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42、図書館で。

 



 朝九時、ベイレンツ港を出発した。

 バウンティは朝の件で薬を飲むのを忘れていたらしく、ベッドでグロッキー中。たぶん一時間ほどしたら薬が効き出すだろう。


「んー…………ウグッ……」

「え? 吐くの?」

「…………吐か……なひ」

「いや、今危ない音したよ?」

「……ん…………撫でて」

「はいはい」


 ベッドにうつ伏せで寝転がるバウンティの背中を撫でる。

 足のツボや耳の後ろのツボを押してあげたが、今回はイマイチ効きが良くなかったらしい。「一瞬フワッとなった」とかは言っていた。

 アステルが面白がってグリグリ押していたので、逆にやり過ぎたのかもしれない。


 ――――素人がやってる時点で効果は薄いしね!


 色々と気にしない事にして、ホーネストさんを呼び出す。


「ホーネストさん、またイオのお使いと言うか、キューピッドお願いします!」

「……ソレこっちの世界では通じないよ?」

「んはっ! 宗教と神話?」

「そうそう」

「えー、じゃあ何て言えばいいのー?」

「架け橋? 橋渡し?」

「微妙!」

「マーマー! まだぁ?」

「あ、すんません」


 呼び名は取り敢えず保留にした。




 ミレーヌちゃんとのデートは図書館に決定した。グロッキーバウンティは部屋に放置。

 こちらの図書館も基本は『静かに!』なのだが、子供用の部屋があり、読み聞かせ出来るように絵本や、幼児向けのオモチャなどが置いてあった。


「『――――そうして、精霊さんに無理強いした男の子は精霊王からの罰で一生精霊と契約出来なくなりました』おしまい!」

「ん、ぼく、むりなおねがい、しない!」

「カナタおかあさまがよむと、とてもたのしいですわ!」

「ママがよんでくれるとね、ねむくならないの!」


 ――――ええ、知ってますよ。


 だから寝る時の絵本はバウンティに読ませるのだ。重低音で淡々と読まれるとすぐ眠くなるし。

 ピロートークたる最中に寝かけて滅茶苦茶怒られる。延長でバスタブトークもするが、それも寝そうになる。仕方無いよね?


「パパが読んでくれるとグッスリ寝れるでしょ?」

「うーん……」

「いつもね、はじめのページでねちゃうの」


 アステルはそれでいいのかと悩み、イオは続きが聞けないとシュンとしている。

 そもそも家にある絵本は何度も読んでいるし、内容も台詞も覚えているのに、なぜあきないのか。謎だ。

 

「カナタおかあさま、つぎはこれをよんでください」


 ミレーヌちゃんが本を差し出して来たので受け取ってタイトルを見る。『三センチ王子』と書かれていた。


「三センチ……王子?」

「はい! わるいまほうつかいに、ちいさくされた、おおじさまのおはなしですわ!」


 ものすっごく聞き覚えのある内容だ。パラパラと読むと『一寸』的な物語と似通っていた、というかほぼそのままだった。作者名を見ると『チズール・イーデ』と書いてあった。


「いで……ちずる、さん?」

「お知り合いですか?」


 ミラさんが心配そうに顔を覗き込んで来ていた。呆然として絵本を見詰めていたので心配をかけてしまったようだ。


「あ、すみません。この本の作者さんの事、何か知ってます?」

「ええ、昨年末にデビューされた絵本作家さんですわ。と言っても、四十歳の遅咲きデビューでしたが、作品を出すスピードが凄くて、既に二十作ほどありますのよ。……あら? 王都ではかなり有名でしたが、ローレンツでは噂になって無かったのでしょうか?」

「私共も存じ上げませんでしたわ。フィリップはあまり絵本を読まないので……」


 モナハン夫妻も、アステルとイオも知らないと言う。

 そう言えばこの所、絵本を買い足していなかった。本人達が今あるものが気に入っていて、いらないと言うのも理由の一つではあるが。


「もしかしたら王都のみで販売しているのかも知れませんね」

「え? ミラさん、そういう本もあるんですか?」

「ええ、弱小出版社は印刷・搬送費を捻出するために先ずは王都で販売して資金を貯めたり、良く売れた物だけを他の都市でも出版するようにしてますよ」


 ヴァレリー夫妻は本を読むのがとても好きらしく、色々な作家さんとも交流を持つようにしているらしい。


「出版社などが行う資金集めパーティーがありますの。そちらでチズールさんをお見掛けした事がございますわ。……少し、その、独特な方ではありましたけど」


 ――――独特?


「どんな方ですの?」


 マイヤさんが思いの外興味津々だ。


「こちらの国に来られたのが最近で、フィランツ語が堪能ではないらしくてですね、あまりお話し出来なかったのですが、時々ですね、男性二人が仲良く話しているのをジッと見詰めて『クフフ』と笑い声をあげながニコニコしてありましたわ。どちらかがお好みだったのでしょうけど、話しかけられると逃げてらっしゃいましたわ」

「あら、極度の照れ屋さんなのでしょうかね?」


 ――――違う!


 きっとニコニコではない。ニヤニヤだったはずだ!

 何となく『男性二人』の所が凄く大切な気がする。きっと『ビューティフルライフ』が趣味の方な気がする。

 葉子も多少そっちが好きらしく、部屋に仲睦まじい男性二人が表紙の本があった。そして、男性二人が仲睦まじくしていると『ビューティフルライフ最高……』とか口走っていた。


「……そ、そうですか。機会があればお会いしてみたいですねぇ」


 ――――うん、機会があればでいいかなぁ。




 今日の昼食は部屋で取る。

 ベイレンツからの乗客用のレセプションパーティーもあっているが、グロッキーバウンティを部屋に残して来ているので一旦戻ってあげる事になった。


 ――――ガチャッ。


「パパいきかえったー?」

「ぐろっきー?」

「ん?」


 普通に座ってスマホを弄っていた。


「あれ? 元気になったの? ってか、何スマホで遊んでんの」

「すまん。また俺専用のファイル作ってた」


 隠し撮りとかキス写真のやつか。スマホを新しいのにしてデータを整理していなかった。スマホを受け取って専用ファイルをなんとなしに見ようとしたらパスワードまでかけられていた。

 どんだけ使い慣れているんだか。


「パスワードまで掛けたの?」

「ん!」

「まー、どうでもいいけど。操作してて酔わなかった?」

「ん、薬が効いたから平気だ」

「そ。よかったね」


 ポンポンと頭を叩いてから席に着く。


「あ、昼飯はすぐ届くそうだ」

「わーい。きょうはなにかなぁ?」

「メインは仔羊のロティだったぞ」

「「にくー!」」

「ラムチョップかぁ。食べれる?」

「んー。二人にやる」

「「にく、ふえたー!」」


 アステルもイオも大喜びだ。

 先程の本の話をしつつお昼ご飯を食べ、子供達をお昼寝させた。




 ビューティフルライフ、そう、BL!


次話も明日0時に公開です。

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