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51、世の中よ道こそなけれ……。

 



 ヴァレリー夫妻もサロンに到着してしまった。ゴールのビジョンが全く見えないままに話し合いが開始されようとしている。


「ハァ。取り敢えず、四人は自分の席に戻りなさい」


 王様の指示で動く。バウンティが迎えに来てはくれたが、未だに一言も喋らずだ。今朝のご機嫌な態度はどこに消えたんだ。まぁ、私が消したんだけども。

 ウォーレン様は一人で自分の席に。エズメリーダさんはダニエレくんにエスコートされて王族側の席へ、その後ダニエレくんはヴァレリー夫妻の横に移動した。


「先ず、何から話し合うべきか……エズメリーダよ、カナタをなぜ呼び出した?」

「色々な理由がございました。お父様のご病気のお加減が思わしくなさそうだと聞いて、私は何が出来るかと。以前から家庭を持って落ち着いて欲しいと言われておりましたよね? そう思える相手が出来ましたので、カナタに協定書の見直しをお願いしたく――――」

「ほぉん、ならばなぜ身内に相談しなかったのかしら? 先ず話しを通すならそちらでしょう?」

「……はい。カナタには友人として相談をしたかったのです」

「カナタがチョロいから、カナタに言っただけでしょう? 年に数回のやり取りで何が友人よ。あれだけの事をしておいて、図々しい事っ! そもそもこの子は書いてないでしょ!」


 全員がザワっとした。


「はい、代筆なのは知っておりますし、皆様が内容をご覧になっているのも承知しております」

「その代筆が目的だったのではなくて?」

「カリメアさん! 話の主軸がずれてます!」

「ずれてないわよ! 代筆はバウンティよ? バウンティの物を何でも欲しがる馬鹿王女でしょうが!」


 そんなハッキリと。しかも、ダニエレくんの前で。


「はい。その、初めは……嬉しかったのは間違いないです。ですが、今その話しは関係ありません。私は将来の事を考え協定書の見直しをお願いするためにカナタに会いました。それ以外の目的はありません」

「エズメリーダよ、私は家庭を持って欲しかったが、その様な下位の者を王族に迎え入れるのは許可出来ぬ」

「降嫁で構いません。ダニエレと共に生きます」

「っ……他国でも良い、せめて伯爵家辺りから――――」

「王様! それって、エズメリーダさんが好きでもない人と結婚になってもいいみたいな感じがするけど? 娘は政略結婚の道具なわけ? エズメリーダさんより家名が、地位が大切?」


 そりゃあ、ここはそういう世界ですけどね。


「そういう訳では無い。降嫁ならば、シルバーの準男爵家になるではないか。生活苦になる事間違い無しではないか!」

「お父様、ダニエレは準男爵家を継ぎません。弟君が継承出来る年齢になったら、騎士団を辞め一般の市民に戻る予定です」

「なっ、お前はそれに付いて行くと申すのか!?」

「はい、そう出来ればと願っております」


 ――――あら、格好良い。


「っ、それはウォーレンも承知していたのか? ウォーレンっ!」

「はい。何となくではありますが、そうなるだろうと感じておりました」

「なぜ私に言わぬかっ! 私は、私は……父親なのだぞ…………」

「申し訳ございません! 二人が想いを寄せ合っているのを悪戯に広めたくはありませんでした。それに、まだ結果が出ていませんでした。本人達がゆっくり歩み、考え、決める時間を与えてやりたかったのです」

「お兄様っ……ありがとう存じます」


 ウォーレン様は相変わらず優しい。


「! ならば、まだ結婚などの段階では無いのだな?」

「陛下、現実を見てくださいませ。先程ダニエレが婚約したと言っておりましたが?」


 カリメアさんが根掘り葉掘り聞いてた時に言ってたね。王様は腹痛で意識でも飛んでたのかな?


「はい、先程ダニエレの求婚をお受けしました」

「…………勝手にか」


 王様のぐったり具合が酷い。気持ちは……解るような解らないような。……解らないかな。


「ところで、ヴァレリー夫妻がカナタに近付いたのは、実は息子を後押しするための可能性が出てきましたが?」

「このような状況では何を言っても、保身や言い訳にしか聞こえないでしょうが、完全に偶然でございます。その、失礼かとは思いますが……ミレーヌにはバウンティ様ご家族に近付かないで欲しいとさえお願いしていました」


 ――――マジか。


「すいません、ダミアンさん。私、何かしました?」

「いえ、その、地位が遠すぎて釣り合わないと言うのが大きな理由です」

「カナタ、ローレンツと王都じゃ感覚が違うと教えただろうが」

「うん。でもね……船で、楽しかったの。お友達に…………なれたと思ってた……違ったのかぁぁ」


 ヤバい。ちょっと本気で辛い。凄く楽しかったのは私だけだったのか。イオはそんな理由で友達とお別れしなきゃいけないのか。

 ぐるぐる考えていたら、段々と悲しいよりイライラになってきた。


「まぁそうよね、流石に偶然よね……」

「っ、取り敢えず! こっち決めてからにしましょ! 協定の話っ! 私は協定書の完全破棄を要求します!」

「何を苛ついてるのよ。それから、私は反対よ」


 カリメアさん、速攻で反対。

 ゴーゼルさん、渋々? 小声で反対。

 バウンティ、暫しの沈黙からの重低音で反対。

 王様、さくっと賛成。

 フォード様、一部変更なら可。

 キャシー様、速攻で反対。

 ウォーレン様、普通に賛成。

 サーシャ様、ウォーレン様を睨みながら、速攻で反対。

 宰相、悩みつつの一部変更なら可。

 

 圧倒的に反対が多い。どう考えても全撤廃は無理そうな気がしてきた。しかし、ここで諦めるのは私じゃない!


「なぜ反対なんですか? この五年間、エズメリーダさんは耐えて来ましたよね? フォード様と宰相さんは一部変更ならと言われましたがどの部分でしょうか?」




『協定案


 一、エズメリーダについて。


  ・バウンティの如何なる名前も口にしない

  ・バウンティとカナタに自ら話しかけない

  ・バウンティとカナタ、それに関わる全ての人物の情報を故意的に入手しない

  ・バウンティとカナタ、それに関わる全ての人物の命を脅かさない

  ・バウンティとカナタ、それに関わる全ての人物に復讐をしない

  ・バウンティとカナタ、それに関わる全ての人物への企みに出資、資金提供をしない

  ・バウンティとカナタ、それに関わる全ての人物が不快に思うような行動を起こさない

   ※カナタの主観による。


  ・居住は王城自室、日三十分の運動以外は自室軟禁、室外に常時見張りを付ける

  ・私財は凍結、使用の際はフォード、キャシー、宰相の承認を得ること

  ・面会は基本禁止、面会人は前記と同様の三名の承認を得ること


 以下略』




「先ずバウンティの名前、話しかける、軟禁、面会禁止の項目の取り消しであろうか」

「私もフォード様のご意見と同じでございます」


 確かに、それが妥当な所かもしれない。


「反対のキャシー様はいかがですか?」

「私は、基本的にエズメリーダ様を信用しておりませんので」


 ズバンと言い切られてしまった。


「サーシャ様も、ですよね……」

「えぇ。私は未だに許せませんわ。エズメリーダ様の軽率な行動がウォーレン様をどれだけ苦しめているか! 子供を抱き上げられないと辛そうに仰るくせに、何を賛成してますの!」

「もうすぐ六年になる。私は前に進みたいのだ」


 ――――うん。進みたい。


「私はカナタに聞きたいですわ。何を考えてますの? ゴーゼル様やカリメア様まで使って勝ち取った協定でしょう? なぜお二人の好意を無にしようと?」


 キャシー様の視線が痛い。痛いと感じるって事はやましいんだろうか? 違うと思いたい。申し訳無くは感じている。


「思い出して欲しいんです。私は元々話し合いに来ただけでした。そもそも協定書は不本意だと言ったはずです。あの時は自分達を、未来を守る為に行動しました。ご尽力には感謝しきれません」

「……で?」

「今、エズメリーダさんが未来を見てます。他人を気遣ってくれます、子供の誕生を喜んでくれて、好きな人が出来て、悩んで、友人に相談しようと思ってくれたんです! 私、エズメリーダさんと友達になれたんですよ? あれだけ歩み寄れなかったのに。ぶっちゃけ、嫌悪さえしてたのに。今まで、色んな事話したんですよ? 知ってますよね?」


 バウンティ、ゴーゼルさん、カリメアさんには内容を公開している。


「こちらは……フォード様とウォーレン様が、検閲していましたね」

「エズメリーダとカナタの許可は取っていたし、お前達は『他人の手紙を覗くなど趣味の悪い』と見なかったではないか。クッキーやケーキだけは食べていたが!」


 食べてくれてたんだ。そこは良かった。


「クッキーは関係無いでしょう!」


 ――――確かに!


「二人は親友と言っても良いほど色んな事を話していた。色々と言い合ってもいたが。まぁ、重大な事からしょうもない事も含めな」

「うむ。私はそれで一部変更なら大丈夫だろうと判断した」

「こちらはどれだけ情報を漏らすんだと気が気じゃありませんでしたけどね」


 カリメアさんがむすくれている。何となくちょっとだけ機嫌は上に向いたような気がしなくもない。

 キャシー様が少し笑いなが教えてくれた。


「子供達はカナタの近況が聞けて楽しそうでしたけどね。フォード様も子供達と話す機会に使ってはいましたが」

「あれ? 仲悪いまんま?」

「ふふっ、思春期なだけよ」


 良かった。あの時の八つ当たりの効果が続いていたのかと思った。


「エズメリーダはどう考えている?」

「私はカナタの優しさに付け込みたくは無いです。ですが、私も未来を見て良いのであれば、ダニエレとの未来を見たいのです。どうか、皆様、協定書の見直しをしては頂けないでしょうか。そして、婚姻をお許し頂けないでしょうか? お願い致します」


 エズメリーダさんが立ち上がって深々と頭を下げた。ダニエレくんが慌ててエズメリーダさんの横に来た。


「陛下、私は爵位さえも無くなりますし、戻る予定の商店も、物凄い売り上げがあるわけでもありません。ですが、エズメリーダ様と共に歩みたいと思っております。貧しかろうと、地位が低かろうと、幸せだと笑顔にしてみせます。エズメリーダ様を心から笑わせたいんです。エズメリーダ様を笑顔に出来るのは私だけだと自負しております!」


 またもやエズメリーダさんがシュボボボボっと真っ赤になった。凄く照れてる。そして、こっそり手を繋いでいる。何か可愛い。

 そして、懐かしい。好きな人からこんな事言われたら天にも昇る気持ちになる。飛べそうな気分になる。飛んでしまわないようにバウンティの手を取って繋いでみる。

 バウンティの右手に力が入ったので見詰めてみると、小声で「本当に全部許すのか?」と聞かれた。今更何の確認なんだと謎めきつつも頷いて返事をすると、大きな溜め息を吐かれてしまった。


「俺も、全破棄で構わない」

「ほんじゃぁ、ワーシもっ」


 まさかの日和見なゴーゼルさん。


「「なっ……」」

「アナタ!? なに考えてるのよ!」

「別に。男がここまで見栄を切って言っとるんじゃ、応援したくなっただけじゃよ」

「馬鹿じゃないの!? この子達や孫達の命が掛かってるのよ!」


 それは、あの頃はそうだったかもだけど。今は……。


「カリメアさん、今は違います!」

「何でそう思うのよ」

「……勘?」


 物凄く大きな溜め息が至る所から聞こえてきた。


「えぇっとぉぉ……今までに築いた信頼関係!」

「勘なのね?」

「……へい。何か大丈夫。今のエズメリーダさん好きだし」

「ふふふっ。私もカナタが好きよ」

「ほらー! ほらー! 仲良しだもん!」

「必死か」

「必死だよ!」

「ははっ。俺もちょっと好きになりました。棚ぼたの地位のくせに偉そうな態度は嫌いだけど」

「ダニエレ! もぅ、勘違いなのよ!」

「えー?」

「えぇー?」


 何を勘違いなんだろうか。


「何でカナタまで謎そうなのよ。もーっ」

「や、バウンティと結婚して地位を得ただけの外国のホロゥですし?」

「貴女まだそれ言ってるの?」

「自力でプラチナまで行っとるくせにのぉ」

「や、お断りしましたし」

「言っとくけど、貴女が一番お金持ちよ」


 何を言ってるのか意味が解らない。何だお金持ちって。私の財布に金貨五枚くらいしか入ってませんけど? 隣の人のポシェットには白金貨がごろごろ入ってるけどね。


「言っとくけど、財布の中身じゃ無いわよ。プレートの中身よ」

「中身……見たことありませんし」

「は?」

「いや、何か怖くて」


 馬鹿なのかと言われたが、馬鹿なんだと思う。


「何でプラチナ断ってるんすか?」

「いや、意味わかんないじゃん? 私、何もしてないし」

「「相変わらずね……クスクスクス」」


 キャシー様とサーシャ様が同時に笑い出した。

 この二人が笑い出したら何とか行ける気がする。カリメアさんも普通に話してくれてるし。


 ――――頑張れ私! やれるぞ私!




 自分で自分を鼓舞しないとめげそうなカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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