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59、猛省。

 



 ――――ぐあぁぁぁぁ! 頭が痛いぃぃ!


 やらかした。べっっくりするくらい、やらかした。

 何回目だコレ。ここまでやらかしたのは二回目だろうか。いや、どう考えても今回が一番酷い。

 二日酔いって、こんなに頭痛がするものなんだね。初めてだ。


「ん、起きたのか?」

「ひっ…………」


 バウンティの目が見れない。

 あと、深酒して二日酔いになったら、記憶が吹っ飛ぶのが定番じゃないのだろうか。ありありと覚えているアレやコレ。


「うがぁぁぁ…………んあー、あだまいだぁぁぃぃぃ」

「あー。だろうな……待ってろ」


 羞恥心のあまり叫んだら、ガンガンと鳴り響く耳鳴りと頭痛。悶絶していると、バウンティが服を着て部屋を出て行った。今の内にと、のったり動いてトイレに行く。なかなか動き出せない。便座に座ったまま暫く項垂れていた。

 何とか浮上して部屋に戻ると、バウンティが炭酸水とフルーツ入りのヨーグルトをくれた。


「二日酔いに効く。少しでも良いから食べろ」

「……うん」


 下着を着けて、炭酸水を飲みつつ、ヨーグルトをちびちび食べる。

 向かい側に座るバウンティをチラリと見ると破顔していた。直視出来ずにスッと目を反らしてしまった。


「カナタ、食べたらシャワー浴びような?」

「……ぅん」


 物凄く小さな声で返事したがしっかりと聞かれていたらしい。子供達に取られた隣室から、私の服を持って来てテキパキと用意してくれた。




 体を洗っていると、バウンティがジッと見詰めて来る。気付かないふりをして体を流した。

 脱衣所で服を着て、部屋に戻る。炭酸水の残りを飲みながらイスに座った。腰も痛けりゃ頭も痛い。


「ふぬぅぅぅ…………はぁぁ」

「どうした?」

「いえ、何でも…………」


 酔ってフワフワして攻めに攻めて、覚醒してみれば信じられない程の暴走をしていたのに、バウンティはニコニコして幸せそうにこちらを見ている。

 この羞恥心はきっと伝わらない。


「ん、もう少し寝ておくか?」

「今……五時半かぁ。起きとく」

「ん」


 バウンティがテーブルに肘杖をついてこちらをジッと見詰めてくる。


「何?」

「ん、昨日のカナタは――――」

「ストップ! 言わないで! まだ……受け止めれないっ」


 両手で顔を覆って上を向く。顔が熱い。耳も熱い。


「……ごめん、これだけは聞いてくれ。昨日な、その……すまん、興奮しすぎた」

「へ?」

「そのな、避妊具使って無かった。ごめんな。後でアフターピル買いに行こうな?」


 ――――なんだ。その事か。


「知ってるよ? ……全部、覚えてるし」

「怒ってない?」

「うん。三人目もアリ、じゃない?」


 なんとなくバウンティの顔色が優れない。どうしたのかと聞くが頭をプルプルと振って答えてくれない。


「後悔してるの?」

「カナタがまた話さなくなるのは嫌だ。我慢出来ないかもしれない……」

「んあー。そっか…………ね、飲まなくても怒らない?」

「ん! 絶対怒らない!」

「じゃあ、飲まない。飲みたくない」

「ん」


 バウンティが破顔してふにゃふにゃの顔になっていた。それはそれで嬉しかったらしい。

 

「カナタ、横に行っていいか?」

「……うん」


 バウンティが私の横にイスを持って来てピッタリとくっ付いてくる。そっと手を取り、指を絡めて繋がれた。

 

 ――――チュッ。


 手の甲にキスをしてくる。何度も何度も繰り返す。バウンティが何をしたいのか解らない。が、なんとなく幸せを感じるので止めるのを躊躇ってしまった。


「カナタ、抱き締めてもいいか?」

「……」

「駄目? カナタにいっぱい愛を伝えたい。ギュウギュウに抱き締めて、撫でて、キスして、幸せいっぱいのふわふわにしたい」

「…………昨日」

「ん?」

「昨日、そうなりましたが」


 言った瞬間、フワリと体が浮く感覚。バウンティに抱き上げられ、膝の上に座らされた。ギュッと抱き締め、背中をゆるゆると撫でてくる。

 暖かい。バウンティに全身を預け、首筋に顔を擦り寄せた。


「傷付けてごめんな。恥ずかしかったんだよな? 悔しかったんだよな?」

「うん」

「ん。ごめん」

「ううん。もう怒ってないよ」


 ――――チュッ。クチュッ。


 仲直りのキスなのか、欲情したキスなのか。微妙なラインのキス。


「ん、ハァハァハァ……」

「乱れるカナタは可愛い。昨日は……最高だった。もっともっと乱れて?」

「ひゃだっ」


 あんなに判断力の無い状態など二度とごめんだ。


「駄目?」

「だ、めっ。……いたたたた」


 目覚めた時からは少し軽減したけれど、相変わらず頭痛がする。




 バウンティの肩にしだれ掛かって微睡んでいた。


「カナタ、もうすぐ七時だ。そろそろ二人を起こしてくるな?」

「うん」


 立って一緒に行こうとしたが、休んでていいと頭を撫でられた。無理する元気も無いので素直に従った。

 子供達の準備が終わり、一階のダイニングに向かう。


「…………おはよう」

「…………おはようございます」


 カリメアさんの真顔が怖い。ゴーゼルさんのニヤニヤ顔が煩い。完全にバレていたらしい。酔っていたので声が抑えれていなかった。

 ご飯は食べれそうにも無かったので、野菜ジュースのみもらった。


「それで、今日はどうするの?」

「ん、二人はお出掛けして王都内を探険したいって」

「お、ワシも一緒にいいか?」

「いーよー」

「グランパといっしょー!」


 子供達の甲高い声は二日酔いの頭に響く。こめかみを押さえて痛みを散らしていた。


「ハァ。カナタは二日酔いなら、飲み物をちゃんと飲んで安静にしてなさいな」

「あい」

「ふつかよいってなにー?」

「なにー?」

「ふぐっ。大きい声で頭が痛ーくなるの」

「なんでぇ?」


 うむ。伝わらないよね。


「お酒飲みすぎたのよ」

「くちゃいやちゅ?」


 イオが鼻を摘まみながら『臭い』と言うのが物凄く可愛い。大人全員ニヤニヤだ。


「ん。大人にならないと飲んだら駄目なやつだ」

「「ふーん」」


 ――――興味無しだね。


 子供達はご飯を食べたら直ぐに出掛けたいらしい。ゴーゼルさんだけで連れて行こうかと言われたが、バウンティも連れて行ってくれと頼んだ。

 バウンティはショックそうな顔をしていたが、無視。ちょっと離れて心臓を落ち着けたい。あと、一人で反省したい。




 皆を仕事と探険に送り出し、のっそり部屋に戻る。

 カーテンを閉め切り、薄暗闇でイスに座る。暗いと少し頭痛が和らぐ気がする。


 ――――ふぅぅぅ。


 テーブルに肘を付き頭を抱える。

 チョロい。チョロすぎる。自分の軽率さとチョロさに凹む。凄く絶望していたはずだ。悲しくて、悔しくて、恥ずかしくて、自信を失っていた。自尊心が打ち砕かれた。自分の魅力ってそんなものなのかと呆然とした。

 バウンティとそういう空気になるのに恐怖を覚えた。またそうなったら……と。

 なのにだ!


「はあぁぁぁぁぁ」


 長い溜め息が漏れ出る。

 暫くお酒は控えよう。初めて飲んだ時も飲みすぎて暴走した。


「ぬはぁぁぁぁ」


 二十歳になった時を思い出して更に溜め息が漏れた。

 もういっその事禁酒しよう。私は飲んだら駄目な人間だ。バウンティがちょいちょい飲ませようとするが、今度からは断ろう。

 きっと賛成してくれる。こんなにも失態をしているのだから。




 夕方、燃えるようなオレンジ色の空になった頃、ゴーゼルさんとバウンティと子供達が帰ってきた。


「「ただいまぁ」」

「お帰り。楽しかった?」

「うん! あのね――――」


 貴族街から下町と色んな所を探険してきたそうだ。お昼はカンさんの所で食べ、海浜公園では砂浜を走ったり、砂で遊んだりしたらしい。


「楽しかったんだね。良かったね」

「「うん!」」

「さて、先にお風呂に入ろうか? 砂だらけだよ?」


 素直にお風呂に入ってくれるらしい。


「カリメアは戻ったか?」

「まだですよー」

「ほんじゃ、ワシと風呂に入ろうかのぉ? ワシも砂だらけじゃし」

「「はいる!」」


 子供達もゴーゼルさんと入りたいそうなので丸投げした。

 子供達がお風呂から上がって少しした頃、カリメアさんが戻ったので夕食になった。


「私達は予定通り明日の朝に出ましょうかね?」

「えーぞ?」

「貴方達は決めたの?」


 私達はもう少し王都にいても良いのだが、朝にバウンティが聞いたら、アステルが誕生日はローレンツでパーティーをしたいとの事なので、誕生日前にはローレンツに着きたい。


「次の定期船は確か小さいわよ?」

「ん、それで良いって」

「ちっちゃいおふね、のりたいの!」


 まぁ、何事も体験してみてだろう。という事で次の定期船に乗る事に決定した。

 子供達を寝かし付け、バウンティとお風呂に入る。


 ――――チャプン。


「カナタ、もっと引っ付けよ」

「……結構です」

「幸せいっぱいのふわふわは?」

「……酔っ払いの戯れ言を間に受けたら駄目っ」


 バウンティと向かい合って湯船に入り、謎の言い合い。ちょっとムスッとしている。


「ふはぁ、ちょっとのぼせそ。もう上がるね」

「ん。まだきついか?」

「んーん。もう平気。でも、暫くお酒は控える事にしたよ」

「何でだ!」


 なぜにキレるんだ。煩いし。


「一緒に時々晩酌するのが楽しみなのに!」

「いや、でもさ、調子に乗りすぎて今回みたいにベロンベロンになるのヤだもん」

「むしろベロンベロンになれ! 最高だ!」

「いや、最悪だよ。あんなに頭が痛いとは思わなかったよ。暫く飲む気になれないよ」


 バウンティがムームー言いながら下着を着けるのを邪魔してくる。


「ちょっと!」

「晩酌に付き合うって約束するなら止める」


 どんな脅しだ。どんだけ飲ませたいんだ。ベロンベロンでわめく嫁ってウザくないのかな? まぁ、バウンティは特殊な趣味だしね。


「コップ一杯だけね?」

「ん!」


 納得したらしい。

 ベッドに入り、私は多少ダルいのでバウンティの胸に頭を乗せて心音を聞いて微睡む。バウンティは本を読みながら私の頭を撫でて平和な夜を過ごした。




 『飲むなら、飲まれるな。飲まれるなら、飲むな!』をスローガンにしようと猛省中のカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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