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56、解決出来ない感情

 



 王城に到着し、小サロンに通された。

 一人ポツンとイスに座って子供達を待った。


 ――――ガチャッ。


「ママ、もーきたの?」

「うん、アステルとイオに会いたくなっちゃった」

「パパは?」

「後から来るよ。イオは?」

「ふーん。イオはね、フェイトさまときしだんの、あさのくんれん? みにいってるー」

「へぇ。面白そう! アステルは何かしてたの?」

「キーラさまと、ヘラさまと、おひめさまごっこ!」


 ――――いや、二人は本物だけどね?


「そっか。楽しかったんだね」

「うん! いまもまだやってるの! だから、ママはまっててね?」

「はいはい。いってらっしゃい」


 アステルが楽しそうに走って出ていってしまった。二人とも楽しそうで何よりだ。

 メイドさんに出してもらったお茶を飲みつつ、ボーッとしていた。


「カナタ、バウンティより伝言だ『どこにいる? 帰って来てくれよ! 消えるなよ! 何でも話し合うって…………頼むから、場所だけは教えてくれ。フィランツにはいるよな? ラルフ飛ぶから。……あの日みたいに消えないで…………』だそうだ」

「……うん。バウンティに『話したく無いの。ごめんね』ってお願いします。場所は教えないでね?」

「うむ。承知した」


 植物園から逃げ出した後、何度かラルフさんが飛んで来ていたけど、場所を教えないでとお願いしていた。ゴーゼルさんには言って来たし。その内気付かれるだろうけど。今は逃げていたい。




 ふと気付くと、知らない部屋のベッドに寝ていた。


「…………どこ?」


 キョロキョロしていると、サイドボードにメモと飲み物とハンドベルがあった。


『カナタへ。サロンで眠っていたので来賓用の部屋に移動させた。顔色が悪いが大丈夫か? 目覚めてもきつければそのまま寝ていて構わない。ベルを鳴らすとメイドが来るので、用があれば言い付けるように。ウォーレン』


 ――――なるほど。


 申し訳無い。あまり寝ていなかったからだろうか、動かされても気付かなかった……。

 何時だろうかと辺りを見渡し時計を探す。まさかの二時。慌てて身なりを整え、靴を履き、ベルを鳴らす。


 ――――コンコンコン。


「失礼いたします。お呼びでしょうか?」

「すみません、サロンでお話し合いは始まっていますか? そちらに連れて行ってもらえますか?」

「畏まりました。直ぐにご案内してよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 メイドさんについて行く。案内してもらえて良かった。道が覚えられそうにない。何度か曲がって下りて曲がったらサロンに着いた。


「ありがとうございました!」

「恐れ入ります」


 ――――コンコンコン。

 

「失礼します。遅くなりました、申し訳ございませんでした」


 勢い良く謝罪して入室したら、バウンティが慌てた顔で走って来て目の前に立った。顔を覗き込まれ、頬を撫でられ、顎を持ち上げられる。

 フイっと顔を反らし、皆が座っているテーブルへ小走りで向かう。


「あら、もう大丈夫なの? 軽い貧血かしらね?」

「寝不足なだけだと思います。すみません」

「では、一旦、協定書に戻り、皆様にサインをしてもらいます」

 

 どうやら内容の確認は終わり、私が来るまで王様の病状の話や昨日バウンティが書き写してくれた医学書を見ていたらしい。

 皆で協定書にサインをしていく。


「――――これで新しい協定は締結されました」


 宰相さんがそう言って新しい協定書をそれぞれに配っていた。

 

「カナタ、ありがとう。本当に、ありがとう」

「いーの! ね、エズメリーダさん、生活が落ち着いたら教えてね?」

「もちろん、直ぐ連絡するわ!」


 エズメリーダさんは部屋の荷物を片付けるとの事で退室して行った。


「なら、私達もこれで失礼しますね」

「あら、私はまだ話を詰めている途中だから先に帰ってなさい」

「はい」


 皆に挨拶して、ウォーレン様にはお礼を言った。


「アステル、イオ、帰るよー」

「もう? やだ…」

「アステルもやだ!」

「はいはい。私が連れて帰るわよ」

「「わーい!」」


 許可も出してないのに決定のようだ。皆、自由で羨ましい。


「じゃあ、先に帰ってます」


 今日も車で送ってもらいシュトラウト邸に帰った。

 着替えようと思い部屋に戻るとバウンティがサッとテーブルへ移動した。


「カナタ、話し合いしよう?」

「嫌だって!」

「ん、何で嫌なんだ?」

「バウンティは何でずっと聞こうとするの?」

「聞かないと理解しあえないだろ。黙ってても何も変わらない」


 そうかもしれない、だけど今は嫌なのだ。自分の気持ちに蓋が出来ない。


「話したら、余計に悪化するかもだから……話したくない」

「それでも俺は聞きたい。理解したい」


 二十分ほどのらりくらりとかわしていたが、諦めてくれなかった。逃げられそうにもないので、渋々話す事にした。


「途中で寝たよね……」

「ん、ごめん」

「バウンティね、オモチャ使いたがるじゃん?」

「ん! 楽しい」

「…………それが無いと、私とはしてても楽しく無いって事でしょ? 興奮出来ないんでしょ? 途中で寝るほどにつまらない……って事でしょ!?」

「なっ、何でそうなるんだよ! だから、あれは……」


 バウンティが気まずそうな顔をして口ごもる。


「もうね、心が折れちゃった。解決出来ないの。……怖いの」

「怖い? 何が?」

「…………バウンティが」

「……」


 バウンティが何も話さずにネクタイを緩め、私に背を向けて服を脱ぎ出した。


「バウンティ?」

「……」

「…………ごめんね」


 謝ると勢い良く振り返ったバウンティに睨まれてしまった。


「っ…………カナタ、着替えないのか?」

「……着替える」


 のそのそとワンピースを脱ぎハンガーに掛けていると、急に抱き抱えられ、ベッドに寝かされた。

 体から熱が抜けていくような、凍えるような感覚がする。


「っ……クソッ!」

「怖いって!」

「すまん……大丈夫だから。何もしない。抱き締めるだけだ」


 そう言うと、抱き寄せてゆるりと頭を撫でられた。撫でられるだけだった。

 

「カナタ、大丈夫だ。お前は綺麗だ。可愛いし、エロい。いつだって俺はお前に恋し続けてる」

「……」

「お前だけなんだ……カナタの側でだけは眠れるんだ」

「……知ってるし」

「ん。なんて説明したらいいんだろうな。……幸せだったんだよ。幸せいっぱいで……目を瞑ってお前の声を聴いてた」

「それで寝たの?」

「ん」

 

 バウンティがニコニコして返事をした。キュッと抱きしめる力を強めた後、体勢を変えて覆い被さってきた。唇を薄く開いて、顔を近づけてくる。


「うぅぅ……」

「カナタ何で泣くんだよ? 笑ってよ?」

「っ、嬉しくない。寝た事を正当化されても嬉しくない!」

「ん、ごめん。完全に俺の落ち度だ。カナタを傷つけてごめん。恥ずかしい思いさせてごめん。どうやったら許してくれる? 俺を見て笑ってくれる?」

「……このまま抱き締めて寝かし付けて。ぎゅうぎゅうに抱き締めてて!」

「そうしたら嬉しい?」

「解んない。でも安心はする」

「ん」


 なんとなく。なんとなくだが、落ち着く。

 消えそうだった体の芯にある何かに熱が帯びてきたように感じる。多分……愛的な何か。




 崖っぷちギリギリの二人。


次話も明日0時に公開です。

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