48、お久し振りです。
今日は王城に行くのでワンピースだ。バウンティは濃い灰色のストライプスーツ。パリッとしていて男らしい。
「ふひひ。やっぱり格好良いねぇ」
――――チュッ。
「カナタも可愛い。脱がせたい」
「そっちか! 変態めー!」
バウンティのツルツルほっぺをペチペチ叩く。溜め息しか出ない。私の髭は、いっつも私の思い通りにはならない。そういう運命なのだろうか。
――――コンコンコン。
「準備は出来たかしら? 子供達が待ってるわよ?」
「あ、はーい。出来ました!」
慌てて一階のサロンへ向かう。
「あらー、アステルはお姫様みた……リュック持ってくの? あ、イオも?」
「「うん!」」
――――ま、いいか。
「迎えが二台来てるわよ」
「へ? 王城から?」
行く時間が指定されてはいたが、迎えまであるとは思って無かった。
ふかふかシートの送迎車で王城に向かう。
「あ、ほら、あれが城門だよ。パパが壊した時よりちょっと頑丈そうになってるかなぁ?」
「あれー? こわれる?」
「んー……ん。いけるな。もちょっと強化させないとな」
お前以外に壊そうとするヤツとかいるか! とか突っ込みたいけど、一応スルー。
「ん、到着だな」
車を降りて城門から入る。
今回は流石に身体検査を受けた。子供達の荷物も検分され、武器かどうかで一悶着しているとウォーレン様が走って来て「検査はしなくて良いと伝えていたであろう!」と担当の人を叱っていた。
「すまなかったな、ここからは私が案内しよう。てっきり勝手に入って来ると思っていたので迎えを手配していなかった。ははは」
ウォーレン様の先導で庭園を歩く。
「ママー? なんでないてるの?」
「っ……え? あ、ごめん」
「どうしたのだ!? 先程の検査か!?」
「ちが……います。ウォーレン様、お久し振りです。生き、ててくれて、良かった……っ、ひうっ……」
「ママ、ウォーレンわるいひと?」
「アステル、『ウォーレン様』だよ。いい人だよ。会えて嬉しかったの」
涙がなかなか止まらなくて目をグシグシと擦った。
「ふっ、カナタは泣き虫だな。死にかけたのは五年以上前であろうに。私はこの通り元気ではないか!」
右目は眼帯で、右腕は無くて、でも元気と言ってくれる。意識を取り戻して直ぐに私達の心配をしてくれていたそうだ。ヘロヘロの字で手紙もくれた。
「ふべぅ、べんびぞうでびょがったぁぁ!」
「むっ、また泣いてしまったではないか! バウンティ、慰めてやらぬか」
「んー。スーツに鼻水付きそう……ハンカチは?」
「ぶふふっ。テッシュちょーらい」
アステルのリュックからたたんで入れていたティシューを貰う。ポケットサイズのは売ってないので、通常の物をたたんで、手作りのケースに入れている。けっこう便利なのだ。
鼻水をかみ、涙を拭いて歩き出す。
「一応、カナタの希望通りエズメリーダの面会は許可が下りた。カナタだけで良いのか? バウンティは無しにしても、ゴーゼルやカリメアが立ち会わなくて良いのか?」
「二人だけで話したいらしいので、仕方無しに許可しましたわ」
「そうか、妹が我が儘を言ってすまないな。カナタが話している間、サロンでゆっくりしてくれ、キーラやフェイト、我が子らとヘラ様がアステルとイオに会いたがっておるのだ」
「おーじさまと、おーじょさま?」
「うむ、そうだ」
「あそぶー! おもちゃいっぱいもってきたよ!」
王子様と王女様に対して気軽だな。って私もか。
「もちろん、陛下もサロンで待っているぞ」
サロンに入り、カーテシーで挨拶する。子供達もそれぞれにちゃんと挨拶をさせた。
「久しいな、壮健そうで何よりだ」
「陛下もお変わりなく――――」
「ゴーゼルよ、世辞は良い。明らかに顔色が悪かろう」
ちょっと土気色というか、浅黒い。そして、脂汗。内臓系が悪いのだろうか。
「王様、お腹痛い? 背中とかは?」
「あ、あぁ」
「いつから?」
「今回は先週からであろうか」
「へ? 今回は? 何度かあるんですか?」
「うむ、実はな、体内で石が出来る奇病にかかっているのだ」
――――奇病?
「石が出来る奇病ですか……聞いた事がございませんわ」
――――へ?
「あのー、おしっこから石が出てきたとか?」
「う、うむ。知っておるのか!? その方の世界では知られているのだな!? 治療法を知らぬか!?」
「いやー、頑張って排出して下さいとしか……」
「なんと……やはり不治の奇病なのだな……」
「いやいや、食生活に気を付けて、石が出来ないように予防しましょうよ」
叔父さんが酒が飲みたいとグズっていたのを思い出す。
「どのような予防であるか?」
「いやー、覚えて無いですけど。ちょっと、電話で聞きましょうか?」
「カナタ、アレはあっちの控え室で使いなさい」
「はーい」
カリメアさんはスマホを秘匿したいようなので、バウンティと二人で控え室に行く。
サロンでは日本に精霊を送れるようになったとかで誤魔化してくれているんだろう。
「あ、かぁさん。ねー、保弘おじちゃんって胆石だったじゃん?」
『んー、バリン。ボリボリ。だったねー』
「せんべいの音が煩いよ! なんかさー、排出する方法と食べれない物をお正月に会うたびにコンコンと語ってたじゃん? 覚えてる?」
『ボリボリ。オヤツの邪魔してんのそっちだかんね。今年も言ってたよ。えーとねぇ、水は毎日二リットル、麦茶とほうじ茶だったかなぁ、ソレはオーケー。紅茶、コーヒー、酒類はダメ。脂肪分、脂身多めの肉、塩分もだったねぇ。あー……あ、ほうれん草はおひたしなら良いけど焼いたのはダメとか言ってた。あと、ランニングと縄跳びやらされてるって。うわー、覚えちゃってるよ。ずっと繰り返すから食生活を改善しないとなのに、直ぐステーキ食うからヒーヒー言うハメになんだよねー。懲りないよねぇ』
「なるほどー。あ、朝の十時からオヤツって太るよー」
『あぁん! んーだと――――』
――――ピッ。
「ふー、怖い怖い」
「ふははは。ソウコが怖いくせに暴言は吐くんだな」
「この前もめちゃめちゃせんべい食べてたんだよ。塩分超多いのに。もーっ」
「ん、心配なんだな」
サロンに戻ってかぁさんから聞いた話をする。
「――――多分、おしっこの排出が上手くいってなくて、顔色が変なんだと思います。お水いっぱい飲んで下さい。後で良いもの悪いものリストにしますから。今週で、痛くなったの何度ですか?」
「二度である」
「尿路は三ヵ所狭い所があって、三度痛くなる事もあるらしいです。あと、自力で排出出来るのは大豆の一回り小さいもの位までらしいです。それより大きくなったり、どっかに詰まったりしたら本当に命に関わるんで、食生活は本当に見直して下さいね?」
「うむ。主治医、家令とも話し合おう。カナタも医者にその病について説明してくれぬか? どうやって出来ているのか理解が出来ぬ……」
そうか、テレビや叔父さんから見聞きするので、色んな成分がくっ付いて出来るんだ、と普通に知っていて気にもしていなかった。知らなければ奇病にも感じるか。
「分かりました。エズメリーダさんとお話しした後にでも」
「相分かった」
――――王様はこれで良いとして。
「キーラ様、フェイト様、お久し振りです。大きくなられましたね」
「カナタ、お会いしとうございました。あれから随分経ってしまいましたね。その、王都に来て頂けたという事は、父上の事はお許し頂けるでしょうか?」
「キーラ様、とてもお綺麗に、大人の女性になられましたね。そしてお母様に似て聡明のようですね。フォード様とはあれ以来関わっていませんが、歩み寄る事は出来ると思ってますよ」
「そう、良かったわ」
花が咲き舞い踊るように笑顔を綻ばせていた。
「私も大人になったぞ!」
「はい、フェイト様も随分ってか、えらく背が伸びましたね……」
「うむ! カナタはちっこいな!」
「はいはい」
「カナタよ、姉上と扱いが違わぬか!?」
「気のせいですよ」
そう、気のせい。キラキラキーラ様が超可愛いのに、フェイト様はもっさりしたなとか思ってない。
「カナタ、久し振りです。何も変わって無さそうで安心しました」
「ヨウジくん! いや、変わったからね! 子供出来たし、髪伸びたし、胸大きくなったし!」
「「ブフッ」」
笑い声がバウンティだけじゃなかった。誰だちくしょう。
「うん、やっぱり変わり無いですね! それから、こちらが妹のオルガです」
「オルガ様、お初にお目にかかります、カナタでございます。仲良くしてくださいね?」
「……オルガでございます。よろしく……」
人見知りだろうか、目を合わせずにサッと挨拶した後はヨウジくんの後ろに逃げられてしまった。
「カナタ! 会いたかったぞ!」
「ヘラちゃん! ほんと、大きくなったねぇ」
「ママ、ママがいってたおひめさま?」
「そーだよ。綺麗なエメラルドグリーンの髪と瞳でしょ?」
「うん! きれー! うみみたい!」
「ははは、ありがとうな。アステルであったな、カナタは今から面会であろう、私と遊ばぬか?」
「あそぶー!」
「ぼくも!」
「と言う事じゃ、カナタはエズメリーダ嬢と話して参れ」
「ヘラちゃん、ありがとう」
皆大きくなってて、何だか嬉しくて泣きそうになりつつもグッと我慢。
個別に挨拶も終わったし、今はエズメリーダさんに集中しよう。
久し振りに会った子供達は……自分の身長を抜きそうになってるかな。とか思っていたら、ほぼ抜かれていたカナタさん。
次話も明日0時に公開です。




