156、散策? 食べ歩き? いいえ、爆買いです。
目の前で繰り広げられた恋愛ドラマにしばし無言になったものの、意識を切り替えて荷物の受け渡しをした。
「こっちがご両親の荷物ね。んで、こっちが私達からのお土産。あと、ゴーゼルさんとカリメアさんからの書状。王様直通出来るって」
「うぇぇい。直通かよ。ほんと怖いわあの二人……」
「こっちに来たときの対応の悪さの恨み辛みを晴らしなさいってー」
「ははっ。有り難くもらっとく。使うかは解んないけどな」
何かあった時に助けになれば良いんだろう。取り敢えず明後日の朝には帰る予定だから、何かあったら連絡をするし、してねと話して日本に戻る事にした。
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――――ドサッ。
「ただいまぁ」
「あれ? 千鶴ちゃんは?」
お店であった話をすると、かぁさんは悶え、カリメアさんはクスクスと笑っていた。子供達は千鶴さんに会えないのが少し残念そうだった。
今回はカンさんのご両親を送り届けるという任務もあり、室外には出ないという約束で王都行きを許してくれたけど、遊びに行くのはまだ許可してくれなさそうだ。
どうにかバウンティを説得したいけれど、ちょっと無理そうだ。
『さて、明日は最後の観光よねー。何をする予定なの?』
「美味しいもの食べ歩きしようかなと思ってます」
『おぉ! えーのー』
『あら、じゃあ今日もしっかり運動しておきましょう』
今日も子供達を寝かし付けたらジムに行くのが決定した。
「……ん、あー、良く寝たぁぁぁ」
――――チュッ。
『カナタおはよう』
「はいはい。おはよー」
朝のチュッチュをして子供達を起こし、準備をする。
今日は有名な商店街に食べ歩きしに行くので、朝ご飯は軽めにした。人通りが多いのでかぁさんととーさんはお留守番になった。
車で送って行こうかと言われたが、満員電車も体験してみると良いかもねとポロッと言ったら、ゴーゼルさんと子供達が乗る気満々になってしまった。
「潰されないように、踏まれないように陣形組んで守るんだよ?」
「うん。ピークは過ぎてるから……たぶん朝のラッシュよりはマシだと思うけど、気は付ける」
「帰りしんどかったら連絡して。迎えに行くから」
「へい」
『『はーい』』
子供達は意気揚々と返事をし家を出たが、駅で無言になっていた。電車に乗り込み場所を確保しようとしていたら、親切な奥様が子供達の座れるスペースを譲ってくれた。
「ありがとうございます」
『『アリガトー』』
「どーいたしまして。こちらに住んでるの?」
「いえ、里帰りで観光中なんです」
お礼ついでに少し世間話をした。駅に着いたので再度お礼を言って電車を降りた。
『ふぅ、凄い人だったわね。何かのお祭りなの?』
「いえ、日常です」
『……毎日、アレなのね。帰りはリュウタにお願いしましょう』
『えー、もう一回乗ってみたいのぉ』
『お一人でどうぞ?』
『すみませんでした』
ゴーゼルさんは激弱だった。
商店街に入り、先ずはタピオカドリンク。数年に一度流行っているけど、このところ爆発的な流行りらしく、葉子おすすめのお店に来た。
ミルクティーや黒糖ミルク、抹茶ミルク、フルーツ系など様々なタピオカドリンクがあった。
『モチッとしてて、ぷにゅっともしてるわね』
「不思議な食感ですよね」
『むおっ、最後にタピオカだけ残ってしもうた』
最後に残ったのをストローで吸うと喉にドシュッと来たりするので注意だと葉子に教えられたと伝えると、蓋を開けてタピオカを五個ほど流し込んでいた。
『お、いっぺんに食うのも楽しいな!』
「喉に詰まらせないで下さいね」
『むぅ……わかっとる』
子供扱いされてイジケたゴーゼルさんは無視して、商店街を歩く。
次に来たのはアメリカンドックの中がのびーるチーズになっているお店。かけるソースはケチャップ、マスタード、明太マヨ、追いチーズなど様々だ。
『むー! のびた!』
『あちあち』
「あ、ごめん。熱いよって良い忘れてた」
『だいじょぶ、あちあち、おいしい』
チーズは物凄く熱いこともあるが、火傷はしてないらしい。
バウンティとゴーゼルさんは二本食べていた。結構油っぽいけれど平気らしい。
「あ、布屋さんがある! …………帰りに寄って行っていいですか?」
『今じゃなくていいの?』
「……かなり荷物になりそうなので」
『そお?』
散策するには邪魔になりそうだし。食べ物の臭いも付きそうだし。帰りがけが良いのだ。
のんびり散策してちょこちょこ食べて。ちょこちょこ買い物。バウンティとゴーゼルさんはお昼を食べたいとの事なので、カフェに行く。私と子供達とカリメアさんは飲み物やポテトのみでのんびり休憩。二人はお洒落なオムライスプレートとハンバーガープレートを食べていた。
「……飲んでない? 噛んでる? オムライスは食べ物だよ?」
『噛んでる! ……これ、美味い』
オムライスにかかっているゴロゴロしたビーフのデミグラスが気に入ったらしい。チラチラと見てくるので「気が向いたらね」と答えておいた。「それ年単位で向かないやつだろ……」とか聞こえない。ここは騒がしいから聞こえない!
食事を終わらせて散策再開したら、海外のお兄さんが営む洋服屋さんがあった。
『ん、ここ見たい』
珍しくバウンティが入りたがった。何が欲しいのかなと見ていると革ジャンを手にとって悩んでいた。
「革ジャン好きだね」
冬になると良く着ている。家に三枚くらいあるのだ。新しく買い直したいのだろうか。
『ん、何か良い艶だなと思ってな。今使ってるやつ、風が少し通るから寒いんだよな……』
「へ? あれお洒落で着てるんじゃなくて防寒なの?」
『あぁ。重いけど暖かいぞ?』
「…………」
世の中にはダウンというとても軽くて暖かな物が存在しておりますと告げると、三人とも食い付いた。まさかローレンツに無いとは思って無かった。私個人は暖かすぎると感じるので着ないけど。
子供みたいな体温だもんなとか言ったヤツのおへそはドシュッとした。
同じお店には流石にダウンは無かったので、商店街内にあるダウンの有名な量販店に来た。ここなら間違いなく売っている。
『……何枚か買っても大丈夫かしら?』
「あ、はい。お金は下ろして来たので大丈夫ですよ」
軽さと、暖かさに三人とも大興奮だった。ついでに子供達の分も買った。子供達のは成長してると仮定してワンサイズ上のを選んだ。ローレンツは雪が二十センチほど積もる日もたまにあるのだ。
三人が嬉々として選んでいるところに水を差して申し訳ないのだが、ひとつ気になった。
ここはダウンが有名だし、物凄く軽いし薄いのだが、デザインが少し普通なのだ。
薄手のものと、気に入ったの一つくらいにして、ブランドのダウンなどをネットで探してみてはどうかと聞いてみた。特にバウンティとゴーゼルさんは日本サイズは少し窮屈だろうし。
どうやら、その案は採用らしく、薄手のと気に入った物をそれぞれ一枚と、薄手のを何枚かお土産に買うらしい。
ちょっと大荷物になりつつ、途中で帰りに寄ると言っていた布屋さんに来た。あまりにも荷物が多いので店員さんがカウンターで預かってくれた。
『布の専門店で普通に買えるのね』
どうやら、カリメアさん達フルオーダーの洋服、若しくは家に洋服屋さんが来るので布屋さんには来た事が無かったらしい。
「ローレンツでも普通に買えますよ? ただ柄が少ないので寂しかったんですよねー」
子供達のスタイとか、帽子とか、オムツ入れとか、小物は手作りしたりもしていたし、お人形の洋服も時々追加していた。
ふと、こっちで布買えば良いジャーン! と閃いたのだ。
『ママママ、これ!』
「あー、ジャーのキルト布ね。了解。枕カバーでいい?」
『うん!』
『カナタ、これはいくらなの?』
「えっとー、一メートル八百円だそうですよ」
『一メートル!?』
カリメアさんが柄々の布を一巻き持っていた。気に入ったらしい。そして、一巻き全部買うとの事だ。きっとベリンダさんが死ぬか興奮するか死にかけるんだろうな。
私は五種類ほど二メートルずつと、色んな端切れが束になって百円のワゴンセールから二束買った。
カリメアさんはどこの業者ですかと言うくらい二十巻き程買っていた。店員さんがガチで引いていた。
そして、何の文句も言わずに運ぶバウンティとゴーゼルさんが凄い。ちょっと真面目に感謝した。
結局、買いまくる。




