44、誰が悪いわけでも無いと思いたい。
イオが今日の夕ご飯のメニューをセルジオさんに聞いたら、なぜか秘密にされた。
一体何が出るんだろうかとワクワクしてレストランに向かう。
「んー、美味しかった…………あれ?」
美味しいは美味しかった。しかし、特に秘密にされるほどの物は何もなかった気がする。
「本日のデザートはケーキでございます」
「うわぁぁぁ! おふねだぁ!」
私達大人のは普通のケーキだったが、子供達のケーキは船を模したケーキだった。幅十センチ程の青い船だ。セルジオさんが横に来て説明をしてくれた。
「本日はアイオライトと言う鉱物の日であり、昔は羅針盤として使われておりました。見る角度によってハッキリと色が変わり、青、水色、灰褐色になるため、現在では航海のお守りになっております」
「航海のお守りですか?」
「はい。嵐の空は灰色に似ているので、それを避けて青空を航海できるようにとの願掛けです」
「なるほどー! 羅針盤としてっていうのは? 針?」
「いえ、太陽の光を当てると、見る方向で色が変わるのです。それで方角を判断していたという言い伝えなのですが……」
「…………それ……」
「ええ、かなり危険な勘違いですが、幾分言い伝えなので」
「そうですね、言い伝えってそんなもんですよね……」
――――面白い。
「船のお土産売り場にアイオライトがございますので、お気になられる場合は――――」
「って、宣伝かい!」
ビックリして普通に突っ込んでしまった。
「ふふっ。えぇ、カナタ様はご興味無さそうなのは解ってはいますが、一応宣伝も仕事なので言わせていただきました」
「あははは。セルジオさんも大変なんですねぇ」
「はぁ。貴女は相変わらずね。その場のみの使用人とも親しくなるのね」
カリメアさんに呆れたように言われた。その場のみのと言われても、四泊五日の船旅だ。丸四日間は一緒にいるわけだし、仲良くもなると思う。
「カナタは社交的じゃもんのぉ」
「いや、初めましての時とかドキドキしてますよ?」
「ハンッ」
なぜか鼻で一蹴されてしまった。
夕ご飯を堪能した後は子供達が待ちに待ったマジックショーだ。
「本日はバウンティ様御家族、ヴァレリー様御家族、モナハン様御家族分を前列にご用意いたしました。シュトラウト様御夫妻は後方のボックス席をご用意いたしました」
「何で後ろなんじゃ!?」
「貴方が煩いからよ!」
「……ハイ」
自業自得なのでゴーゼルさんは放置で良いだろう。
「この前みたいにどこかで時間を潰す?」
「あ、先に子供達をお風呂に入れておきます」
「分かったわ。私達は部屋にいるわね」
「すぐいくからね、さきに、いったら、だめだよ?」
「大丈夫じゃよ。ゆっくり入ってくるんじゃぞ?」
「「はーい」」
お風呂を上がり、ゴーゼルさん達と合流し、イベント会場に向かうと、既に両家族とも入り口に待っていた。
「すみません、お待たせいたしました!」
「私共も今来た所ですよ」
たぶん、結構待たせていた気がする。ギリギリに来て申し訳ない。
会場に入りステージの方へ進んでいく。
「カナタ様、どちらへ行かれるのですか?」
ミラさんに呼び止められた。
「え? 席にですよ。行きましょ? セルジオさんが手配してくれてるので」
「えっ! 私共もですか?」
「はい。前列にあるんですよね?」
「はい。ご用意しております」
物凄く恐縮されてしまった。
どうやら、空いている所を探そうとしていたようだ。再前列のど真ん中に席が用意されていた。
席に着こうとした所で、後ろの席にいた『ザ・貴婦人!』といった雰囲気の方か少し大きめな声で話し出した。
『あら、どのような方の席かと思っていたのですが、家族連れ用の優先席でしたのね。船旅代を奮発したのかしら? ひと家族はとても貧しそうね!』
『ははは、言ってやるな。あのようなヨレヨレのシャツでも一張羅なのだよ。きっと頑張って働いたのだ』
ヨレヨレのシャツ。バウンティだな。いつものティーシャツだし。まぁ、私も子供も普段着だけど。
ヴァレリー一家とモナハン一家はピッシリした服装だし。
その後も結構色々と言われていた。
「いやー、すみません。私達、普段着で来ちゃったもんで、色々と言われちゃってますね」
申し訳無くて、隣にいたマイヤさんに小声で謝ったらキョトンとされてしまった。
「マイヤ、モルナーク語は解るか?」
「挨拶程度なら解りますが? カナタ様もバウンティ様もどうされたのですか?」
「ん、じゃあ気にするな」
バウンティとマイヤさんで会話が終わってしまった。
「ほへ? ねー、バウンティどういう事?」
「ん、カナタしかわからないヤツ」
「あー! なるほど!」
ならば気にしなくていいか。と早くマジックショーが見たくてワクワクとしていたが、後ろが凄く煩い。
『ねぇ、アナタ……今、前の人、バウンティ様って、言いませんでしたか?』
『そうか? 私はフィランツ語が苦手だからなぁ。それにこんな貧乏な服装してないだろう? 聞き間違いじゃないか?』
――――うん、バウンティはどこでも有名だね。
『アナタ、声を落とされて下さい! どうやら貧しそうな夫婦はモルナーク語が解るようですわよ』
『おや、そうなのかい? まぁ、解ったとしても、私らの地位に何か言ったら首が飛ぶだけだから何も言えないさ』
『そうですわね!』
真後ろだから丸聞こえだが、良いのだろうか? 私が喋ると自国語に聞こえるからそうなるのだろう。仕方無い。そして、バウンティは何ヵ国語話せるのだろうか。何度か聞いたが「ん、いっぱい?」とか適当に答えられて終わっている。
『しかし、煩いですわね。前でこんなに騒がれてはマジックショーに集中出来ませんわ……』
『うむ、そうだな。折角のコルパーフィールドのショーが台無しになりはしないだろうか……』
始まる前とは言え、確かに子供達はキャッキャと笑いあっている。
「アステル、イオ、ショーが始まったら静かに出来る? 皆楽しみに見に来てるから、一番前で騒いじゃうと悲しい思いする人が出ちゃうかもなの」
「アステルできるよ! おくちにチャック!」
「ぼくもチャックするー」
「おくちにチャックですの?」
「そうだよ! おはなししたかったら、てをあげて、ママにオーケーもらうの! そしたらね、チャックをパカッてあけていいの!」
アステルがミレーヌちゃんに説明してくれた。ミレーヌちゃんもフィリップくんもお口にチャックしてくれるそうだ。
良い子達で助かる。
後ろを向いてご夫妻に謝っておこう。
「騒がしくてすみません。子供達には注意しましたが、どうしても気になられるようでしたら言って下さいね? 後方に移動しますので」
『あ、あら、聞こえてらっしゃいましたの? ですが、お気遣いありがとう存じます。ねぇ貴女、モルナークから乗ってらっしゃったの?』
「いえ、私はローレンツからです」
『あら、ローレンツにお嫁に行ったのね? 言葉の違いは大変でなくて?』
「いえー……えーと……」
どう言おうか迷っていると、バウンティが会話に参加してきた。
『細かい事は気にするな、俺達はモルナーク語も話せるだけだ。子供達には注意をした。何か他に文句はあるか?』
――――言い方!
『失敬だぞ! 地位が上の者にそのような言葉遣いや物言いをするとは……立場を弁えろ!』
「あー、ごめんなさーい。こっちにも言い聞かせておきますんで――――」
ゴタ付くのも面倒なので丸く収めようと頭を下げたが、バウンティが余計に不機嫌になってしまった。
「カナタ! こんな奴等に頭を下げるな!」
「いやいや、穏便にね? バウンティ、楽しく過ごそうよ? ね?」
「…………ん」
沈静化に成功した。
『バウンティ!?』
『なんだ? 気安く名前を呼ぶな。何か用があるのか?』
『っ……本、物?』
後ろの席のご婦人がチョイ放心していた。
『おい、あれ、本物のバウンティらしい』
『うそ!? 本当ですの?』
あー、しまった。非常にしまった。
後ろの席の周りの人達までバウンティの名前に反応しだしている。徐々にざわめきが大きくなっている。
「あーっと、すみません。お気になさらないで下さい!」
マジックショー、早く始まってくれないだろうか。この、ガヤッとしてドヨッとした空気をうやむやにして欲しい。
なかなか始まらないマジックショー。
公開遅くなりました。




