139、お店巡り、一軒目。
お昼ご飯を食べ終わり、お皿やどんぶりを各お店に返した後、再度テーブルに集合する。
先ずは何を中心に見たいのか。
カリメアさんやかぁさんは、化粧品や洋服。ゴーゼルさんは時計や眼鏡、そしてワイシャツを欲しがった。なぜにピンポイントでワイシャツかと思ったら、とーさんのワイシャツを見て、柄物が欲しくなったそうだ。そう言えばあちらでは白か淡めの単色が多かった気がする。
「バウンティも買っとく?」
『あんまり着ないぞ?』
――――確かに年一も着ないね。常時クタクタのシャツとズボンだもんね。
『あ、ジョシュに簡易靴が色々欲しいって言われた』
『あら、私も見たいわ』
「私もスニーカー欲しいなぁ。最初は靴屋さんに皆で行こうか?」
靴屋で皆で買い物をして、それぞれ別れて見たいお店を巡る事になった。
そこで昨日の夜、バウンティと私で必死に作ったカードがある。リング付きの単語カードで、勉強で使うものよりも一回りほど大きい物を四組用意した。中には簡単な単語を上は日本語、下にフィランツ語で書いた。
・買う
・買わない
・好き
・嫌い
・小さい
・大きい
・他の色がいい
・他のデザインを見たい
・服
・アクセサリー
・家具
・家電
・キッチン用品
・玩具
・これを○個
・他の店に行く
・喉乾いた
・お腹空いた
・奏多に電話
ざっくり、買い物で使いそうなのだけ選んだつもりだったが、なかなかに大変だった。
『あら、ソーコと二人で買い物出来るじゃない!』
かぁさんは少し話せるけど不安だと言っていたので作ってみたが、四人とも楽しそうにめくっている。
「発音も書いててくれると楽なんだけどね」
「むーりー」
「あぁ、ごめんごめん。うん、ありがとうね奏多」
とーさんの小声が地味に攻撃力が強かった。頬を膨らませていたら慌てて謝られた。全部日本語に聞こえてるんだから発音とか知らないし。バウンティの日本語も少し怪しい……ん? おや?
「あ! バウンティに読み上げてもらって、自分達で発音は書けば良かったんだ……」
今さら気付いた、やっぱりアホだな。
自分のアホさを恨みつつ靴屋さんに来た。
『本当に布の靴が多いのね……』
カリメアさんがスニーカーコーナーで呆然としている。布とビニール、合成皮革も多いのだが、それも含めてもやっぱり驚きのようだ。
『カナタカナタ! コレ、カナタが履いてたのとそっくりだ!』
「本当だねー」
『…………お揃い』
「サイズある? 試し履きしてみたら?」
『ん!』
バウンティの足は、おおよそ三十センチだ。ブランドによってちょっと合ったり合わなかったりがあるので近しいサイズを何足か試すように言った。
横でゴーゼルさんも嬉々として試し履きしている。
『カナタの、小さいから軽いんだと思ってた……布の靴、軽い! なんだコレ、凄いな!』
バウンティが破壊力抜群の笑顔で、布のハイカットシューズを履いてその場で足踏みした。
ゴーゼルさんも履いてたその場で足踏みしている。
『……ワシ、コレ買うぞ』
『あら、即決? そんなに良かったの?』
『これは履かんとわからんぞ、持った感じは何となく軽いだけじゃが、履いてみるとな、軽いだけじゃなくて柔らかいんじゃよ、苦しくないと言うか、狭く無いと言うか……』
「あー、革の靴って最初は少し固いですもんね」
「まぁ、革靴は慣らしていく楽しさがあるけどね。蒸れるよね……」
時々のおしゃれはそう考えるのかもだけど、毎日は結構疲れる。とーさんの言う通り、物凄く蒸れる。
かぁさんはカリメアさんを引きずって女性用の方に行った。私は子供達と子供靴のコーナーに行く。
『ママ、コレかわいい』
「おー、かわいいね。サイズ見てみようか?」
『うん!』
アステルはオープントゥのクリスタル風のミュールを欲しがった。中々にお姫様風だ。
『キーラさまがにあいそう! おそろいしたい!』
――――そっちか! そして、お前もか!
だがしかし、その意見には大賛成だ。そそっとカゴの中にキーラ様、オルガ様、ヘラちゃんの三人分のサイズを見繕い、アステルとお揃いで買う事にした。
アステルは嬉しかったらしく、また変なダンスをしていた。スルーでいいかな。
王子様達のサイズは判らない。男子で踵の無いタイプは微妙だろう。と言う事でこっちもスルー。
イオが気に入ったデザインで二足買う事にした。
アステルは追加で運動靴を一足選んだ。
「カリメアさーん…………マジ?」
かぁさんとカリメアさんの所に行ったらカゴに二十足くらい入っていた。主にミュール系が多いが、ランニングシューズや布靴も入っている。
『何で素敵なの……』
カリメアさんが細い紫のエナメルで編まれたグラディエーターサンダルを持って恍惚としている。
『……カナタ、コレで銀貨五枚よ!? 意味が解らないわ……金貨十枚と言われても納得する美しさじゃない?』
「おぉぅ……そっすね」
『こんな簡易靴があるなんて、もっと早くに教えなさいよ』
「え、あ、はい。すんません」
教えたような気もしないけど、ソレを簡易靴と言って良いものか少し悩む。
簡単なミュールとかサンダルは紹介したけどね? デザイン力までは求めないで欲しい。
あと、私はスニーカー派だ。
「えーと、バウンティとゴーゼルさんの様子見てきます」
『アステル、グランマとはぁばといる』
『ぼくもー』
二人を置いて逃げ……いや、バウンティとゴーゼルさんの様子を見に行った。逃げては無い。
「買うもの決まったー?」
『ん! 走るやつのオススメの教えてもらった!』
「おー、よかったね」
「バウンティさーん、ゴーゼルさんも、ストックにサイズあったよ!」
『アリガトウ』
「どーいたしま、して…………?」
女性店員さんが走って来てバウンティに靴を渡そうとしていた。が、近くに増えた私に気付いたらしくキョトンとされた。
「お客様、何かお探しですか? 他の店員呼びますか?」
「いえー、大丈夫ですよー。見てるだけです」
「……はぁ」
店員さんが変な顔をしつつも、バウンティに視線を戻して靴を見せていた。
「赤と、青、どっちがいい?」
『アカ』
「はい、バウンティさん、赤ね。ゴーゼルさんは、黒と、紫、どっち?」
『師匠、どっちがいいかって』
『黒は普通じゃのぉ。紫がええ』
『ムラサキ、ダッテ』
「はーい。どーぞ」
何か、近距離で初めてのお使いを見ている気分だった。
『見て見て、格好良い?』
「お、似合いそうだね」
『ん!』
「…………お客様、言葉分かられるんですか?」
「あ、はい」
女性店員さんが怪訝な顔で聞いてきた。完全に日本語で話しかけてるからかな? しかし、なぜに視線が厳しめ?
「……あのー」
女性店員さんがソワソワした顔でこちらを覗き込んでくる。
「はい?」
「お知り合いですか?」
「はい、家族ですよ?」
「えっ!?」
女性店員さんがビックリした顔でバウンティとゴーゼルさんを見ている。似てないからかな?
「そ、うですか……失礼します」
何だったんだ。
「あらー、奏多さん、ハートブレイクさせたねぇ」
「はぁ!?」
急に後ろから現れたとーさんに謎の単語を言われた。
どうやら女性店員の彼女はバウンティにひとめぼれだったもようだ。
「いやね、バウンティくんが片言で『バウンティ、ッテヨンデ?』って言って落としてたんだよね」
だよねって。何を観察してるんですかお父様。そして何を引っ掻けてるんですがバウンティさん。そしてチョロいぞ店員さん。
違う世界でもコレかバウンティめ。
一軒目から何だかドッと疲れた。
バウンティは、誰に呼び掛けられてるか分からなかったので、名前を呼んでもらえれば解る!
と閃いただけ。
次話も明日0時に公開です。




