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23、予約不可

 



 子供達も寝静まったので、スマホの機種チェンジや、カンさんに渡せる物のリストを作ったり、渡したい生ものを纏めた。


「よし、ホーネストさん、お願いします!」

「はーい……って、この瓶は無理だよ」


 醤油の瓶は大きすぎたらしい。泣く泣く瓶を抜いたが、そもそも大根丸々も駄目だった。三分の一に切って何度か行ってもらう事になった。


「ただいまぁ。カンさんから『何で大根と豆腐……これ日本のだよな? 何があったんだよ!』だって。カナタ、伝言忘れてたね」


 完全に忘れていた。渡したい気持ちが勝ちすぎていて、リストのメモも忘れていた。慌ててある程度口頭で説明をする。


「『――――って事でした。カンさんのお母さんにメール送ったらお父さんの実家……イタリア? にいるからって事で会えませんでした。愛してるわーって言ってましたよ』でお願いします」

「はいよー。行ってきます」


 私達の結婚式の時にカンさんがローレンツまで来てくれた。

 お礼に何かしたくてとーさんに相談したら、カンさんの両親を探し出してくれた。数日で色々とセッティングしてくれて、カンさん親子はビデオ通話で再会することが出来た。それ以来、両親達は仲良くなっているらしく、頻繁にやり取りしているらしい。


「たっだいまぁ。カンさんからね『マジか! え、全部って言っても良いの? あ、納豆はいらねぇ。野菜の種は欲しいけど、カリメアさんから買おうかなぁ。醤油は今直ぐにでも欲しいから、取り敢えずで何か小瓶に入れてくれねぇ? それにしても味噌三種類とか、カナタってほんとバカだよなぁ。あ、○ッツはグッジョブだ。抹茶味うめぇ!』だって」


 何故にバカなのか。そして、納豆は嫌いらしい。私は明日の朝食べるのが楽しみだ!

 時間が掛かって大丈夫なものは、明日の朝ラルフさんに運んでもらう事になった。王都までは七時間になったらしいので昼過ぎには着くだろう。醤油は取り敢えず、家で開けたやつを少しお裾分けした。瓶は密閉されたままで渡したい。


「生もの、第三弾。お願いします」


 ホーネストさんを送り出した後はリズさんに連絡した。明日の朝一で来るそうだ。


「シエナちゃん、ちょっとお話し良い?」

「はい」


 メイド部屋からシエナちゃんをリビングのテーブルに呼び出した。


「この数日、本当にありがとう」

「いえ、少しでもお役に立てて幸いです」

「それでね、明日からはシュトラウト家に戻っていいよ」

「……やはり私は不要でしょうか?」

「えっ? いや、凄く有り難いし、いてくれると助かる。あの子達もシエナちゃんが大好きだよ! でも、ウチでやる事って少ないじゃん。それに今、シエナちゃんはイーナさんから学んでる途中でしょ?」

「……はい」

「そっちを優先しよう?」

「もし、独り立ちの許可が出たら仕えさせて頂けますか?」

「へ?」

「ん。通いになると思うが、いいのか? 能力も無駄にするかもしれないぞ? 本当にやりたい事か?」

「はい。一度無くしたと思った命です。やりたいことを優先してます。後悔も何もありません。それに、ここは暖かくて好きなんです」


 ここまで言われたら『うん』と言うしかない。既にバウンティが言っちゃってるけど。


「うん。歓迎するよ。約束ね!」

「はい!」

「それで、元々お願いしていたお手伝いさんの件なんだけど、どうなってるか知ってる?」

「あ、それでしたらカリメア様とイーナさんが面接していました」

「面接?」


 ――――誰の?


「シュトラウト家の使用人、その知人、他の貴族のお屋敷に仕えている使用人まで立候補や推薦がありまして、やむ終えず、といった感じでした」

「え、マジ?」

「マジ、です。今は三人ほどに絞られていると聞きました」

「何人いたのぉ! 面接って何したの……」

「三十人ほどでしたよ。面接では……カナタ様を怒って、殴れて、順応力があって、諦めが肝心だと悟っていて、カリメア様に洗い浚い報告してくれる、テッサみたいな人を探している。と聞きました」

「ぶははははは!」


 バウンティが横で爆笑しだした。何かムカつく。足をギリギリと踏んでおこう。


「いや、確かにテッサちゃんそんなんだけどさぁ。さぁぁ……まぁいいか」

「カナタ様、一つお願いがあります」

「ん? なにー?」

「次の者が来るまではこちらにいてもいいでしょうか? 引継ぎもしておきたいですし。注意事項は使用人同士でしたほうがスムーズです。カリメア様には明日報告しますので」

「うーん。そういうことなら。そうしようか。じゃあ、もう暫くお願いします!」

「はい、畏まりました。ありがとうございます」




 バウンティと部屋に戻ると後ろから抱き締められた。


「ん、なぁに?」

「髪……切ったんだな」

「今頃!?」


 遅すぎてびっくりした。皆には『似合ってる』とか言ってもらえてたけど。バウンティは何も言わないから気付いてないのかとさえ思った。


「何でちゅるちゅるになってるんだよ。真っ直ぐでサラサラだったじゃないか。それに……あの頃みたいにするんだと思ってたのに」

「え? 男の子に間違われるから嫌だ、ってバウンティが言ったじゃん!」

「……ん。でも、そんなカナタを好きになったんだよ!」


 ――――おっふぉぉい。悶え死にさせる気か。


「でも、バウンティとお揃いだよ?」

「…………んっ、ハァッ」


 腰にグリグリと硬いものが当たりだした。


「バウンティ、もう寝よ?」

「……気付かないフリは止めろよ」

「そういう訳じゃ無いんだけどさ。取り敢えずベッドに入ろう?」


 ベッドに入り、何となく不満顔のバウンティを無視して、バウンティの胸に耳を当てる。


 ――――トクントクン。


 規則正しく聞こえる心音。


「ソレするの久し振りだな? ……お前も不安だったんだよな? なぁ?」

「……喋らないで、聞こえない」

「ん」


 ゆるゆると頭を撫でてくれた。戻って来れた。たった四日程度だったけど、全てを失うかと思った。

 

「シャツ脱いで」

「ん」


 バウンティがシャツを脱ぐのを眺める。


「脱いだぞ?」


 もう一度バウンティの胸に耳を当てた。よく聞こえる。目を閉じ耳を済ましてバウンティの心音と息遣いだけを聞いていた。




 ふと、肌寒さを感じて目を覚ますと何故か全裸だった。


 ――――脱いだっけ? ってか、したっけ?


 ――――ガチャッ。バタン。


「ん、すまん。起こしたか」

「どこ行ってたの?」

「アステルとイオをトイレに行かせてた」

「なんだ。ありがと」


 上半身裸でズボンを腰穿きにしたバウンティは、寝る前と一緒だ。


「ねぇ、何で裸なの?」

「脱がせたから」

「何で?」

「どうでも良いだろ」


 ――――良くないでしょうよ。


「流石にちょっと不快だよ?」

「っ、すまん…………二度としない」

「何で脱がせたのって聞いてるの。教えて?」

「っ……もうしない! だから、聞くな!」

「ちよ、怒らないでよ。私、何かした?」

「カナタが悪い! 話したいのに話させてくれないし。カリメアとばっかり話すし。喋るなって言うし。待ってたのに寝るし!」


 確かに寝落ちした。だが、脱がせた事と何の関係があるんだろうか。


「うん。それで?」

「……だから脱がせた」

「ごめん、よく意味が解らないんだけど……」

「もうしないから。もういいだろ?」


 私を抱き締めて寝ようとする。


「良くないよ。意味が解らなくて怖いよ」

「意味なんて無い。裸が見たかっただけだ」


 ――――お風呂、一緒に入ってたのに?


「寝てる間にしたの?」

「してねぇよ!」


 怒鳴られてしまった。ケンカにならないようにゆっくりと話していたけど駄目そうだ。聞いたらいけないのだろうか。


「服、着ていいですか?」

「……駄目だ」

「そっか…………」

「っ……ごめん」


 急に謝られた。バウンティにガッチリ抱き締められていて顔が見えない。


「バウンティ?」

「安心するんだ。裸で抱き締めてると、幸せなんだ」

「ふーん。変なの」


 よく解らないが幸せならもういい。もういいのだが、こそこそ触ってはいる。


「抱き締めるだけなんでしょ? 揉む必要は無いよね?」

「ある。揉むともっと幸せ。ひとつになれると、最高に幸せ。だから――――」

「じゃ、ちょっとの幸せで我慢しといてね!」

「…………はい」


 揉むのが止まった。どうやら平和に寝れそうだ。




 ――――チュッ。


「バウンティ、おっはよう!」

「……何で服来てるんだよ」

「いや、寒いし。風邪引くよ」

「……今何時だ」

「えーと、六時半」


 ――――ドサッ。


 ベッドの中に引きずり込まれた。


「朝飯まではシエナがいるだろ。八時まではこうしてろ」


 強制的に抱き着かされた。抱き着いていてもいいのだが、味噌汁と納豆の計画をおじゃんにされるのは何となく嫌だ。


「あと三十分だけね」


 そう伝えると、バウンティがゴソゴソとサイドボードを漁り避妊具を出してきた。


「ちょい待ち! それは無い!」

「昨日も我慢したぞ? 夜中も我慢したぞ?」

「昨日も夜中も一緒だし! だから朝って選択肢は可笑しいでしょ」

「前は朝もしてた!」

「そりゃ、あの子達いなかったし。今は先に起きたらココに入って来るじゃん!」

「…………鍵閉める」

「馬鹿か!」


 バウンティがウーウー言いながら脱がそうとしてくる。意味が解らない。


「もー! 何? 昨日から何なの?」

「…………カナタが消えた」


 それと何が関係あるんだろうか。


「喪失感が消えない。腕の中だけじゃ足りない。脱がせても足りなかった。ずっと入っていたい」

「……はあ。そうですか」


 そろりと始めようとする。


「嫌だって言ってるのに、無理矢理して楽しい? 幸せ?」

「……辛い! けど、カナタは――――。っごめん! 何でもない! ご飯、作って来ていい」


 何かを言おうとして止めたかと思えば、急に解放された。何となくだが、何を言おうとしたのかは解った。


「その慌て方はさー、間違いなく公園の時みたいな事、言おうとしたでしょ?」

「してないっ。何も思ってない。あの時みたいな最低な事は言わない!」

「嘘は駄目だよ」

「……まだ言ってない」


 ――――お、ちょっと認めた。


「バウンティは可愛いね。ご飯作ってくるね」


 バウンティを撫でてベッドから起き上がるとクイッとシャツの裾を引かれた。


「予約……」

「承っておりません」

「……たまには受付してくれよ」

「たまにはってか、一回も受付したこと無いのによく予約しようとか思うねぇ」

「一回は受けたのに反故にしただろ? 埋め合わせしろよ」

「したっけ?」

「しーたー! よーやーくー!」

「はいはい。着替えて子供達起こして来てねー」


 取り敢えずスルーして朝ご飯の準備に向かう。


  

 

 キッチンに行きシエナちゃんに挨拶する。


「おはようございます。昨日の指示通りご飯は炊いてます」

「卵は厚焼き玉子でお願いね。これを卵にティースプーン二杯分混ぜてね」


 海苔の佃煮の瓶を渡す。味見していいと言うと恐る恐る食べていた。


「あ、美味しい。けれど、しょっぱいですね。海藻ですか……」

「ご飯のお供なんだけど、初見だと色が微妙でしょ?」

「ええ、結構勇気がいりますね」


 なので混ぜる。食べやすいし、結構美味しい。

 シエナちゃんが卵を焼いている間に豆腐とワカメの味噌汁を作る。朝って感じだ。

 ウインナーは浅く切り目を入れてから焼く。そして、明太子も焼く! 私はそのまま派だが、たぶん焼いた方が食べやすいとは思う。この世界にはキャビアがあったので、明太子もそのままいけそうな気はする。


「メンタイコ、美味しいです! 少し辛いので、カナタ様の言う通り、ご飯をわーっと食べたくなりますね」

「あんまり辛くないやつ買ってきたけど、子供達大丈夫かなぁ?」

「これくらいなら。カレーも平気で食べてますし」


 そして、待ちに待った納豆。家でも食べたけど。

 皆はそのままは絶対食べてくれないと思うので、昔テレビで見たレシピで出してみる事にした。

 鶏ミンチをニンニクと生姜で炒めて荒熱を取る。そこにひきわり納豆、醤油、砂糖、ネギ、タバスコを数滴入れてよく混ぜる。納豆の臭いがかなり軽減された上に食べやすかった。

 シエナちゃんが納豆を混ぜている瞬間に死にかけていたが気にしない。


「それは……本当に食べ物でしょうか?」

「うははは! 味見する?」

「いえ、その、匂いだけで…………」


 ――――だよねー。


 解っている。日本人でさえ食べれない人が多いんだから。いい、余ったら全部私のだ。

 子供達のプレートにはサラダと玉子、ウインナー、鮭フレーク、ご飯を乗せる。別皿に明太子、焼き明太子を用意。鶏そぼろ納豆と普通の納豆は私の前に用意する。

 私は茶碗で大盛りご飯だ。

 さて、楽しみの朝ごはんだ。皆はどんな反応をするだろうか。ワクワクだ。




 諦めずに予約を続けるバウンティ。

バウンティより納豆が大切なカナタさん。


次話も明日0時に公開です。

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