167、観光案内
引っ越しパーティーで爆弾発言と言う名の第三子妊娠発表した翌朝、バウンティにギチギチに抱き締められた状態で目が覚めた。
「バウンティ……ちょ、バウンティ! 苦しいって」
「……」
「何? まーだイジケてんの?」
「……」
自分に一番に報告じゃなかったのが嫌だったらしい。昨日の夜からずっとイジイジとしている。あと、小声で「急にオアズケとか、最低だ」とか「何で、ホーネストは俺に報告しないんだよ」とかグズグズ言っている。
ホーネストさんは私の精霊だし。私が許可していない事に関しては教えないし。たまに抜け道使ってるけど!
「名前、相談したかったのになぁ。ハァァ」
「っ、考える! 俺が考えるっ!」
「はいはい。よろー」
バウンティの腕から抜け出しキッチンへ向かう。
「おはよー。朝ごはんはいつものプレートで」
「「おはようございます、はい」」
「どうそ、カナタ様」
セルジオさんがそっと温かい麦茶を差し出してくれた。
「今日からは麦茶に変更しますね」
「ありがとうございます」
いつもはカプチーノを作ってくれるのだけど、妊娠を発表したせいだろう。あと、サッと飲めるように私好みの少し冷ましたもの。有能すぎて怖い。
「カナタ様、本日のご予定ですが、午前中はエズメリーダ様、ダニエレ様とローレンツ観光、昼食はラセット亭、夕食は一緒に作られるとの事ですが何か用意しておくものはございますか?」
「んー、まだメニューで迷ってんだよねー。初心者で迷いが無くて、謎の自信が満々の人が失敗しない料理って何だろね?」
「……カナタ様」
皆が何故か顔面蒼白で「不敬ですよ」とか「後ろ」とか小声で言ってくる。このパターンはアレだ。いつもの私の運が無いやつ。
「それは私の事かしら?」
予想通り真後ろにエズメリーダさんがいた。
「あ、エズメリーダさんおはよー。そーそー、エズメリーダさんの事ー」
「ふん。まあ否定はしませんけど! アレンジしやすいのが良いわね」
「ほらー、超初心者の癖にそう言う所が危ないんだってば!」
エズメリーダさんと言い合いしていたら続々と皆がキッチンへやって来た。
「よお、何か手伝うか?」
「やった! 味噌汁作って下さい!」
『オー、私はオムレツ作りましょうか?』
「トマーゾさんのオムレツ!? 食べる!」
『りょーかいデース』
私はいつものごとく、ふりかけやフレークを準備しダイニングに運ぶ。
「貴女、よくまぁ平気で堂々と客人を働かせれるわね」
「えー? 料理人が作ってくれるんですよ!? 食べたいじゃないですかー」
『「二人とも、料理が好きです。気にしない、大丈夫です」で伝わるかしら?』
彩さんがニコニコと言うが、私にはどうあがいても伝わるので何とも言えない。
「ふうん、そんなものなのね。やっぱり貴族とカッパーの常識ってかなり違うわね」
「エズメリーダ様、ご安心下さい。カッパーでも客人に朝食の準備の丸投げはしませんよ」
伝わったらしい。そして、サラダをダイニングに運んで来たケイナちゃんがフォローにならないフォローをしてくれた。
「あら、やっぱり普通じゃないのね」
エズメリーダさんにあきれられつつ朝ご飯の準備を終わらせた。
「さって、出発!」
「「しゅっぱーつ」」
先ずは一番の観光名所へご案内。我が家から直ぐの――――。
「はい、シュトラウト邸です」
「ゴーゼル様の……。馬鹿でかい」
「本当に大きいわね。と言うか、観光名所なの?」
「あ、エズメリーダさんから見ても大きいと思うんですねー」
城と言っても過言では無い大きさだものね。
そこから歩いて中町を案内する。そこから外町の案内にと移動している途中で何度かお世話になった老人ホームの前で何人かの利用者さんに出会った。
「カナタちゃーん、皆でお出掛けかしら?」
「はーい。お友達にローレンツ案内中なんです」
「あらあら、お貴族様でしょう? 外町に行くの?」
「うん。孤児院に行こうかなって」
「また依頼だしとるそうだぞ。話に来い」
「うん、おじーちゃん、また行きますねー」
子供達とワチャワチャ手を振りながら挨拶して孤児院に向かう?
「あのご老人達は何なの?」
「老人ホームにいる人達だよ。あーっと……こっちの名前何だったっけ?」
「プライエムだ。介護付き高齢者向け集合住宅」
「それそれ。時々、賞金稼ぎとかから冒険や面白い話を聞いて楽しく過ごそう的な依頼を出してて、何回か行ってるの」
「ぼくもおはなししたよー」
「わたしもー!」
「へぇ、面白そうね」
「お、一緒に行ってみる?」
「ええ! 良さそうだった王都でも取り入れたいわね」
最近は市井の事を知って地位の違いや、圧倒的多数のカッパーの人達の生活改善等を国に提案する活動をしているらしい。なのでローレンツでもそういった所を見に行きたいそうだ。
「あーぁ。あのエズメリーダさんが真面目! いっそ別人と言って欲しい……」
「エズメリーダは素直な子だよ」
「っ、貴方達、私の方が歳上なんだけど!?」
「はいはい。あ、着きましたよー」
門を入り、建物に入って受付を済ませる。院長室に向かう途中でベラさんが子供達に詰め寄られているのを発見した。
「なんでー! 私達も行きたかった!」
「ずるいー! 私、知らなかった!」
「いや、だから、貴女達はまだ小さいし…………それに、一応カリメア様の許可も必要だったし」
何の話だろうか。カリメアさんの許可って、物々しいなぁ。
「こんにちわー、昨日振りです。どうしたんですか?」
「カナタ様だー!」
「バウンティ様だー!」
「あ! アステル、イオ、グラウンドで遊ぼー?」
「「遊ぶー」」
アステルとイオは素早く消えて行った。
「いえね、昨日のお手伝いに出した子達を羨ましがってね。ご馳走をたらふく食べて来たうえにお土産いっぱいだったじゃない? テッサが出て行ってから、目新しいおやつやお土産も減ってたからね、久し振りに皆が興奮してて。自分達も行きたかったって駄々捏ねてただけよ」
ベラさんが溜め息吐きながら「アステルとイオと走って遊びに行ってしまう子なんて手伝いにならないわよ」とボヤいていた。
「あ、そうそう、エズメリーダ様の見学だったわね。一旦、院長室によろしいかしら?」
「ええ」
院長室でお茶をもらいながら孤児院の十ページほどのパンフレットを見る。以前はパンフレットを配ったりなどは何もやって無かったけど、提案したら作ってくれた。
こっそり、『寄付も受け付けてるよ』と裏表紙の一面に書いている。一面使って、こっそりとか言うなとか聞こえない。聞こえないったら聞こえない。
「へぇ。孤児院の子だという証明書を発行してるのね」
「えぇ、それで市外にも出れるわ。ここは市外の海水浴場や農場が近いから、そっちに稼ぎ行く子もいるんです」
王都にも孤児院があるけど、修道院付きの孤児院で国営なんだそうな。だから、国家予算で運営が賄われているうえに、孤児院から修道院にそのまま流れる人がほとんどなのだと言う。だから、修道院の人達は外の事をほとんど知らないし、永遠と増えて行くそうだ。
「部屋が足りないから四人部屋に八人とかいるし、プライエムと何ら変わり無いし、なんならもっと酷い環境だったのよ」
「寄付は?」
「言ったでしょう、国営よ」
よく解らないが国営は寄付を募ったら駄目らしい。全くもって訳が解らない。国が運営出来てないと認めるようなものだとか言われても「認めなよ」と思うばかりだ。
あと、修道院って宗教関係無かったっけとか今さら思ったら、地球的な修道院では無くて、救護院とか救貧院とかの役割らしい。
「んじゃ、バウンティみたいに孤児院を建てちゃえ」
「貴女……ほんと、簡単に言うわね」
「簡単じゃん、修道院と孤児院の同時運営が上手くいって無いんなら、一旦その二つを離せばいいんだよ」
「まぁ、そうでしょうけど……」
それにしても、何で王都とローレンツとこんなに違うのかなと思ったら、元々は貴族が領地運営していた頃の名残らしい。
今は全領地を国が所持し、各地に市長や町長を置いているので統一すればいいのだけど、土地に根付いたシステムを解体するのは危険だと言う事で未だに各都市での多少のズレは放置らしい。
「ん? シュトラウト家って元々は領主?」
「あぁ」
「マジか。偉かったんだ」
「いや、今も偉いだろ! その感想を言うお前が怖いよ」
なぜかダニエレくんに引かれた。今のゴーゼルさん、鼻の下伸ばした祖父馬鹿だしなぁ。と脳内で軽くディスっといた。
西洋史は苦手だなぁ。いや、日本史も苦手だった! と思い出していつも通りスルースキルを発動するカナタさん。




