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47、王都に着いたら先ずは……

 



 王都の港に到着し、船のタラップを降りる。


「あー、この地上が揺れる感覚。面白いよねー」

「「とーちゃーく!」」

「ん!」


 前を歩くバウンティからお花が飛び出ている感じがする。絶対、地上に着いてテンションが上がっているやつだ。


「皆様、お気を付けて。とても楽しい時間でした」

「こちらこそ! セルジオさん、お世話になりました」

「カナタ様、この手紙をカンに渡して欲しいのですが、お願い出来ますでしょうか?」


 ゴーゼルさん達の荷物を運んでいたギルバートさんからカンさん宛の手紙を渡された。


「へ? カンさん? お知り合いなんですか?」

「ええ、以前乗られた時に担当しまして。それ以来、時々手紙をやり取りしてます。毎度、精霊で届けるのも味気ないので」

「ん、結婚式の時か。お前が担当だったんだな」


 バウンティのサプライズの時のか。

 それならばと喜んで預かる。と言うか、なぜに今まで黙ってたのかと思ったら『仕事は仕事』と割りきっているらしい。偉い。

  



 ヴァレリー一家とモナハン一家とも港で別れた。今はタクシー二台に別れて王都に向かっている。

 子供達はゴーゼルさん達と乗りたいとの事なので、今はバウンティと二人きりだ。


「ふぅ、静かだねぇ」

「ん、疲れたか?」

「うーん。かなぁ?」


 そんな話しをしていたらシャラちゃんが飛んで来て途中でご飯を食べるという話しになった。

 途中の町にあった食堂でご飯を食べ、夕方の六時に王都の門に着いた。


「ふあーっ、港から結構遠いんだね」

「王族専用の港はあるんだがな」

「マジで!?」

「流石に使えないわよ?」

「いやいや、解ってますよ!」


 私なら無理を言いそうだと笑われた。

 

「グランパのおうちどこー!?」

「門からはちと遠いんじゃよ、三十分も歩けるかのぉ?」

「ぼくあるけるよ!」

「わたしも!」


 イオとアステルは鼻息荒くやる気に満ち溢れた返事をしていた。ダルいなと思ったのは私だけらしい。荷物はラルフさんが既に王都のシュトラウト邸に運んでくれている。

 



「だはぁ、着いた!」

「相変わらず体力が無いわねぇ」

「いやいや、ある方のはず……てか、カリメアさん、良くそのピンヒールで二人の速度について行けますね」

「慣れよ? それにスピードは子供達に合わせてたじゃない」


 いや、子供達は時々小走りしていた。あれで合わせていたとか言われたくない。普通に歩く人達をガンガン追い抜いてたし。


「お帰りなさいませ、ゴーゼル様――――」


 シュトラウト邸に着いたら、イーナさんに出迎えられた。

 取り敢えずサロンでお茶をもらう。


「イーナさん、冷たいのおかわり!」

「ふふふっ、はい。畏まりました」


 冷たい麦茶をがぶ飲みした。三十分、ほぼノンストップだったのに、やりきった感を出したのは私だけっていう。


「夕食はカンの所に行く予定なんだけど、すぐ行くのかしら? もう少し休憩する?」

「カン!? ヤッター! カレー!」

「よるはカレー!」

「そうなんですか? お腹は減ったんで行きます」

「ん。いっぱい食べる」

「あら? 言って無かったかしら? ごめんなさいね」

「王都に着いたら、先ずはカレーじゃろ!?」


 昨日の事ですっかり忘れていたらし。昨日を考えると仕方ない気はする。ゴーゼルさんの謎の常識はスルー。荷物を準備して出発だ。




 王都のシュトラウト邸を下町に向かって十五分ほど歩いてカンさんの食堂に来た。


「しもた! ここは行列だったな……」

「改装したのは聞いてましたけど、それでも行列になってますね。相変わらず凄いなぁ」


 お店がリニューアルして二倍以上の広さになり、従業員も増え、店長さんはウハウハ、カンさんはカレー作りに専念出来ていると聞いていた。

 だが、店長さんもカンさんも楽しそうにお客さんと話しながら接客もやっているのが見えた。


「相変わらず、下町の食堂感は守られてるんですねぇ。好きだなぁ、この雰囲気」

「そうね、高級レストランくらいの成果は上げているし、そういう風に出しても良さそうだけどね」


 カレーが高級レストランみたいに出てきたら何か笑うかもしれない。まぁ、きっと私ぐらいしか笑わないだろうけど。


「あ! カリメア様! ゴーゼル様も! えっ? カナタちゃんとバウンティ様もいるのかい? もしかして、君達がアステルちゃんとイオくんなのかな?」

「「こんばんはー」」

「久しいわね、繁盛してるようで良かったわ」

「ありがとうございます。すぐに席を用意しますね。カーン!」


 カリメアさんが順番で良いと言ったが、むしろ並んでる人の為に先に入ってくれと笑われた。そして、並んでる人達がブンブンと首を縦に振って敬礼やカーテシーをしていた。夜は下町の人より上位の人達が多いらしい。


「ごめんなさいね。では、お言葉に甘えてお先に失礼致しますわ」


 気まずいが、こういう時は堂々と歩けと言われるので軽く会釈して店内に入る。


「カーン!」

「カン、カレーたべにきたよー!」

「いょーぉ、チビ共! お、イオはいっちょ前にちゃんと話してるじゃんか!」


 取り敢えず席に着いてメニューを見る。

 メニューが色々と増えていた。タンドリーチキン、酢鶏みたいなチキンチリ、三角形の揚げ春巻きみたいなサモサ、餃子みたいなモモ。そして、ラッシーは色んな種類が書いてある。


「うあー、モモ良い! でも何でモモ? 餃子で良くない? サモサも懐かしい! サモサの中身は何ですか?」

「お前、ほんと食い物に関しては優秀だなぁ。脱帽するぜ。実はほぼ餃子なんだけどさ、モモの方が言いやすいってさ。あと、サモサはジャガイモとグリーンピースな。肉なしだ」


 カンさんが褒めているのか良く解らない感想を言っていた。


「餃子は頼むとして、どれも気になるのぉ、全部頼むか」

「ん」

「あ、カナタ、酢豚とかは食べさせた事あるか?」

「あるよー。微妙な反応されたー。私が食べたいからちょいちょい作ってるけど」

「やっぱりか。ゴーゼル様、チキンチリは酢豚に何となく近い味ですが」

「むおっ…………ソレは一人前にしとくか」

「ん! ダメならカナタが食べるだろ」


 人を食欲魔神みたいに言わないで欲しい。


「私は豆カレーとチーズナンにするわ」

「私はシュリンプカレーと、ご飯で!」


 それぞれカレーも頼みワクワクして待つ。


「お、お待たせいたしました、モモで……ございます」


 新しく入った店員さんがド緊張しながら持って来てくれた。


「むおっ、蒸しギョウザは艶々しとるのぉ」


 モモは蒸しと揚げがあったので両方頼んでいた。タレはカレー風味の物と、子供用にとトマトソースを出してくれた。

 サモサはパリパリほくほくでそのままでもスパイシーで美味しい。チリソースを付けても美味しい。


「いやー、カナタが調味料類色々とくれたじゃん? 助かったよ!」

「あ、まだまだ持って来てますから! 食べてから渡しますね」

「おっ、マジか。早く食え!」

「やですー。ゆっくり食べますー!」


 ワイワイと食べる。チキンチリは思いの外大丈夫だったらしく、ゴーゼルさんがもりもりと食べてしまった。

 子供達はチーズナンを楽しそうに食べている。


「もちもちー。ジュドのとちがうねー?」

「あー、まー、一般的なのは教えるけどな。アレンジは流石に秘密だぜ?」


 ゴーゼルさんが追加したナンをテーブルに置きながら、カンさんがウインクしてきた。中身が四十過ぎだと思うちょっとキモい。


「あら、カナタほどチョロくはないのね」

「あはは。流石に料理人なんで」

「私は食べたいだけだからいいんですっ!」


 笑われながらも食べ進める。船の高級料理も美味しかったが、カレーはやっぱり心安らぐ味だ。




 子供達は、ゴーゼルさんとカリメアさんがお風呂に入れて寝かし付けてくれるらしいので、お願いして先に帰ってもらった。

 私とバウンティはお店が落ち着くのをちょっと待ってから、店長さんの部屋を借りてお土産の説明。

 

「先ずは既に渡していた調味料類の追加分と缶詰類です」

「お、蒲焼きじゃんか! ナイスチョイス!」


 こっちの食生活で飢えているラインは私も良く解るのだ。


「お前のお陰でさぁ、豆腐の味噌汁作れて、飲めてさ、マジで泣いちまったよ。やっぱり、麹って偉大だわ」

「麹、凄いですよね、って事で種麹と、醤油と味噌の作り方のプリントです……」

「…………お前」

「や、優しさですよ? 賞味期限過ぎたり、無くなったりしたら悲しいじゃないですか。作れば少しは先伸ばし出来るし?」

「…………お前」

「難しいけど、料理人のカンさんなら……ね?」

「……で、出来たら分けろと?」

「…………お礼として、受けとります……ギャァァァァ」


 こめかみグリグリされた。物凄く痛い。


「チッ。まぁいい。もらったものの金額が半端ないしな。本当に払わなくていいのか?」

「うん。カンさんのご両親もパトロンですよ。買って行ってあげてって色々と指定されてたので」

「……って、フリカケとお茶漬けかよ! 好きだけど!」

「あとね、じゃが○ことぉ……」

「ハイハイ。好きですよ」


 ――――ゴトッ。


「は?」

「DVDプレイヤーとディスク! ライブ全種と、ドキュメンタリー出演の録画と、アルバムも! そして、カンさんが気になってた映画の続編と、新章とスピンオフ。あと、私のおすすめのイギリスドラマとハリウッド映画」

「お前……最高だよ!」


 感極まったカンさんに抱き締められた。流石のバウンティも止めなかった。こういうのは許してくれるらしい。

 そして、やっぱり好きなバンドのディスクを一番幸せそうに眺めていた。

 映画やドラマのディスクは一枚ずつしか無いので貸し借りの約束をする。


「うあぁぁぁ。やべぇ。すぐに見たいけど……コンセント違うじゃねぇか……」

「ふっふっふ……ジャジャーン! 変換器ぃ! 作ってもらったよ」

「マジか! マジでか!」

「あ、あとね、電動髭剃り。何か知らないけどシェーブジェル? も。おじさんからだよ」

「ぶはっ。身だしなみ注意だな」


 料理人的な注意らしい。ローレンツに来た時にはスマホを貸している。ビデオ通話で話していて、髭の剃り残しに注意を受けていたらしい。


「カミソリ、深追いすると荒れるんだよな」

「俺は一気に剃ると痒くなる」

「一気に剃らなきゃいいんだよ?」

「……今日、剃るけどな?」

「何で!?」

「明日は王城だろうが!」

「あぁぁ、しまったぁぁ。カリメアさんが絶対駄目って言うよね?」


 ――――仕方ない。また頑張ろう。


「はぁ、後はぁ……」

「ちょ、やる気無くすなよ!」

「はぁい。ギルバートさんからのお手紙だよ」

「え? あ、船で会ったのか?」

「うん、なぜか下船してから言われた」

「まぁ、特別扱いされたくなかったとかじゃねぇの?」


 そういうものだろうか。取り敢えず、カンさんは嬉しそうだしいいか。それより聞きたい事があった。


「『いでちずる』さんって知ってる?」

「いや?」

「なんかね、『チズール・イーデ』ってお名前で絵本作家さんしてるみたい。王都で。日本人っぽいよね?」

「だな。明日にでも本屋に見に行ってみるよ」


 私達はなんやかんやありそうなので本の種類も確認お願いした。

 渡したい物も、ちらっとお願いも出来たし、店長さん達にも挨拶して店を後にする。

 明日の為に今日は早く寝る事にした。




 そりゃあ、先ずはカレーに決まってます。


次話も明日0時に公開です。

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