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5、満ち満ちている

※性的表現あり。苦手な方はご注意下さい。

 



 バウンティが颯爽と子供達を抱えて走って消えて行った。

 行ってらっしゃいとか、ハグとかキスとか全部すっ飛ばされた。


 ――――酷くないかな?


「ハァハァ、カナタ!」


 全力で走って帰って来たらしい。チラリとバウンティを見て、取り敢えずお皿洗いを再開する。


「カナタって! 俺の時間っ!」

「煩いなぁ。二人に『いってらっしゃい』も言わせてくれなかった人の我が儘なんて聞きません!」

「怒った? もっと!」

「馬鹿!」


 ――――ほんと、馬鹿。ニコニコしてちょっと泣いちゃってるし。


「我慢してたの?」

「っ……あいつらの前で泣いたら駄目だろ」

「サイキョーのパパだもんね?」

「ん」


 お皿を洗い終え、手を拭いていると担がれた。久し振り……でもないけど、コレに文句言うのは物凄く久し振り。


「すぐ担ぐなー。ご飯食べたばっかでオエッてなっちゃうよ!」

「ん」


 お姫様抱っこに変えられた。




「カナタ……何で抵抗してるの?」


 バウンティが洋服をグイグイと捲ろうとするので、裾を必死に引っ張って脱がされないようにしていた。


「だ……だって! ()()!」


 チラリと頭の横を見る。

 キッチンから主寝室のベッドに抱えて連れてこられ、軽くキスした後『ちょっと待ってろ』と言われたので素直に待っていた。

 部屋の外から何かを持ってバウンティが戻って来たと思ったら、バサバサと頭の横にその()()を放られて気付く。

 避妊具だった。

 大切だ。間違いなく大切なのだが、十個以上あるのが不安で堪らない。

 バウンティに視線を戻し確認する。


「適当に持って来ただけだよね?」

「ん、大丈夫。足りなかったらまた取りに行く」


 ――――違う!


「えと、こんなにいらなくない?」

「…………どういう意味だ」


 急に問題を出された。


 一、夫婦なんだから避妊具はいらないよ。

 二、三人目が欲しいから使わないで。

 三、ゆっくりねっとり濃厚なのがしたいから。

 四、こんなに使うのかと、ワクワクで気が気じゃない。


「選べ」

「いやいやいやいや、バウンティの希望的かつ妄想的な選択肢しか無いじゃん!」

「選べ!」

「……五番。お手柔らかにお願いしますんぶっ……っん」


 言い終わると同時にか噛り付くように唇を重ねてきた。


「んっ…………っ……」

「カーナタ、ソレはもうお仕舞いだろ? ちゃ・ん・と・言・え・よっ!」

「っあ……ソレしないでっ!」


 スタッカート効かせて動きを合わせないで欲しい。頭がおかしくなりそうだ。


「んっ、もっと! もっと鳴いて。押さえた声はもう嫌だ」

「っ……だから最近…………しなかった?」

「……ん」


 ここ一年間、バウンティの思春期が終わったように静かだった。終わったんじゃなくて我慢してただけだったようだ。


「バウンティ、愛してるよ。最強の旦那さんっ」


 笑って気持ちを伝える。

 幸せそうに頬を紅潮させて微笑むバウンティが愛しい。汗ばむおでこを撫でてそっとキスをした。




「……バウンティ」

「ん?」

「ずーっと、いっぱい、我慢してたよね?」

「ん! ずっとしたかった!」

「っ……そっちじゃない!」


 キラッキラの笑顔で答えられたが、意味が違った。


「えーっと、話す方ね」

「ん。ちょっとな、辛い時もあったけどな、カナタは頑張ってたろ? いっぱい笑ってさ、身振り手振りで伝えてくれてたからさ……なんとかなってたな」

「なってた? あの子達に辛い思いさせてたのに? 私の我が儘で……泣かせてたんだよね?」


 バウンティが、少し気まずそうな顔をしているのでやはり三人に辛い思いをさせていたのだろう。

 私には言わないようにしてくれていたんじゃないだろうか。


「あのな、結構前なんだがな――――」


 バウンティが私の頬を優しく撫でながら話してくれた。

 以前、スマホでかぁさんとビデオ通話した後、子供達が写真を見たがったので、バウンティがリビングで見せてあげていたらしい。ちなみに、私はキッチンで何かしていたらしい。

 写真を見せていたら、指が当たってムービーの再生が始まってしまったらしい。それがまさかのバウンティが隠し撮りしていた、私がキッチンで歌っているムービーだったらしい。

 

「そんなのあったっけ?」

「……俺のファイルの中に」


 数年前、バウンティのお気に入りのキス写真などを私が消そうとした事でケンカになり、メモリの中にバウンティ専用ファイルを作ってあげた。私はその中を見ないと約束したので、本当に見た事が無かった。

 その中にムービーも入れていたらしい。


「…………」

「だって……」

「だって?」

「…………俺の宝物なんだ」

「そぅ。それで?」


 アステルもイオも興奮してしまい何度も見たがったらしい。私が病気になる前のムービーだと教え、私がムービーの存在を知ったら泣いてしまうから内緒にして欲しいとお願いしていたそうだ。


「アステルがな、その歌を覚えてるって言ってて、イオが聞いたこと無い、ズルいって泣いたんだ。でもそれ以来、見たいとか言って来なかったから……」

「放置してた?」

「っ……あぁ。イオに泣き叫ぶまで我慢させてたのは俺なんだ」


 バウンティが罪悪感に苛まれたような顔をしている。可愛くて頬を撫でると少し嬉しそうに微笑んでくれた。


「イオにも、ちゃんと、いっぱい、謝るね。これからは、いっぱい歌ってあげるよ」

「責めて?」

「ヤダよ。一番頑張ったバウンティはもっと誉めて可愛がるの!」


 ――――チュッ。


 色々思わなくも無いが、一番酷いのは私なので何も言わない。これからは楽しく騒いで、溢れるほどの愛を伝えたいのだから。


「可愛がってくれるのか?」


 何故か夜の帝王が降臨なすった。

 バウンティが起き上がってドーンと見せ付けてくる。


「くち。昔、約束したよな?」


 ――――した覚えは無い。全く無い。一ミリも無い!


「カーナタ? 真っ赤だぞ。どうした?」

「やくそ、く…………してない」

「するか、しないか、で言い争った時、カナタがギブアップしただろ?」

「してない……そんなの覚えてない! 知らないっ!」


 バウンティが私の首の後ろに手を回してニヤリと笑った。このままだと私を引き寄せて……。


「っ……あっ…………やっ」

「ふはっ……うははははは!」


 ――――チュッ。


 爆笑しながら軽くキスされた。何か腹が立つ。


「カナタ、覚悟した? 頑張ろうとした?」

「知らないっ!」

「ねぇ、手でしてよ?」

「っ……うん」

「ハァハァハァ……ん、相変わらず下手くそだなぁ。今はこれで許してやるよ」

「上から? 今は!?」


 ニコニコしながら立ち上がると私を抱えてお風呂場に移動しだした。手に小さな包みを持って。


「あの、お風呂に避妊具は必要無いと思うのですが……」

「念のため、念のため」


 ――――嘘臭すぎる。




「腹減った……」

「お風呂から上がったら何か作るよ」


 湯船で後ろ抱きにされながらの入浴。

 久し振りの密着。離れ難くてのんびりしていた。


「うわっ、手がシワシワ。ふやけちゃったよ。もう上がろ?」

「……ん」


 お風呂から上がり、髪を乾かしていて思い付いた。


「んー、夏前に髪切ろうかなぁ」

「っ…………好きにしろ」

「んんっ? ご機嫌ナナメ? 切らない方がいいの?」

「……髪長い方が良い。色々間違えられないし……」

「そっかー。そうだよねぇ。まだ間違えられちゃうかなぁ」


 短髪少年風の人物が『ママ』とか呼ばれていたらシュールな光景だろうな。


「短いカナタ、凄く好き。物凄く可愛い……」


 バウンティが首筋にキスを落としてくる。


「えー? どっちなの? 選べないからイジケてるの?」

「……ん」


 ――――じゃあ、間を取ってミディアムくらいにしようかなぁ。




 ダイニングでのんびり夕飯。気付いたらお昼はとうに過ぎていた。

 

「ごちそうさまでした」

「ん、洗い物は俺がする。何かおやつ作って?」

「いーよー。フワフワとサクサクはどっちが良い?」

「……フワフワ?」


 訳が解らないと言うような顔で答えられた。

 フワフワならホットケーキをホットプレートで作ろう。


「りょーかい!」


 何を作るか教えないまま材料を用意し、ダイニングに準備していく。

 イチゴジャムとハチミツ、オレンジマーマレードも用意した。


「バウンティー、準備出来たよー!」

「……クレープ?」

「ブッブー! ホットケーキ」

「ん。焼いて!」


 一瞬クレープが良かったのかと思ったがニコニコしているからホットケーキで良いのだろう。

 もっふんもっふん焼いていく。

 リズさんに炭酸水を入れると良く膨らむと教えてもらったのだが、本当に良く膨らむ。


「おー! 本当に、もっふん!」

「凄いな。フワフワだ」

「違うの、もっふん!」

「もっふん? それに何か意味があるのか?」

「……無いよ」


 ただ『もっふん』が気に入っただけだ。バウンティから送られてくる視線が生ぬるいが、良い。子供達にも言わせて仲間を増やそう。


「んまい。チョコレートあったか?」

「あっ!」


 良い事を思い付いた。

 キッチンで少量のチョコレートを溶かし、牛乳で少し伸ばす。ホットケーキの生地に混ぜ込み、茶色の生地を作る。

 ホットプレートに茶色の生地を使ってスプーンでバラの絵を描き、表面がふつふつとなったら、プレーンの生地を上に被せて弱で蒸し焼きにする。

 フライ返しでそっと引っくり返すとバラ柄のホットケーキになっていた。


「おぉー! どうどう?」

「ふはっ。お前はいつも楽しそうだな。で、俺のチョコレートは?」

「……」


 キッチンへ走って行きチョコソースを作ってダイニングに戻った。


「べ、別に忘れては無かったよ?」

「嘘のクオリティが酷すぎる!」


 ――――ですよね。


 二人でのんびり馬鹿みたいな話をしながらデザートを楽しんだ。とても穏やかで、幸せな空気が満ち満ちていた。




 待ちに待ったバウンティ・デー。


次話も明日0時に公開です。

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