39、お部屋で……のんびり?
船旅二日目。
モナハン夫妻はオペラ座へ、子供達はお昼寝、私達はのんびり雑談していた。
「そう言えば、少し気になってたんですが、準男爵はどのような爵位なんですか?」
「色々なケースがありますが、ヴァレリー家は騎士団を輩出している限りは準男爵の爵位を名乗ることを許されています。準男爵はこのケースが多いと思われます」
「ん? ダミアンさんって騎士団なんですか?」
「元です。引退しておりまして、今は息子達が継いでおります」
「へぇ、なるほど――――」
なんと、息子さんは双子くんで十歳だそうだ。
「十歳で騎士団に!? 早くないですか?」
「新入団員はそんなもんじゃぞ?」
「えーっ? バウンティとか、アダムさんとかが行ってた戦闘訓練とか大怪我必須そう!」
「あー、懐かしいですね。あれは戦闘員のみ必須参加で非戦闘員、新入団員等は希望かあれば、というものでしたよ」
「なるほどー。因みにダミアンさんは?」
ダミアンさんは総務部にいたそうで二、三度参加したもものぶっ飛ばされて終わったそうだ。
ゴーゼルさんも訓練に行っていたらしい。
「うわー。怖そう」
「カーナーター? 言っとくがのぉ、バウンティほど節操無くぶっ飛ばさんからの!」
「あははは。節操無いんだ!」
「そうですねぇ……救護班が走り回っていた、とだけ言っておきます」
その後も騎士団の事など話をしているとアステルが起きてきた。
「パパ、だっこ」
「ん」
バウンティの膝に乗り、抱き付いてうとうとしている。
「もう、お昼寝大丈夫なのですか?」
「そうですねぇ、最近は三十分から一時間程度なんですよね。もちょっと寝ててくれると家事も捗るんですけどねー」
家事をしている事にびっくりされた。
そう言えば、カリメアさんも結婚前はシルバーの上位で、シェフや家令を雇っていたって言っていたし、ヴァレリー家もそうなのだろう。
カリメアさんがざっくり説明してくれた。
「ほぼほぼカッパーのような生活ですよー」
「……まぁ、元の国で考えたらでしょうけどね。貴方達の生活水準は、ギリギリゴールドって感じよ」
「え? マジですか?」
「ええ。収入はプラチナだけどね」
「ふおう……聞こえない聞こえない。私は無職!」
「バカなのかしら?」
「ん!」
――――張り切って返事するなバカンティめ。
心の中で悪態を吐いていたら、ゾロゾロと子供達が起きてきた。今日はあまり体を動かしていないのでお昼寝が短くて済んだようだ。
子供達に飲み物を飲ませる。午後はアステルとイオが大好きなあや取りで遊んだ。
「お待たせいたしました」
「お帰りなさい。オペラはどうでした?」
「素敵でしたわ! 悲恋は辛いですが、物語として見聞きする分にはとてもときめきますし、涙無しには見れませんでしわ」
とある国の王女が他国の王家で奴隷として捉えられた。そこで出逢った騎士団長と恋に落ちたが、許されるはずもなく自殺するという物語りだった。
どこかで聞いた事あるような無いような内容だった。
夕方になったので一度解散する事になった。
子供達は明日も遊びたがったが、明日はヴァレリー一家はベイレンツ観光、モナハン一家はベイレンツ観光と市内で一泊。私達は五年前に色々とあったルイーザさんに会いに行こうと思っているのだ。
「むー。あさってはミレーヌとあえる?」
「ええ、あいにまいりますわ」
「ぼくも、アステルにあいにくるよ!」
「うん!」
子供達のラブラブ振りに大人達はニタニタと笑っていた。若干名ちょっとオロオロしていたが無視。
夕食を食べ、子供達を寝かし付け、やっとこさ大人だけの時間。
「ふぅーっ」
「バウンティ? ん? 顔色ちょっと悪い?」
「ん、今日は薬があんまり効かなかった……」
「へ? ずっとキツかったの!?」
「や、夕方辺りからだ」
それでも、ずっと黙って我慢してたのか。何となく可哀想な気分になって頬を撫でると、バウンティが気持ち良さそうに目を閉じた。
――――チュッ。
「んっ。どうした?」
「んー、ちょっと愛でたいなとね」
そう言うと、バウンティが満面の笑みになり抱き付いて来た。谷間に顔を埋めポヨポヨと遊んでいる。
「こら、遊ぶな」
「はぁぁ。家に帰りてぇ」
「バウンティって、結構引きこもりだよね?」
「別に引きこもってはないだろ」
「あー、室内にいて、のんびりするのが好きでしょ?」
「ん。隣に裸のお前がいれば最高だなー」
そう言う事を聞きたかったわけでは無いが、ニュフニュフと笑って楽しそうなので放置する事にした。
「カナタ、寝よう?」
「もう?」
「…………したいのか?」
「何で選択肢が二つなの! もーっ! 眠たいの?」
「ん」
私はあまり眠くないので本を持ってベッドに入る。バウンティはちょっと不服そうだが無視!
十数分でバウンティが寝てしまった。どうやら本当に眠かったらしい。船酔いに気を張りすぎて疲れたのだろうか?
――――チュッ。
「バウンティおはよう」
「ん……ふぅーっ」
バウンティが眉間にシワを寄せてゆっくりと深呼吸をしている。船酔いが再開したのだろう。
朝食は部屋で取りたいとセルジオさんにお願いした。
「バウンティ、朝ご飯食べたら薬飲んで、着港までのんびりしてよう?」
「ん……着替えて、二人を起こしてくる」
「無理しなくていいよ?」
「してない。二人を起こすのは俺の、やっ、んんっ……役目……」
明らかに無理している。たぶん子供達の前に出たら飄々としだすのだろう。
バウンティがゆらりと起き上がり、子供達を起こして、歯みがき、着替えをさせる。
ゆっくりと朝ご飯を食べてバウンティに薬を渡す。
「ママー、おひるまで、プールいきたい!」
「あー、港に着いたら下船するから――――」
「ん、プール行こうな」
「バウンティ?」
「大丈夫だ…………」
明らかに大丈夫そうじゃない。強がりも格好付けもいい加減にして欲しい。
「アステル、イオ……パパね、お船に酔っちゃったみたいで、気分が凄く悪いの。お部屋でのんびり出来る?」
「カナタッ!」
「パパー、だいじょうぶ?」
「ぼくね、おへやでのんびりするよ!」
子供達の方がよっぽど素直だった。
「ん」
バウンティがシュンとしながら二人の頭を撫でていた。
リビングに移動し、バウンティはソファで膝枕で寝かせる。子供達は各々で手遊びを始めた。室内で暇を潰してくれるようだ。
バウンティにお昼まで寝るように伝え頭を撫でた。
バウンティは仮眠、私と子供達はのんびりお喋りしつつ室内で遊んでいたらお昼になった。
お昼も部屋で食べて着港を待つ。どうやら二時には港に着けるようだ。
「さ、二人ともお荷物の準備して? 置いて行く物と持って行く物をきめよう?」
「ベイレンツ? で、おとまりするの?」
「ううん。ママの知り合いに会いに行くだけだよ」
そう言うと、二人ともウンウン唸りながらリュックの中身を確認していた。
どうやら図鑑は置いて行くようだ。
「おきがえはいらない」
「ぼく、もっていく!」
何かあった時の為の着替えを一着だけ持たせていたが、アステルはいらないと判断したようだ。イオは持って行くらしい。
おもちゃも半分ほどに減らしていた。
水筒を減らそうとしていたので、流石にそれは持っていてくれとお願いした。
「さ、もうすぐ時間だね。下船口まで行っておこうか? 船が港に入る風景は楽しいよー」
「「いくー!」」
「ん」
バウンティがソファから立ち上がりウエストポシェットをカチャリと付けていた。
私もウォレットポシェットを提げて準備万端。
「しゅっぱーつ!」
「「しんこぉー!」」
ルイーザさんに早く会いたいな。
やっぱり船酔いしていた。
次話も明日0時に公開です。




