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30、仲違い

 



 明日から王都に出発なので、お昼ご飯の後はシエナちゃんと冷蔵庫の在庫チェックをしていた。予想していた通り、カリメアさんがシャラちゃんで連絡して来た。


「カナタ、カリメアから伝言だよー『今日はそちらに泊まって、明日は一緒に出発します。私は四時には着くわ。ゴーゼルは六時くらいになるそうよ』だって」

「『了解しましたー。ご飯は何か希望ありますか?』でお願いね」

「分かったー。じゃあねー」


 シャラちゃんは青い羽をパタパタと羽ばたかせて消えて行った。

 カリメアさんは、というかゴーゼルさんなのだろうけど、唐揚げが食べたいとの事だった。


「唐揚げかぁ……ん、ちょっと遊ぼうかなぁ」

「唐揚げでですか?」

「取り敢えずお買い物お願いしようかなぁ。足りないよね?」

「……全く足りませんね」


 生ものを減らそうとしていたのに、結局買う羽目になるとは。何だか悔しいが、その代わり唐揚げで遊ぼう。

 



 シエナちゃんに買ってきてもらった鶏モモ肉をぶつ切りにする。一枚分だけはいつもの四分の一くらいの大きさに切る。

 先ずはいつもの唐揚げの下準備。ボウルに調味料を合わせる。そしてそのいつもの唐揚げの調味料を四つに分けて一つ目はそのまま、二つ目に柚子こしょうをたっぷり出す。


「えっ、そんなにですか?」

「うん! 揚げると辛味が少し飛ぶし」

「あの、カナタ様の感覚だと……またブーイングが……」

「……確かに」


 チョイ反省しつつ続ける。三つ目にはトマトペーストと粉チーズをたっぷり。最後の四つ目にはカレー粉を足した。


「後はゴーゼルさんの来そうな時間に揚げようね」

「こちらの細かく切ったものはどうされるのですか?」

「これはね、ミニ唐揚げ用だよ」


 ミニサイズの唐揚げを作って、親子とじのようにするのだ。玉ねぎを入れるのは当然なのだが、緑が無い。全部茶色だ。

 冷蔵庫に余っている使いかけの野菜を全部スープにブチ込む事にした。全て一センチ角に切ってしまえば野菜たっぷりのスープだと思ってもらえるハズ。


「ママー、マーマー!」

「ハイハイ?」


 アステルが走ってキッチンに来た。お昼寝をしていたはずだが、三人とも起きたのだろうか。


「ママ! たいへん! たいへん!」

「はいはい、何が大変なの?」

「イオとマシューが、おへやでケンカしてるの! きーてー!」

「へ? 何でケンカ?」

「しーらーなーいー! おきたらケンカしてたのー!」

「バウンティは?」

「ねーてーるーのー! はしってよ!」


 アステルがグイグイと引っ張るので、小走りでついて行った。バウンティはリビングのソファで寝ていた。後で拳骨だな。

 二階の子供部屋に入ると、マシューくんがロボットを抱き締めてグスグスと泣いていた。


「イオは?」

「さっきまでいたよ? あれ?」


 部屋中探すがいないので、クローゼットや私達の寝室、来客部屋等も見たがいない。慌てて一階に降りて玄関を見ると靴が無くなっていた。


「ホーネストさん!」

「なーに?」

「イオに()()()()()でお願いします。『すぐ行くから、そこを動くな!』で!」

「了解、すぐ戻るから待ってなよ?」


 ホーネストさんが飛んで消えた瞬間リビングのバウンティの所に走る。


 ――――ベチンベチン!


 両頬を勢い良く叩く。


「……んだよ?」

「イオが一人で家出てった!」

「は?」


 バウンティが慌てて起き上がろうとした瞬間、顔の上にホーネストさんが現れた。


「ちょ、ホーネスト! ど――――退いてください」


 『退け』と言ったら怒られそうだから、軌道修正したようだ。


「カナタ、伝えてきたよ。場所が知りたいんだろ? 大通りを役場の方へ走ってたよ。あと、止まらなかった」

「シエナちゃん!」

「はい」

「アステルとマシューくんお願い」

「畏まりました」


 バウンティと二人、役場方面へ走る。


「ラルフ、イオに飛んで捕まえるのは可能か?」

「それは精霊王のルールに反する。最悪、俺は消えるだろう」


 精霊は精霊王の決めたルールに則って行動しているが、抜け道はバンバン作っている。が、流石に捕まえるのは駄目らしい。ルール違反すると、存在が消滅してしまうのだ。

 未だにルールが把握しきれないので、本人に確認するのが早い。


「解った、無しだな。カナタを乗せて走れるか」

「それは可能だ。カナタよ、乗れ」

「ん、ありがと」


 ラルフさんに跨がり、たてがみにしがみ付く。上下に揺れてちょっと酔いそうだが、私の足ではバウンティに付いて行けないので仕方がない。


「ホーネストさん、もう一回イオにお願い――――」


 やはり役場の方へ走っているらしい。もうすぐ追い付くと言われたが、まだ見えない。


「……いたっ!」


 バウンティがイオを見付けた瞬間、走るのが一段と速くなり、イオに軽々と追い付いた。

 イオの方はバウンティに気付いて叫びながら逃げたが、逃げられるはずもなく首根っこを掴まれ暴れていた。

 取り敢えずラルフさんから降りてお礼を言い、二人に近付く。

 バウンティは逃げたがるイオを右手で捕まえたままで、左手を膝に当て前屈みになって肩で息をしていた。こんなに息が上がっているバウンティは初めてかもしれない。

 そして、かなり怒っていた。


「おい、勝手に家を出ないと約束してるよな? どこに行くつもりだ」

「やー! はなしてぇぇ! グランマのトコいくのぉ!」

「何しにだ?」

「…………グランマにあいたいの」

「何でグランマに会いたいんだ? 俺達には言えない事か?」


 イオがどんどんと泣きそうな顔になってきた。少し助け船が必要そうだ。


「イオ、バウンティ、取り敢えず家に帰ってから話そう?」

「やだぁ! かえらないの! グランマにおねがいするの!」

「何のお願いだ。家を勝手に出て良いのとは違うだろうが」

「イーオ? グランマは、あと三十分くらいで家にくるよ? それからね、たぶん役場にはいないと思うよ?」

「やぁだぁぁ、いますぐグランマにあいたいの!」

「イオ!」

「ひぎゅっ……うぁぁぁん、パパがおごづだぁぁ」


 バウンティが重低音で怒鳴ったので本気で怖かったのだろう。イオが未だに掴まれたままの首根っこを必死に叩いて、バウンティの手を外そうとしている。逃れようとしてお尻がどんどんと下がっていっているので、シャツで首が絞まってイオの顔が真っ赤だ。


「バウンティ! 手緩めて! 首が絞まってる!」

「っ……あぁ」

「ケヒョンケヒョン……グスッ……」


 バウンティが慌てて手を離すと、イオが咳き込みながら涙を袖で拭っていた。大丈夫だろうかとイオの目の前に跪いたら、くるりと背を向けて走り出してしまった。


「え、ちょ、イオッ」

「イオ! 止まれ!」


 バウンティもすぐに走り出したので一瞬で捕まえられた。今度は小脇に抱えている。イオが泣き叫びながらバウンティの腕を物凄く噛んでいた。


「ちょ、イオ! 噛まないの!」

「ヒギァァァァ――――」

「ハァ。取り敢えず帰るぞ」

「うん……」




 ――――ガチャッ。


「ママ! パパ!」

「お帰りなさいませ。ハァー、良かった。お怪我は無いですね?」

「うん、大丈夫。心配かけてごめんね。アステルも、ありがとうね」


 玄関で出迎えてくれたアステルとシエナちゃんと話していたが、マシューくんがいない。どこかと聞くと、リビングでロボットを抱き締めた状態で、未だに泣いているそうだ。


「シエナー、グランマは!?」

「え、っと……カリメア様はまだ来られてませんよ?」


 その言葉を聞いてイオがまた泣き出してしまった。


「申し訳ありません!」

「大丈夫、大丈夫」


 泣かせてしまったと焦るシエナちゃんを落ち着かせつつリビングに向かった。


「やだぁぁぁ、そっちいきたくない! マシュ、きらいなのっ。マシュかえって! もう、おうちこないで!」 

「ぼくもキライ! イオのばかっ。イオがわるいこなのに、どろぼう!」


 ――――泥棒?


「イオ? 何したの?」

「ぼく、わるくない!」

「イオわるいこ! ぼくのロボットこわしたぁぁぁ! うあぁぁぁぁん」


 マシューくんが抱き締めていたロボットを見せてもらうと、首と足がもげていた。


「バウンティ、イオを座らせて」

「ん」


 リビングの机にイオとマシューくんを対面で座らせて、二人の間にロボットを置く。


「イオ、今からは『嘘、禁止の時間』だよ? ねぇ、これを壊したのはイオなの? 本当の事を教えて? 一緒に解決しよう?」


 『嘘、禁止の時間』は、最近良く嘘を吐くので、この時間だけは本当の事を言う時間という約束をした。

 嘘を吐く事自体は自衛だったり、社交性や想像力などの発達に役立ちもする。嘘は何時でも絶対駄目だとは教えず、真実を教えてくれたら嬉しいと話している。

 そして、何かあった時は『嘘を吐いたら駄目な時間』を作る事にした。三人共、その時間には絶対嘘を吐かないと約束をした。


「……かってに、こわれたの」

「ちがうもん! イオなげたもん!」

「イオ? 今はね、本当の事をお話しする時間だよ。嘘は駄目だよ?」

「……してないっ」

「イオ、じゃあ、何で壊れたのかな? ママに教えてくれる?」

「……しらないっ」

「イーオー?」


 イオの顔を覗くが、俯いて唇を尖らせて黙っている。解っている。こういう時は自分が悪いと気付いている時だ。


「イオ? 悪い事したって解ってるんだよね? マシューくん、傷付いてるよ? ごめんなさい、しよう?」

「……グスッ……ごめんしない! ぼく、どろぼうじゃないもん!」

「…………イオ」


 重低音で後ろから名前を呼ばないで欲しい。バウンティの声に全員がビクッとなってしまった。


「マシュー、イオは何をした? 全部、順を追って話せ」

「バウンティ、イオおこって! ひどいんだよ! あのね、リュック、げんかんにおいたのに、おへやにもってきたの! ぼくのもかってに、もってきたの!」


 皆が荷物を玄関に置くならと、マシューくんもリュックを玄関に置いていた。

 どうやら、イオがお昼寝を抜け出して二人のリュックを部屋に持ち込んだらしい。そして、リュックに入れていたロボットで勝手に遊んでいたそうだ。マシューくんが自分のを勝手に触ったら駄目だと怒ったら、逆ギレしてロボットを投げ付けて来たとの事だった。


「イオ……」

「ポイって、かえしただけだもん! マシュがとれなかったの! ぼくわるくない!」

「イオ、良く聞いて。イオは今、お約束を全部破ってます。解ってる?」


 イオがソワソワしてイスに座り直したり、シャツの裾を握り締めたりしている。ヤバいのには気付いてはいるようだ。


「ママは罰は嫌いだからママからの罰は無いよ。でも、イオはバウンティと約束をしてたよね?」


 バウンティは『罰は必要』派だ。私が話さなかった頃、子供達とバウンティは約束をしていた。


 ・勝手に家を出ない。

 ・人を傷付けない。

 ・泥棒しない。


 沢山は覚えられないだろうから、三つに絞って約束をしていた。そして破った場合、二回以上は警告をする。それでも駄目だった時は『その時に楽しみにしている事を一つ我慢する』という罰だった。

 そして、その罰はバウンティが決める。


「イオ、最後の警告だ。解ってるな?」

「っ……ぼく…………なげてこわした。おこられるから、グランマにおねがい、しにいきたかったの」

「うん、じゃあ、マシューくんに何て言わなきゃかな? イオはどう思ってるかな?」

「マシュ、ごめんなさい。きらい、うそなの」

「…………グスッ。ぼく……やだぁぁ! なかなおりイヤ! おうちかえるぅぅ」


 ――――だよねぇ。


 マシューくんを抱き上げて撫でる。


「うん、悲しいね、悔しいね。辛かったね。ねぇ、マシューくん、ロボット貸してくれる?」

「やっ!」

「頭と足、痛い痛いになってるでしょ? 直せないか見せて欲しいの」

「なおるの?」

「うーん…………」


 可動式の大きなパーツは、ただ単に外れただけの可能性があるので見てみる。


 ――――パキョッ。


「お、直った」

「ふわぁぁぁ……なおった! カナタすごーい! すごーい!」

「よかったねぇ」


 ――――トンッ。


 足に何かぶつかって来たので何かと思ったら、イオが親指を咥えて、太股に抱き着いていた。


「なぁに?」

「ぼく、ごめんなさいした」

「うん」

「マシュ、ぼく、ゆるさないの……マシュ、わるいこ。ママ……だっこダメッ」

「イオ、間違うな。マシューは何も悪い事はして無いだろ。イオが傷付けた。でも、ちゃんと謝れたな。それは偉いぞ。酷い事したって解ってるよな?」

「……うん」

「今は許してもらえないかもしれない。でも、ちゃんとごめんなさいって思う事が大切だ。マシューが許して良いって思えるような男になれ」

「……うん」


 ――――なんだそれ。

 でも、何か格好良いしアリかな?



 

 ゴチャゴチャしていて色んな事をほったらかしていたので、子供達はバウンティに任せ、子供部屋のイオが散らかした荷物を片付けたり、ご飯の準備を終わらせた。暫くしてカリメアさんとリズさんが一緒に来たので、今日有った事を報告した。


「マシュー、許しなさい! そんな心の狭い子は嫌いよ。パパみたいに広過ぎなくて良いから、イオは大切な弟なんでしょ?」

「……うん。イオ、ゆるしてあげる」

「なかなおり?」

「うん。もう、かってにさわったらダメだからね!」

「うん!」


 返事が軽い。ちょっと反省してるか怪しいけど、今日はここまでにしておこう。徐々に学んでくれると嬉しい。

 リズさんとマシューくんに手を振って見送る。マシューくんがリズさんにリュックを見せながら「ぼくね、とくべつにんむがあるんだよ」と話しているのがとても微笑ましかった。




 人は絶対に嘘を吐く。優しい嘘だってある。だけど、傷付ける嘘は許したくないカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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