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55、安らぎを求めて。

 



 朝起きて、バウンティにおはようのキスをする。


 ――――チュッ。


「バウンティ、おはよう。……あー、ごめん。二人はお泊まりだったね。もうちょっと寝とく?」

「カナタ、昨日の事を話したいんだが」

「あはは。気にしないで。無理させてごめんね? 疲れてたんだよね?」


 ニッコリ笑ってバウンティの頬を撫でる。それなのに不機嫌な顔をされた。


「カナタ、ちょっと座れ」

「…………やだ。もうね、気にしてないから! ね! この話は終わり!」


 部屋を出てサロンに行く。


「カナタ様、おはようございます。申し訳ございません、ゴーゼル様が起きられてからの朝食になりますので……後一時間ほどはかかるかと思いますが、何かお持ちしますか?」

「イーナさん、おはようございます! 温かい飲み物だけお願いします。…………ミルクティーがいいです」


 まろやかな飲み物でホッコリしたい。

 一人掛けのフカフカソファに胡座で座り、クッションを抱く。包まれている感じがして落ち着く。スマホを操作して尿結石の情報を調べたり経験談や記事を読む。叔父さんの言っていた事と似たような話が多い。そして、やっぱり食生活改善が一番の対策のようだ。


「ふーっ」


 情報過多で少し疲れたので、ネイルアートの写真を見ながら簡単そうな物の画像をダウンロードしていく。他にも、スイーツや服なども見て、ダウンロードしていく。


 ――――ガチャッ。


「あら、おはよう。何してるの?」

「カリメアさんおはようございます」


 スマホを新しくした話をする。


「そんな事が出来るのね!」

「それで、古い機種が浮くので、カリメアさんにあげようかなって」

「……いいの?」


 いいのだ。古すぎて充電はあまり持たないし。認証カードが無いので、操作は写真を写したり、見たり、入っている音楽を聞いたりしか出来ないけど。


「それで、今までのアステルとイオの写真は複製して入れてます。カリメアさんが好きだったり、開発に役立ちそうな物の画像も入れてます。今はネイルアートの見本用に画像をダウンロードしたのも入れました。あとは何か欲しい画像あります?」


 画像ファイルを編集して、『家族』『下着』『服』『お菓子』『ネイル』などをバウンティにフィランツ語で入力してもらい、時間がある時にダウンロードし、それぞに振り分けていた。


「もう! 何て素敵な贈り物かしら! ありがとう」


 カリメアさんが少し潤んだ瞳でニッコリと笑い、抱き締めてくれた。抱き締められる感覚に物凄く安堵感を覚えた。

 カリメアさんに旧スマホを渡し、私のスマホに画像が溜まったら複製なり移動なりさせるという事で話が纏まった。


 ――――コンコンコン。


「ゴーゼル様とバウンティ様がダイニングに来られました」

「あら、直ぐ行くわ」


 カリメアさんが、「んふふ」と笑いながらポケットにスマホを入れていた。喜んでもらえて良かった。




「今日は十時に王城に行くように言ってるわ」

「ん。時間あるからカナタと散歩してくる」

「九時半には戻って着替えなさいよ?」

「はーい」


 バウンティと並んで王都内を歩く。


「どこ行くの?」

「近くに植物園がある」

「ふーん。アステルとイオとも行きたいね?」

「……今は二人の時間だろ!」

「怒らなくても良いじゃん…………ただ話しただけなのに……」

「っ……すまない。ちょっとイライラしてた。静かな所で落ち着いて話したいんだ」

「わかった…………」

 

 それからは何も話さず、ただバウンティについて歩いた。

 十分ほどして、小さな庭園風の場所に着いた。門を潜り、植物園に入ると、石畳の両側が低いバラの生け垣になっており、まるでバラに誘われているかのような雰囲気だった。

 道に沿って歩いて行くと、白い鳥かごのような東屋が見えてきた。柱にはぎっしりと様々な花の彫刻が施されており、そこに蔦が絡んで所々に本物の花が混じっている。


「うわー、幻想的だね。あと、空気が甘い」

「カナタ……座ろ?」

「うん!」


 東屋にバウンティと並んで座る。どこからか鳥の声が聞こえて来た。鈴の音のような綺麗な鳴き声で心が洗われるようだった。


「カナタ――――」

「シッ! ね、あそこ! 緑に白い斑点の鳥がいるよ。名前なんだろ? 綺麗だね」

「カナタっ!」


 バウンティが大きな声を出したせいで鳥が飛んで行ってしまった。

 

「あっ、もー! 逃げたじゃん……」

「カナタ……頼むから、避けるな」

「避けてないよ。一緒にいるじゃん」

「カナタ、目を合わせてくれよ。話を聞いてくれ。昨日の事、話したいんだ」

「……気にしてないからもう忘れて?」

「俺は気にしてる。傷付いたよな? 途中――――」


 ――――ガタッ。

 

「ね、植物園の中、もっと見たいよ。歩こ?」


 立ち上がって、バウンティに手を差し出す。手を繋いで歩きたい。


「――――途中で寝てごめん!」

「言わないでって! 思い出させないでよ!」

「怒ってたんだろ?」

「怒ってないもん。聞きたくないの。思い出したくない……。仲良し夫婦させてよ! 手を繋いで、楽しく歩いて、デートして……愛し合ってるって気分にさせてよっ!」

「気分じゃないだろ、昨日も愛し合ってたじゃないか! 真実だろ?」

「…………私の中の真実は違うもん」


 夜の営みの最中に夫に寝られた妻。魅力が無い妻。それが私の真実だ。


「違う!」

「違わないでしょ?」

「聞いて……お願いします。傷付けてごめん。弁明……させてくれないか? カナタ、こっち見て?」


 何も聞きたくないのに、バウンティが話そうとする。何で解ってくれないのか。弁明も言い訳も説明も、バウンティが楽になるだけだ。真実は何も変わらない。


「帰る! 先に帰ってるから!」


 走って走って、シュトラウト邸に戻る。

 ゼーゼーと息を切らしながら部屋に駆け込み、ワンピースに着替えてゴーゼルさんを探す。メイドさんがサロンにいると教えてくれた。


「ゴーゼルさん、私、先に王城に行ってます!」

「カナタ? バウ――――」


 ――――バタン。


 王城まで走った。車で五分ほどの距離だが、徒歩になると思いの外遠かった。しかし、走るのに集中して頭を空っぽには出来た。

 早く子供達に会って癒されたい。




 なかなか話を聞いてもらえないバウンティ。


次話も明日0時に公開です。

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