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54、バウンティと私。

 



 ヴァレリー夫妻とミレーヌちゃんを送り出してご飯を食べた。気が付けば二時だった。イオは疲れたのか食べて直ぐにお昼寝してしまったので、私とバウンティは部屋で普段着に着替えようとしていた。


「何か……懐かしいな?」

「何がぁ?」


 バウンティに背中を向けファスナーを下ろしてもらう。


 ――――チュッ。


「ちょ! 誰がキスしろって言ったよ!」

「んー、カナタの首筋が言った」

「言って堪るか!」


 そんな所に口があったら怖い。


 ――――あ、何かそんな漫画あったな。うん、怖い。


 そんな想像をしていたら、気が付かない内に見事に全て脱がされていてびっくりした。変な技術ばかり長けているのは気のせいだろうか。


「三人は何時に帰ってくるかなぁ」

「ん、それ次第では出来るな!」


 ――――出来ねぇよ。


 馬鹿なバウンティは無視して下着を着けて、服も着た。




 ゴーゼルさんの執務室を借りて医学書を読み上げ、バウンティに書き取ってもらう。絵だけは私が書いた。


「あー、頭がぐるぐるする。糖分が失われていくー」

「ん? もう五時だな……イオは?」

「あれ?」


 子供用に借りている部屋を覗くがベッドは冷たくなっており、ずいぶん前に抜け出したようだ。一階に下りて探していると、キッチンで見付けた。どうやら、フリードさんのクッキー作りを手伝ていたらしい。


「邪魔してすみません」

「いえ、イオ様のご提案で素晴らしき超大作が出来ました!」

「チョータイサクにゃん!」


 ――――にゃ、にゃん!? 萌え的な?


「カナタ様はストライプやチェック柄のクッキーを作られてますよね?」

「? はい」

「それを作ろうとしていましたら、イオ様が可愛い柄がいいと言われるので――――」


 サッと差し出された布の掛かったお皿を見る。イオが「じゃじゃーん」と言いながら布を外した。それは、丸形のクッキー。地は白で、中心の柄はココア味。

 その柄は、黒猫の頭のシルエットだった。


「なにこれー、超可愛い! クオリティ高っ。売れそう!」

「イオ様と頑張りましたから!」


 金太郎飴の要領で作ったらしい。凄すぎる。しかもテンション上がったらしく、反転させた白猫バージョンも今焼いているそうだ。


「がんばった! ね、ママ……これね、ミレーヌちゃんにおくっていい? もう、そういうのしたらダメ?」


 不穏な空気に気付いてたのだろうか。妙にソワソワしている。


「ミレーヌちゃんから何か言われちゃった?」

「あんまりね、あそんだらダメっていわれた、っていうの。ぼく、じょーいだからダメなんだって。じょーいってなに? じょーいじゃないになるの、どうやったらできる?」

「むーん。上位? それはもう関係無くなったよ。イオはどうしたい?」

「かんけーあるよ! だってダメっていうもん」

「さっきママ達、お話ししてたでしょ? その時に上位なのは関係ないよ! ってお話ししたの」

「ほんと?」

「ん、本当だ」


 ――――サクサクサク。


 もう食べてやがる。


「ねぇ、イオはどうしたい?」

「ぼくね、ミレーヌちゃんすきなの。いっしょにいたい」


 もじもじとしながらも、ちゃんと言ってくれた。


「うんうん。そっかー。頑張れー。ママはホーネストさん貸してあげるしか出来ないけど、応援してるぞー!」


 イオを抱き締めて、ほっぺにムッチューとキスをした。ぷにぷにほっぺのイオ。もう赤ちゃんじゃ無いイオ。好きとか嫌いとか、色々芽生えて、笑って泣いて。どんどんと成長してるんだなぁ。とそんな事を考えていたら目頭が熱くなってしまった。


「ハァ、情緒が不安定だぁ。ちょっとの事で感動しちゃう……」

「ん」


 バウンティにぐりぐりと頭を撫でられた。真顔で。感情が読めない。


「バウンティ? どうかした?」

「ん、腹減った」


 確かに。なんやかんや話していたらもうすぐ六時になりそうだった。三人はまだ帰って来ないのだろうか。イオに貸したホーネストさんが戻って来たので、ゴーゼルさんに送ってみる。


「ただいまー。ゴーゼルさんからね『むぉ、すまんすまん、カリメア達が白熱しておってのぉ。夕食もこっちで済ませそうな勢いじゃ。ワシとアステルだけでも先に帰るかのぉ?』そんでアステルから『やだ! アステルおとまりする!』で、ヘラちゃんから『今日は私と寝ると約束したのだぞ! 今!』だって」

「ふぉぉい。皆自由だなぁ。どーする?」

「いんじゃないか?」


 ですよねぇ。お泊りとかシュトラウト邸の感覚で言ってそうだけど、王城って解ってんのかなぁ。まぁ、解ってるんだろうなぁ。まぁいいか。


「ぼくもおとまりする! ヘラちゃんにいってきて!」

「行ってきまーす」


 ――――って、勝手に送ってるし。


「ただいまーヘラちゃんから『おー、良いぞ! イオも参れ!』ウォーレン様から『ならば、車を向かわせよう。支度して待ていてくれ』で、カリメアさんから『あら、じゃあ、イーナがついて来なさい。ついでに纏まった分の仕事を手配して頂戴』だってよ」

「全員に『はーい』でお願いします」


 急遽お泊りの準備をさせ、置いて行っていた分の図鑑も持って行くとの事なのでイーナさんに持ってもらう。

 バタバタと送り出して静かになった玄関ホールに二人佇む。フリードさんに二人分の食事をお願いしてのんびりと食べた。




 ――――バタン。ガチャッ。


 部屋に戻るとバウンティが後ろ手でカギを閉めてしまった。解ってはいたけど何と言うか、解り易すぎる。バウンティの前に立ち見上げると、妖艶な顔をして舌で唇を舐めずっていた。


 ――――チュッ。クチュリ。


「……ん、っはぁぁ」


 ヌルヌルと舌を絡め合うキス。少し離れてはまたくっ付きながら服を脱ぎ、徐々にベッドへと移動した。


「んっ……」

「久し振りだな?」

「我慢してた?」

「んー……楽しみにしてた」


 バウンティが嬉しそうに頬擦りしてきつく抱き締めて来る。ニコニコだ。

 二人でクスクスと笑いながらイチャイチャして愛を深め合っていた。


「ハァハァ……バウンティ、もぅだめっ――――」

「……」

「…………バウンティ?」

「……」


 ――――は?


 愛を深め合っていたハズだ。ただただ、呆然となってしまう。理解が追い付かない。


「バウンティ? ねぇ……起きてよ…………」


 バウンティからの返事は無く、規則正しい寝息だけが返って来る。安心しきった寝顔だった。

 完全に放置された私は悔しいようで、悲しいようで。色んな気持ちがない交ぜになり、少ししょんぼり……意気消沈というのが一番近いのかもしれない。

 バウンティに布団を掛け、私はシャワーを浴びに行く。




 ――――シャァァァ。


 サッとシャワーを浴びて服を着て部屋に戻った。

 バウンティはベッドの真ん中で幸せそうにスヤスヤと眠ったままだった。何となく一緒に寝るのが嫌で、枕と毛布を一枚持って床で丸まる。

 ミノムシのようになって顔を隠した。


「カナタ? カナタ!?」


 バウンティに揺すられているようだが、無視して更に丸まる。


「カナタ、出ておいで?」

「……」

「カナタって! カゼ引くぞ? ったく! 何で床に寝てんだよ!?」

「……バウンティ」

「ん?」

「今は放っておいて」


 ――――グイッ。


 バウンティが毛布を無理矢理引っ張ってくる。毛布をほどかれないように必死に抵抗した。


「カナタ、抵抗するな…………ほら、危ないから。怪我するぞ?」

「じゃあ、バウンティが止めてよ! 触んないでっ!」

「何で終わったらそうやって逃げるんだよ!?」


 ――――逃げたくもなる。


「カナタって!」

「…………終わってない。おわって……っなかったぁ」


 途中でバウンティが寝てしまった。興奮して、息を乱して、懇願した私だけが取り残された。


「カナタどうしたんだ? 何か嫌だったのか?」

「…………バウンティは? 疲れた? 嫌だった? 私じゃ……もう無理だった?」


 聞いていて辛い。そもそも途中で寝るって事は……だ。結局の所、つまらなかったのだろう。夫婦生活がつまらない。途中で寝るほどに。


「バウンティ。バウンティ…………こんなに好きなのは、恋しいのは、私だけなのかな?」

「は? どうした? 何かあったのか?」

「…………途中で寝ちゃうほど駄目だった?」


 バウンティがポカーンとして、口を半開きにして、虚空を見詰めている。

 そして、徐々に真っ青になり、目が挙動不審な動きをし出した。


「カナタ」


 バウンティに抱き締められ、背中をゆるゆると撫でられた。


「カナタ、ごめん。俺、途中で寝たよな?」

「……うん。あの…………」

「ん、何だ? 頼む、言ってくれ!」

「もうね、しなくて良いからね? ……ごめんね…………ごめん――――」


 しんどいし、眠い。もう、寝てしまおう。寝て忘れて、明日は仲良し夫婦をしよう。




 寝落ちの代償は?


次話も明日0時に公開です。

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