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29、お荷物の準備。

 



 とうとう明日は王都へ出発する日だ。トランクに荷物をまとめつつ、子供達の服などをついでに買い足しに行こうかとバウンティと話していた。


「ママ、わたしのにもつはね、じぶんでもちたい!」

「えー? もう半分くらいトランクに詰めちゃったのに……」

「もーちーたーいー!」

「ぼくもー!」

「ぼくもー!」


 うーむ。初めての旅行だし楽しみなのだろう。マシューくんは違うが。


「マシューくん……ごめん! 君はお留守番なのだよ」

「! ピギャァァァ! なかまはずれダメェェェ!」

「おっふ。マシューくんは特別任務があるんだけどぉ……」

「グスッ…………とくべつ? にんむ?」

「うん。お耳貸して?」


 マシューくんと内緒話をする。


「私達がいない間、マシューくんは、パパとホテルのお仕事なんだよ? お仕事覚えたら、イオに教えてあげれるよ? マシューくんがお兄ちゃん出来るかもよ?」


 二人は同い年なので、知らない事、新しく覚えた事、それぞれで教え合ったりして、いつもどっちがお兄ちゃんぽいか競っているのだ。


「ん! ぼく、とくべつにんむ、やる! にゅふふふ」

「マシュー…………笑い方が駄目な時のカナタだな」

「え? 何がどう駄目なの!?」

「ショボい悪巧み」


 ――――あ、否定出来ない。


 バウンティの暴言は置いておいて、アステルとイオに約束させる。


「お荷物は、それぞれにリュックを渡します。自分が持てると思った物を自分で選んで入れて良いです。ただし!」


 ここで一旦言葉を切り、理解したか二人の顔を見るとワクワク顔はしていた。


「持つと言ったからには、必ず自分で持ちましょう!『おもいー、パパもってー』は、禁止です! 出来ますか!?」

「「できますっ!」」

「よし、じゃあ、それも踏まえてお買い物に行こうね?」




 毎度お世話になっている既製品の服屋さんに来た。


「カナタ様! お久し振りでございます!」

「店長さん! すいません、ご無沙汰してました」

「お病気はもう大丈夫だそうですね。安心いたしました」

「あらー、やっぱり噂になってるんですか?」


 ――――静かに暮らしてるつもりなのになぁ。


 軽く挨拶を済ませ、先ずはリュックを選ぶ。


「ぼく、これ! みどりいろ!」

「はいよー」

「ぼくはきいろがいい」

「うむ! いいよ」


 マシューくんだけ仲間外れは可愛そうなので、リュックは買ってあげよう。


「んー、えーっ? あっ、わたしはぁ、これ!」


 アステルが迷いに迷って選んだのは、黒い大人用のリュックだった。


「アステル、背伸びしたいお年頃なのは解るけど、お約束覚えてる?」

「うん。じぶんでもつ」

「そうだね。これは大人用のだから、リュックだけで凄く重たいよ? これに荷物も入るんだよ? これで本当に良い?」

「…………違うのにする」


 ちょっとイジケつつ、子供用のリュックを選んでいた。やっぱり黒らしい。


「黒なの?」

「だって、わたし、ママといっしょの、くろないもん! イオはめがくろなのに!」


 ――――遺伝子的な問題!?


 あまりにも可愛いので、アステルを抱き締めて頬にムッチューとキスした。


「やー! おかいものするのー!」

「やー! アステルにチュッチュするのー!」

「ハァ。カナタ、立って。目立ってる」


 バウンティに首根っこ掴まれて立たされた。小声で「噂はカナタが立ててるからな?」と突っ込まれた。本当かどうかは分からないけど、ちょっと言動に気を付けよう。


「あ、これ可愛い。アステルー、この服着ない?」

「……フリフリはヤ!」


 短めのスカートの裾にレースが付いているものを見せたが断られた。公園で走り回れないからとスカートを穿きたがらない。私も半分以上ズボンなので強くは言えないが、スカートを穿いたアステルが見たい。


「スカートを穿いた幼児、尊いのに」

「解るが、口に出すなよ。完全に犯罪者だぞ」

「むーっ。バウンティだって思ってるくせに」

「……まあな」

「……変態」

「っ! カナタ!」

「うひっ。ごめんごめん」


 怒られてしまった。

 反省しつつお買い物を再開。子供の下着や服を、それぞれに確認しながら選んでいる間に、バウンティはわたしの服をカゴに山盛りにしていた。


「クスクス。懐かしいですわね。あと、少し不思議ですわ……」


 店長さんがバウンティを見ながら困ったように笑うので何かと思ったら、そもそも男性はあまり彼女や奥さんの服を買わないそうだ。普通はサイズやら趣味やら把握できてないらしい。


「えー? そうなんですか? 初めっから私好みで、サイズピッタリの選ばれてましたよ。妊娠してた時は流石に戻させましたけど、通常は要らないって言えないくらいドンピシャなんですよね……」

「それなんですよ。不思議ですわー。カリメア様の影響って訳でもなさそうですし。あと一つ不思議なのが、色違い好きですよね……」

「そーなんですよ! ほんと、謎で!」


 やっとアレにツッコミ入れてもらえた。何色も同じデザインを買いたがる。聞いても『洗い替え』としか言われない。あまりにも堂々と言われるので、洗い替えは違う服で良いんじゃ? とか言えなかった。


「あー、カゴが二個目に突入した……止めてきます」

「クスクス。私は売上が上がって有り難いですが。カナタ様の心の平穏の為には止めた方が良さそうですね」

「あー、うーん、すみません」


 店長さんに頭を下げてバウンティの元へ向かった。


「コラッ! またカゴを山盛りにして!」


 後ろからバウンティに声をかけたら、肩をビクッと揺らして気まずそうな顔で振り向いた。怒られるって分かってたんなら止めればいいのに。


「新しいデザインの服と、良く使う系のズボンしか選んでないからな! あと子供達の服もだし。お前のだけじゃないし!」

「ハイハイ。クローゼットの整理が大変だから、それ以上は増やさないでね?」

「……このスカートは?」


 ビビッドな赤紫色の膝下丈のフレアースカートだった。ポリエステルのような軽めの質感で少し光沢がある。白いシャツに良く似合いそうだ。


 ――――くそぅ。凄く好みだし!


「そ、それまでね!」

「ふふん。好きだったんだろ?」

「……むー」


 勝ち誇ったように笑ってカゴに入れられた。




 買ったものはラルフさんに家まで運んでもらい、クローゼットで仕分けする。


「アステルー、一応ドレス持っていくけど、青とピンクはどっちが良い?」

「あおー」

「んじゃ、私も紺色ので合わせようかな」


 久しぶりにベリンダさんがリメイクしてくれた紺色のドレスを出す。何度かドレスを着る機会はあったのだが、出産直後で体型がもどってなかったり、授乳期で胸が入らなかったりと、なんやかんやで数年袖を通して無かった。そもそも入るのだろうか。

 ドキドキしながら着てみた。


「……胸が丁度良い」

「ん、()()()変わって無かったな?」


 ――――ドシュッ。


 ニタニタと人の胸をディスるヤツは、おへそ『ドシュッ』の刑だ。


「……似合ってる。カナタ、可愛い」

「うん! ママ、かわいい! おひめさまみたーい!」

「ママ、おひめさまだー!」


 バウンティの機嫌取りは無視するとしても、子供達に褒められるのは嬉しい。


「アステルも着てみる?」

「え、いー。きない」


 アステルは、お人形のフリフリの服やお姫様など、可愛いものが好きなのに自分では着ようとしない。なぜなのか聞くが、いつも『うごきにくい』と言われるだけだ。

 でも、着なきゃいけない時には、嫌がらずにちゃんと着てくれる。謎過ぎる。


「えー。ケチ。写真撮りたいのにー。着ようよー?」

「いまはきるじかんじゃないの!」

「はーい」


 アステルに怒られてしまった。しつこかったか、と反省しつつ、ドレスを脱いでトランクに詰めた。

 それぞれのリュックに荷物を入れていく。お人形やロボット、ハンカチ、もしもの時の下着や着替えなど。明日の朝に水筒を持たせたら準備万端だ。


「カナター、ぼくのおにもつは?」

「マシューくんのかぁ……」


 マシューくんのリュックにもロボットと家に常備している着替えなどを入れてあげた。


「ママ、ほんも、もっていく!」

「えー。重いよ?」


 アステルが海洋生物の図鑑を持って来た。二センチくらい厚さがあるので、子供にはかなりの重量だと思う。


「おふねでみるの! うみでなにかみつけたら、しらべるの!」


 ――――なるほど。


 海面しか見えないから、見付かるのはカモメくらいじゃないかな? とか言ったら怒られそうな気がするし、時間潰しにもなるだろうし、許可しよう。


「じゃあ、それだけは良いよ。アステルのリュックに入れるの?」

「うん! わたし、ちゃんともつ!」


 アステルが嬉しそうに本を抱えて飛び回っていた。その後ろをイオとマシューくんがピョンピョンとついて回っていた。


「カナタ、トランクには詰め終わったか? 玄関に移動させとくぞ?」

「うん、お願いします!」

「アステル、イオ、お前達も荷物は玄関だ」

「やだ! ずっと、もってるー!」

「「ヤー!」」

「ヤダじゃない。邪魔だろうが。それに、せっかく用意したのに触ったり、開けたりして何か忘れたりしたら悲しいだろ? 忘れても取りに戻れないんだぞ?」


 バウンティが重低音で脅していた。どういう反応をするのかワクワクと見ていたら、イオがバウンティにリュックを差し出した。


「ぼく、わすれないようにする。げんかんにおいてて?」

「ん、良い子だ」


 バウンティが破顔しながらイオの頭を撫でていると、アステルが慌てたようにリュックを下ろし、バウンティに渡していた。


「わたしも! げんかんにおく! パパ、アステルもほめて!」

「ん。良い子、良い子」


 バウンティに頭を撫でられて、アステルもいおも幸せそうに笑っていた。

 そんなとても楽しそうな父子の横ので、マシューくんが寂しそうに床に座っている。


「マシューくん、おいで?」

「……うん」


 ぽてぽてと歩いて抱き着いて来た。私の服をギュッと握り締めて一言も話さない。


「マシューくん、寂しくなっちゃった?」

「……ん」

「すぐ帰って来るからね? それまで、特別任務お願いね?」

「……うん。ぼく、がんばるよ? ぼくもほめてくれる?」

「ん、マシューも良い子だ」


 バウンティがワシワシとマシューくんの頭を撫でていた。

 凄く平和な日常だ。

 だが、分かっている。だいたいこういう日の午後にはシャラちゃんが飛んで来て、ゴーゼルさんとカリメアさんが『明日のために』とかで泊まると言い出すのだ。

 バタ付かないで良いように、早めに客室の準備をしておこう。




 未だ治らない大量買いの癖。


次話も明日0時に公開です。

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