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27、皆でお仕事?

 



 またもや中町と外町の境目にある老人ホームに来た。


「おはようございます!」

「あら、カナタ様! 今回も来ていただ…………バ、バウンティ様も!? ええと、代金――――」

「あー、ついて来ただけですから、値上げとか何もしませんよ! 大丈夫ですよー」

「あ、そうなんですね……で、では、前回と同様にお好きにされて構わないので、よろしくお願いします」

「はい!」


 前回と同じようにイスを丸く並べ直し、座った。今回は初めから人が多かった。


「おはようございます! 今日も来ちゃいました。今日は、子供達とバウンティも一緒です」


 膝の上にマシューくんを乗せて話す。アステルは一人で、バウンティはイオを膝に乗せて座っていたのだが、入居者の人達が半分くらい立ち上がってカーテシーしていた。謎過ぎてあたふたしていたらバウンティから耳打ちされた。下位の貴族やゴールド、シルバーの人達らしい。


「地位などは気にせず普段通りに過ごしてくれ」

「「畏まりました」」


 ポカンとしているのはカッパーの入居者のようだった。そもそもカッパーの人達はカーテシーしないらしい。確かに、普段全くしないし、された事ない。


「ぼくもごあいさつ、できるよ!」

「わたしもっ!」


 アステルとイオが短い足を曲げてチョコンとカーテシーしていた。イオはちょっとプルプルしている。マシューくんも慌てて膝から下りてプルプルしていた。可愛すぎてニヤニヤしてしまう。

 

「あらまぁ、とても可愛らしい貴族様ね! よろしくお願いしますね?」

「まぁ、お上手ねぇ!」


 褒められて満足したのだろう、それぞれ戻ってきた。


「さーて。今日もお話ししますね」

「この前、簡単にしか聞いとらんバウンティ様の独り立ちの話が聞きたいのぉ」

「あら、私も聞きとうございます!」


 希望があったのでバウンティにお願いする。


「――――で、山での調査を終わらせて帰ろうと振り向いたら、師匠が岩陰にしゃがみ込んでこっちを覗いてた。あんまりにもバレバレだったんでな、『師匠……』って声がもれたら――――」

「「にゃーぉー」」


 急に子供達が猫の鳴き真似をした。


「ふははっ。こんなに可愛くは無かったが、ドスの聞いた感じで猫の振りしてたんでな、見なかった事にして置いて帰ったら、滅茶苦茶怒られた」


 バウンティがニコニコしながらイオの頭を撫でて話していた。皆、初めてバウンティの笑顔を見たのだろう、なぜかおじいちゃん達まで頬を染めていた。

 バウンティの話が終わり、感想やゴーゼルさんが過保護なのか、アホなのかで意見を言い合っていた。

  

「つぎ、ぼく! あのね、ママがね、おしごとでいえにいなかったの! ぼくがうまれて、はじめてのことだったんだよ? だからね、ぼくね、さみしいのがまんしてね、おうちのね、おしごとしたんだよ!」

「わたしもっ! おせんたくとね、おそうじしたよ! ごはんつくるのもてつだったの!」


 ――――うむ、帰って褒めちぎろう。


「ぼくも……おはなししていい?」

「うん、いいよ。あ、マシューくんは中町のラセット亭のお子さんです」

「あら、って事はラセット・スイーツのリズちゃんの子供さん?」

「あ、そうです」

「あらまぁ、こんなに大きくなったのねぇ。クシーナ菓子店の時から良く買っていたのよ。久し振りに食べたくなっちゃったわねぇ」

「で、坊主、どんな話だ?」


 ちょい気の強めなおじいちゃんが凄みながらマシューくんに話すよう促した。


「あのね、パパがね、カンとおりょうりするときのおはなしなの!」

「あ、カンさんっていうのは、王都の食堂の人です」

「ちがうよ、カレーのひとだよ!」


 あながち間違ってはいないけどね。まー、それでいいか。


「む、カレーか! 数回しか食べた事はないが、とても辛いんだが、それが美味さを更に押し上げて、何とも言えない最高の食べ物だったぞ」

「うん、からーいの! ぼくたちようのは、ハチミツとリンゴと……えっとね、あ、ヨーグルト! でね、あまあまにしてくれるんだよ! このまえね、いっしょにつくったの! すごくいーっぱいのはっぱとか、こなとかつかったんだよ。むずかしくてね、おぼえれなかったー」

「むー、聞いてると食べたくなるのぉ」

「私は食べた事無いですわ。そんなに辛いんですの?」

「ワシが王都で食べたのは、二辛で舌がビリビリして慌ててラッシーたる甘い飲み物を飲んだぞ」


 ――――あー、チキンカレーかな?


「五辛まであったが、あれを食べれるのはアティーラ出身の者か、味覚に何らかの障害ある者だけじゃろう」


 そう言えば、アティーラは割りと香辛料の効いた料理が多く、ヘラちゃんはカレーが大好きだと言っていた。あと、味覚障害じゃ無いし! 五辛って辛口くらいだったし。


「カナタは平気だったな」


 皆に残念な子を見るような目で見られつつ、ザワ付かれた。


「私の国も香辛料の効いた料理が多かったのと、カレーは日常的に食べる家庭料理だったんですよ、慣れです。なーれっ!」

「そうかのぉ? 馴れるかのぉ」

「だいじょうぶだよ、おじーちゃん、アステルもたべれるもん!」


 ――――いや、君が食べてるのは甘々のカレーですよ。


 それからは、最近の流行りの料理やケーキの話になった。ホールのミラージュは、プレゼント用としてかなり定着しているらしく、それぞれ好みの柄を言い合っていた。


「私がもらったピンクのバラの柄はとても美しかったわ」

「あ、アレはゴーゼルさんのデザインなんですよー。可愛いですよね」

「えっ…………ゴーゼル様が……あれを!?」


 なぜかおばあちゃんがハラリと涙を流していた。


「へっ? えっ? 何か……嫌でした?」

「グスッ……ごめんなさいね、違うのよ。お話しを聞いたりね、お見掛け出来るだけなのよ。話し掛けたり、関われたりするような地位の方では無いの、だから少し嬉しくて。いやね、この歳になるとすぐ涙が出ちゃうのよ」

「でも、何でゴーゼル様がデザインしたの?」

「おぉ、確かにな! 気になるのぉ!」


 リズさんと開催した製作体験会の話をした。


「カナタが師匠達からぼったくってた」

「なっ! だって! 材料費欲しかったんだもん!」

「おほほほ。それでもお金を取ろうと思うのは、きっとカナタちゃんだけよ?」

「ええーっ!?」

「カナタは何かデザインせんかったのか?」


 前回、ヤジを飛ばしていたおじいちゃんが聞いてきたが、私は何もデザインしてない。私の国にあったデザインをリズさんに教えて再現してもらっただけだった。


「あら、カナタちゃんの国は他にはどんな物や事が人気なの?」

「ロボット!」

「ロボット!?」

「あ、いえ、子供のオモチャの名前です。カリメアさんが開発中なんでその内、買えるようになると思います」

「カリメアちゃんは良く働くのぉ」

「……ちゃん」


 バウンティが地味にツボっていた。

 オモチャの話から、子供達が今ハマっている遊びの話になり、あやとりを教える事になった。


「ここをー、こーして、引っ張って、タワー!」

「こうやってね、まんなかをね、ひっぱるの、ほうきだよ!」

「おとーさんとおかーさんでつまんで、クルッてするの、あめんぼさんだよ」


 一人で出来るあやとりと、対戦あやとりを子供達と教える。


「あらまぁ、ジュータンになったわ!」

「そうしたらね――――」

「こうか!」

「私は……あら? 崩れてしまったわ」

「おばーちゃんのまけー!」

「うふふ。負けちゃったわね」

「これね、ひとりでもできるの! でもね、むずかしくてね、ママしかできないの」


 アステルがしょんぼりしていたが、一人であやとり無限ループもかなりしょんぼりモノだと思う。友達ゼロ感が否めない。


「カナタよ、やって見せい」

「ですよねー。はーい」


 スルスルと紐を動かして行く。


「はい、これで一周です。無限なんで結構虚しいですよ?」

「もう一回じゃ!」


 気に入ったらしい。皆が見ながら真似し出したので、説明しつつ取り方を見せる。


「頭の体操になるわね! 紐だけでこんなに遊べるなんて凄いわぁ」

「マジックもできるんだよ!」


 色々と絡めて最後に小指の所の紐を引くとスルスルと抜けていくマジックと言うか……のヤツと、色々な形を作って、飛行機から兜、外して挟んでスルリと引っこ抜けるやつを見せた。ここ一番の歓声が上がった。謎過ぎる。


「え、抜けるようになってるだけで、種も仕掛けも丸解りなのに?」

「うふふ。カナタちゃんには当たり前なのね? これは一見アヤトリして色んな物を作ってるだけなのに、ちゃんと考え抜かれているじゃない? それが凄いのよ」


 うーむ。そうなのかな? ま、確かに凄いのは凄い。皆の熱中度合いからもわかる。


「他にはどんな遊びをしとるんじゃ?」

「ほかぁ? アステルはオリガミがすきだよ?」

「オリガミ? どんなのじゃ?」


 職員さんにお願いして紙をもらう。正方形は無かったので、バウンティがせっせと切ってくれた。その間に座談会場を解散して机を配置する。


「さーて、先ずは長方形で出来るごみ箱です」


 箱型と台形になるものと教えた。


「どこで使うんじゃ?」

「えー? 女の人だと、縫い物してたりすると、糸とか小さいゴミが出るでしょ? 机の上に置いておくとちらからなーい! 的な? あとは、本読みながらクッキーとか食べてるとポロポロこぼれるじゃないですか、そんな時に?」

「……お主がズボラなのは良く解った」

「あらー?」


 基本はこたつから出たくない時のミカンの皮やお菓子のくず入れだったけど、どちらにしろズボラか。


「はいっ、次は簡単なのから!」


 犬や猫、船などを教えた。

 数人だったが、中々手が器用な人が難しいのもしたいとの事なので、ユニット折り紙の中でも定番のと少しアレンジしたものを教えた。同じものを十二枚作り組み立てると毬になる。


「まぁぁぁ、なんって美しいのかしら!」

「色んな色でやったり、単色でやったり、六、三十、三十六、六十、九十と枚数を変えたりしても楽しいですよ」


 他に覚えているのだと、物凄くリアルなバラとダイヤモンド。ダイヤモンドは糊が要るが、両方とも出来上がると中々に感動する。バラは手順が難しすぎて何度も何度もチャレンジして出来るようになったが、ダイヤモンドは大量の折り線を入れて最後にシュッと纏めるだけなので、線を入れてペンで手順を書き込んだ物を見本として渡した。

 高校の時、先輩にそうやって教えてもらったなと懐かしくなった。


「いやー、最後に作ったの八年近く前だったけど、覚えてるもんだねぇ」

「カナタなのにな?」

「ちょ! ディスるな! 褒めろぉ!」


 ディシディシとバウンティのおへそを突いて抗議したが、チョップで反撃を喰らった。


「ヘブッ……痛い」

「ふふふふ。噂に違わず仲良しねぇ」

「おっふ。騒いですみません」


 ――――恥ずかしや。


 気が付けばもう一時になっていた。お昼の時間も押しているようだし今回はこれにて終了とさせてもらった。

 完了証をもらい帰ろうと思ったら、子供達をナデナデして褒める列が出来ていた。


「なにしてんだ?」

「イオがねー、撫でろとせっついてね。ナデナデがご褒美らしよ?」

「ふっ、安上がりな賞金稼ぎだな」

「あはは! タダだしね!?」


 ナデナデじゃ賞金稼げてないけど、満足そうだしいいのだろう。さぁて、帰ったらご飯だ。




 ナデナデはご褒美の子供達。


次話も明日0時に公開です。

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