144、空
タワーで少し時間を潰して、遊覧ヘリのヘリポートへ向かった。
ヘリポートの近くには色んなヘリがあったが、私達が乗るのは、大人六人乗りが出来て、窓がかなり広めに取ってある遊覧専用のヘリコプターだ。
『ヘリキョプタァァァ!』
『ほんもの? とぶの?』
「ヘリコプターね。本物で、乗れるんだよ」
教えると二人ともテンションマックスになって手を振ったりお尻を振ったりして歓喜の舞を踊っていた。
従業員さんから事前説明を受け、腰に付けるタイプのライフジャケットを装着し、いざ乗り込むぞ! とヘリに向かったらプロペラからの風圧の凄い事。カリメアさんにズボン穿くように言ってて正解だった。因みに、乗馬以外では人生初のズボンらしい。なぜか裾から脚首が出てたからロールアップして、昨日買ったハイカットのスニーカーを合わせてもらった。
定員六名とのことで、とーさんとかぁさんは地上でお留守番。なんだか申し訳無い。二人で乗るかと聞いたが別にいいと断られた。その代わり写真を撮る任務を言い渡された。
『心臓がバクバクじゃー!』
「ゴーゼルさん、ヘッドセット付けて! そう! 聞こえる?」
『おお! 聞こえるぞ!』
「いや、もちょっと静かに喋って大丈夫ですよ……」
『ぶあー! ママのこえ、きこえる!』
――――うむ。煩い。
「はい、パイロットの武藤です。今日はよろしくお願いしますね。離陸します」
「よろしくお願いします!」
バラバラバラと、プロペラがきっと轟音を鳴らして風を切り回転しているのだろうが、ヘッドセットのおかげでそんなに煩く無い。むしろ人間が煩い。
『きゃー! ういた? ういた?』
『うぉっ……何か、ゾワゾワするのぉ……浮いとるぞ!』
『ん……』
『……浮いてる、わね』
――――ビィィィ。
「では、今から地上六百メートルまで上昇します」
パイロットの武藤さんには私達のヘッドセットでの会話は伝わらないようになっているそうだ。チャンネルを変更すると武藤さんに繋がると教えてもらった。武藤さんも何かあるときは、こちらのチャンネルに割り込むのだそうな。何か、ハイテクな気がするけど、昔からですよと言われた。
「今から、地上六百メートルまで上昇するって。今日登ったタワーのテッペン辺りだよ」
皆に説明するが、興奮しすぎたのか全員が無言で外を見続けている。
「もしもーし?」
『ん、あ。凄いな! 飛んでるんだよな?』
「うん、飛んでるよ?」
『ふは、はははは! 楽しい!』
バウンティが満面の笑みで爆笑した。テンション振り切れたらしい。
「カリメアさん、あっちの世界で空を飛んだ初めての人になりましたよー?」
『……えぇ、ええ! 凄い、としか言えないわ……』
カリメアさんは驚きと感動を噛み締めていた。ゴーゼルさんと子供達はワーキャー言ってるので放置でオッケー。
『ママ、あれさっきのタワー?』
「そーだよ」
『ごまつぶ、よりちいさい……。こなつぶ?』
『すなつぶ?』
『すなつぶ!』
――――その表現はどうなんだ?
色んな観光名所の案内もしてもらいつつ、二十分のフライトは終了した。
「武藤さん、ありがとうございました」
『『アリガトー』』
たった二十分、されど二十分。興奮さめやらぬまま次の目的地へ出発した。
「はい、お空の港で、空港です」
『『クーコー?』』
空港の中に入り、滑走路が見える所に行く。
全員がガラスに貼り付くというシュールな光景。何となくおのぼりさん感満載。
「飛ぶ原理は諸説ありますが、動画で説明した通りです」
上からの気流と下からの押し上げる気流となんちゃかんちゃ…………。えぇえぇ、説明出来ませんけどね!
『……間近で見るとでかいな。二百人も乗るのか』
「機体によりけりだけどねー」
『あれとぶ?』
『とぶかな?』
飛行機って滑走路での待ちが長いよね。とボーッと眺める。
『……』
『……とんだ!』
『……飛んだわね。何か、理解不能だわ。怖く無いのかしら?』
「あー、初めは重力が凄くて『ウグゥッ』て感じなんですけどね、五分くらいで雲の上とかに着いちゃうんで……興奮が勝つかな? 高所恐怖症の人は地獄でしょうけど」
皆、雲の上っていうのが理解不能らしい。数えるほどしか乗った事無いけど、間近で見る雲はわたあめって感じで好きだ。
カリメアさんにいたっては、さっきヘリコプターに乗ったのに? と思わなくも無い。
『ヘリコプターは機体と同じくらいのプロペラがあったでしょ!? あれなら、何か、飛べるかもとか思うわよ!?』
「飛行機はエンジンの所にプロペラがあるじゃないですか」
『あんなに小さいの四つでどうやってよ!』
「えー、何か頑張ってるんですよ。ジェット燃料とかがワーッとね?」
とーさんとかぁさんが私に説明を求めたら駄目だと爆笑していた。フォローしてくれても良いのに。
結局、一時間ほどガラスにへばり付いて飛行機の離着陸を楽しんで、お土産コーナーに突撃。
「胡麻のお饅頭買っていく! これ、超美味しいよね!」
「僕は夏限定の胡麻の水まんじゅうの方が好きだなぁ」
「あー! そっちも捨てがたい!」
『カナタ、これなに?』
「……ちんすこう。なぜここに?」
「お土産買い忘れた人用じゃない?」
バウンティはめざとく、ちんすこうパイン味を見付けていた。味は保証しない。さくっと風味だけの気がする。が、それでも良いらしいのでカゴに入れた。
『あら、オマンジュウね。何の形かしら?』
「ひよこの形ですね」
「福岡なのか東京なのか問題は尽きないよね……」
「大論争になるから置いとこう。白餡がしっとりしてるのにサラサラしてて食べやすいですよ」
『しっとりとサラサラは対極じゃないの?』
「共存してるんですよ!」
別にお菓子屋さんの回し者ではないが、好きなので推す。
皆が気になるお菓子を適当にカゴに入れていたら、どこにも行ってないのに色んな地方のお菓子が勢揃いした。
耳キーンは唾ごっくんより、鼻フン派。
暫く不定時の更新です。ご迷惑おかけします。




