3、ランチ
ラセット亭でお昼ご飯。
ご飯はジュドさんが作ったものだった。相変わらず美味しい。時々食べには来ていたけど、話せないから感想も言えてなかった。
「ふあー、おいしー。ブラウンシチューのコクが私のと全然違うし。お肉はホロッホロだし」
「パパのごはんね、おいしいの。だいすき!」
ジュドさんが感極まってマシューくんに抱き着いて、また嫌がられていた。
――――あー、あれか。
「マシューくん、ジュドさんベタベタしてくるから嫌なの?」
「うん! パパきらい!」
「マシューくんは男の子だねぇ。ちょっと猫さんかな? あははは」
「え? 何、ベタベタしなきゃ良いの?」
「じゃねぇの?」
バウンティが至極どうでも良さそうに返事していた。
「あれ? イオ、ニンジン食べてるの?」
「ジュドのニンジンすき」
「え? 何が違うの?」
同じような型抜きされたニンジンだったが。普通に食べている。
「あー、グラッセしてるからかなぁ? マシューもグラッセの方が好きだし」
「…………グラッセ」
「ふはっ。諦めろ」
「何? どうしたのよ?」
「カナタな、ニンジンのグラッセが微妙に嫌いなんだよ」
「なにそのピンポイント」
「だって、甘いじゃないですか! 何で砂糖で焼くかなぁ。塩でいーじゃん!」
この世界では付け合わせのニンジンはほぼグラッセされている。食べれなくはないが好んでは食べない。
「むー。明日からグラッセするー」
「イオはニンジンが入ってる料理もダメなの?」
「いえ、気付いてないだけな気がするけど、食べてますね」
「だよね、スープも飲んでるし」
今日のスープはニンジンのポタージュだった。
それを告げるとイオが衝撃の顔をしていたのでやっぱり気付いて無かったらしい。
「……ニンジン…………スープおいしい」
「うん。スープ美味しいねぇ」
「うん!」
――――チョロいな。流石バウンティの息子。
「チョロいな。流石カナタの子だ」
――――おい、口から出てるぞ。
無言でバウンティのおへそを刺す。
「だから! それ、禁止!」
「やですぅ」
「キャハハ、やですぅ」
「……チッ」
「キャハハ!」
私達のやり取りにマシューくんが笑っていた。ジュドさんがポカーンとしている。
「あのさー、マシューはバウンティの顔、怖くないわけ?」
「バウンティ? こわくない。つよい、かっこいい」
「パパはつよいんだよ! ほんきのおにごっこ、すぐつかまった!」
「何? 本気の鬼ごっこって」
逃げる時間は二十秒、一分以内に捕まったら負け。という即興ルールを話す。
「は? しかもカナタちゃんの所まで戻って五十五秒?」
「ん。最近すばしっこくなった。アステルは上手に木を障害に使ってたな」
「パパねー、きのうえから、どーんっておりてきたの!」
どんなアクティブな鬼ごっこなんだ。
「で、カナタちゃんは何してたの?」
「え、ベンチに座ってボーッと時計を見てましたよ」
「なんて楽なポジション! つか、お前のせいか! マシューの体力が半端ねぇんだよ。足、超速いし。何か走り方がアスリートだし!」
初めの頃はアステルとイオに置いていかれて泣いていたが、この半年程で物凄く体力がついたらしく、二人には届かないものの他の子に比べると断然体力がある。
「お前は超人量産機か!」
「あははは! わた、わたしもっ……ぶふっ。それ、思った!」
「いや、カナタもよ!」
「え……私、何もしてませんよ」
「どうやったらこの落ち着き無い年齢の子供が、大人しく料理を見てたり、手伝ったりするのよ」
リズさんが怪訝そうに聞いてくるが、知らない。何となく手伝わせたら出来てたし。
「誉めてもらえるから対抗心?」
「俺、もうひとつ気になるんだけどさぁ、カナタちゃん今日喋り出したんでしょ? 何で三人とも違和感無くなついてんの!?」
「確かに!」
――――それは私も思った。
謎なので子供達に聞いてみる。
「ママ? いつもといっしょだよ? おはなしできるの、すごくうれしいの! あとね、おぼえてたこえといっしょだった!」
「うん、いつも、いっしょ! おはなしできるのうれしいねー」
「ぼくもー、おはなしするカナタすきー」
おっふ。三人のキラキラ笑顔に心臓が潰されそうだ。ちょっと涙も出てしまった。
バウンティ曰く、本当にいつもと変わらないらしい。いままでも身振り手振り、表情でちゃんと伝わっていたそうだ。
言葉が無くても伝わってたのは解ってたけど、それでも今からはちゃんと言葉でも伝えて行こう。
食後のデザートはスコーンといろんなジャムやクリーム。
スコーンを上下に割り、クリームとジャムをのせてパクリ。
「んーまい! あー、幸せー」
「「んーまい」」
外はサックサック、中はしっとりホロホロ。流石リズさんのお菓子だ。
「……何故子供達はスコーンの食べ方を知ってるというか、ちゃんと食べれているのかしら?」
「食べ方が解らなかったら、バウンティ見るように教えたからじゃないですか?」
食事のマナーに関してはバウンティが一番なので、バウンティを見て真似するようにと教えていた。
「マシューが貴族みたいに食べてるな、とは思ってたんだよ……」
そういえば、パンを一口分千切っては、大きい方をお皿に戻し、一口分を食べる、を繰り返している。しかも最近は食べこぼしがほとんど無い。ぶっちゃけ私の方がこぼす。
ナイフとフォークも結構使える。因みにお箸も使えるようになっていた。
何年か前に木材の工房にお願いして作ってもらったので『もどき』は卒業した。
「いやぁ…………あはは!」
「笑って誤魔化した!」
――――誤魔化さずにはいられないよね。
まあ、無理矢理では無かったし、本人達が遊びの感覚でやっているので自由にさせることになった。
昼食後、子供達を遊ばせていたら雲行きがどんどん怪しくなり雨が降りだした。
「あっちゃー。雷まで。通り雨かなぁ……」
「止むまでいなよ、危ないし。もうそろそろお昼寝の時間だし」
どんなに色々出来ても眠気には勝てない。そこが可愛い。
「えー、リズママのおみせに、いきたかったー」
「あー、私もー!」
――――ベチコン。
バウンティに後頭部を叩かれた。
「えー、先にお昼寝しましょう! 起きたら! 行く!」
「「キャハハ、はーい」」
ジュドさんの好意に甘えて客室のベッドに寝かせて食堂へ戻る。
おおよそ二時間ほどは起きない。その間にリズさんとお喋りしよう。
「あれ? ジュドさんどうしたの?」
食堂でジュドさんがお茶を片手にベッコリ凹んでいた。
「今さ、アステルが『リズママ』って。俺は呼び捨てだったよ?」
「……あ、うん。何ででしょうね。リスペクトの差?」
それ以外に言いようがない。因みに私もバウンティもマシューくんから呼び捨てだけどね!? 気にしてなかったけど。
「リスペクトって何をだよぉ?」
「リズさんのお菓子美味しいし」
「俺、ご飯作ってるよ?」
「飯より菓子だな。あいつらの中の頂点はケーキだし」
――――うん。三度のご飯より甘いものだよね。
「あー! 今、今さ、ちゃんと理解したかも!」
「何よ、急に叫ばないでよ、煩いわね」
「カナタちゃんがずっと言ってたじゃん『甘いは正義』って。そう言うこと?」
ジュドさんが物凄い発見をした! みたいな表情だった。
「あー。甘いの次に肉でしょうねぇ」
「ん!」
――――お前もかバウンティ。でもこれは人の事を言えないかなぁ。
肉も正義!
「そういえば……話すのは、どうして今日だったの? 何か決めてたの?」
「いやー、昨日、イオがトイレでうんちに成功したんですよ。撫でて誉めてたら、話してって泣かれちゃって。アステルは私が話してた事、うっすら覚えてたらしくて、こっそりイオに自慢したみたいなんですよ……。もう三歳過ぎてたし、文章も構成出来るようになって来てるし、大丈夫だろうって」
「……ん、朝確認したら、ちゃんとフィランツ語で会話してた」
バウンティが頭を撫でてくれた。
「はぁー。お前が親になるって何か変だったけど。ほんと、ちゃんと親やってるよな」
「そーなんですよ、バウンティって結構世話焼きなんですよねぇ。ほっとけば良いのにって事もちゃんと相手してるんですよ」
「例えば?」
「えっと――――」
公園でアステルが四ツ葉のクローバーを探してる時、バウンティも必死に探してあげていた。因みに私はベンチに座ってのんびりお茶を飲んでいた。
この前は、お昼寝でお漏らしした事を隠したかったイオが、こっそりパンツとズボンを手洗い洗濯していたが、バウンティが洗剤を使う事や、すすぎをする事を教えて見守っていた。因みに私は近くで洗濯機でお漏らししたシーツを普通に洗っていたが。
「カナタって変なところで男らしいわね……」
「うひゃひゃひゃ。お前、ほんと甲斐甲斐しいな!」
「…………約束したし……カナタの分まで話すって」
――――おっふ。くそぅ、可愛いなぁ。
色々と我慢して撫でるに止めた。
「そう言えば、ユーリが洗濯機に感動してたよ。ここで働いてる時にあったらって」
「開発に時間掛かっちゃいましたもんねぇ。プロト機が出来たのが去年だったっけ?」
「ん、じいさんが斜めドラム式が良いとか言い出したせいだろうな」
そんな無茶なと思ったが、まさか三年程で出来上がるとは思わなかった。ただ、価格が高すぎて、一般には二層式が普及しているが。
「ユーリちゃんは靴屋の若奥様、出来てます?」
「割りとねー。喋らないとあの見た目だからね。上手いことモデルも出来てるみたいだよ」
「あはは。ユーリちゃんが履くと馬鹿売れしそう」
ユーリちゃんは今年の初めにジョシュくんと結婚した。ジョシュくんのお店でモデル兼売り子さんをやっているそうだ。
それからも今まで話せなかった分、色々と話して笑って、ちょっと泣いた。
二時間経った頃、アステルがお昼寝から起き、少し後にマシューくんが起きた。イオは全く起きて来ない。いつもの事なので起こす。
「イーオー。リズさんのお店に行くよー?」
「ふにゅっ……ん…………いく」
のったり起きて黒く艶やかに光る目をグシグシと擦る。
「ママだっこー」
「はいよーっと。んー、何か重くなったなぁ」
「寝る子は育つ?」
「いひひ。そうかもね」
イオを抱っこして一階への階段に行くと、フロント前でアステルがまだかまだかと足踏みして待っていた。
「はーやーくー! ケーキ!」
「お待ちなすってー。抱っこで階段下りるの怖いんですよー」
「ん」
バウンティがまさかの私ごと抱っこで階段をさっさか下りる。そこはイオを抱っこするだけで良くなかったかな? とは突っ込めない。
「はぁー、相変わらずラブラブだねぇ」
「「ラブラブー」」
ちびっ子とジュドさんに囃し立てられながら下ろされた。
「雨はー?」
「小降りになってるけど……」
「近いけど着とこうか。ほい、ほい、ほいっと」
子供達にポンチョ型フード付きレインコートを被せる。
「「サイキョーそうび!」」
雨の日に雨具を使うのを嫌がるので、バウンティが『雨に濡れない最強の装備だぞ』と言ったら『サイキョーそうび』の名前で定着してしまった。
「って、マシューの分もあるの? どれだけ準備万端なのよ」
「いやー、第二の息子ですから」
マシューくんも最強装備がお気に入りなのだ。
私達は傘で、子供達はレインコートのみでパチャパチャと歩いてリズさんの店に行く。ジュドさんは一応仕事中なので置いてきぼり。
「店長? 今日はお休みでは?」
「えぇ、ケーキ食べに来ただけよ」
今日はテッサちゃんもお休みらしい。
「ママー、だっこして! うえのみたい!」
「へーい」
アステルを抱えると、イオもと言い出してしまった。
「えー。無理」
「パパできる!」
「パパみたいに力持ちじゃないんですっ」
「……うーっ。アステルじゃんけん!」
「やだー。わたしがさきだもん」
「うーっ!」
「おっ、イオくーん、泣いちゃうー?」
「なかないっ! パパでいいもん!」
「ん」
ひと悶着後、ケーキを決める。
「私、ミルクレープ! アステル早く決めてよ、飲み物選びに行こうよー」
「カナタが一番ノリノリだったのね……」
だって、ノンアルコールカクテル飲みたいし!
やっとこさ皆ケーキを決めてノンアルブースへ行く。
色々とあったが、結局リズさんのお店とノンアルの人は提携した。
同じフロアで抱き合わせで売る事により、かなり売り上げを伸ばしたらしい。しかも、相談されて提案した計算方法がここでは核心的だったようだ。
お菓子のブースで選んだ商品と商品名が書かれた札をもらい、おぼんに乗せる。飲み物のブースでも同じように商品と札をもらう。その後、レジに行き札を渡してお金を払う。
お菓子だけでもいいし、ノンアルだけでもいい。お菓子とノンアルのセット毎に少し割引がある。
客側は計算が一緒に出来るし、割引もある。店側は札があるから何をどれだけ売ったかも分かりやすい。売り上げの分配も楽だ。
「お嬢さん、お久しぶりですね」
「こんにちはー、ミルクレープと合わせるなら…………」
「ストロベリー系かピーチ系ですかねぇ」
「んじゃ、ストロベリー系のおすすめで!」
「畏まりました。バウンティ様はパインクーラーですね」
「ん」
――――ぶれないねぇ。
そして既に準備されていてツボにはまった。
「うははは! 店に入って来た瞬間作ったんですか?」
「いや、何年も一切違うもの飲まないじゃないですか! 今日に限って、とかも無いでしょう?」
――――確かに!
笑いながらノンアルを受け取り、店内で皆で食べた。
帰る頃には雨も上がり、リズさん達に手を振りつつ家に帰った。色んな人とお喋りしたりで、とても楽しい一日だった。
今日もポロポロと食べこぼしては焦っていたカナタさん。
焦るカナタを生温かく見守っていたバウンティ。
次話も明日0時に公開です。




