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46、王都に到着

 



 恐怖のペナルティ中のゴーゼルさんを部屋に送り届けると、物凄く不機嫌そうなカリメアさんがドアから顔を出した。

 不機嫌と言うか、キラッキラの笑顔なのだが。間違い無く確実に不機嫌だと思う。


「ギルバートは終業でいいわ。御苦労様、部屋に帰りなさい」

「畏まりました。失礼いたします」


 執事のギルバートさんが礼をしてそそくさと隣の自室へ向かった。すれ違い様にチラリと見られ軽く礼をされた。よく解らないけどペコリと会釈してみた。


「カナタ、何してるんだ?」

「へ? ううん。何も?」


 ゴーゼルさんを届けたので、さっさと部屋に帰りたいらしい。

 子供達にカリメアさんにお休みの挨拶をさせて部屋に戻った。




 子供達がサクッと寝てくれて助かった。明日は下船なので荷物を今の内にまとめておきたい。

 ベッドに寝そべるバウンティを無視しつつ、荷物を片付けていたが、バウンティの視線が妙に煩い。


「……」

「何?」

「来いよ」

「終わったらね」


 そう言って片付けを続けた。

 ある程度まとめ終わり、ふとバウンティを見るとでベッドに上半身裸で座っていた。そして、少し元気になってらっしゃった。


「なぜに!?」

「お前、自分の格好を考えろ!」


 普通にタンクトップと寝間着の短パンだが。何に興奮しているのか理解出来ない。


「……いつも通りじゃない?」

「いつも通りじゃない! ブラしてない!」

「…………目ざといな。てか、だから何なの?」

「こっち来い」


 膨れっ面で手を伸ばして来る。まあまあ可愛いので素直に近付くと、抱き締められベッドに寝かされた。どうやらこのままで寝たいらしい。

 甘えたいのか、格好付けたいのか。そんな事を思いつつ目を閉じた。




 ――――チュッ。


「おはようバウンティ。寝間着のズボン脱いで!」

「……積極的だな」

「いや、違うからね? トランクに詰めたいだけだからね?」

「チッ。ほら」

「ありがとー。着替えはそこに置いてるから」

「ん」


 渋々と着替えるバウンティを放置して子供達を起こしに行く。


「アステル起きて」

「んーっ……うん……おきる」

「服はどうする?」

「じぶんで……する」


 グシグシと目を擦りながらも頑張って起き上がって着替え始めたのでアステルは放置で大丈夫だ。

 イオの部屋に行くとバウンティが起こしてくれていた。


「ママ、おはよー」

「おはよう。今日は早起きだったね」

「うん! あのね、おふねつくまで、じかんあるよね?」

「うーん。十二時に着港予定だけど……」

「ゆーえんちで、もいっかいあそびたいの」

「いいよ?」

「ぃやったぁぁ!」


 許可を出すと弾けるような笑顔になり、ベッドの上を飛び跳ねていた。そんなに嬉しいのか。遊園地好きなんだなぁとしみじみと思っていた。


「ママ! ホーネストかして!」


 ――――そっちか!


「デートのおさそいは?」

「おきがえ、はみがき、あさごはんのあと!」

「そうです」


 イオがフンフンと鼻息荒く着替えて歯を磨き始めた。「落ち着いて。磨き残しがあったらもう一回だよ?」と言うと、ピシッと背を伸ばしてゆっくり慎重に磨き出した。イオは恋をプラスの方向に持って行くタイプのようだ。

 後はバウンティに任せてアステルへ報告に行く。


「ご飯を食べたらね、イオはミレーヌちゃんを遊園地デートにお誘いするみたいだけど、アステルはどうする?」

「アステルもフィリップさそうー!」


 アステルはバタバタと走ってダイニングに向かって行った。早くご飯を食べてバウンティからラルフさんを借りるつもりなのだろう。


「「いただきます!」」

「落ち着いて食べなよー」

「ん!」


 返事だけは良いが、妙に早いのでちゃんと噛むように注意したりしていた。

 急にアステルの隣に小鹿が現れて話し出した。


「アステル様にフィリップより伝言で『アステルちゃん、おふねであそべるのはさいごだから、デートしよう? 九じにゆうえんちのいりぐちでまってる!』との事です。お返事はございますか?」


 フィリップくんのお誘いを受けて、アステルが元気よく「わたしもね、ゆうえんちにさそおうっておもってたの! そーしそーあい? キャハハハ! ぜったいいくね!」と叫んでいた。

 バウンティは『相思相愛』に思考回路をぶち壊されたらしく、アホみたいな顔のまま固まってフォークを落としていた。セルジオさんがササッと新しいフォークを横に置いていた。ナイスアシストだ。


「ママ! たべおわったよ! ぼくもホーネスト!」

「イオ、サラダのニンジン残ってるよ?」

「……たべりゅ」


 もっそもそと素直に食べていた。


「たべたよ!」

「うん、よく頑張りました!」


 イオにホーネストさんを渡すと、食事中の私と、食事を中断して放心しているバウンティをチラリと見て「あっちでおさそいしてくるね!」と言ってリビングへ消えて行った。


「もしもーし? バウンティ? 生きてる?」

「……」

「パパどうしたの?」

「アステルがお嫁に行きそうで怖いんじゃない?」

「えー? アステルはね、パパくらいつよいひとじゃないと、けっこんしないよ?」


 ――――なんだその結婚観念。


「んっ!」

「おわっ、ビックリした! 急に大きい声出さないでよ!」

「アステル、俺より強いの探せ。あと俺より大切にしてくれるやつな!」

「えー? パパより、ちょっとはよわくてもいいかなぁー? だって、パパがサイキョーだし!」

「んっ!」

「いやだから、煩いって」


 何か知らないけど浮上したので、さっさとご飯を食べろと怒った。




「イオくん! こちらですわー」


 遊園地の前でミレーヌちゃんが淑やかに手を振っている。横にはフィリップくんも立っていた。


「おはようございます。下船の日なのに朝から申し訳ございません」

「おはようございます! フィリップくんが格好良く誘ってくれたんで、アステルが大喜びでしたよ。そう言えば、皆さんも下船されるんですよね?」


 ヴァレリー夫妻とモナハン夫妻に挨拶しつつ下船の予定を聞いてみると、両家族とも荷物は下船口に預けているとの事だった。私達はまとめはしたが、部屋に置いて来たので取りに戻らないとと思っていたら、セルジオさんが時間になったら下船口に用意してくれるとの事だったのでお願いした。


「しかし、執事付きの船旅も憧れますねぇ」

「あ、皆さんって家には家令さんや執事さんがいるんですよね? 家から連れてくるとかはしないんですか?」

「我が家は先代が家にいますので、家の方を任せています。メイドは一人連れて来ていますが」

「おや、我が家も同じですよ。我が家は先代が長期の旅行に連れて行くなと反対しまして」

「わははは! モナハン家もですか。どこの家も同じなのですね!」


 先代には頭が上がらないらしい。


「そう言えば、シュトラウト家の家令殿も来られてませんね?」

「イーナさんは……船が嫌いだからかな? 前も船は断固拒否で陸路で王都に行ってたんですよねー」

「ん、今回もだぞ? 車貸した」


 ――――知らなかった!


 そう言えば、今回は家に泊まりに来たゴーゼルさん達のお世話をしに来てなかった。何も気になって無かった!


「えっ、船が苦手という理由で同行しないのを許可したんですか? カリメア様が!?」


 ダミアンさんが物凄く驚いていた。どうやらミラさんやモナハン夫妻もそれに同意見のようだった。


「カリメアさん、優しいですよ? 使用人であっても、嫌な事を無理矢理はさせませんし、意見もちゃんと聞いてくれますよ?」

「まぁ、カリメアは嫌々やらせるのは効率が悪くて不毛だって考えなだけだがな」


 それでも、無理強いされないのは優しいと思うのだ。


「やはり、カリメア様は公平で柔軟なお考えの持ち主ですわよ? あの本も、全てが真実では無いにしても、真実は多い気がしますわ」

「あの本?」

「ええ。『とある新聞記者の手記。カリメア様を追いかけて』ですわ!」

「ブフッ……」


 ですわ! と言われても知らないし、バウンティは吹き出すし。

 何かと聞いてみたら、逆に知らない事が凄いと言われた。


「いや、たぶん、ローレンツ市民は知らないぞ。販売日に慌てて差し止めてたからな――――」


 十五年前、カリメアさんを題材にした本が販売されたそうだ。王都から徐々に販売を南下させていき、ローレンツでも王都から数ヵ月遅れで販売されたそうだが、カリメアさんが内容を読んで全差し止めをしたそうだ。

 なのでローレンツではほぼ知られていないが、他の地域では爆発的に売れていたらしい。一家に一冊レベルだったとか。

 

「何で差し止めたの?」

「師匠との馴れ初めとか、デート風景とかが事細かに書かれていてぶちギレてた」

「えっ、あれは……その、事実だったんですか? てっきり、話を盛り上げるための、著者の妄想と言いますか……」

「アレに書いてある『匿名の情報提供者』は、師匠とカリメアの家で雇われてたメイドだ。あの時は師匠、マジでヤバかった」

「離婚的な?」

「命的な」


 ――――おっほい。怖い。


「…………ちょっと、家に帰ったら読み直しましょう」

「あら、いいですわね。私も!」


 ――――ん? と言う事は?


「持ってるんですか!?」

「「はい」」

「読みたい! 見たい! すんごく見たい!」

「……カナタ様が見たと知られたら、怒られませんかね?」

「お前達は大丈夫だろう。カナタは怒られるだろうがな」

「いい、いい! 怒られるの慣れてるし! 怒られるくらいで済むなら読む!」


 全員に笑われた。

 そんな話をしていたら、船内の放送であと一時間程で港に到着だと言われた。

 遊園地内で遊ぶ子供達を回収してセルジオさんにお礼を言う。遊園地でずっと子供達の引率をしてくれていた。


「では、私はお荷物の準備をして参りますね。シュトラウト様にもお伝えしてきます」

「よろしくお願いします! 下船口で待ってますねー」


 セルジオさんを送り出して子供達に荷物を持たせる。


「じぶんでもちますの?」

「うん! ぼくのだもん!」


 ミレーヌちゃんがイオのリュックを見て、何だか羨ましそうだった。

 ゾロゾロと全員で下船口に向かう。

 港がぐんぐんと近付いている。子供達が見たがったので、バウンティが抱き上げて見渡せるようにしてあげていた。

 とうとう王都に到着だ。

 タクシーを捕まえて、取り敢えずシュトラウト家に向かおう。出来たら王都で時間を作ってまた皆と会いたいものだ。




 長かった船旅も終了。


次話も明日0時に公開です。

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