかくなられましたわね」
「ん。お前もな」
「ふふっ。ダニエレとカナタのおかげですわ」
エズメリーダさんの笑顔が光輝いて見える。なんか美しい。
「そう言えば、エズメリーダさんはお料理とかした事無いんだっけ? あ、ミラさんも?」
「無いわよ」
「ありませんわ」
「もしかして、貴族の人って全くしないんですか?」
「ええ、カリメア様が製菓されると聞いて凄く驚いたくらいですわ。シルバーの中には稀にいらっしゃいますけど……。その、シェフやメイドを雇えないのかと陰で言われますわ」
そうなんだ。ご飯作るの楽しいのにね? バウンティもお手伝い好きだし。邪魔してくるけど。
「なるほど。今までこういう風にちゃんと聞いた事無かったから勉強になります」
「いえ、でも……カナタ様から聞かれたりして思い返しますと、貴族の者達は、他を受け入れる幅を持ち合わせていないような気がいたしますわ。もちろん私も含め。ですが、繋がりは強いのですよ? 一族や親族はとても大切にしますし、支援だって致しますわ」
「まぁ、ソレで家計を逼迫させないでもらえると助かるんだけどな?」
おぅ。それは、あかんですよ。支援ってのは気持ちなのだから。自分の首を絞めたら駄目だ。
まぁ、私がそこまでの口出しは禁物だろうけど。
「ダニエレの言いたい事も解るのよ? でもね――――」
「こらこら、お客様の前で。親子喧嘩は後でしなさい」
ダミアンさんがちょっとグッタリだ。
そんなこんなでのんびり話しているとイオとミレーヌちゃんも起きて来た。
長々お邪魔するのも申し訳無いので、おいとまする事にしたのだが、多少イオがグズってしまった。
「イオくん、あしたもあそびましょ?」
「うん、いいよ! あしたは、ぼくんち、おいで?」
「……君の家では無いよ」
「グランパんち!」
「はい! おうかがいしますわ!」
――――あ、はい。
どうやら決定のようだ。
ダミアンさんは流石に無理だろうから、ミラさんが引率として付いて来てくれるそうだ。
「エズメリーダさんも来るー?」
「あら、行くわ!」
「へーい。むふふ」
「何よ?」
「友達っぽい!」
ぽいじゃなくて、友達だと怒られた。エズメリーダさんが何か可愛い。明日が楽しみになって来た。
ちょっとずつお勉強。(今更)
次話も明日0時に公開です。




