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16、暫くの間……

 



 皆を、家族を置いて日本に飛んで帰ってしまった。戻りたいと思うのにバウンティに飛べない。

 アステルとイオが寝たらバウンティが電話くれるらしいので待つ事になった。




「っ……何これ! 超美味しい!」


 とーさんがコンビニで新発売のアイスやお菓子を買って来てくれた。


「あははは。そんなにお菓子に飢えてたのかい?」

「だって、ジャンクなものが少ないんだよ!」


 妙に発展してるかと思えば、中世時代ですか? ってくらいに発展してない物もある。日本と違いすぎて馴染めない事も多かった。


「ねぇ、奏多」

「ん? 何?」

「バウンティくんから電話が来たら、まずは僕達だけで話させてくれないかい?」

「……うん」


 何を話すのか聞きたかったが「男同士の話だよ」と笑って誤魔化された。

 それから暫くしてバウンティからの着信がかぁさんのスマホに来た。


「じゃ、ちょっとあっちで話してくるよ。盗み聞きしたら怒るからね?」

「……ひゃい」


 とーさんがそう言ってスマホを持って別の部屋に行ってしまった。


「久し振りに怖いとーさんが現れた」

「いや、帰って来てからずっと不機嫌だよ」

「え? マジ?」

「いや、マジマジ。あんたがお風呂堪能してる間に根掘り葉掘り聞かれてさぁ……」

「えー。言っちゃったの?」

「いや、言わざる負えないじゃんか!」


 両親に夫婦喧嘩の内容モロバレって何か恥だ。




「お待たせ。バウンティくんと相談しなさい?」

「あ、うん……」


 にっこりと笑いながら戻って来たとーさんからスマホを受け取った。笑顔が怖い。


「バウンティ……?」


 恐る恐る画面を覗き込むと真顔のバウンティがいた。


『カナタ……お前が何を決断しようとも必ず受け入れるから。子供達の事は心配するな。大丈夫だから。ちゃんと言い聞かせるから。俺だけはお前の味方だから。実家で暫く羽を伸ばせ』


 なぜか急に聞き分けの良い旦那さん風で話された。


「とーさん、何言ったの!? 何かバウンティが変!」

「僕は挨拶しただけだよ? ほら、部屋で二人だけで話し合っておいで。ここでは話し辛いだろう?」


 笑顔が嘘臭すぎるが、どうせ答えてもらえないので部屋でバウンティを問い詰めて聞き出す事にした。

 二階の自分の部屋でスマホを見詰める。


「バウンティ、アステルとイオは大丈夫だった?」

『……ん、大丈夫だ。気にするな。カナタは自分の事を考えてていいからな?』

「…………とーさんに何言われたの?」

『別に、挨拶しただけだ』

「判りやすい嘘吐かないでよ」


 悲しそうに笑われたら、そんなの嘘だって判ってしまう。


『カナタ、愛してる。こっちは大丈夫だから、お前の思う通りにやっていい』

「……私は今すぐ戻りたいよ?」

『無理するな。ここにいるのが辛いから、そっちに行ってしまったんだろう? 俺に飛びたく無いんだろう? 飛びたいって……思ってくれるまでちゃんと待つから。心の奥底の感情が左右するんじゃないかって、カリメアとバーナードが言ってた』

「カリメアさん達に知らせたの?」

『ん。バーナードを連れて来てくれた。あと、シエナも暫くこっちに貸してくれるって』

「ん。そっか。私がいなくても大丈夫なんだね…………」


 自分から消えたくせに。こんなひねくれた言い方しか出来ない。


『っ……大丈夫……じゃ無い! けど、頑張るから。約束通り子供を一番に考えるから! だから! …………今は……弱音吐いていいか?』

「っ……うん。いいよ」

『カナタ……っあぁぁぁぁぁ……カナタごめん! こんなに辛いって思わなかった! ごめん! 我慢させてごめん! 我慢しなくてごめん! うぁぁぁぁ……カナタァァァ、嫌だ、二度と触れられないなんて嫌だ! あぁぁぁぁぁぁぁ……』


 泣き叫ばれた。初めて叫ぶほど泣く所を見た。画面がブレブレでちゃんと見えないけど。胸が張り裂けそうなほど辛さは伝わってきた。


「ん。側で抱き締めてあげられなくてごめんね。バウンティ……私、絶対戻るからね? 明日も子供達が寝たら電話してくれる?」

『……グスッ。しない』

「えっ? いや、何でよ! してよ!」

『……だって、話すの辛い。画面の中のお前は……可愛くない。凄く嫌い』

「今、我慢するって言ったじゃん!」


 あと、可愛いか可愛くないかは関係なくないかな?


『ん。会えないの我慢する。それに、電話出来るから寂しさ半減で、戻るのが遅くなるかもしれないだろ?』

「それ、とーさんに言われたの?」

『いや。カリメアに言われた』

「ふーん。一生戻れなかったら?」

『…………命令だ、寝る前は必ず俺の事を考えろ。心も体も俺だけを求めろ。…………自分で触るなよ?』

「煩い、変態」

『ん。なぁ、笑って?』


 バウンティが可愛くて心から笑えた。


「バウンティ……切る前に二人の顔見せて?」


 バウンティが子供部屋に移動してくれた。


『見えるか?』

「ん……見える。愛してるって抱き締めてあげてね?」

『ん』

「王都に行くまでには戻りたいけど、間に合わなかったらバウンティ達だけで行ってね?」


 そう言った瞬間、画面がグリンと動いてバウンティの顔を映し出した。


『おい、そんなのどうでも良いだろ。俺の事だけ考えろってさっき言ったばっかりだぞ!』

「んはは。ヤキモチ? バウンティは可愛いね」


 ムスッとして唇を尖らせてブチブチと言う。


「……キス、したい」

『馬鹿。戻って来たらいっぱいしてやるよ』

「うん! ……っまたね? グスッ」

『泣くなって。あぁ、また……な』


 バウンティはギャン泣きしたくせに、私に泣くなと言う。なんて酷い旦那さんなんだ。泣きつつも笑って電話を切った。




 一階のダイニングキッチンに下りてかぁさんにスマホを返す。


「スマホ、ありがとう。戻るまで電話はしない事にしたよ」

「そっか。頑張りな?」


 かぁさんが微笑んで頭を撫でてくれた。


「とーさん……」

「怒ってるのかい?」

「んーん。バウンティ、何も言わなかったから……。でも何か言ったんでしょ?」

「……さぁね」

「バウンティね、メンタル激弱だから、苛めないでよ」

「……奏多を守るって約束、反故にされたのに?」


 ――――そういえばそんな約束していたっけ。


「ちゃんと約束守ってくれてたもん!」

「奏子さんに泣き付いたくせに何を言ってるんだい。逃げ場が無かったんじゃないのかい?」


 バレバレだったらしい。


「少しこっちで休みなさい。アステルとイオが心配だろうけど、バウンティくんがちゃんとお世話するって言ってたし、シエナちゃんも来てくれるって言うし、奏多は心も体も休める事を一番に考えなさい」

「……」

「返事!」

「……はい」


 取り敢えず自分の部屋で眠る。驚くほど心安らかに眠れた。起きたらお昼過ぎていた。


「おはよう……かな? 奏多。よく眠れたみたいだね」

「……うん。とーさん何でいるの?」

「ははは。昨日の事、怒ってるんだね? この際だし、有休全部使おうと思ってね」

「ふーん」


 たぶん八つ当たりだ。でも何となくバウンティを苛めた気がして許せそうにない。


「奏多、買い物に行こうか?」

「……何で?」

「ははっ。不機嫌だけど、返事はしてくれるんだね? あっちにあったら便利なものとか、念のため用意しといたら良いんじゃないかと思ってね。あの時の荷物みたいに持って行けたらラッキーじゃないかい?」

「……うん。行く!」

「あはははは。決まりだね。そーこさーん、奏多行くって!」

「おぉ、アタシは準備万端だけどな!」


 車イスでかぁさんが現れた。まさかの電動だ。


「うわっ、何かカッコイイ」

「でっしょお! 人混みで義足と杖は大変だからね! 電動よ!」


 ギュリンと廊下で一回転していた。


「あ、銀行っていうか、私の貯金って残ってないよね? スマホ代の六年分って……」

「ふっふっふ。ここに見えますはぁ……通帳にございます」


 かぁさんが掲げた通帳には『イマイ カナタ』と記名されていたが、全く見覚えが無い。


「アンタが小さい頃から貯めてやっていた『もし、結婚出来たら渡してやろう貯金』だ! なんと、奇跡的に結婚出来たのに全く出番がなかった!」

「マジか! ありがとう! タイトルが妙にムカつくけどありがと、かぁさん!」

「僕も一緒に貯めてたけどね?」

「うん。とーさんも、ありがと」


 中を見ると、まさかの七百万も入っていた。


「いやいやいや! 何か多くない!?」

「大学資金用の学資保険の満期分とか、事故の見舞金とか保険金とか色々足されてね。四倍近く増えたんだけどね。アタシ等の努力が霞むっていうね! わはは!」

「あは。それでもありがとう」


 


 銀行に寄って下ろして来た。


「ドーンと下ろせばいいのに」

「いやいや、五十万も下ろしてんじゃん!」

「チキンか!」

「チキンだよ!」


 言い争う内容が酷いととーさんに笑われた。

 少し遠いが、車で一時間ほど行った所に大型ディスカウントショップが出来たらしい。平日で少ないだろうし、と行くことになった。


「ほぉぁぁぁ。でっかい……天井高っ」

「外資系の倉庫型ディスカウントショップなんだよ。食品は大袋の物とかが多いかな」

「ほぇぇ。ほあぁぁぁ……あ! チョコレート!」


 ローレンツでアホほど高いチョコレートを見ていたので、日本のチョコレートの安さに感動さえ覚える。


「あー、あんた高いってずっと文句言ってたもんね」

「これ、いっぱい買う! 賞味期限長いの探して!」


 製菓用のは賞味期限が一年ほどあったので、色んな種類を大量購入することにした。


「リズさんに分けてあげよう!」

「あ、インスタントラーメンは?」

「買う! とんこつ味は絶対ね! あ、調味料も欲しい。鰹だしと醤油とワサビ! 柚子こしょう! 豆板醤! うぁぁぁ、海苔の佃煮だぁ」


 ――――白米バンザイ!


「あんた、食べ物ばっかりだね……」

「もうね、もうね! すっごい我慢してたの! お刺身! ワサビが無いんだよ? 魚醤しか無いんだよ? 皆さぁ、味見するくせに、微妙な顔をするんだよ!」


 ――――美味しいのに!


 そんな事をギャーギャー言いつつ店内を廻る。


「あ、奏多! あっちには大豆はあるんだよね?」

「うん。あるよ」

「ニガリ、買ったらどうだい?」

「……豆腐!?」

「うん。豆乳作るまでが少し面倒だけど」


 豆腐が食べれるなら大変だろうとやる! 豆腐は偉大なのだ。


「フードプロセッサー欲しい!」

「ハンディブレンダーの方が楽だよ?」

「ハンディブレンダー? 何それ?」

「あ、流行ったのって奏多が行ってからだったかな?」


 スマホで動画を見せてもらった。


「何これ! 超お洒落! これ欲しい!」

「ははっ。じゃあ、家電量販店にも行こう」

「うん!」


 コンセントの所は発明家のおじいちゃんにまたお願いしよう。俄然楽しくなって来た。いっぱいお土産買おう。


「奏子さん、アステルやイオにお人形か何かプレゼント持たせたいね?」

「おーいいねぇ! 奏多! 龍太さんとおもちゃコーナーに行ってるからね!」

「あ、はーい。写真集か絵ばっかりの絵本、図鑑も物色しといて?」


 とーさんがかぁさんの車イスを押しながら楽しそうに話しつつ、人混みに消えていった。微笑ましくもあり、私の隣にバウンティがいない寂しさみたいなものが少し押し寄せて来た。

 だが今はローレンツに日本の物を持ち込もう計画中なので、目の前の事に集中だ!




 ギャン泣きのバウンティ。

食べ物で浮上するチョロいカナタさん。

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