61、新たな出逢い
食べ過ぎたお昼ご飯を消化する為にお散歩。下町から貴族街に戻りつつウインドウショッピング。
本屋さんに立ち寄って小説を物色する。
「アステル、イオ、新しい本買おうか?」
「えー。いらなーい」
「ずかんない?」
図鑑は無い。
私とバウンティは五冊ずつ選んだ。子供達は絵本コーナーで楽しそうに読んでいるが買わなくてはいいらしい。
「本当にいらないの?」
「いらなーい。おかたづけたいへんだもん」
なんつー子供らしく無い理由。まぁ、玩具などを床に放置していたらバウンティが捨てちゃうせいだけど。
大好きな物が見付かったら買うのだそうだ。それまでは立ち読みらしい。
「じゃあ、マシューくんのお土産探そうか? 本がいいかな? 玩具が良いかなぁ?」
「マシュ、ほんすき!」
「じゃあ、本にしよう。選んであげて?」
「「はーい!」」
子供達があれやこれや言いながら選んでいる近くで算数の本を見ていた。そろそろアステルに足し算や数字を教えても良い頃だと思う。自分の名前などには興味が出てきて、半分くらい鏡文字だが書けるようになっている。
文字は憎たらしいほどに日本語に変換されるので、私には教えられないが、数字だけは変わらないので教えたい。
幼児用の算数の本を両手に悩む。
絵がメインの楽しく考えるタイプか、数字をなぞってお絵描きや迷路のようにして覚えるタイプか。
アステルにどっちが良いか聞こうと本を持って近付くと二人が眼鏡の女の人に話し掛けていた。
「ねーねー、そのめがね、みせてー?」
「かいがら? アステルのめとおなじいろだね?」
「貝? えっ? 目?」
「ねーねー、みせてぇ」
「ダメ、触らないで下さい。遊ぶもの、違います」
何か凄く迷惑掛けてた。
「コラ! 人が嫌がる事しないの! ごめんなさいしなさい!」
「「ごめんなさーい」」
『あっ、ごめんなさい…………え?』
眼鏡の女の人が勢い良くこっちを向いた。取り敢えず謝って頭を下げると、慌てて頭を下げ返された。何となく違和感。頭を上げて二人で見詰め合う。
何で違和感を感じたのだろうか。ボーッと考えていたら気付いた。こちらの人達は胸を下げる感じでお辞儀する。なのにこの女性も私も頭をペコッとした。
――――それだ! ペコッって久しぶりだ!
『あの、日本の方ですか?』
「へ? あ、はい!」
「ママなにはなしてるの?」
「え? 日本の人ですかって……お?」
『うわぁぁぁ! 日本人いたぁ!』
がっしり抱き締められた。
「カナタ、さっきから何してるんだ?」
「何、だろうね? 取り敢えず日本の人みたい」
「あー、チズル、だっけか?」
『え、はい。チズルですが……。千の鶴で千鶴です』
取り敢えず、周りが騒然としているので一旦撤収。
どうしようも無いので一番近いカンさんの所に戻ってテーブルを借りる事にした。
「お昼休みにごめんなさい」
「良いって。チビ達はラッシーな。何がいい?」
「アステル、いちご」
「ぼくね、レモン」
「俺、パイン」
「パインはねぇよ。お前大人だろ」
「チッ」
バウンティは無視しておこう。取り敢えず千鶴さんだ。
「千鶴さん、えっと……私はカナタです」
『ねぇ、何で普通に日本語話してるの? あの人も、この人も、何で聞き取れてるの?』
「あー、私の言葉――――」
毎度毎度、この説明が面倒だ。
「あと、あの金髪のは、おおよそ日本人です」
「ゴラァ、説明が雑だっつーの! 何だその『おおよそ』ってのは!」
「えー、カンさん半分はイタリアーンでしょ?」
「何か、その伸ばし棒に嫌みを感じる」
カンさんに軽く拳骨された。
『俺は貫太郎だ。さっきの話で解ったとは思うが、日本人だ。国籍も!』
『何これ……一度に日本人二人発見とか、奇跡!?』
確かに。なかなかの確率な気がする。
「千鶴さんは最近、飛ばされて来たんですか?」
『ええ。お二人は?』
それぞれ簡単に説明する。
『カンくんは小さい頃から大変だったんだね』
『……まぁ、なんつーか。俺、アンタより年上だと思うよ』
仕方ない。こっちに来て二十年も経つのに未だに見た目が変わってない。中身はモテないおっさんだ。
――――ゴスッ。
「いったい! 何すんですか!」
『心の声が顔に漏れてんだよ』
「わぉ、失敬」
「それからチズル、カナタに釣られて大変だろうけど、ここで暮らしていくしか無いんだ、言葉は早く慣れた方がいい。俺も今からフィランツ語で話すからな」
『は、はい』
――――うん、解らないが頑張れ。
「私も、カナタちゃんと、一緒が……欲しかった……? 良かった? 話すの」
「あー。私もカナタと一緒の能力が良かった、な?」
「えっと、私も――――」
「そうそう」
うむ。ぜーんぶ、日本語だ。取り敢えず千鶴さんは良い先生発見出来たね。
「そいや、千鶴さんは何か能力か変な体質になったとか有るんですか?」
「私は…………」
千鶴さんが急に黙って難しい顔をしている。何か転移者の契約か何かしたのだろうか。守秘義務とか。
『すみません、説明が難しいので日本語でします』
「何だ! 何か不味いこと聞いたのかと思った!」
「俺も!」
『いえいえ、不味くは無いんですけど……実践するとちょっと怒られるんですよ』
――――怒られる?
「ハブリエルくん」
千鶴さんが急に名前を言った。誰だっけな? 聞いたことあるような。とか思った瞬間だった。
――――とすっ。
千鶴さんの膝の上に金髪のロングヘアーをポニーテールにした二十代の男の子が現れた。
「っあークソ! お前はー! 何で呼ぶんだよ! 可愛い子もしくはイケメンがいたのか?」
「ハブリエル、来る」
「……なるほど」
ハブリエルさんを召喚出来ると。謎過ぎる。あと、呼ばれるの大変そう。そりゃあ怒られるね。今もハブリエルさんにおでこを人差し指でドスドス刺されている。
「ハブリエル、可愛いとイケメンいる」
「…………」
ハブリエルさんにじっとり見られた。
「チズ! 良い仕事したな! 今日は誉めてやろう」
「うん。カンと絡むといい……グフッ」
――――ん? 絡む? グフッ?
「なるほど、こっちの金髪がカンか。そっちの怖い兄さんは?」
「バウンティだ」
「へー、有名人と同じ名前なんて大変だな」
「ん」
――――いや、本人じゃないかな?
「妻のカナタと、子供達です」
バウンティがスルーしたいようなので特に何も言わないでおいた。
「へぇ、どーも。カンは彼女か彼氏かいる?」
「……どっちもいねぇけどな。そういう聞き方するヤツ初めてだわ」
「そ? 俺、どっちもイケっから」
「おぉん。俺はヘテロだ!」
「大丈夫、気にしない気にしない。慣れるって」
「カーン、ヘテロってなに?」
アステルがカンさんのシャツを引っ張って意味を教えて欲しそうにしている。
「ママに聞きなさい!」
「ふわぁお、丸投げ?」
仕方無いのでアステルに説明する。
「ハブリエルさんは男女関係なく恋愛対象なんだって。カンさんはヘテロセクシュアルって言って女の人が恋愛対象だって言ったんだよ」
「アステルもどっちもすきだよ?」
「ぼくもー」
「そっかー。女の子でも男の子でも、好きならそれで良いよ」
「うん!」
――――おし。
「…………アンタ、カナタって言ったっけ?」
「はい?」
「気に入った! すっげぇ良い女じゃん!」
急にハブリエルさんが目の前に来た。妙に顔が近いなと思ったら何かヤな予感。
――――シュッ。
――――チュッ。
「っ……ちょ、じゃますんなよ」
危機一髪、バウンティが私とハブリエルさんの顔の間に手を入れてくれた。双方、バウンティの手にキスした感じにはなったが。
「ハブリエル! 人の奥さん、ダメ!」
「駄目じゃないし。俺の地位なら大概大丈夫だって。なぁ、カナタ、俺に乗り換えなよ。子供達まとめて面倒見るから。そのヨレヨレで貧乏そうな男より贅沢させてやれるぜ?」
今日もバウンティはいつもの量産のヨレヨレシャツですけどね。それにしてもハブリエルさんは色んなボーダーラインが薄い人のようだ。
バウンティはご機嫌ナナメな顔で今にも攻撃に入りそうだ。
「バウンティ、落ち着こう。どうどう! 深呼吸!」
「何、怒っちゃった? 俺、これでも賞金稼ぎのトップランカーだぜ? まー、王都では、だけどさ。逆らうと生きていけないぜ?」
人が一所懸命にバウンティの頭を撫でて落ち着けているのに、油やらガソリンやらダップダプに注ぐの止めて欲しい。
「あー、最近有名なヤツってお前かぁ。命知らずの変わり者って本当だったんだなぁ」
カンさんの説明は有り難いが、今じゃない。
「まぁ、これで見納めになるかぁ」
「このヨレヨレのヤツ?」
「ハブリエル、お前な」
「は?」
「ハブリエル、謝る、して!」
「何で俺が謝るんだよ。俺は偉い! 偉いやつは謝らない!」
「ハブリエル、バウンティって名前、そうそういるわけ無いのくらい解れよ。お前、馬鹿だよなぁ」
まぁ、馬鹿には同感ではあるけども。
「よ、はい! ハブリエルさん、指輪の内側読んで」
左手の薬指から指輪を外してハブリエルさんに渡す。
「…………え? ダイヤモンドの指輪? …………バ、ウン……ティ」
「ん」
――――ゴスッ。
「んぎゃっ…………」
バウンティがハブリエルさんの脳天に拳骨を落として気絶させてしまった。この後、どうするか考えているのだろうか……。
性別はそんなに気にしないカナタさん。
次話も明日0時に公開です。




