57、久し振りの自炊。
何も解決していない気はするが、取り敢えずバウンティに抱き締められて寝た。そうすれば冷えきった体と心が温まりそな気がした。
なんとなく熱い。あと、何か窮屈。
重たい瞼をこじ開けると、何故かアステルの顔が目の前にある。よくよく見ると、バウンティと私の間にアステルとイオが寝ていた。イオに関しては逆さまになっていて、バウンティの顎を蹴り上げたような状態になっているが、よく寝ている。
「……私だけじゃ無いし。アステルとイオも平気じゃんよ」
小さなモヤッとした苦情は誰にも受け止めてはもらえない。
そして、子供達はなぜにシャツとパンツなのか。私達が下着姿だったからだろうか。辺りに寝間着が散乱している。
イオを抱き上げ頭を上にして寝かせる。どうやって逆さまになるのか気になる。時計の針のように回転してるんだろうか。
そんな事からふと時計を見ると既に十時だった。子供達はお風呂の後に私達の部屋に来たのだろう。服を着てゴーゼルさんとカリメアさんを探す。イーナさんに出くわして執務室にいる事を聞いた。
――――コンコンコン。
「カナタです」
「開いてるわよ」
中に入りアステルとイオのお世話のお礼を言う。
「今日は貴方達の部屋で寝るって言うからほったらかしたけど、良かったかしら?」
「はい。時々ですけど、寂しかったりすると侵入して来てるんで。大丈夫ですよ」
「そうね、手慣れたように作業してものね」
――――作業?
「布団を剥がして、抱き合った二人を解体して、間に潜り込む」
「……を見てたんですか……」
「ワシ、流石に後ろ向いたからな!」
鍵かけてなかったし、仕方ない。そして二人は手慣れてるのか。
「所で、貴女は……今度は何に怒ってたのよ?」
「あー、夫婦の問題的な?」
「あ、そ。で、性懲りもなく仲直りしたんでしょ?」
「うーん。良く解らないです。気持ちがついて来ないけど、表面上は仲直りしたって感じ? です」
「貴女、それは余計に拗れるわよ?」
だろうなとは思っているが、どうしようもない。
「自分でも何に怒ってるのか、何で悲しいのか、悔しいのか良く解らないんです。何を謝られても的外れで余計にイライラしてます」
「まぁ、頑張って考えなさい」
「はーい」
「それより、相談なんじゃがのー。明日はどうする? ワシ等は明後日には帰ろうかと話しておったんじゃ」
ただ、私はエズメリーダさんやヴァレリー家が気になるだろうから少し残るんじゃ? と言う話になっていたらしい。
確かに物凄く気になる。もし、私達が残る場合はゴーゼルさんとカリメアさんとイーナさんで車で帰る予定らしい。
「貴方達はまた船で戻って来たら良いじゃない」
「うーん。バウンティに相談してみます。ちなみに、明日は何かご予定があるんですか?」
「私は王都で玩具を売れそうな店の下見をしようかと思ってるわ」
「ワシは……気が向いたら? 今のところは本屋を見に行きたいくらいじゃ」
「了解です」
二人に挨拶して執務室を出る。お腹が減ったのでキッチンへ向かうと、スープ鍋にメモが貼ってあった。
『カナタ様、冷蔵庫の中はお好きに使って大丈夫です。スープはご自由にどうぞ。残っても、飲み干されても大丈夫ですよ! フリード』
スープ鍋の蓋を開けると、ミネストローネが入っていた。
取り敢えずお米を炊く。船ではほとんどパンだったのでお米に飢えているのだ。
冷蔵庫を覗くと、薄切りの豚肉があったのでポークピカタに決めた。ミネストローネとの相性も良い。付け合わせはエリンギとパプリカのバター醤油炒めに決めた。
ホーネストさんにローレンツの家のキッチンから醤油を小分けにしたボトルを一つ取ってきてもらう。
「ただいまー。シエナちゃんがいたから持って行くねって言ってきたよ」
シエナちゃんがいてくれるのは有り難いが、ちゃんと休んでるのかちょっと心配だ。
「ありがと! そしたら、『ゴマだれとお箸二膳も持たせて!』ってお願いします」
「はいはーい。いってきます」
サラダとかめんどいのでキャベツの千切りにする。フォークじゃ食べ辛いので非常に助かった。
サクサクっと作ろう。エリンギを薄切り、パプリカは細切りにしてフライパンにバターを入れる。溶けたらエリンギとパプリカを炒め、しんなりとしたら塩コショウと醤油で味付け。簡単でいて、ご飯に良く合う。
ポークピカタは豚スライスは塩コショウで下味を付ける。卵液は溶き卵、粉チーズ、パセリのみじん切りを混ぜ合わせる。
豚肉を卵液に潜らせて直ぐにフライパンで焼く。ジュワジュワと焼ける音と共に卵と豚肉の芳ばしい匂い。
「んーまそっ!」
「何を作っとるんじゃ?」
「ひぎゃっ!」
ビックリして振り向いたらゴーゼルさんだった。
「お腹減ったんで、夜ご飯を……」
「ワシも食べる!」
マジか。バウンティとの二人分しか無い。新たにもう一品作るしかない。
ピカタを焼きながら冷蔵庫を物色する。
鮭の切り身があるのでホイル焼きに決めた。玉ねぎをスライスし、ホイルに敷き詰めるその上に薄切りのニンニクを三枚ほど並べて鮭を置く。塩コショウ、醤油で味付けし、上にたっぷりのチーズ。ホイルをギッチリ閉じてフライパンに並べる。フライパンに水を一センチ入れ沸騰したらとろ火で二十分。
その間におかずとスープをダイニングに運んでもらう。
「これ運んで下さい。ゴーゼルさん、お米は食べる? パンにする?」
「お、米がいい!」
「はーい」
ならば私はパンかな。家じゃないからギリしか炊いてない。ゴーゼルさんのお米を少な目にした。軽くグチっと言われたが、そもそも夜ご飯食べてるくせにと文句を言い返したらシュンとしてしまった。
「おかずはいっぱいありますから! ね?」
「……うむ」
イジイジしながらもダイニングに向かってくれた。が、一瞬で帰って来た。
「早っ。え? どこに置いたんですか?」
「イーナに取り上げられたんじゃよ!」
「んじゃ、お茶を持って行って下さい」
仕事を盗られて、また与えられたからなのか、今度はニコニコ持って行き出した。何となくバウンティに似ている。そう思うと可愛く思えるから不思議なもんだ。
「ゴーゼル様! お願いですから、席に着かれてて下さい!」
「む……解った」
廊下でイーナさんに怒られている。当主にさせたら駄目だったか。申し訳無い。
お茶を取り上げ、運び終わったのであろうイーナさんがキッチンに現れた。
「カナタ様も、お願いですからゴーゼル様を使わずに、私共をお使いください!」
「はい、ごめんなさい」
「バウンティ様はダイニングで待って頂いてますので」
料理途中でゴーゼルさんに起こしに行ってもらったのだが、遅いなと思っていたら、ここに来る途中でイーナさんに捕まったようだ。
「はーい。これ運んでもらったら終わりです」
ホイル焼きをお皿に乗せて渋々イーナさんに渡す。
ダイニングに座り、いただきますをして食べ始めた。
「ん、肉の美味い」
「ポークピカタだよ。あれ? 無いの?」
「ピカタはフィレ肉じゃなかったかのぉ?」
「……本格的なやつはそうかもですね。家庭料理は薄切り肉!」
「鮭も美味い。何かいつもよりクセがない? さっぱりしてる気がする」
「あー、お醤油のおかげかなぁ? 魚醤はパンチがあるからねぇ。魚醤の方が良い?」
「醤油の方が好きだ。今までは気にならなかったけど、醤油と比べると魚醤はちょっと……エグい? 感じなのかも」
「確かにー」
確かにちょいエグくて匂いがキツい。
「ちょっと! 何でアナタだけ食べてるのよ!」
「カリメアはこの時間は食べんじゃろ?」
「……味見くらいはするわよ!」
急に現れたカリメアさんがゴーゼルさんの横に座ってちょこっとずつ味見し出した。
「あら? ゴマだれとかこの家には無いでしょ」
「ホーネストさんに頼みました。お醤油とお箸も!」
ジャン! とお箸を見せびらかすが、スルーされた。
久し振りの自炊は楽しいし、勢いだけで作ったおかずも美味しく出来て何か幸せな気分だった。
家でもコソコソと主寝室に侵入しているアステルとイオ。
バウンティが剥がれない時は、バウンティとカナタの上に寝る。
次話も明日0時に公開です。




