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58、酔いどれ二人。

 



 遅めの夜ご飯を食べ終え、部屋に戻る。お皿洗いはイーナさんに禁止された。片付けるまでが料理なのに。


「バウンティ、明日はね、ゴーゼルさんとカリメアさんは別行動だって。そんで明後日には帰るって」

「ん、飯前に聞いた。別々に帰るなら、師匠達はイーナと車で帰るって。カナタは残りたいんだろ?」

「……うん。ちょこっとだけね」

「なら、また船で帰るか? 陸路のバスで帰るか?」


 昔、ウォーレン様を搬送する際に陸路のトラックの天井はホロだと聞いた。そこでバスの話をしていたのだが、スマホを入手後カリメアさんに映像を見せた。そこからバスの開発が始まり二年ほどで完成。国営のバス運行システムも構築され、今では長距離移動はバスになっている。


「帰り方と、明日何するかは子供達に聞いてから決めても良い?」

「ん。風呂入ろう?」

「いってらっしゃい」

「……お前は?」

「後から入るよ。はい、着替え」


 着替えを手渡したが、手ごと掴まれた。申し訳無いが一緒には入りたくないので、頑張ってバウンティの手を振り払う。


「……駄目、なのか」


 ――――チュッ。


 バウンティが抱き寄せておでこにキスをしてくる。そっと頭と頬を撫でられた。そして眉を寄せ「ごめんな」と小さな声で呟くとお風呂場に消えて行った。

 何となく私が悪い事をしているような気になる。お風呂に一緒に入らないと言っただけで何で罪悪感を持たないといけないのか。きっとバウンティが悲しそうな顔をするせいだ。

 シャワーで終わらせたのだろう、五分程で上がって来た。ちゃんと洗ってるのか謎だがいちいち突っ込むのも面倒だし、スルー!


「行ってきます」

「ん」


 私は気にせずのんびりお風呂に入る。湯船でゆったりして、ホカホカで脱衣所に行く。


「「……」」


 なぜかバウンティが脱衣所にいる。一瞬、呆然としてしまったが、取り敢えずバスタオルを体に巻いた。


「忘れ物?」

「長かったから……」

「大丈夫、寝てないよ?」

「…………ん」


 謎な間があった。異常に気まずそうな顔をしているし、脱衣所から出ていかない。


「何?」

「…………何でも、無い」

「ふーん。ねぇ、着替え辛いんだけど」

「……」


 なぜか無言を貫かれる。しかもちょっとずつ近付いて来ている。ジリジリと追い詰められて、気付けば背中が壁にくっ付いていた。

 バウンティがそっと手を伸ばしてきた。ゆるりと頬を撫で、親指で下唇をなぞる。ゆっくりと顔バウンティの顔が近付いてくるが、嫌なものは嫌なので避ける。


「…………ん、ごめんな」


 またションボリして脱衣所を出て行った。心臓がチクリと痛いのはバウンティの顔と雰囲気のせい。きっと、そう。

 着替えて頭を乾かしながら部屋に戻ると、バウンティがテーブルの方に座っていた。カップが二客とティーポットが置いてあるので私の分なのだろう。

 仕方無しにバウンティの向かい側に座ると、じっと見詰めてくる。


「何?」

「ん……菓子」

「ありがと」


 ずいっと、お菓子の入ったお皿を差し出された。取り敢えず食べる。猫さんクッキーだ。まだ残っていたらしい。


 ――――サクサクサク。


「これ、可愛いよね」

「……ん」


 薄らっとした反応と返事だ。謎過ぎる。クッキーを食べたら喉が渇いた。バウンティがカップに注いでくれたので受けとる。


「あれ? お酒の匂いがする」

「ん、ホットワインの紅茶割り。体が温まる。あと、少し酒が入った方が眠れるだろ?」


 そんなもんだろうか。まぁ、そんなもんなんだろうな。と納得してクピッと飲んでみる。

 ワインの芳醇な香りと紅茶の甘みがとても合っている。少しシナモンの匂いもする。美味しくて一気に飲み干してしまった。

 レモンの砂糖漬けが用意されていた。二杯目に入れてみると、まろやかな感じが少し消えてさっぱりとした風味になった。これはこれで好きだ。

 バウンティが本を読み出したので私も読みかけの本を出して読む事にした。




「んー、冷えてるのだとぉ、レモンの方が合うねぇ」


 ホットワインティーの冷めたものを飲みながらティーポットの中を覗く。空っぽだ。


「バウンティ、おかわり無いよ?」

「ん、作ってくる」

「……バウンティが作ったの?」

「いや、イーナに作ってもらった。作り方は聞いといたから」

「じゃぁ、一緒に作りに行く!」

「ん」


 ちょっとふら付いたので、バウンティの腕に掴まり階段を下りてキッチンに向かった。

 ホットワインティーをバウンティがテキパキ作るのを鼻歌を歌いながら眺めた。


「ほら、出来たぞ」

「はーい。戻ろ!」

「ん。カナタ、少し話したいから子供達が使ってた方の部屋に行こうか」

「何でー?」

「アステルとイオが話し声で起きたら可哀想だろ?」

「確かに! いーよー!」


 一度部屋に戻り、カップと本を回収する。


「ん。カナタは本を持って?」

「シー! 起きちゃうよ!」

「ん。お前の声の方がデカいけどな……」

「シー!」

「ぶふっ。煩いって言ってるだろ」

「もー! シーって言ってんじゃん!」


 バウンティがプルプルしながらカップを持っているので、揺れてカチャカチャと音が鳴る。


「ほら、行くぞ」

「シー!」

「解ったから」


 全然解っていない。起きちゃうって言ってるのに何で話すのか。

 子供達が使っていた部屋に行き、またテーブルでホットワインティーを飲む準備をする。


「もう話して良いよ!」

「ん。ずっと話してたけどな?」

「バウンティが?」

「ぶふっ。お前が」


 訳が解らない。無視して本を開きながら飲む。


「おいしー。んふふ。バウンティが作った方がぁ、おいしーね!」


 バウンティがニコニコしてありがとうと言ってくれた。

 暫く本を開いていたのだが内容が頭に入って来ない。飲みすぎてしまったのだろうか。ちょっとふわふわする。







****** side:B







 寝落ちしてから、カナタが妙に触れ合おうとしてくれない。何となく普通にしてるが、あの時の話になったり、そういう空気になると逃げてしまう。

 二人でのんびり過ごしたら少しは心を開いてくれるだろうか。

 イーナに温かい飲み物で良いのが無いか聞いたらホットワインの紅茶割りを勧められた。


「カナタ様もアルコールは大丈夫ですよね?」

「ん」

「では用意してお持ちしますね」




 飲ませてみたら気に入ったらしくグイグイ飲んでいた。甘いから飲みやすかったんだろう。気が付けばほとんど一人で飲んでしまっていた。


「バウンティ、おかわり無いよ?」

「ん、作ってくる」

「……バウンティが作ったの?」

「いや、イーナに作ってもらった。作り方は聞いといたから」

「じゃぁ、一緒に作りに行く!」

「ん」


 カナタがちょっとふら付いていたので、掴まるように言うと素直に腕に抱き着いてきた。

 ホットワインティーを作っていると後ろから鼻歌が聞こえてきた。ご機嫌なのか、お湯を沸かしたりと時間が掛かるので暇なのか。振り返るとニコニコしているので機嫌が良いようだ。


「ほら、出来たぞ」

「はーい。戻ろ!」

「ん。カナタ、少し話したいから子供達が使ってた方の部屋に行こうか」

「何でー?」

「アステルとイオが話し声で起きたら可哀想だろ?」

「確かに! いーよー!」


 と言うか、カナタの声が妙に大きいのでアイツ等が起きないか心配なんだが、カナタは……気付いてないよな? ちょっと酔ってるし。


「ん。カナタは本を持って?」

「シー! 起きちゃうよ!」


 物凄く大きな声で注意された。


「ん。お前の声の方がデカいけどな……」

「シー!」

「ぶふっ。煩いって言ってるだろ」

「もー! シーって言ってんじゃん!」


 本当に気付いてないらしい。部屋に『シー!』が響き渡ってるのに。顔を真っ赤にしてプリプリ怒るカナタは、凄く可愛い。あと、ちょっと馬鹿で面白い。

 笑うのを我慢していたら手が揺れてカップがカチャカチャと鳴り続けていた。


「ほら、行くぞ」

「シー!」

「解ったから……」


 子供達が使っていた部屋に着くと「もう話して良いよ!」と満面の笑みで宣言された。


「ん。ずっと話してたけどな?」

「バウンティが?」

「ぶふっ。お前が」


 運んでいる間も「カチャカチャ煩いよ!」「割れちゃうよ!」「私も持つー!」と、色々煩かった。

 作ったホットワインの紅茶割りを注いでやると直ぐにぐい飲みしていた。ショットグラス並の勢いだ。ちょっと心配になって来た。


「おいしー。んふふ。バウンティが作った方がぁ、おいしーね!」


 ――――はぁ。


 酔ったカナタの破壊力は凄い。取り敢えず笑って「ありがとう」とは言った。




 暫くしてカナタが読んでいた本を置き、イスを抱えて横に来た。どうしたのかと聞くと頬を染めて「側が良い。くっつきたい」と言う。心臓が爆発するかと思った。

 横に座ったカナタはベッタリと俺の腕に抱き着いて離れない。


「バウンティー、バウンティは悪い子だね」

「ん? 何でだ?」

「バウンティはね、悪い子なの」


 ――――いや、だから何でだって聞いたんだがな?


「私をね、いっつも傷付けるの。大好きなのに、バウンティは好きを返してくれないの。私ばっかり、大好きなの」

「…………そう、感じるか?」

「うん。なのにね、時々ね、好きをくれるの。だからまた大好きになっちゃうのに、すぐ苛められるの……」


 メソメソと泣きながら一際強く腕を抱き締めてくる。胸がふにふにと当たって意識がそっちに行きそうになる。男のサガってやつは…………。

 塞ぎ込んでいた奥さんがやっと本音を言い出したのに。


「そっかごめんな。俺も大好きだからな」

「そうやって嘘ついて希望を持たせるバウンティは悪い子なの!」

「嘘じゃないから」


 そう言うと、カナタがムスッとして立ち上がり、俺の膝に跨がって抱き着いて来た。


「じゃあ、この前の続きしてっ! 幸せいっぱいのふわふわにしてっ!」


 何だかよく解らないが、したいらしい。酔ってるのに大丈夫なんだろうか。迷いはするが、一瞬で元気になってしまったコレをどうしたものか。


 ――――チュッ。


 もう、どうにでもなれば良い。俺も酔ってるのかもしれないな。




 お酒の力で…………。


次話も明日0時に公開です。

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