36、甘えるバウンティと、泣き虫イオ
サーカスを見終わって部屋に戻る。
「さて、お風呂に入りますか」
「「はーい」」
子供達はお風呂で落ち着き無くサーカスの話をしていた。
「面白かったね」
「あのね、ブランコね、たのしそう!」
「えー、怖くなかった?」
「ピョーンってやってみたい」
「うん、大きくなってからでお願いします」
「えー、ママはすぐおおきくなってからっていう! アステル、おおきいもん!」
「うんうん。大きくはなったねぇ。ママの身長を追い越したら考えようかなぁ」
「やくそくね!」
「はいはい」
そんな会話をしているとバウンティが思案したような顔をしていた。
「何?」
「カナタ…………すぐ追い抜かれそうだが?」
「煩いよ! 流石に十何歳かくらいまでは大丈夫でしょ!?」
「ん……うん?」
――――あれ? 私ってそんなにチンチクリンなの!?
色々と不安がよぎった。
まだ眠くないとグズる子供達をなんとか寝かし付けて、バウンティとベッドに寝そべる。
「……ん」
――――チュッ。
「……ちょい待ち」
「駄目?」
「駄目でしょうよ」
ハァとため息を吐きつつ、もう一度軽くキスされた。
「セルジオか」
「ぬーん。ぬぬーん」
「ふはっ。はいはい。大丈夫だ、気にするな。寝るぞ」
「はーい」
ぬんぬんと唸っていたら諦めてくれた。
セルジオさんは私達の船室の隣に部屋がある。船室の何ヵ所かにベルがあり、それを引くとセルジオさんの部屋に繋がっておりどこで呼ばれたか判るようになっているのだそうだ。
船室内にいないのは解っているのだが、何となくそういった行為は落ち着かない。
バウンティは大丈夫だと言ってくれるのでついつい甘えてしまう。
腕枕で眠りにつく。
「カナタ、アステルトイレに連れてけるか?」
「ほーい」
夜中にアステルとイオのトイレタイムの為起こしに行く。
今日は寝るのも遅かったので大丈夫かとも思ったが、二人ともお漏らしは嫌との事で起こす事になっていた。
「アステル、おしっこ行っとこうか?」
「んー…………いく」
素直でよろしい。たぶんイオはグズっている。
アステルを部屋に寝かせて、私達の寝室に戻る。バウンティはまだ帰って来ていなかった。
十五分程して、戻って来た。やはりイオがグズっていたのだろう。
「おしっこ出た? 嫌がった?」
「ん、すぐ行ったぞ」
「あら? の割りには時間掛かってたね」
「ん、ミレーヌと明日も遊びたいって。あと、王都でも遊べるのかって……ちょっと泣いてた」
「えっ、泣いちゃったの? あはは、まだまだ格好良いには程遠いねぇ」
お願いが聞いてもらえるか、怒られるか、不安で、何となく怖くて涙が出るのだろう。多分、まだ泣き落としは覚えてはいない。
可愛くて笑っていたらバウンティが真顔になっていた。
「……俺も、程遠いか?」
「ん? 何が?」
「この前、結構…………泣いた……」
飛んだ時の話だろう。ギャン泣きしていたし。
バウンティの頬を両手で包む。
「物凄く泣いてたもんね?」
「っ……」
「ずっと戻って来いって、叫んでたもんね?」
「…………格好悪かった?」
恐がりバウンティが顔を出している。
――――チュッ。
「ん、もっと」
「ヤだよ。甘えん坊め!」
「好きだろ? 可愛い俺」
「まあね。好きだけどね…………男前なバウンティの方が好きなんだけどね?」
「……結婚式の時、言ったじゃねぇか。可愛い俺が大好物だって……」
――――言ったね。書いたね。
「それは、元々のバウンティが男前で格好良かったから。あの頃は私だけに見せてくれる可愛いさが嬉しかったの。ギャップにときめいてたんだよ」
「元々? あの頃は? 過去形? 今は?」
「あー。うーん……熊の時は格好良かったよ? ドキドキしたー」
「他は?」
「…………家出したイオを追いかけてた時?」
バウンティがポカーンとしている。正直、相手をするのが面倒臭い。それに眠たいので目を瞑る。
「カナタ、カナタ!」
「なーに? もーっ、眠いんだけど」
「……起きて」
「今、その話必要?」
「必要だろ!」
――――マジか。
あっちから戻って来て時間も経ったし、落ち着いたんじゃ無かったのか。面倒なのでキスして黙らせよう。
「っ、ふぅ……寝なさい!」
「……んっ、ハァハァ……余計に寝れるか!」
「あはは。おやすみー」
朝起きてバウンティにおはようのキスをする。
「……ん」
「おはよ?」
「…………ん」
「あら? イジイジしてる?」
「……ん」
イジケているらしい。頭を撫でてあげるがスンとしている。まあ良いかと着替えていると、後ろから近付いて来て振り向かされた。腰を抱き寄せられ、顎を持ち上げられた。
「カナタ」
キスをされるのかと思ったが、頬をゆるりと撫でられた後、優しく抱き寄せられただけだった。
「どうしたの?」
「カナタを甘やかしてる」
「ふーん?」
「何の効果も無い?」
「んーん。ちょっと嬉しいよ?」
「ちょっとなのか……」
バウンティがしょんぼりしながらベッドに座ってしまった。取り敢えず着替えを終わらせてバウンティに服を渡す。
多少イジイジしながら着替えていた。
「バウンティはアステル起こしてきて? 私はイオを起こしてくるね」
「ん」
昨日の夜泣いたらしいので、一応本人から話を聞いてみたい。
イオの部屋に行くと既に起きていた。
「おはよう、早起きだね」
「あのね、あのね、きょうのごよてい、ある?」
「特には無いよ? 何かしたいの?」
「あのね、あのね、きょうもね…………ミレーヌちゃんとねっ……あそびっ、たいのっ……ふえっっ」
「イオ? どうしたの? 何か悲しかった?」
少しずつ息を乱し、泣き出しているイオの背中を擦る。
「ズビッ……ダメ?」
「ねぇ、ママは何も言ってないでしょ? 落ち着いて、泣かずにお話し出来るかな?」
「っ……うん、できる」
「よし! それからね、それはママが良いって言っても、ミレーヌちゃんの予定も聞かなきゃでしょ?」
「うん」
少し怯えたような顔から、眉が吊り上がり目付きがキリッとしてきた。段々と自信が出てきたようだ。
「じゃあ、落ち着いて、明るい声でミレーヌちゃんをデートに誘わなきゃね?」
「うん! ホーネストかして!」
「こーら、先ずは何するお時間かな?」
「はみがきして、おきがえして、あさごはん!」
それが全部出来たらミレーヌちゃんに連絡しようと約束した。
イオを着替えさせてダイニングに行くと、朝食が用意されていた。昨日、朝ご飯の時間を聞かれたので伝えておいたので、セルジオさんが手配してくれていたようだ。
焼き立てのパン、何種類ものおかず、瑞々しいサラダ、湯気の立つスープ、フレッシュなジュース、ヨーグルトにフルーツ。芳しいコーヒーも。
「ふわぁ、良い匂い。あと、朝ご飯が用意されてるって最高だね!」
「家ではシエナに頼めば良いだろ?」
そういう事では無いのだ。そして、それは解っている。
時々こういった贅沢をする事によって、毎日のご飯作りの息抜きと、メニュー改良やレパートリーへの刺激にもなる。
あくまでも、時々が良いのだ。
「「いただきます!」」
子供達が食べ始めたので、私もいただきますをした。
「ママ、たべおわったよ! ホーネストかして?」
「うん、いいよ。何てお話しするの?」
「あのね、うみのほん、もってきたでしょ? みせてあげたいの」
「あー、そうなんだ…………良いのかな? ちょっとカリメアさんに聞いた方がいいかも」
急遽『待て』をされてウルウルしているイオを落ち着かせつつ、カリメアさんに聞いてみた。渋々だがオーケーがもらえた。
イオの人生初のデートのお誘いの行方をニヤニヤと見守る事にした。
ギャップ萌えがツボのカナタさん。
次話も明日0時に公開です。




