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19、戻りたい。

 



 朝六時、自然と目が覚めた。とーさん、かぁさんはまだ寝ていたので机にメモを残した。そっと鍵を持って朝風呂しに行く。


「ふへぇぇ」


 ハーブ風呂があったのでそこに決めた。スッキリとしたミントやカモミールの匂いが気持ちを安らげてくれた。


 ――――ガチャッ。


「あ、おはよー。ごめんね、一人朝風呂しちゃった」

「おぉー、ドコに入ってきた?」

「ハーブ風呂」


 他愛も無い話を少しした後、本題を切り出す。


「とーさん、ありがとう」

「んー?」

「かぁさんもありがとう」

「急にどうしたの」


 ベッドニ座っていた二人を見詰め話す。


「今日の夜、あっちに戻るようにするよ。戻れるか解んないけど。何となくね、飛べるって感覚だったのが、こっちに来てから無くなってた。それがね、昨日からその感覚が戻って来てるんだ。たぶんバウンティに飛べる……と思う」

「もうかい? まだ一週間も経ってないんだよ? もっとゆっくりしなさい」

「龍太さん、ワガママはダメだって! 奏多は決めたんだよ。ね?」

「うん。ごめんね酷い娘で。ごめんね、怪我したかぁさん置いて行って。ごめんね、とーさん。大変な時に一緒に支えてあげられなくて」


 申し訳なくて涙が出てくる。二度と帰って来れないかもしれない。解らない。自分の変な能力が恨めしい。


「グスッ……一時期はね、バウンティ連れてこっちに帰って来たかった。けど、バウンティはあっちの世界が生きやすそうだから……私もあっちで生きるよ。ごめんね」

「奏多、ちょっとこっちに来な」


 かぁさんが手招きするので近寄ると抱き締められた。


「はぁ、大きくなっちゃって。胸が」

「そこっ?」

「ははっ。アンタはさ、目の前の事ばっかりで、周りがすぐ見えなくなるよね? バウンティくんや子供達とケンカして、また何にも見えなくなったんだよね? 覚えときな、子供の反抗期は何回もあるんだよ。幼児期、少年期、青年期さえもね。結構辛いけどさ、過ぎてみれば結局カワイイんだよ。……奏多、根性入れて頑張りな」

「うん。頑張る!」


 かぁさんに背中を撫でられた。懐かしさと温かさで更に涙が零れた。


「奏多、僕は日本にいて欲しい。父さんのお願いは聞いてくれないのかい?」

「うん。聞かない。とーさんのお願い聞いたら、いつかとーさんが辛い思いするから。私、とーさんに八つ当たりしちゃうから。聞かない!」

「うん、そうだね。きっと、そうなるだろね。ハァァ……これからはメッセージや写真をもっと送ってくれないかい? アステルとイオは奏子さんとばっかり電話してるじゃないか」


 とーさんはヤキモチ妬いてたらしい。知らなかった。今度からは夕方に電話するようにしよう。


「うん。いっぱい送る。いっぱい電話するようにする!」

「ん、待ってるよ」


 ちょっとしんみりしつつ、朝ご飯を食べていた。が、美味しすぎてテンションが上がりまくった。


「湯豆腐とゴマダレって合うね!」

「蕩けるような豆腐だね……あつつ」


 ハフハフ言いながら笑顔で食事を終えた。

 チエックアウトは十二時なのでもうひとっ風呂した後、荷物を纏めて旅館を後にする。




「奏子さん、奏多、着いたよー」


 帰りの道中でお昼を食べた後、寝てしまっていたらしい。


「んー、ごめーん。寝てた」

「ははは。いいよ。それより葉子ちゃんに連絡しといたから家にいるんじゃないなか?」


 ――――なんと手際の良い。


 かぁさんの経営する雑貨店と家が繋がっているので、そこから入っているのだろう。


 ――――『ワハハハ、なんでやねーん!』


 テレビの音が聞こえる。リビングを覗いた。


「……自由か!」

「ほわっ! あ、奏多おかえりー」


 葉子がリビングのソファで寝転がって、ポテトチップスを食べながらテレビを見ていた。自由すぎる。


「あ、おばちゃん、チップス勝手に食べたー」

「あー! アタシのワサビ味! 買って返せよ!」

「はーい」


 ――――娘か!


 その後、葉子にタブレットの使い方を教えられた。


「ほんほん。このマークがあるやつが見放題なのね……」

「そ。一応、モバイル通信ルーターの契約もしてきたよ。携帯ショップで働いてる私だから出来るんだからね。感謝しなよ! 普通、本人来店無しとかあり得ないからね!」

「へへぇー。流石、葉子様! よっ、店長!」


 気が付いたら、店長になっていた。バリバリのキャリアウーマンだ。


「いーなー、私、無職。しかも、親が貯めてくれてたお金で爆買いするダメ人間なんだよー」

「爆買いしてる自覚はあったんだね」


 そりゃぁ、自覚はある。この数日でキャリーケースを二個もパンパンにしているのだから。ケースの外にまで荷物を括り付けているし。


「それでね、今日の夜に戻る事にしたよ。あの子達が寝てからがいいかなって思ってる」

「ふーん。もう帰って来れなさそう?」

「うーん。良く解んない。いまいち自分の能力がハッキリしないんだよね……ごめんね?」

「はぁ、解ってるけど、寂しいね。あと、皆に何も言えないのも辛い」


 そうだった。そこの問題が残っていた。


「とーさん……私、見付かった事に出来るかな?」

「んー、それね。考えてはいたんだよ。担当の刑事さんともだいぶ仲良くなったしね、洗いざらいは無理だけど、うまいことできないかなってね」


 皆が何となく考えていた使えそうな言い訳は『記憶喪失』だった。


「やっぱ、それが一番ありえそうな理由だよね」

「あとは……記憶喪失の間、お世話になった先で生活基盤を手に入れたから、そっちで生活したいって事で送り出した。って方向に持ってかなきゃいけないね」

「刑事さんと会って話した方がいい?」

「んー、取り調べとかで凄く時間がかかると思うよ。任意だけどね、それでも対応はしなきゃだしね。こっちは任せてくれて大丈夫だよ。奏多はバウンティくんの元に行きなさい」

「うん!」


 夕食はかぁさんのカレーだった。家の味だ。カレールーの賞味期限が二年程あったので、色んな味を買い込んだ。カンさんには嫌味に感じるかなと少し心配したが、まぁ、許してくれるだろう。心の広い人だし。




 夜九時、間違い無く子供達は寝ている。リビングにキャリーケース二つと柚子の苗。土が零れないように鉢の部分はビニールで包んだ。カップ麺の箱買いしたものはキャリーの外側に紐で括り付けた。かなりワイルドだ。


「そろそろ行くよ」

「奏多、元気でね。ちゃんと連絡してね?」

「うん。葉子も元気でね!」

「奏多、行ってらっしゃい。電話、約束だよ?」

「いひひ。うん、約束!」

「今度からは爆発する前に、バウンティくんとちゃんと話し合いなよ?」

「はーい。じゃ、いってきますっ!」


 キヤリーに抱き付いて目を瞑る。


「ぶふっ。不恰好過ぎて笑えるわー」

「ちょ! しんみりしてたのに!」

「奏多が悪い」

「うん、奏多が悪い」

「もうっ! じゃーねっ――――」


 バウンティを思い浮かべる。

 涙眼でユルユル笑いながら両手を広げて私を抱き締めようとする、そんなイメージ。可愛い可愛い私のバウンティに飛び込もう!







 ******

 ******







 ――――ドカッ、ドサドサッ。グニッ。


「う……ゲフッ、ゴホッ…………グッホッ。重い……何コレ?」


 非常にマズい。バウンティの噎せ込む声が下から聞こえる。

 まさか、もうベッドに寝転がっているとは思わなかった。私の下にキャリーがあるので、間違いなくその下にバウンティがいる。


「えっと、ただいま」

「カナタ、下りろ!」

「あ、はい」


 そっと下りてキャリーケースを退かす。バウンティが押し退かそうとしていたのて慌てて止める。


「壊れやすい物入ってるから手荒に扱ったらダメ!」

「……」


 そっと床に下ろしてくれた。紐をほどいて、柚子の苗の無事を確認する。どこも折れてなかった。


「オイ……」

「ただいま!」

「……」


 ――――バチン!


 バウンティに頬を平手打ちされた。物凄く痛い。


「ったぁぁい! …………本気で痛いんですけど!?」

「っ……やっと帰って来たのか。馬鹿」

「うん。帰って来たよ! 子供達は寝てるよね? ちょっと見てくるね!」


 何か言いたそうなバウンティを放置して子供部屋を覗くと、天使のような寝顔ではあった。寝相が酷いのでそっと整えて布団をかける。元気にしていたようでホッとした。

 主寝室に戻りバウンティの様子を伺う。


「バウンティ、ありがとね。大変だったよね?」

「……」

「……また無視するの?」


 きっと怒っているのだろう。


「バウンティ?」

「っ……俺に会いたかったんだろ?」

「うん!」

「……泣いて抱きつけよ! キスしろよ! 一人にしてごめんねって言えよ!」

「いひひ。バウンティは可愛いねぇ。よっ」


 バウンティの首に手を伸ばし、よじ登る。チュッとキスをするが無反応。下唇を噛んで引っ張り舌を口の中にねじ込むと、堰を切ったようにキスを返して来た。

 息も漫ろになりながら、それでも止めない。


「ん…………苦し……バ……ン、ティ」

「ほんとムカつく。何を堪能して帰って来てんだよ。なんだよこの荷物!」

「あ! スマホ出して! とーさんとかぁさんと葉子に連絡しなきゃ! 無事に戻れたよって!」

「……戻りたいと思ったんだな?」

「当たり前じゃん……馬鹿なの?」

「ん、スマホ」


 ズイッと渡されたのでメッセージサービスアプリで連絡した。証拠写真も送った。


「カナタ」

「んー?」


 バウンティが私を抱えてベッドに移動しだした。首筋や胸、お腹となぜかスンスンと匂いを嗅がれる。


「へ? ちょっ、嗅がないでよ……」

「いー匂いがする。甘い。美味しそう」


 ――――ガリッ、チュッ。


 何故か首筋を噛まれた。


「ひぁぁん!」

「本物のカナタだ。美味しい」


 徐々に服を脱がされ下着姿にされた。そこでふと思い出す。


「ちょ、一旦ストップ!」

「無理」

「ストップって! ちょっとくらい待って!」

「チッ……」


 キャリーケースを開いて荷物を探す。が、無い。もうひとつのキャリーケースだったようだ。


 ――――ゴソゴソ。


「ん、みっけた!」


 探し物が見付かったので、振り返って箱を掲げると、バウンティはそっぽを向いてふて寝をしていた。


 ――――バコン!


 何だかムカついて箱を投げ付けた。


「無視すんなぁ!」

「チッ……で、この箱は?」


 頭の横に飛んだ避妊具を指される。


「避妊具。バウンティがキツいって言ってたから大きいの買ってきた」

「ふーん」


 バウンティがニヤニヤしながら買ってきた避妊具に手を伸ばした。


「ん……凄いなコレ……こんなに薄くて大丈夫なのか?」

「うん、箱に世界一の薄さって書いてあるよ」

「……ソレが良かったのか? 俺をもっと近くで感じたかったのか?」


 また言葉で攻めてくる。


「そうだって言ったら? 興奮しちゃう?」

「ん! 大好きだっ!」




 結局、こうなるよね。全く学ばないな、私。

 ハァハァとベッドに仰向けで倒れ込むとバウンティがニヤニヤしながら避妊具を眺めていた。


「こっち、ちょっと小さかった。でも、今までのより全然良い!」

「あ、何かね、説明書きがあった。小さいサイズの使うのはダメなんだってよ?」

「んじゃ、カリメアに渡す」

「えっ……ええっ?」

「いや、開発用にだからな! 流石に師匠のサイズとか知らねぇからな!」


 ――――なんだ。


 その後はお風呂に入りつつ、明日の事について話し合う。ちょっと動けそうにも無かったので、冷蔵庫に入れた方が良いものはバウンティが持って行ってくれた。

 明日はアステルとイオを起こして抱き締めよう。




 カナタさん戻りました。

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