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40、ルイーザさん

 



 船旅三日目、ベイレンツに着港した。


「さーて、ルイーザさんに会いに行きますか!」


 この五年程で色々とあった。

 くっ付くだろうなと思っていたマーロウ医師とルイーザさんはくっ付かなかった。

 母親から女伯爵の地位を継いだルイーザさんは再婚せず、養子を取る事に決めたそうだ。そして、昨年に精神的な問題もクリアし、養子縁組の承認が降りたのだ。

 今は養子の子に爵位を継がせるために奮闘しているとルイーザさんの親友のミリアさんに聞いた。




 ――――コンコンコン。


 以前は別邸だったが、今回は本邸のドアのノッカーを叩く。


 ――――ガチャッ。


「ようこそおいで下さいました。どうぞお入り下さい」

「失礼します」


 本邸の中に通された。家令さんについて歩くと、王城の小サロンくらいの所に通された。


「バウンティ様、カナタ様、お久し振りでございます。アステル様、イオ様、初めまして。ルイーザ・マーモットでございます。こちらは息子のクルトでございます」

「お初にお目に掛かります、クルト・マーモットでございます」

「ん」

「お久し振りですルイーザさん! 初めまして、クルトくん」

「はじめまして――――」


 子供達が挨拶をするとルイーザさんがにっこりと顔を綻ばせてくれた。


「何だか堅苦しい挨拶になってしまいましたね、すみません。バウンティ様もカナタさんもお変わり無いようでホッとました」

「ルイーザさんも、元気そうで良かった!」

「どうぞ、お掛けになって下さい」


 座ると飲み物が出された。持って来てくれたのはマリーナさんだった。本邸の方でも楽しくやっているとの事でほっとした。

 クルトくんは遠縁の五男だったそうだ。五男ともなると親から譲り受けるものも無く、成人したら手に職を付けるか、賞金稼ぎで一旗挙げるかと悩んでいたらしい。


「えっ、クルトくん、八歳だよね? もう将来の事考えていたんだ……」

「はい!」


 クルトくんの所の三男と四男さんは親からの支援は諦め騎士団入りしたらしい。


「騎士団は嫌だったので、手に職かなとも思いましたが、それは両親のプライドが駄目らしく、賞金稼ぎでバウンティ様程は行かなくても、アダム様やハブリエル様くらいの名声になれば見返せるかなと思いましたが……」


 ハブリエルさんは確か最近王都で有名になっている賞金稼ぎさんだったっけなー。市内で良く噂を聞いてた気がする。


「ふふっ。クルトの両親から相談されまして、このような事になっておりますの」

「義母上! 何が相談ですか! 『犯罪者を輩出するような家名でも惜しかろう、息子を養子に出してやっても良いぞ』とかあのクソ狸――――」


 クルトくんがヒートアップしたなと思ったら、ルイーザさんがクルトくんに視線をチラリと送っていた。


「…………失礼しました、腹ボテツルピカの父上が偉そうに提案して来たではありませんか。しかもお金まで要求して!」

「ぶふふふ。クルトくんはルイーザさんと結託してお父さんを見返す事にしたんだ?」

「はい! あんなギスギスして、爵位にしがみついてる家を出られて清々してます!」


 ルイーザさんがクスクス笑いながらクルトくんの頭を撫でていた。


「顔合わせした時にですね、何となくカナタさんを思い出しまして。この子といると楽しそうだなと……」

「ん、なんだろうな? 確かに。似てる」

「ですよね!」


 似てると言われるが、私もクルトくんもキョトンだ。何がどう似てるんだろうか。子供達もキョトンだし。


「それにしても、アステルちゃんもイオくんもお二人にそっくりですわね」

「わたしね、ママにソックリっていつもいわれるよ!」

「体力は完全にバウンティなんですけどねー」

「ぼくね、しょうきんかせぎなの!」

「アステルも!」


 ――――だから、卵だっつーの。


「あらまぁ!」

「いいなぁ、バウンティ様やカナタ様は反対しなかったんですか?」

「ん? 賞金稼ぎがか?」

「はい。家名しか頭に無い父親は置いておいて、実の母親も危ないし、生計がたてれるのは一握りだから、絶対駄目だと反対されていたんです」

「まぁ、俺自身が賞金稼ぎだしな」

「でもシュトラウト様の養子になられたのでしょう? 何もしなくても安全に暮らせましたよね?」


 クルトくんがそう言うと、バウンティが明らかにハッとしていた。もしやこの人……今まで気付いて無かったとか?


「いやな、師匠の賞金稼ぎの姿に憧れたんだよ――――」


 バウンティがゴーゼルさんに憧れた事件の話をしてあげていた。えげつない所は省いて。


「おぉー、カッコイイですね!」

「ふふふっ。貴方もちゃんと爵位を継いだら、賞金稼ぎに登録していいから」

「あら? 結局、賞金稼ぎにはなるんだ?」

「はい! 私も憧れてるんですよ、バウンティ様に!」


 キラキラの笑顔が眩しい。バウンティはキョトンだが。


「バウンティのどこにか聞いてもいい?」

「もちろん――――」


 賞金稼ぎの噂話で小さい頃から色々と聞いていたらしい。そしてルイーザさんから以前の事件を聞いて更に憧れが強くなったそうだ。


「そう言えば、カナタ様は賞金稼ぎには反対しないんですか?」

「しないよー。将来は自分で決めたいじゃん? 流石に私の身長を追い抜いてからってお願いはしたけど」

「身長…………すぐ抜かれません?」


 ――――やっぱりか!


 クルトくんにももうちょっとで抜かれそうだしね。


「むーっ! いいのっ! 年齢で決めるのも微妙だから、身長でいいのっ!」

「あははは。カナタ様ってほんと変ですね!」

「どういう事かなぁ、ルイーザさーん? クルトくんに何を言ったのかなぁ?」

「いえいえ! カナタ様の噂もかなり届いてますからね! 私からの話なんてそんなにはしてませんよ!?」


 ちょっとはしたんだな。


「えー? 噂って何かあります?」

「一番大きいのはプラチナを断った事件じゃないでしょうか? 新聞の一面になってましたし」


 知らなかった。宰相さん達から何度か手紙が来たけど、断っただけだったと話していたら、まず断らないそうだ。そう言えばアダムさんにも色々と言われたし、他の賞金稼ぎの人達も家に来て、何で断るんだと聞きに来ていた。

 ほぼほぼアステルとイオと遊んで帰っていた気がするけども。


「様々な分野で頂点と名高い賞金稼ぎ達の説得も拒んだと書いてありましたが、事実は少し違ったのですね」

「ん、皆、菓子食って子供達と遊んで帰ってたぞ?」

「あー、皆お菓子モリモリ食べてたね。アダムさんは持って帰ってたね」

「えー? アダム様はお菓子好きなんですか?」

「アダムねー、わたしのクッキーたべるんだよー! ひどいの!」

「ぼくのもたべられた」


 アステルはプンスカ、イオはシュンとしている。

 クルトくんはビックリのようだ。アダムさんはクールなイケメンのイメージらしい。


「んー、仕事が絡めばかな?」

「公私の区別を付けてるのですね!?」


 何かいい感じに言われているけど、それでいいのかな?


「バウンティ様も噂と義母上から聞く話では凄くイメージが違いましたし」

「バウンティの噂って何か装飾されてるよ?」

「そうなんですか? 王城の門を一発で蹴り壊したとか!」

「四発は蹴った」

「犯罪組織を壊滅させたとか」

「ん、あれは面倒」

「カナタ様の下僕になってるとか?」

「……否定は出来ん」


 ――――おい、しろよ。


「騎士団全員と戦っても余裕で勝てるとか」

「ん、余裕」

「アダム様と一対一で戦うと勝率九割とか」

「あー、一回負けたな」

「えっ? 一対一で何してるの? それ、聞いた事無いよ?」


 ビックリしてバウンティを見ると、気まずそうな顔をして「秘密」と言って教えてくれなかった。


「まー、今度聞き出すとして! 噂は思いの外正確だったね……」

「はい! 一番気になってた門は本当に壊されたんですね。王城の門を見ましたが、壊れそうにもありませんでした!」

「新しいのは見てないが、俺が壊した時は木の門を鉄枠で補強してあるだけだったからな。壊れやすいだろ?」


 普通、五メートル越えている大きさの門の時点で壊す気にもならない。壊れやすいとか判断しない。しかも、蹴りで。


「しかし、懐かしいな。あん時は本当に騎士団を殲滅しようとしてたなー」

「してたねー。あと、めっちゃ泣いてたねー」

「煩い」

「それ、兄から聞きました! 庭園で囲った騎士団の中に兄がいたらしいです。バウンティ様がカナタ様を見付けた瞬間、殺意が消えて心底ほっとしたと言っていました。私、その事件の事を色々聞いて騎士団になるのが嫌になったんです」

「私も、その事件はビックリしましたわ。まさかここを出た後日にそんな事になっていたなんて」


 新聞で公表しちゃったもんなぁ。やっぱり皆新聞読むんだね。


「いやははは。何とか生き延びて今も楽しくやってますよ。それより! 私はすんごい聞きたいんですけど!」

「はい?」

「マーロウ医師とはどうなったんですか!?」


 ズイッと身を乗り出してルイーザさんに聞いてみると、ルイーザさんの顔が真っ赤になった。


「お?」

「それは、その……」

「はぁ、義母上もマーロウさんも頑固なんですよ!」

「ちょっと!」


 クルトくんと養子縁組をする際に親族達からマーロウ医師との再婚をグチグチと言われたそうだ。

 ルイーザさんは心無い親族のせいでマーロウ医師が傷付くからと、マーロウ医師は自分の地位の低さでルイーザさんが色々と言われ傷付くからと、結婚を約束していたのに取り止めたとの事だった。


「なんでー! 想い合ってるのに! 地位とか関係無いし!」

「そうですよ! ここは王都でも無いんですよ! 狸の感覚に引っ張られないで下さいよ!」


 どうやらクルトくんの実家は王都のようだ。やはり王都の人達は地位に固執しているらしい。


「ほんと、クルトはカナタさんソックリね。考えが柔軟で、何にでも立ち向かって、誰とでも良く話して、寄り添ってくれて……ふふっ。私も釣られちゃうんですよね」


 ルイーザさんがニコリと笑い、少し気合いを入れたような顔をした。


「クルトに爵位を継いでもらったら、マーロウ医師にプロポーズしてみようかしらって……」

「おぉー! しちゃえー!」

「「プロポーズ! しちゃえー」」


 子供達も楽しそうだ。


「では、私は色々な課題をクリアしないといけませんね! 俄然ヤル気が出てきました!」




 楽しくて色々と話していたら夕方になっていた。夕食は船で取る事になっているのでそろそろ帰る事にした。


「また機会があったら遊びに来ますね! クルトくんも頑張ってね」

「はい! あ、バウンティ様……その、賞金稼ぎになったら、弟子とか……」

「「だめーっ!」」

「アステルがいちばんでしなの!」

「ぼくがにばんでしなの!」


 ――――いつの間に決めたんだ?


「? 俺、弟子はとらないぞ?」


 まさかのぶった切るバウンティ。子供達が衝撃の顔をしている。

 というか、私の事は弟子にしようとしてたくせに。何なんだ。


「えーと、そこら辺は微妙なので、賞金稼ぎになったらまた交渉してみようねっ!」

「「ん!」」

「はい!」


 何とか誤魔化せた……いや、まだ先の話なので結果がどうなるのか解らないのだ。問題の先送りではない!




 微妙な空気が一瞬流れたが、概ね楽しく過ごせた。ルイーザさん達に手を振りながらタクシーに乗り、船へ戻った。




 お久し振りのルイーザさん。


次話も明日0時に公開です。

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