33、新しいお友達
船内の遊園地で子供達が遊ぶのを見守っていたら、出航の時間になった。
「あぁっ! 忘れてたっ」
「ん? 家に何か忘れ物?」
「違う違う――――」
ポケットから薬を取り出す。バウンティに飲ませようと思い、向こうに飛んだ時に買っておいた酔い止め薬だ。
「またゲロゲロしちゃうでしょ?」
「……ん」
バウンティの手を引き屋台風の所に行く。飲み物も無料らしい。お水を貰いバウンティに渡すが、妙にイジイジして受け取ろうとしない。
「どうしたの? 飲んどこうよ?」
「……」
「バウンティ?」
「……飲ませてくれないのか?」
「……」
――――ここでか!
人前で口移しとか、頭の中がお花畑なんじゃなかろうか。
「自分で飲みなさい!」
「チッ」
う
水を受け取り渋々と言った感じで薬を飲んでいた。
出航して二時間ほど経つが子供達は未だ元気に遊園地を走り回っている。小さい子供が乗れる物は十個くらいしか無いのによく飽きないものだ。
部屋を出る間際にセルジオさんに聞いた所、甲板でのレセプションパーティーは、お酒が出るので子連れにはお勧めしない、プールでも開催されているのでそっちはどうかと言われた。子供用のプールであれば落ち着いて親同士、子供同士で交流が出来るそうだ。
以前の甲板での出来事も考えると、確かに子連れにはちょっと不安のある雰囲気だった。
「アステル、イオ、そろそろ一度お部屋に戻って、レセプションパーティーの準備しようか?」
「「はーい!」」
「カナタおかぁさま!」
幼女の声で『お母様』と聞こえて、肩がビクッと跳ねた。声を掛けて来たのはイオと楽しそうに遊んでいた女の子だった。
「イオと遊んでくれてた子だね、こんにちは。どうしたの?」
「わたくし、ミレーヌともうします」
「ミレーヌちゃんね。よろしくね。しっかりしてるねぇ、何歳かな?」
五歳らしい。年齢を聞いたら、出自まで教えてくれた。王都に住んでいる準男爵家の子でシルバーの地位しか無いが、もう少しイオと一緒にいたいと言われた。
「ん? 地位は何も気にしなくて良いよ?」
「ほんとうですか? おとうさま! おかあさま! ごいっしょしてもよいそうです」
「あら、良かったわねぇ。カナタ様、私共もプールをご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。私達は一度部屋に戻って準備して行きますが、えーと、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「大変失礼いたしました! 私はダミアン・ヴァレリー、こちらは妻のミラでございます」
バウンティの紹介で私も挨拶した。カーテシーされたので一応し返したが、妙に違和感を感じた。
取り敢えず、子供用のプールで一時少し前に行くと約束した。
――――コンコンコン。
「はい。カナタ様、いらっしゃいませ。カリメア様にご用ですか?」
カリメアさん達の部屋付きの執事さんに、出迎えられた。
「あ、はい」
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼しま……あ、カリメアさん!」
「あら、戻ったの?」
一時からのレセプションパーティーに、プールの所で参加する旨を伝えると、ゴーゼルさんとカリメアさんも同行するとの事だった。
部屋に戻って準備をしつつ、セルジオさんに確認する。
「着替える場所ってあります?」
「はい。家族用の更衣室と男女別の更衣室がございます。家族用の方は貸切が出来ますので、荷物の管理が楽でございます」
――――なるほど。そっちが楽そうだ。
子供達の水着と私達の分、タオルやサンダルを用意して手提げに入れてバウンティに渡すと、慌ててセルジオさんが受け取っていた。
執事さんが持つものらしい。慌てさせて申し訳無い。
「忘れ物は無いかな?」
「「しゅっぱつしんこー」」
「はいはい」
テンションマックスの二人と手を繋いで歩き出す。アステルはプールが楽しみらしい。イオはミレーヌちゃんと遊べるのが楽しみらしい。
「イオはミレーヌちゃんが好きなのかな?」
「すきー! プールでね、およぐのおしえてくれるって!」
「そっかー。良かったねぇ」
「いーなー、アステルもプールでおともだち、つくる!」
「バウンティ様、カナタ様、こちらの更衣室をご利用されてください」
プールに着くとセルジオさんから更衣室に案内された。いつの間にやら、借りてくれていたらしい。物凄く仕事が出来る人だった。
ゴーゼルさん達も二人で家族用の更衣室を使うそうなので、それぞれで着替えに別れた。
「よっと。アステル、腕通して……よし! 靴はスリッパに履き替えてね?」
「はーい」
アステルとイオを着替えさせて私達も着替える。
「……チッ。腰巻きか」
パレオ風に薄い布を腰巻きにしていたら、バウンティに苦虫を噛み潰したような顔をされた。これに真面目に言い訳なり反論したりすると、碌なことにはならないのでスルーする。
タオルなどの必要そうなもののみ持ち、更衣室に鍵を掛けプールへ向かう。
子供達は颯爽とプールに飛び込んでいた。
子供用のプールはアステルの胸あたりまでしか深さがなかった。これならイオも大丈夫だろう。
実は、イオはプールが……と言うか、泳ぐのがあまり好きではない。遊ぶのは楽しそうだが、バウンティが泳ぎ方を教えようとすると逃げていた。
「んふふ。ミレーヌちゃん効果で泳ぐようになるといいね」
「なるか?」
「好きは、苦手も嫌いも克服出来る原動力になるでしょ?」
「……なるな」
どうやら、バウンティも身に覚えがあったようだ。流石、チョロンティ。
バウンティが可愛くて笑いながら、ミレーヌちゃん達と、ゴーゼルさん達を探していたが、まだ到着していないようだ。
「そう言えば、カリメアさんの水着姿って見たこと無いかも。エロそうだなぁ」
「お前は相変わらずおっさん臭いなぁ」
笑いながら頭を撫でられた。バウンティの手を投げ捨てつつ、プールサイドにあるソファに座り、皆が到着するのを待った。
ミレーヌちゃんは玉の輿狙いなのか!?
次話も明日0時に公開です。




