146、公園で。①
昨日の夜は子供達が眠ってからバウンティ、ゴーゼルさん、カリメアさんとジムに行った。体力の違いをまざまざと見せ付けられた。
今朝起きて、筋肉痛になって無いか不安になったけど、気だるいくらいだったのでホッとした。マッサージしてくれていたバウンティに感謝だ。
「いや、二十代後半の筋肉痛は明後日かもよ?」
「かぁさん! それ言わないでよ!」
『ママずるい! おいてくのひどい!』
「いやね、子供は入れないんだよ……その代わり、今日はスッゴい公園に行くからね? ね?」
『すごいこうえん?』
『そらとぶ?』
――――いえ、飛べませんけどね。
「えっと、似たようなのはあるかな……?」
アトラクション満載の公園で、ターザン的なのとか、リフト的なものとかがあるらしい。
しかも、この前の旅館の側だし、近くに色々観光出来る所があるので二泊三日で泊まる事になっている。
「この前の部屋はカナタ達で、違う部屋も二部屋予約してるから、カリメアさんとゴーゼルさんが好きな方選んで下さいね。どっちもお洒落なんですよ」
とーさんがパンフレットを出して二人に見せていた。
一つはダブルベッドの部屋で、黒を基調にしたシックな感じだった。黒に近い焦げ茶色の四角いソファは重厚感があり落ち着けそうな雰囲気だった。お風呂も黒い大理石でガラス張りの大きな窓は山に面しており、春は桜が満開になった山を一望出来るそうだ。しかもマジックミラーになっているので、外から見える心配も無いらしい。
もう一つの部屋はシングルベッドが二つ、白を基調とした部屋だった。猫脚のソファーが可愛い。旅館なのに洋風に作ってある。お風呂は丸い浴槽で、ジャグジー付きらしい。写真がバラの花弁を散らせてある泡風呂だった。窓も黒い部屋と同じようにマジックミラーになっているらしい。
「白い方、可愛い!」
『本当ね! 私はこちらの白い部屋が良いわ』
「じゃあ、そうしましょう。そろそろ出ようか?」
『『しゅっぱつしんこー』』
みんなで二泊三日の荷物を持って車に乗り込んだ。
アトラクション満載の公園に来た。山の中腹にあり、サイクリングロードなども併設されている。が、先ずは公園の方で遊ぶ。
全長五十メートルのロープに滑車が付いており、その下にブランコの様な座面が着いている遊具が三台あった。
「上のほうに座面を持って行って、座って、足を地面から離すと……」
――――シヤァァァ。トスン。
「よっと、こんな感じで滑って行くの。んで、また遊びたかったり、次の人が待ってたら座面を上まで持って走る!」
滑り出しの途中で座面から飛び降りて上に戻る。
初めは私とアステル、バウンティとイオのペアで滑る。
『きゃーっ、あはははは! もういっかいする!』
アステルは気に入ったらしい。一人で乗れそうか聞いたら、やってみたいとの事だったのでさせてみる。足が届かないので本人のゴーサインで手を離す。ゴール地点では念のためゴーゼルさんが待機してくれている。
ゴールは結構な衝撃ではあるが、止まるのは止まる。けど、アステルやイオにはまだ厳しそうなので念の為。
『ひゃわわわわ』
『んははは。楽しいなコレ! イオは、もう一回するか?』
『うん!』
『イオ、グランパと乗ろうな? な?』
『アナタ、やってみたいだけでしょ……』
その気持ちは解る。大人も楽しい。あと『アッ、アアーッ』とか言いたくなる。
カリメアさんもアステルに一緒に乗ろうとか言い出した。流石に大人一人で乗るのは――――。
「あははは! やっべ、久し振りに乗ると楽しいね! おっととと」
かぁさんが杖を抱えて滑って来て、着地してよろけていた。義足は付けているけど、足下が少し不安定だ。
「ちょ、大丈夫!?」
「おん! 龍多さん、はい!」
とーさんがニコニコ顔で座面を上まで持って行っている。とーさんも一人で乗るらしい。自分の両親のメンタルの強さに驚いた。
何度かターザン的なヤツで遊んだ後は近くにある別の遊具に移動する。
「これは……乗って回すだけ」
『え、それだけ?』
巨大な独楽のような形で、少し傾いている遊具なのだが、天面が半径一メートルほどあり、天面に座って誰かに回してもらうだけの遊具だ。小学校高学年とかになると、先に回して飛び乗ったり、高速回転させて振り落とされないようにしがみついたり……かなり危ない遊び方をしていた記憶がある。
「――――って、事で二人は乗って、ゆっくり回すだけ!」
『『はーい』』
まあ、面白いかと言われれば……。なので、数十秒で終了。
次は、スプリングタイプの木馬。木馬? ほぼ鉄製だろうけど。下がぶっといスプリングコイルで、上に色んな動物の模型が付いている。跨いで前にびょん、後ろにびょん、左右にも多少は揺れる。
『『きゃはは!』』
どうやら楽しいらしい。ゴーゼルさんとバウンティは体重的な問題で、乗ってもバネがビョンビョンにはならなかった。
移動して、次に遊ぶのは全長百メートルの滑り台。山肌の斜面を利用して作ってあるので、滑り台と階段が横並びになっている。高低差はそこまで無いが、ダルいのでバウンティとゴーゼルさんに任せて、下でキャッチ出来るようにしておく。
『ひきゃぁぁぁぁ――――』
『ワハハハハハ』
ゴーゼルさんとイオが凄いスピードで滑り降りて来た。
『……遊具にしては危険な速度な気がするけど……』
「いえ、アステル見てください。そこまでスピード出ませんよ」
ゴーゼルさんの体重でスピードが出ただけだ。
『わたしもグランパとすべる! はやいのがいい!』
――――シューッ。スタッ。
バウンティが一人で滑って来た。何かニコニコしている。
「楽しかったの?」
『ん! ローレンツの公園もこういうの作りたいな!』
『あら、良いわね! どこからお金を引っ張って来ましょうかね……』
「公園の遊具って協賛だったり、寄付だったりってのもあるんですよ。まぁ、地方自治体の予算もあるみたいですけど。……私のプレートの中身、それに使いません? あと、孤児院のグランドにも作りたいです」
『良いの? 貴女の資産なのよ』
「はい!」
『そ? じゃあ、あっちに戻ったら市長と話を纏めるわ』
カリメアさんはそれだけ言うとアステルと手を繋いで滑り台に登り始めた。
隣に立つバウンティを見ると、眉間にシワを寄せていたので、首を傾げて話すように促した。
『別にお前の使って作りたいとか言って無いぞ……』
「え? うん。解ってるよ?」
『何でお前が払うんだ? 自分の為に使えよ』
「私の為だよ?」
意味が解らないって顔をしている。手を絡ませてバウンティに寄り掛かる。
「ねぇ、幸せだよね?」
『あ、あぁ』
「いひひっ。バウンティと出会えたローレンツで嫌なことも、怖いことも、悲しいことも、あったけど。それ以上に楽しくて、幸せで、ローレンツの、フィランツの皆が愛しい。賞金稼ぎになって得た収入で皆に恩返ししたかったんだよね。特に、バウンティにはいっぱーい返したいんだけどね。まぁ取り敢えず、子供達が楽しめる環境をって。駄目?」
『…………もういっぱい貰ってる』
――――チュッ。
「っ、外は駄目って言ったよね?」
『誰も見てない……』
公園には他のご家族も数組はいるから、見られた気がするけど。まぁ、今日は許してやろう。
昔の公園の遊具って安全基準がフワッとしてたけど、それはそれで楽しかった。怪我は自己責任と思って遊んでたなぁ。




