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28、ルール。

 

 

 

 老人ホームからの依頼の後、皆で役場に寄って完了証を提出し、家に戻ってきた。


「お帰りなさいませ。サラダのみ作っておりましたが大丈夫でしょうか?」

「うん、ありがとー!」


 お昼ご飯の準備をして皆で食べた。子供達はすぐにお昼寝に入ったので、おやつ作りを敢行する。


「ふっふっふっふ。ヤツ等が寝静まっている間に…………」

「カナタ、顔。酷い」


 嫁に顔が酷いって言うヤツが酷いと思う。


「そんな事言うなら、バウンティには食べさせないもーん」

「……何作るんだ?」

「シャーベット!」

「ん、手伝う」


 ふにゅっと笑いながら手を洗いだしたので、うれしかったのだろう。

 冷蔵庫から果物を取り出す。朝の内にシエナちゃんに買い物をお願いしていたのだ。

 キウイ、こっちでは違う名前だったけど、覚えられ無いからキウイと呼んじゃう。パイン、レモン、イチゴ、ブドウ。そして、ヨーグルト、ハチミツ、赤ワインも出す。

 キウイとパインは混ぜ物無しで。レモンはハチミツと。イチゴはヨーグルトと。ブドウはブドウのみと、ブドウと赤ワインで大人用にする。

 キウイを剥き、切って専用のカップに入れる。ハンディブレンダーのスイッチオン!


 ――――ブィィィィン。


 とても静かに回転しているので、こんなんで大丈夫なのかと少し不安になりつつキウイにハンディブレンダーを押し当てた。

 キウイ三玉が十秒もしない内にジュースかと言うくらい滑らかな果汁に変わってしまった。


「うわぁぁ、なにこれ! 早っ、凄っ! 超絶に楽ちん!」

「本当ですね。凄いです! 気持ちいいくらいに滑らかになりますね」

「…………俺、お払い箱?」

「ぶふっ。大丈夫だよバウンティ。バウンティは……混ぜ担当だったけど、他にもいっぱい助かってるよ? ね?」

「え、えぇ! 剥いたり、捏ねたり、お米運んで頂いたり、とても助かっております!」

「……ん」


 役立たずのレッテルが貼られるかとドキドキしていたらしい。

 ハンディブレンダーのおかげでかなり早く出来上がった。後は凍らせて時々混ぜたら完成だ。

 キウイ、パイン、ブドウは初め一時間置いてちょこちょこ混ぜ。レモンとイチゴは凍りにくいので三から五時間ほど様子を見て混ぜる。シエナちゃんに説明したら混ぜるのは仕事の間にやってくれるそうなので任せた。

 因みにシエナちゃんの勤務時間は朝の八時から夜の八時でシュトラウト邸からの通いで押し切られた。シエナちゃんに手を握られてウルウル攻撃をされた。『いいよ』しか言えなかった。弱いな、私。


「では、カナタ様は就寝前に一度かき混ぜて頂けますか?」

「うん、了解! さぁて、夕飯もこの流れで作っちゃおう」


 途中で子供達も起きて来たので、ワイワイと騒ぎながら作って、夜ご飯を食べた。

 マシューくんを見送り、二人をお風呂に入れ、寝かし付けて、主寝室に戻る。




 今夜、話し合うと約束していたので、ベッドには行かずテーブルに着いた。一応、筆記具も用意した。


「カナタ、俺が書く。二人とも読めた方がいい」

「んー? そう? じゃあ、お願いね」


 バウンティが何だか意を決したように話し出した。


「子供達の事だが……その、何を決めたらいいんだ?」

「じゃあ、先ずは教育の方針だね」

「方針?」

「将来、何になりたい! とか、何をしたい! とかを、私達はどうやってサポートするかだよ。あの子達は今の所、バウンティみたいになりたいって言ってるよね?」

「ん、だから賞金稼ぎについて教えたり、必要な能力面を伸ばしてやったり?」

「うん。ただ、アステルはケーキとか食べ物も凄く好きだし、興味持ってるよね? だから、そういうのもいっぱい見せてあげて、将来の幅を広げてあげたい」

「ん。無理矢理じゃなくて、自主性を尊重?」

「そう!」


 バウンティがフンフン言いながら綺麗な字でメモを取っていく。


「次は?」

「それについての役割分担かな?」


 どっちが何を教えるか。例えば私が主にトイレトレーニングしていた。最近はほとんど大丈夫になっているが。

 

「役割分担した方がいいのか?」

「んー、まーザックリで良いとは思うよ」


 ありがとうやごめんなさいを教えたり、言葉遣いや挨拶を教えたり、公園でのお友達との接し方を教えたり、どうやっても関わりが出てしまう貴族への対応。上位には『様』を付ける、とかだ。

 

「俺は言葉遣いは……怪しい。けど、貴族のなら出来る」

「私も言葉遣いは怪しいけどね。そもそも、フィランツ語話せないし」

「でも……カナタは誰とでもすぐ仲良くなるし、知らない人とも良く話すだろ? カナタが教えてあげて?」

「うーん。解った。貴族に関してはバウンティね」


 次は叱る事に対してだ。

 今はまだ色々と言ってないけど、今からなんだと思う。この前もだが、二人共『できる!』と言って無茶な事をしたり、駄目だと言っても納得してくれなかったりする。そうすると、強く頭ごなしに言ってしまいそうになる。


「なるべくね、しないようにはするんだけど。もし、私が頭ごなしに怒ってたら、バウンティは諭す方に回ってくれる?」

「諭すって……カナタがこの前、イオにしてたみたいなのか? 何がしたいのか、何だったらオーケーが出るのか、何で駄目って言ってるのかを解らせる役割?」

「うん。ただ、駄目って言われても納得出来ないでしょ? それに私達二人共か怒ったら逃げ場が無くなるし」

「ん、解った」

「でもね、命に関わるような危ない事は絶対に怒って欲しい。バウンティ基準じゃなくて、私基準で!」

「別に俺だって普通に怪我するし、危ない事や怪我するのは怖いぞ?」


 ――――どの口が言うんだか。


「……普通の人は小熊でも怖いし、何なら死にます!」

「…………この前の熊は……」

「目の前に来たら、おしっこ漏らします!」

「…………前に話した、崖……」

「ロープがあったとしても、漏らします!」

「……いつもの木登り……」

「ぶっちゃけ、おしっこ漏らしそうです!」

「えっと……なるべく…………目を離さないようにするから、木登りは良い?」

「うん、木登りはね、もう諦めた。崖はまだ駄目!」

「……ん、崖は駄目」


 後は、最大の難関だ。


「あのね……私達がケンカしそうな時ね、その日の夜に話し合おう? お昼は我慢して普段通りに出来る? 出来ない時は、どっちかお出掛けしたりして、ピリピリした空気にあの子達を晒さないようにしたいの。この前のね……無視みたいな事は二度としないで」

「っ、あぁ……」


 バウンティの眉が少しピクリと動いた。何かを思案するように俯いて話さなくなってしまった。


「バウンティ?」

「……俺が無視し続けたけどさ。けど、カナタが煽って、拒否して、焚き付けて、苛つかせた。アレは俺だけが悪いのか?」


 解ってる。もうちょっと穏便に出来た。そもそも、したくない時は普通に『したくない』と言えば聞いてくれる。なのに私がキスし続けたし、初めはソノ気だった。ただキッチンの事で苛ついて、八つ当たりしたのが大元だとは思う。


「うん、私も態度悪かったよね? ごめん」

「……ん、あーいう時のカナタは嫌い。凄く嫌なヤツになる。憎たらしい。わざと怒らせようとしてるだろ?」

「うん、ごめんなさい。気を付ける」


 バウンティが手を伸ばして頬を撫でてくれた。


「ん、俺も。場所とか、気を付ける」

「うん。ケンカしそうな時は、ここでこうやって話そうね?」

「あぁ」

「いひひっ」

「ん、次は?」


 後は、家事などだが、これは解決しつつある。


「シエナちゃんいてくれるし、新しい人来てくれるみたいだし、暫くは現状維持で大丈夫です」

「ん、それでも、なるべく手伝うようにする。たぶんな、こういうのは、言われてからしか動けないけど……いいか?」

「うん! ありがとう」

「また、色々と決めような?」


 バウンティが、少し寂しそうに微笑んだので、胸がキュッと締め付けられた。机を立ち、バウンティの横に移動する。


 ――――チュッ。


「ん、どうした?」

「んーん。寝よ?」


 抱き締められて眠った。時々、頬や頭を撫でてくれるのがとても心地よかった。




 話し合って、ルールのようなものを少しだけ決めたら、体と心がとても軽くなった。掃除や料理は好きだけど、二人で暮らしてて、ちょっと手抜きしてた頃とは状況が変わってたんだなと今更ながら思う。

 『やらなきゃいけない』って、いつからだったのか解らないけど思っていた。初めは『やりたい』だったのに。それを認識して、意識したら、余裕が出来た。のんびりと毎日を楽しく過ごせた。

 そして気が付けば五月十五日になっていた。


「ふぁっ! 明後日から王都に出発じゃん!」

「……ん、荷物用意してないな」

「何泊分いる?」

「……明日の朝、考えろ。今は何の時間だ?」

「…………イチャイチャです」

「ん!」


 ――――チュッ。


 なぜ、ベッドの上でバウンティに服を脱がされているタイミングで思い出してしまったのか。そのせいでバウンティがちょっとイジケてしまったようで、私の首筋をガブガブしている。


「痛い痛い」

「こっちに集中しろよ、馬鹿っ。お前はっ! 本当に可愛くないぞ!」

「んー、ごめーん」


 お詫びにちょっとした無茶なら聞いてあげよう。




 漏らすカナタを見てみたいような、見たくないような、変態のバウンティ。

バウンティの安全基準は一切信用していないカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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