22、お披露目会、後半戦。
子供達の寝かし付けを終わらせたゴーゼルさんとカリメアさんが、キャリーの中を見ながら色々と盛り上がっていた。
「お待たせしましたー。何か気になるものありました?」
「この黒い物が入った瓶はなによ?」
海苔の佃煮だ。説明が難しすぎる。あと、見た目の問題で嫌がられそうな気がしてならない。味は絶対大丈夫。
「海苔の佃煮です。海草を醤油と砂糖とかで煮詰めた物です」
「美味しいのかしら? まぁ、貴女が持って来たんだから絶対に美味しいのよね」
まさかの信頼されていた。
「あれ? 食べずに判断って珍しいですね?」
「だって、全部美味しいじゃないの。アイスは最高級の味だし! 柚子は私の知る柑橘の中で一番の好みだったわ!」
「えー、でも、キムチと生魚は引いたじゃないですかぁ」
「あれは……って、昔の事をネチネチと。調理したのは結局美味しかったわよ」
――――むふふふ。
何か勝った気がするが、何となく他人の褌なので心の中で喜んでおこう。
ここからは本題だ。
「あの、これなんですが……」
ゴトリとカリメアさんの前に置く。
「え? 苗木も持って来たの!?」
「えへへ。どうしても欲しくて。これ、柚子の二年生なんです」
「ははぁぁん。なるほどねー」
「ほぁ? 何じゃ? 何がなるほどなんじゃよ?」
「この子、家に植えて欲しいのよ」
――――バレバレやーん。
「はい。果樹園あるし? 庭師さんいるし? 農園もあるし? お願いします!」
「良いわよー」
「早っ、軽っ」
「その代わり、実が生ったら三分の二はこちらの取り分に。木の接ぎ木は出来るのよね? これが既にされてるんだから。上手く育ったら増やさせて頂戴。それから、スマホで育て方を調べて書面にしなさい」
増やしてくれるのは大歓迎だ。書面はバウンティに頑張ってもらおう。
「はい! ありがとうございます! あ、あと、この野菜達も……ついでに、とか?」
「……ついでの量が多いっ!」
「ですよねー」
「はぁ、コレはダイコンね。他の野菜の利点を説明しなさい!」
大喜びで説明した。どんな料理が美味しいかなどは得意だ。栄養価などはパッケージ頼りだが。取り敢えずゴーゼルさんを悶絶させるのには成功した。
「で! お鍋に入れれそうなのは今日の夕食で食べれます!」
「用意周到ね! 全く誰に似たのよ」
「「カリメア」」
バウンティとゴーゼルさんが同時に言った。語尾は『だろ』と『じゃろ』だったが。
「フン。それならまだまだ甘いわよ。自分の好きなものばっかりじゃない」
「えー。まだまだお土産あるのにー」
――――かぁさんからだけど。
ドサッとかぁさんからの荷物を広げた。
「……まぁ、貴女にしては成長したわね」
「カリメアさん、げんきーん!」
物凄く睨まれた。怖し。
「かぁさんから、化粧品とか、何か諸々です」
「あら、素敵じゃない! 説明!」
箱の説明を読むと、カリメアさんがメモをして箱に貼り付ける。頭良い。
その間暇そうなゴーゼルさんには携帯型ゲーム機を渡す。ブロックを横一列に揃えると消える簡単なゲームだ。しかもイージーモードにした。
多少煩いがまぁいい。なぜかバウンティもゲームで釣れた。男の子だな。多少おっさんになりつつあるが、そこは置いておこう。
「このキラキラは何なの?」
「あー、ネイルシールですね。速乾性のマニキュアも色々と入ってるや。アート筆とトップコートまで。お、除光液も入れてる。除光液って、こっちにも普通にありますよね?」
「あるけど、こんなに綺麗な色で匂いが付いた物なんて無いわよ。大丈夫なの? あと、速乾性って何? シールって何? アート筆?」
安全性は大丈夫だろう。ノンアセトンだし。ただ、お菓子の甘ったるいオレンジの匂いがする。あと、保湿成分プラスって書いてある。
「今の爪に絵を描いたりしても良いですか?」
「良いけど……」
鼻歌を歌いつつマニキュアやシールを見る。相変わらずゴーゼルさんは叫んでいる。
カリメアさんの今日の爪はスモーキーなピンク色なので左手の薬指と右の親指に白のマニキュアで簡単なチェック模様を描く。アクセントに金のマニキュアも少しだけ使った。
左手の親指と右手の中指には金のラインとパールのビーズが付いたシールを貼る。
「最近はこんな風に、まばらにネイルアートするのが流行ってます。あとは、こんな感じかなぁ。あ、これなんか似合いそう」
スマホでネイルアートの画像を色々と見せる。
「…………」
無言で見詰めているので気に入らないのかとドキリとした。
「はふぅぅぅ。素敵ね……もっと早くに出会いたかったわ。でも、こんな風に素敵に塗れるかしら……センスがいるわね」
カリメアさんがうっとりとしていた。かなり好きだったようだ。
「センスというより要領なんじゃないですかね? パターンとか色に合うデザインとか覚えれば、適当にやって――――」
「はん! それはセンスと感で生きてるヤツのセリフよ! 適当にやったら残念になるから悩んでるのよ! 全く! ゴーゼルといい貴女といい、ムカつくわね」
「えぇぇぇ。キレた! まぁ、良い解決法はあるので、数日待ってて下さい」
「何するのよ?」
「ひみつー!」
そんな会話の間にアート部分が乾いたので上からトップコートを塗る。艶々になるやつだった。一分で速乾するタイプだった。かぁさん速乾性好きだな。そこら辺にあった厚紙で軽く扇ぐ。少し乾きが早くなるのだ。
「なっ……何これ…………え? 水か油でも付けたみたいに光ってるわよ! 本当に乾いてるの?」
「はい、大丈夫ですよ。トップコートなので艶々をずっと保つんです。あと、発色を綺麗に見せたり、ガードする役目もありますね」
「……もしかして貴女が自動でマニキュアをする機械って言ってたのはネイルアートって言うの? 出来ないわよね?」
「え、ネイルアート専用ですよ? 流石にストーンとかビジューとかは無理ですけど。アートしてくれなきゃ意味無いじゃないですか!」
「何をもって……」
認識が違ったらしい。そもそもプリンターが無いから意味が解らないようだ。自分でベースを塗った後で、機械に指を入れて写真や柄をプリントして、乾いたらコーティング材を塗る。そう話しながら、商品のプロモーションムービーを見せた。納得してくれたようだ。そして、やっぱり欲しかったらしい。乙女だ。
「あら、もうこんな時間ね。そろそろ起きて来るかしら?」
「さぁ? この数日は寝不足だったからなぁ。安心して寝てるんじゃないか?」
どういう事だと問いただしたら、私がいないので夜泣きして起きたりしていたらしい。昨日は? と思ったらどうやら昨日も夜泣きしていたらしい。私は疲れ果てて寝ていたと言われた。否定は出来ないが、そこは言わなくて良かった。聞いた私が悪いのか……微妙だ。
取り敢えず、自然と起きて来るまで放置ということになった。
一時間ほど更に持って来たものの説明と、分けてあげられる分などを渡していた。
「ママ、あのね、イオがもらしたー」
「はいよー。あ、ゴーゼルさん、ソレは子供禁止だからね! 今日はお仕舞いで!」
「む、承知したっ!」
ゲーム機は熱中出来るが、幼児の目にはちょっと毒だと私は思う。目まぐるしく画面が光ったり変わったりする。まだ早いと思ってしまうのだ。スマホでムービーを見るに止めたい。
二階に上がり、子供部屋を覗く。おしりをプリッとさせて素っ裸で立っていた。
「イオ、来たよ。お着替えしようか?」
「ん。いっぱいでちゃった」
アイスに紅茶に柚子茶も飲ませたので私のせいだろう。
「ごめんねぇ。寝る前いっぱい飲ませちゃったからね」
「でも、アステルはしなかった!」
――――たまたまじゃ無いかな?
「うんうん。修行あるのみだね」
「うん! しゅぎょーする!」
何の修行するのかは知らないが。やる気に満ち溢れてくれたので良しとする。洗濯物を持って下へ行く。
「カナタ様、洗濯しますね」
「ありがとー」
シエナちゃんに渡し、手を洗ってからリビングに戻る。
「ぼく、しゅぎょーする!」
「何のだ?」
「おしっこ、もらさないしゅぎょー」
「ほんじゃ、夜とお昼に寝る時はこれを付けよう」
子供用の尿を吸収してくれるパッドを買って来ていた。布団にも対策は施しているが、布団自体が濡れない事がイオにとっては安心になるのかもしれないと思っていたのだ。
「おむつ?」
「寝る時だけね。起きてたらおしっこは自分で出来るでしょ? うんちも最近は出来るよね?」
「できる!」
「うん。だから、夜だけ。付けてたら安心して眠れるよ。ビチョビチョで気持ち悪くもならないよ?」
「ほんと? ぼく、つける!」
――――よしよし。
「それ、何枚か寄越しなさい」
「いいですけど、誰用?」
「違うわよ! 開発用よ。あった方がいいでしょ?」
なるほど! とてつもなく助かる。それに、年齢を召した人とかね。必要になるしね。何にせよあった方が有り難いので数枚渡した。
「ふー、また忙しくなりそうね。王都に行く前に少しでも終わらせたいわね……。カナタ!」
「ふぇい!」
「野菜は農家に任せてもいいかしら? 家の庭でも作るけど、本職で余裕のある所の何軒かに二種類程度渡して育てさせて、受け入れられて量産出来そうなら市場に卸したいのよ」
「おぉぉ。お願いします! 全部の育て方とか色々調べますね。一応、向こうの農家の人が初めての人でも育てやすいっておすすめしてくれたのばかりなんです」
「あら、ちゃんと考えて持って来てたのね」
食べたいので必死なのだ。取り敢えず早急に柚子から調べる。読み上げてバウンティに記入してもらう。その間は子供達はゴーゼルさんやカリメアさんとおもちゃで遊んだり、写真集を見て楽しんでくれていた。
「おなかへったー!」
イオが走って来て、抱き着いて上目遣いで見詰めて来る。鼻血ものだった。
「そんじゃあ、お鍋にしますか!」
「おーなーべー」
ダイニングに鍋型ホットプレートを二台設置して昆布だしと顆粒の和風だしを入れて大根、ゴボウ、ニンジン、白菜の根元側、鶏肉を入れて火にかける。出汁がある程度温まって来たらキノコ類、そして待ちに待った豆腐! 私は木綿派だ。絹ごしも買って来たので後で食べ比べしてもらいたい。
完全に沸騰したら葉側の白菜と豚バラ肉を入れる。灰汁を取り、最後に春菊と水菜を入れる。
「よっし、では、タレや薬味の紹介です!」
柚子のぽん酢、ゴマダレ、ピリ辛ダレ、柚子こしょう、七味唐辛子だ。色々混ぜたりが楽しい。
子供達にはいつものぽん酢と、柚子のぽん酢、ゴマダレの三種類を渡す。今日はシエナちゃんも一緒に食べるので、子供達のお世話はシエナちゃんに任せた。
「ピリ辛ダレはたぶん『ピリ』じゃないと思うので、ぽん酢やゴマダレに少し混ぜたりするとアクセントになって丁度いいと思います。柚子こしょうはぽん酢との相性が最高です。鍋のお出汁に溶かすだけでも美味しいんです! 七味は辛い香草だと思って気を付けて使って下さいね」
そんな説明をしながらある程度盛り付けて渡す。
「お椀に入ってる白いフルフルした物は豆腐と言います。原料は大豆です」
「大豆? また大豆なの? 好きねぇ」
「はい! 大好きです! むふふ。先ずはぽん酢で食べてみてください。すっごく熱いんで気を付けてくださいね」
――――はふはふ。
「まあまあ好きよ。でも、少し青臭いのかしら……何の味とも言えないわね。柚子のぽん酢がとても美味しいのは良く解るわよ? そもそもトーフって体に良いの?」
「はい。カロリーはロールパンの約六分の一、糖質は白米の約五十分の一、美容効果、血液サラサラ、他にもいっぱいありますよ」
「……ゴマダレでも食べてみるわ」
どうやら美容効果には抗えないらしい。そして、ゴマダレの方が好きなようだ。
「何か、カナタのゴマダレと少し違うのぉ」
「あー、売り物なんで凄く濃厚でいて上品な味ですよね。あ、ぽん酢を少し混ぜて酸味を出しても美味しいですよ」
バウンティは黙々と食べ続けている。
私がポン酢に柚子こしょうを入れて食べていたので気になったのだろう、タレ入れを盗られた。そして止める前に食べていた。
「あぁぁぁ、辛いよ?」
「ゲフゲフ……おちゃ……」
「はい。ごめんねぇ、多分バウンティ達はチューブの五ミリくらいで風味が付いて良いと思うよ?」
「カナタ、どれだけ入れたの?」
「二センチ位かなー。あはは」
皆に無言で見られた。しかも頭の可笑しな人を見るような目で。
「ママ、からいのだいすきだもんねー」
「ねー? ママのおさらは、あぶない。ぼくさわらない!」
うむ。子供達の方が良く解ってる。あと、バウンティは怪しいと思う時、私のを味見する。実はちょっと止めてほしい。私の中では最高の味なのだ。
バウンティからタレ入れを奪い返しつつ鍋に新たな肉を投入する。
「おぉ、もっと入れい。足りんぞ」
「ゴーゼルさんとバウンティは子供達の方を食べてて」
灰汁を取りつつ今度は絹ごし豆腐を用意する。
「こっちは滑らかじゃない! ツルリと食べれるわね」
「わたし、こっちがすきー」
「おぉ、そうなの? 絹ごし作れるかなぁ。頑張るよー」
「あら? 作れるの? なら教えなさい」
どうやら皆は絹ごしが好きらしい。木綿のパンチのある硬さがいいのに。
何度かのお代わりをしてごちそうさまをした。
荷物を待たされたゴーゼルさんと、ホクホク顔のカリメアさんを見送り、子供達をお風呂に入れ寝かし付けた。
もう少しやりたいことがあるのでリビングに戻った。何だか眠たいが、もうちょっとだけ頑張ろう。
寒くなくても鍋最高! 鍋が大好きなバウンティと、豆腐が大好きなカナタさん。
次話も明日0時に公開です。




