155、お届けものです
倉庫型のディスカウントショップから戻り、仕分け作業に勤しむ。
自宅用、シュトラウト邸用、カンさんに渡すもの、子供達のものなどだ。
「もうそろそろ来るかな?」
『ん、約束の時間まではもうちょっとだな』
実はカンさんのご両親とはナマでは初対面なのだ。写真やビデオ通話では何度も見ていたけど、何となく緊張する。
リビングでソワソワしていたらチャイムが鳴ったので、走って玄関に行った。
そっと玄関のドアを開けると、そこには銀に近い金髪をオールバックにし、縁は黒いのに光彩は薄い茶色という不思議な瞳の色をした年齢不詳な海外のおじさんと、ダークブラウンのセミロング、黒に近い茶色の瞳の純日本人って感じの女の五十代の女性が立っていた。
「奏多ちゃんだー!」
「カナタですねー!」
そして、その二人にぎゅうぎゅうに抱き締められた。
「こんばんは、彩さん、トマーゾさん」
二人をリビングに案内し、皆に紹介しようとした。
「キャァァァ、カリメアちゃんだー! あ、ゴーゼルさん、カッコイイ。やだ、バウンティくんイケメン! こんばんは、アステルちゃんとイオくんね?」
アイドルにでも会ったかのように騒ぎながら彩さんとトマーゾさんが皆とハグをしていた。
「彩ちゃん、落ち着け!」
「奏子ちゃん、無理よー、無理無理!」
『アヤ、トマーゾ、一度謝りたかったのよ。私達の国の対応の悪さでご子息にはとても大変な目に遭わせてしまったわ。ごめんなさいね。何か希望があれば対応すると国王からも言質を取ってるから、滞在中考えておいて? それから、貴女のご子息の料理の才能は素晴らしいわ。王族も私達もファンなのよ』
カリメアさんが彩さんの手を握り話し出したので横で同時復唱して伝えた。彩さんとトマーゾさんは嬉しそうに微笑んでいた。
「カリメアちゃん、お気遣いありがとうございます。ちょっと大変だったらしいけど、それでも今は凄く楽しいそうなんです。こっちに帰って来る気も無いほどにはフィランツが好きなんだそうです」
『あら、そおなの? てっきり体の問題で戻れないと思ってたのよ』
「ハハハ。ソレもコワイらしいネー。だからコッチで『買って来て』って言われたヨ」
トマーゾさんが荷物をぺしぺし叩いていた。カンさんに日本に戻るか聞いた後、電話貸してご両親と話を長々と話していたけど、長かった理由は買い物リストだったらしい。彩さんがプリプリいじけていた。
その後、少しおしゃべりをしていたら、何かあった時用のゴーゼルさんとカリメアさん連名の書面を渡された。二人の滞在の安全を図るものらしい。
荷物を一纏めにし、彩さんとトマーゾさんと手を繋ぐ。
『カナタ、いってらっしゃい。早く帰って来いよ?』
――――チュッ。
このタイミングでか! と思うくらいの狙い済ました後頭部へのチュー。最近、バウンティが甘えて来ている気がする。何だ、またもや後遺症か? とか思うけど、今じゃないのでスルー。
「はいはい。いってきまー」
『『いってらー』』
******
******
――――ドサドサッ。
「イタタタタ」
「うーわっ。何度見てもマジ慣れねぇ」
『カンちゃーん……吐く…………』
『あ、私も吐くね、これ!』
「まってまって、はいゲロ袋!」
やっぱり転移からのゲロは必須らしい。二人がオエオエし終わった辺りでお店の二階のカンさんの私室に連れていった。
『飲み物とか置いてるから。何かあったら声かけてな?』
『カンちゃーん、感動の再会はぁぁ?』
『動くとゲロるんだろ? やだよ』
『トマさぁん、カンちゃんが酷…………オェッ』
『寝てろ』
部屋のドアをピシャリと閉めて一階に降りていく。
「いーんですか?」
「いーよ。抱き締める年齢でもないだろ?」
「えー、お二人ともゴーゼルさんと言うか全員とハグしてましたよ?」
「は? バウンティともか?」
「はい。バウンティはギチッと固まってましたけど。ちょっと面白かった」
「はぁぁ。後で言い聞かせとく」
別に良いのになと思ったけど、カンさんの心の平穏の為らしいので何も言わないでおいた。
「よし、次は千鶴さんですね!」
ヨージくんと千鶴さんにも話はしておいた。気付いてはいたけどヨージくんは戻らないそうだ。千鶴さんには『帰りたい!』と食い気味で言われた。
カンさんのご両親を連れてくるタイミングで千鶴さんを連れて戻る事にしていたのだ。
『じゃあな、千鶴。元気でやれよ?』
『カンもねぇ。あーあ。老けないイケメンと彼氏のすったもんだが見れないのは惜しいなぁ』
『だから、ヘテロだっつーの。馬鹿め!』
『てへっ』
『ばばぁがてへっ。とか言うな』
どうやらカンさんと千鶴さんは仲良しになったらしい。
キャッキャする二人の後ろの方で無言で真顔なハブリエルさんが何か怖い。
「ハブリエルさん、大丈夫?」
「…………いや」
ハブリエルさんが騒ぐ二人の方にカツカツと歩いて行き、千鶴さんの二の腕を掴んで振り向かせていた。
「ハブリエル、どーした――――んっ……ぁふ……ん」
ハブリエルさんが千鶴さんの後頭部を固定して、それはそれは激しいキスをしていた。
「……行くな」
『ふえっ…………えっと、え? は? 何で?』
「チズル、俺の、側にいろよ。元の世界になんて……戻るなよ…………愛してる!」
『……え? 奏多ちゃん、ごめん、ハブリエル何て?』
「えっ……ええぇぇぇ?」
――――復唱するの? ソレを?
どんな罰ゲームかと思ったけど、なぜか四人ともキラキラした目で見てくる。そう、四人。こっそりいた店長さんが特にキラキラしていた。ハブリエルさんはどちらかと言うとギンギンしていたけども。
大きい声で言うのも何だか死にそうなので、ハブリエルさんの感情も込めて千鶴さんに耳打ちで復唱してあげた。
『っ…………マジか』
「マジです」
千鶴さんの顔が真っ赤なので答えは聞かなくても大丈夫そうだが、ハブリエルさんはそうでは無いらしい。
「チズル、返事は?」
「あ、うん。帰る」
「…………そうか。元気でな」
ハブリエルさんがガツガツ歩きながら店から出て行った。
「ハブリエル?」
「おっふ。千鶴さん残るのかと思った」
『え? うん。残るよ? 何でハブリエル怒ったの?』
「……あの、千鶴さん『帰る』しか言わなかったから、日本に戻るって捉えて……フラれたと思ったんじゃ?」
『えっ、うん。二人の家に帰るって意味…………えっと、取り敢えずハブリエル追い掛けるね。奏多ちゃん、ごめんね!』
「あ、いえいえ、お気をつけて。…………お幸せにー」
千鶴さんもバタバタ退場して行った。
何か良く解らないが、ハブリエルさんは千鶴さんが好きだったってのは解った。
「あぁぁぁぁ。俺も彼女欲しいっ!」
カンさんの悲痛な叫びが店内に響いた。
遅くなりました。
寝落ち、データぶっ飛びで書いたの全部消えて泣くかと思いました……。




